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第二章 嫁入りと恋の季節
2-7
(…どうして、こんなことに…)
後悔というものは、いつでも後からやってくる。その言葉を噛み締めながら、目の前のカウンター、新妻の手作りカルボナーラを口へと運ぶユーグを見つめる。
(…初手料理、もっと、気合い入れたもの食べて欲しかった。せめて、もうちょっとまともに作ってたら…)
お腹に入れば何でもいい十代の胃袋を掴むために作った効率重視の手抜きカルボナーラではなく、生地から作る生麺パスタ、イベリコ豚の無添加ベーコンを使ってー
(もう、明らかにベーコンの厚みがおかしいし。)
それは、私の包丁捌きの問題ではなく、あなたの左右を陣取ってキャッキャしてる狐と猫のリクエストですからねと、心の中で言い訳だけはしておく。
「…ボルド、私達も食べよっか?」
「…」
軽く洗い物を済ませていた私に付き合って、未だ食事にありつけていなかったボルドと二人、カウンターに並んで座る。
(いいよ、いいよ。ボルドがそっちに座りな。)
カウンターの中から、ユーグをチラチラ気にしていたボルド。少しでも彼に近い席が良いだろうと、彼の巨体をユーグ達の方へ押しやる。
(まぁ、間にルナールが居るけどね。)
ユーグには一歩も近づかせまいという意思を感じる二人の布陣だけれど、ユーグを慕っているのは間違いなく、先ほどまでの私へのツンが嘘のようにはしゃいでいる。
(…こうしてじゃれてるのを見る分には、目の保養なんだけどなぁ。)
ガットもルナールも、成長途中の線の細さはあるけれど、ヤンチャ系の整った顔立ちをしている。前世基準ではド派手に見えるガットのツンツン赤髪もルナールの金髪も、こちらでは割とスタンダード、その上のケモ耳オプションを考えれば、女の子にもかなりモテるはず。
『鉄の牙』の入団条件には「※但し、イケメンに限る」があるのか、と考えて、ハッとした。ハッとして、
(っ!ごめん、ボルド!『でも、ボルドが居たな』って、ハッとしてごめん!!)
隣で黙々とパスタの山を消費する男の子に心の中で手を合わせ、
「ボルド、お代わりする?」
「…」
空きそうになっていたお皿に、そう尋ねれば、ボルドはコクリと頷いて残りを食べきった。差し出されたお皿を受け取り、キッチンへと回る。
よそったお代わりの山を、また黙々と消費し始めたボルドを眺めながら、言い訳を続けてみる。
(…いや、実際、ボルドみたいなタイプの方が、結婚相手としては好かれるから。木訥と優しい熊さんとか、モテモテよ?)
前世、シレッと結婚を決めていった周囲の男達を思い出す。お見合い相手としても、中々に競争率の高かったタイプ。結婚に安定と安心を求める以上は、そうなってしまうんだろう。
(…それでいうと、この中で一番、結婚に向かないのってユーグなんじゃ…)
寡黙なアウトロー。家族なんて必要としない雰囲気バリバリの一匹狼が、何故か自分の旦那さん。何度も不思議に思うし、何度も奇跡に感謝する。
思わずうっとりしそうになる視線を慌てて剥がし、残り三人を見回した。
(お代わり、お代わりはいらんかねー。)
彼らのお皿の減りを目視で巡回していたら、ボルドの手元に視線を惹き付けられた。四人並ぶ中でも一番大きな身体。大きな手に握られたフォークが、オモチャみたいに小さく見えて、
(可愛いなー。)
なんて、眺めていたらー
「っ!?」
「!!」
背筋に走った悪寒、同時に、椅子の倒れる音、ユーグの左右で立ち上がった二人、カウンターを飛び越えた巨体が目の前に立ち塞がりー
緊迫した空気、立ち塞がるボルドの背は私を守ってくれているんだろう。椅子を倒して立ち上がったガットとルナールの視線は店の入口、手にはいつの間にか大型ナイフと剣を握り、油断なく身構えたまま。ユーグだけは、変わらぬ体勢で、平然とカップの水を飲み干している。
(…息が、苦しい。)
呼吸音さえも許されないような静寂の中、店の扉が小さく音を立てて開きー
「…これは、一体、何事?」
「え?あれ?トキさん」
「ええぇっ!?」
現れた人物の姿に、一気に二人組の緊張が溶けた。ボルドも漸く身じろぎして、
(っ!よ、良かったー。)
この一瞬で何が起こっていたのかは、全く分からない。でも、多分、問題は無かったか、無くなったらしい気配に、今さらながら変な汗が噴き出してきた。
緊張を弛めた広い背中から顔を覗かせれば、店の入口に立ったトキさんが、大きな荷物を抱えたまま、ユーグを見ている。
(ん?)
よく見れば、全員の視線がユーグを向いていて、
「ユーグ?今のはやっぱり、君の殺気?」
(殺気?)
「見たとこ、何も問題はないようだけど。…何かあったの?」
最後の一言は、何も言わないユーグではなく、周囲の私達へ向けられたもの。そもそも何が起きていたのかもよくわからない私は首を振るしかなく、残り三人も、困ったようにユーグを見るだけ。
結局、諦めたようにトキさんがため息をついて、
「ユーグ、むやみに殺気なんて飛ばさないでよ。ただでさえ、この子らは君の気配に敏感なんだから。」
「…寝る。」
(えーっ!?)
「まったく…」
やれやれって感じのトキさんを放って、本当に階段を上って行こうとするユーグ、一段目で足を止めて、ジッとこちらを見てくるから、魔が差した。
「…美味しかった?カルボナーラ…」
「…ああ。」
「!」
(っやったー!!)
脳内ファンファーレが鳴り響く中、階段を上って行くユーグの後ろ姿を見送る。振り向いて、ドヤ顔のまま残ったみんなを見まわしたら、ガットとルナールには嫌そうな顔をされて、ボルドはうんうんって頷いてくれた。
後悔というものは、いつでも後からやってくる。その言葉を噛み締めながら、目の前のカウンター、新妻の手作りカルボナーラを口へと運ぶユーグを見つめる。
(…初手料理、もっと、気合い入れたもの食べて欲しかった。せめて、もうちょっとまともに作ってたら…)
お腹に入れば何でもいい十代の胃袋を掴むために作った効率重視の手抜きカルボナーラではなく、生地から作る生麺パスタ、イベリコ豚の無添加ベーコンを使ってー
(もう、明らかにベーコンの厚みがおかしいし。)
それは、私の包丁捌きの問題ではなく、あなたの左右を陣取ってキャッキャしてる狐と猫のリクエストですからねと、心の中で言い訳だけはしておく。
「…ボルド、私達も食べよっか?」
「…」
軽く洗い物を済ませていた私に付き合って、未だ食事にありつけていなかったボルドと二人、カウンターに並んで座る。
(いいよ、いいよ。ボルドがそっちに座りな。)
カウンターの中から、ユーグをチラチラ気にしていたボルド。少しでも彼に近い席が良いだろうと、彼の巨体をユーグ達の方へ押しやる。
(まぁ、間にルナールが居るけどね。)
ユーグには一歩も近づかせまいという意思を感じる二人の布陣だけれど、ユーグを慕っているのは間違いなく、先ほどまでの私へのツンが嘘のようにはしゃいでいる。
(…こうしてじゃれてるのを見る分には、目の保養なんだけどなぁ。)
ガットもルナールも、成長途中の線の細さはあるけれど、ヤンチャ系の整った顔立ちをしている。前世基準ではド派手に見えるガットのツンツン赤髪もルナールの金髪も、こちらでは割とスタンダード、その上のケモ耳オプションを考えれば、女の子にもかなりモテるはず。
『鉄の牙』の入団条件には「※但し、イケメンに限る」があるのか、と考えて、ハッとした。ハッとして、
(っ!ごめん、ボルド!『でも、ボルドが居たな』って、ハッとしてごめん!!)
隣で黙々とパスタの山を消費する男の子に心の中で手を合わせ、
「ボルド、お代わりする?」
「…」
空きそうになっていたお皿に、そう尋ねれば、ボルドはコクリと頷いて残りを食べきった。差し出されたお皿を受け取り、キッチンへと回る。
よそったお代わりの山を、また黙々と消費し始めたボルドを眺めながら、言い訳を続けてみる。
(…いや、実際、ボルドみたいなタイプの方が、結婚相手としては好かれるから。木訥と優しい熊さんとか、モテモテよ?)
前世、シレッと結婚を決めていった周囲の男達を思い出す。お見合い相手としても、中々に競争率の高かったタイプ。結婚に安定と安心を求める以上は、そうなってしまうんだろう。
(…それでいうと、この中で一番、結婚に向かないのってユーグなんじゃ…)
寡黙なアウトロー。家族なんて必要としない雰囲気バリバリの一匹狼が、何故か自分の旦那さん。何度も不思議に思うし、何度も奇跡に感謝する。
思わずうっとりしそうになる視線を慌てて剥がし、残り三人を見回した。
(お代わり、お代わりはいらんかねー。)
彼らのお皿の減りを目視で巡回していたら、ボルドの手元に視線を惹き付けられた。四人並ぶ中でも一番大きな身体。大きな手に握られたフォークが、オモチャみたいに小さく見えて、
(可愛いなー。)
なんて、眺めていたらー
「っ!?」
「!!」
背筋に走った悪寒、同時に、椅子の倒れる音、ユーグの左右で立ち上がった二人、カウンターを飛び越えた巨体が目の前に立ち塞がりー
緊迫した空気、立ち塞がるボルドの背は私を守ってくれているんだろう。椅子を倒して立ち上がったガットとルナールの視線は店の入口、手にはいつの間にか大型ナイフと剣を握り、油断なく身構えたまま。ユーグだけは、変わらぬ体勢で、平然とカップの水を飲み干している。
(…息が、苦しい。)
呼吸音さえも許されないような静寂の中、店の扉が小さく音を立てて開きー
「…これは、一体、何事?」
「え?あれ?トキさん」
「ええぇっ!?」
現れた人物の姿に、一気に二人組の緊張が溶けた。ボルドも漸く身じろぎして、
(っ!よ、良かったー。)
この一瞬で何が起こっていたのかは、全く分からない。でも、多分、問題は無かったか、無くなったらしい気配に、今さらながら変な汗が噴き出してきた。
緊張を弛めた広い背中から顔を覗かせれば、店の入口に立ったトキさんが、大きな荷物を抱えたまま、ユーグを見ている。
(ん?)
よく見れば、全員の視線がユーグを向いていて、
「ユーグ?今のはやっぱり、君の殺気?」
(殺気?)
「見たとこ、何も問題はないようだけど。…何かあったの?」
最後の一言は、何も言わないユーグではなく、周囲の私達へ向けられたもの。そもそも何が起きていたのかもよくわからない私は首を振るしかなく、残り三人も、困ったようにユーグを見るだけ。
結局、諦めたようにトキさんがため息をついて、
「ユーグ、むやみに殺気なんて飛ばさないでよ。ただでさえ、この子らは君の気配に敏感なんだから。」
「…寝る。」
(えーっ!?)
「まったく…」
やれやれって感じのトキさんを放って、本当に階段を上って行こうとするユーグ、一段目で足を止めて、ジッとこちらを見てくるから、魔が差した。
「…美味しかった?カルボナーラ…」
「…ああ。」
「!」
(っやったー!!)
脳内ファンファーレが鳴り響く中、階段を上って行くユーグの後ろ姿を見送る。振り向いて、ドヤ顔のまま残ったみんなを見まわしたら、ガットとルナールには嫌そうな顔をされて、ボルドはうんうんって頷いてくれた。
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