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【サプライズ】好きな人の誕生日に全力でプレゼントを用意しました ▶10話
#7 Happy Birthday!
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「お邪魔、します…」
「あー、そっか、悪ぃ、散らかってんな。…ごめん、セリ、五分くれ。危ねぇから、どっか、空いてるとこ居て。」
「はい…」
「ホント、ごめんな。」
床に並べっぱなしにしていた刀剣の類い、言い訳させてもらうなら、今日、セリを部屋に呼ぶつもりなんてなかったから、昼間いじったそれらを、虫干し代わりに広げっぱなしにしてしまっていた。
優先的にテーブル周りを片付けて、セリを呼ぶ。
「…とりあえず、ソファ周辺はクリア。…セリはここな?」
「はい。」
「なんか、飲むもん…」
言いかけて固まる。家にあるものなんて、コーヒーか酒ぐらい。コーヒーにはミルク派のセリだけど、ミルクなんてこの家にはないから、
「…マジで、ごめん。コーヒー、ミルク無ぇんだけど…」
「あ、はい。ブラックで大丈夫です。…あの、ルキ、そんなに謝らないで下さい。突然お邪魔したのは私なので。」
「…」
もう一度、「ごめん」と言いそうになったのを飲み込んで、
「…んなもん、突然引っ張ってきたのは、俺の方だろ?」
「でも、あの、私、来られて嬉しいです。今日、ルキとちゃんと会えると思ってなくて…」
そう言うセリの胸元には、まだ、俺のためだという剣が抱きしめられたまま─
「っ!ああ、もう、クソッ!」
「…ルキ?」
「ぜんっぶ、駄目じゃねぇか…」
「…」
「ごめん、セリ。マジでごめん。俺、自分のこと優先させ過ぎだわ。セリが用意してくれた剣なのに、ちゃんと受け取りもせずにこんなとこまで連れてきて。しかも、こんなグダグダで、ねぇよな、ホント、マジでねぇ…」
「あの、ルキ、ルキ、大丈夫です、落ち込まないで下さい。」
「…はぁ、もう、悪ぃ、気が済むまで謝らせて。」
慌てて立ち上がろうとするセリを、もう一度、ソファに座り直させる。
「…ごめんな。…も一回、もらってもいいか?セリからのプレゼント。」
「はい。…もらって下さい。」
「…サンキュ。」
差し出されたのは、対になっている幅広のダガーが二振り。いま使っているものに比べて、反りが大きく、刃渡りがやや短い。それに、俺でも、一目で分かった。
「…属性効果ついてんのか、これ。…すげぇ、綺麗だな。」
「はい、あの、一応、双剣ヴァハフント、オルトロスのドロップ品、です。」
「オルトロスって、まさか、セリ…」
「はい、ダンジョンで入手しました。」
「…」
勘違い、していた─
剣はボッツで購入したもの。ダンジョンに潜っていたのはその資金稼ぎのため。そう思っていた。
それだけでも、信じられないくらい嬉しかったのに─
震えそうになる手で、双剣をテーブルに置く。
「セリ…」
「はい…」
ソファに座るセリの身体を抱きしめた。力一杯抱きしめたいのを、出来るだけ、本能を抑え込んで。
「…ありがと。マジで、ホント、すげぇ嬉しい。…死にそうなくらい。」
抱きしめた腕の中で、セリが笑う。
「死ぬのは困ります。でも、良かったです。喜んでもらえて。」
「うん、すげぇ喜んでる。…分かる?俺、震えてんだけど。」
「…震えてるんですか?」
「ん。」
何なら、もう、泣きそうなんだが─
流石に泣くのはどうかと思うから、抱きしめて誤魔化して。セリの髪に触れて、
「…セリってさぁ、俺のどこが好きなわけ?」
「え…?」
「俺、セリにここまでしてもらえるようなアレじゃねぇよな。…今日とか、マジで無くね?って、自分でも思ってんだよ…」
「…」
セリの都合なんて考えず、常に側にいて欲しいと要求し、おまけに、自分でも引くくらい嫉妬を抑えきれない。
(昔のカッシュの嫉妬とか、もう、ホント、笑えねぇ…)
「…セリに好かれる要素がねぇ、…S級冒険者ってことくらいか?…ああ、けど、それでいうなら、セリのお師匠さんの方が強いし、すげぇよな。」
まぁ、もし、やり合うことがあるなら、一太刀くらいは入れてやるつもりだし、セリのことに関しては、例え死んでも譲る気はないが─
(…って、直ぐ、また、勝手に張り合うしな?)
セリが師に見せる笑顔さえ許せない狭量さ。ホントにもう、どうしようもない─
「…ルキの、優しいところが好きです。」
「…優しい、かぁ?」
そう言ってくれる言葉は有難い、が、ここ何日かの自分を思うと、全く当てはまる気がしない。
「…ルキは優しいです。…いっぱい、優しくしてもらいました。」
言われて思い出す。そう言えば、リリーにもそんなことを言っていた。同時に、並べ立てられた己の所業に自分自身でウザさを感じたことも思い出す。
(…クッソ、やっぱ、じゃあ、もう、俺、最初っから、セリのこと好きだったんじゃねぇの、それ…)
自覚無しにやらかしていたことを思うと、過去のことなのに、猛烈な羞恥に襲われる。一人、悶えそうになるそれを抑え込めば、
「…あの、そう言えば、ですが、ルキは、どうして知ってたんですか?」
「…ん?なに?」
「王都での、エルとの会話です。…エルに聞いたんですか?その、私がルキを好き、というか、異性愛者だって…」
「…」
(マズい…)
腕の中で、自分の言葉に照れているセリは文句無しに可愛い。可愛い、が─
「…あー、スキル使って聞いたって言ったら、怒る、か?」
「スキル?…遠耳と読唇、ですか?」
「…だな。」
一瞬、考えるようにして動きを止めたセリ、だけど、直ぐに首を振って、
「いえ、怒るようなことでは。…あ、でも、やっぱり、あまり、聞かれたくはないかも、です…」
「…なんで?」
セリの答えに、自然、声に険が混じる。そもそもが盗聴だろうが、という自分の非は見ない振りで。
「聞かれて何が困る?俺に聞かれて困ることがあんの?」
「それは…」
言い淀むセリ。その数瞬に、また疑心が膨らんでいきそうになるが、
「…エルと、よく、ルキの話をしていて。…そういうのは、やっぱり、ルキに聞かれるのは、少し…」
「俺…?」
「…」
赤い顔で頷くセリが、異常に可愛い。
(…なに、俺?俺の話してんの?で?俺の話でそんな顔すんの?)
「…やべぇよな。」
「?」
セリが、控え目に言って天使─
「…セリ、悪ぃ。」
「え…?」
「もう、無理だわ。」
「っ!」
抑えきれない衝動のまま、セリの身体を抱えあげた。脳内で、エルとシオンにも頭を下げて、セリを寝室に運び込む。運び込んだ先、居間と変わらない惨状に舌打ちして、
「クッソ、マジで、邪魔。」
「ルキ!?」
床に転がる刀剣類を足で押しやり、安全だけは確保できているベッドの上にセリを下ろす。
「ルキ?ルキ?あの、待って、待って下さい。」
「…なに?流石に、セリも、これから俺に何されっか分かった?」
「っ!?」
これ以上無いってくらい、真っ赤になったセリ。その頬に触れようとしたところで、セリの両手がストップをかけて来る。
「待って、待ってください!ルキ!私!」
「うん?なに?」
こんだけ焦るセリも珍しい。潤んだ目が可愛くて、つい、必要以上に揶揄いたくなる。そんな、こっちの欲望に気づいているのかいないのか。セリが、必死に首を振り続けて、
「無理なんです!あの、さっきの、ルキに上げた、双剣、あれ、魔剣なんです!」
「………は?」
突然、理解不能な単語が出てきて、脳が活動を停止した─
「それで、あの、開錠の呪文を覚えてきたんですけど、それで、あの、最後の『解呪』以外は、私が唱えるので、ルキは、解呪だけ、解呪だけしてくれればいいんです。でも、あの…」
「…」
「忘れちゃいそうなんです!頑張って、頑張って覚えて帰って来たんですけど、明日には絶対、忘れちゃう。だから、今から、今すぐ、解呪しないと…」
「…」
「…あの、ルキ?大丈夫ですか?」
「…」
「…ルキ、怒って…?」
「…」
「あー、そっか、悪ぃ、散らかってんな。…ごめん、セリ、五分くれ。危ねぇから、どっか、空いてるとこ居て。」
「はい…」
「ホント、ごめんな。」
床に並べっぱなしにしていた刀剣の類い、言い訳させてもらうなら、今日、セリを部屋に呼ぶつもりなんてなかったから、昼間いじったそれらを、虫干し代わりに広げっぱなしにしてしまっていた。
優先的にテーブル周りを片付けて、セリを呼ぶ。
「…とりあえず、ソファ周辺はクリア。…セリはここな?」
「はい。」
「なんか、飲むもん…」
言いかけて固まる。家にあるものなんて、コーヒーか酒ぐらい。コーヒーにはミルク派のセリだけど、ミルクなんてこの家にはないから、
「…マジで、ごめん。コーヒー、ミルク無ぇんだけど…」
「あ、はい。ブラックで大丈夫です。…あの、ルキ、そんなに謝らないで下さい。突然お邪魔したのは私なので。」
「…」
もう一度、「ごめん」と言いそうになったのを飲み込んで、
「…んなもん、突然引っ張ってきたのは、俺の方だろ?」
「でも、あの、私、来られて嬉しいです。今日、ルキとちゃんと会えると思ってなくて…」
そう言うセリの胸元には、まだ、俺のためだという剣が抱きしめられたまま─
「っ!ああ、もう、クソッ!」
「…ルキ?」
「ぜんっぶ、駄目じゃねぇか…」
「…」
「ごめん、セリ。マジでごめん。俺、自分のこと優先させ過ぎだわ。セリが用意してくれた剣なのに、ちゃんと受け取りもせずにこんなとこまで連れてきて。しかも、こんなグダグダで、ねぇよな、ホント、マジでねぇ…」
「あの、ルキ、ルキ、大丈夫です、落ち込まないで下さい。」
「…はぁ、もう、悪ぃ、気が済むまで謝らせて。」
慌てて立ち上がろうとするセリを、もう一度、ソファに座り直させる。
「…ごめんな。…も一回、もらってもいいか?セリからのプレゼント。」
「はい。…もらって下さい。」
「…サンキュ。」
差し出されたのは、対になっている幅広のダガーが二振り。いま使っているものに比べて、反りが大きく、刃渡りがやや短い。それに、俺でも、一目で分かった。
「…属性効果ついてんのか、これ。…すげぇ、綺麗だな。」
「はい、あの、一応、双剣ヴァハフント、オルトロスのドロップ品、です。」
「オルトロスって、まさか、セリ…」
「はい、ダンジョンで入手しました。」
「…」
勘違い、していた─
剣はボッツで購入したもの。ダンジョンに潜っていたのはその資金稼ぎのため。そう思っていた。
それだけでも、信じられないくらい嬉しかったのに─
震えそうになる手で、双剣をテーブルに置く。
「セリ…」
「はい…」
ソファに座るセリの身体を抱きしめた。力一杯抱きしめたいのを、出来るだけ、本能を抑え込んで。
「…ありがと。マジで、ホント、すげぇ嬉しい。…死にそうなくらい。」
抱きしめた腕の中で、セリが笑う。
「死ぬのは困ります。でも、良かったです。喜んでもらえて。」
「うん、すげぇ喜んでる。…分かる?俺、震えてんだけど。」
「…震えてるんですか?」
「ん。」
何なら、もう、泣きそうなんだが─
流石に泣くのはどうかと思うから、抱きしめて誤魔化して。セリの髪に触れて、
「…セリってさぁ、俺のどこが好きなわけ?」
「え…?」
「俺、セリにここまでしてもらえるようなアレじゃねぇよな。…今日とか、マジで無くね?って、自分でも思ってんだよ…」
「…」
セリの都合なんて考えず、常に側にいて欲しいと要求し、おまけに、自分でも引くくらい嫉妬を抑えきれない。
(昔のカッシュの嫉妬とか、もう、ホント、笑えねぇ…)
「…セリに好かれる要素がねぇ、…S級冒険者ってことくらいか?…ああ、けど、それでいうなら、セリのお師匠さんの方が強いし、すげぇよな。」
まぁ、もし、やり合うことがあるなら、一太刀くらいは入れてやるつもりだし、セリのことに関しては、例え死んでも譲る気はないが─
(…って、直ぐ、また、勝手に張り合うしな?)
セリが師に見せる笑顔さえ許せない狭量さ。ホントにもう、どうしようもない─
「…ルキの、優しいところが好きです。」
「…優しい、かぁ?」
そう言ってくれる言葉は有難い、が、ここ何日かの自分を思うと、全く当てはまる気がしない。
「…ルキは優しいです。…いっぱい、優しくしてもらいました。」
言われて思い出す。そう言えば、リリーにもそんなことを言っていた。同時に、並べ立てられた己の所業に自分自身でウザさを感じたことも思い出す。
(…クッソ、やっぱ、じゃあ、もう、俺、最初っから、セリのこと好きだったんじゃねぇの、それ…)
自覚無しにやらかしていたことを思うと、過去のことなのに、猛烈な羞恥に襲われる。一人、悶えそうになるそれを抑え込めば、
「…あの、そう言えば、ですが、ルキは、どうして知ってたんですか?」
「…ん?なに?」
「王都での、エルとの会話です。…エルに聞いたんですか?その、私がルキを好き、というか、異性愛者だって…」
「…」
(マズい…)
腕の中で、自分の言葉に照れているセリは文句無しに可愛い。可愛い、が─
「…あー、スキル使って聞いたって言ったら、怒る、か?」
「スキル?…遠耳と読唇、ですか?」
「…だな。」
一瞬、考えるようにして動きを止めたセリ、だけど、直ぐに首を振って、
「いえ、怒るようなことでは。…あ、でも、やっぱり、あまり、聞かれたくはないかも、です…」
「…なんで?」
セリの答えに、自然、声に険が混じる。そもそもが盗聴だろうが、という自分の非は見ない振りで。
「聞かれて何が困る?俺に聞かれて困ることがあんの?」
「それは…」
言い淀むセリ。その数瞬に、また疑心が膨らんでいきそうになるが、
「…エルと、よく、ルキの話をしていて。…そういうのは、やっぱり、ルキに聞かれるのは、少し…」
「俺…?」
「…」
赤い顔で頷くセリが、異常に可愛い。
(…なに、俺?俺の話してんの?で?俺の話でそんな顔すんの?)
「…やべぇよな。」
「?」
セリが、控え目に言って天使─
「…セリ、悪ぃ。」
「え…?」
「もう、無理だわ。」
「っ!」
抑えきれない衝動のまま、セリの身体を抱えあげた。脳内で、エルとシオンにも頭を下げて、セリを寝室に運び込む。運び込んだ先、居間と変わらない惨状に舌打ちして、
「クッソ、マジで、邪魔。」
「ルキ!?」
床に転がる刀剣類を足で押しやり、安全だけは確保できているベッドの上にセリを下ろす。
「ルキ?ルキ?あの、待って、待って下さい。」
「…なに?流石に、セリも、これから俺に何されっか分かった?」
「っ!?」
これ以上無いってくらい、真っ赤になったセリ。その頬に触れようとしたところで、セリの両手がストップをかけて来る。
「待って、待ってください!ルキ!私!」
「うん?なに?」
こんだけ焦るセリも珍しい。潤んだ目が可愛くて、つい、必要以上に揶揄いたくなる。そんな、こっちの欲望に気づいているのかいないのか。セリが、必死に首を振り続けて、
「無理なんです!あの、さっきの、ルキに上げた、双剣、あれ、魔剣なんです!」
「………は?」
突然、理解不能な単語が出てきて、脳が活動を停止した─
「それで、あの、開錠の呪文を覚えてきたんですけど、それで、あの、最後の『解呪』以外は、私が唱えるので、ルキは、解呪だけ、解呪だけしてくれればいいんです。でも、あの…」
「…」
「忘れちゃいそうなんです!頑張って、頑張って覚えて帰って来たんですけど、明日には絶対、忘れちゃう。だから、今から、今すぐ、解呪しないと…」
「…」
「…あの、ルキ?大丈夫ですか?」
「…」
「…ルキ、怒って…?」
「…」
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