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第二章

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たどり着いた上層階、コアルームの真上は床が抜けてしまっていたため、クロードは崩落を避けて、石造りの小部屋のような場所までレジーナを運んだ。そこで漸く地面に降りることが出来たレジーナは、そのまま石の床へとへたり込んでしまう。

(こ、怖かった……!)

内臓が上下するような感覚、見下ろせば遥か下が地面だと分かるからじっと目を瞑ってクロードにしがみついていた。時間にすれば三十秒にも満たない時間、けれどレジーナにとっては永遠とも思える時間を、クロードは平気で上りきってみせた。

実際、レジーナが彼から読めた思考もレジーナを案じるものばかり。彼自身の不安や恐怖、どころか、疲労さえも感じていない様子に、レジーナは改めて英雄クロードの超人的な強さを知った。

黙り込んでしまったレジーナに、クロードが片膝をつき、顔を覗き込んで来る。

「……レジーナ、怪我は?」

レジーナはそれに黙って首を振り、そこで、ハタと気づいた。記憶の中、レジーナを庇うクロードが感じていた痛みに。

「クロード、あなたの方こそ怪我してるでしょう?さっさと回復したら?」

「……問題ない」

そう告げる彼が、本当に自身の怪我を「問題ない」と判断していることも知っている。それでも、レジーナのせいで負った怪我をそのままにされるのも居心地が悪い。さっさと『ヒール』をかけたら、そう言いかけたレジーナは、またしても気づいた。

「クロード!あなた、魔法核が傷ついてるんじゃない!」

思い出したのは、クロードの記憶の中、魔法核が傷ついたと自覚している彼の姿だった。なのに、彼はそれさえも「問題ない」と判断してしまっている。魔術の行使ができずとも、レジーナを連れてダンジョンを出ることは可能だから、と。

「っ!何を考えてるのよ!」

レジーナは立ち上がり、クロードの右腕をとった。そこが一番、怪我が深かったからだ。途端、聞こえて来るクロードの声。

――……なるほど、怪我の箇所まで分かるのか。

そう心の内で呟いたクロードは、「便利だ」などとのんきなことまで考えている。そんなクロードの危機感のなさに、レジーナの方がカッとなった。

「もっと焦るなり、私に怒るなりしなさいよ!魔法核が傷つくなんて……!この先、一生、魔力が使えないかもしれないのよ?」

――……なぜ、レジーナに怒る必要が?

「ダンジョンの崩落を止めるために無理したんでしょう!私を、私達を外に連れ出すために!」

レジーナは目の前の腕にヒールを掛けようとする。けれど、込み上げるグチャグチャとした思いに、涙を流さないでいるだけで精一杯だった。

「クロード、あなた、魔法防壁も無しに私を庇ったってことじゃない!?」

なんでそんな馬鹿な真似を、と思う。けれど、同時に、レジーナはその時の彼の思いも知っていた。クロードは反射的に、それが当然のように、一瞬でレジーナを守ると判断していた。

「生身で、あんな、あんなことするなんてっ!バカじゃないの!?」

そんなことを言いたいわけではない。命を救われたのに、酷いことを言っている。その自覚があるのに、レジーナは自身の口から溢れ出る言葉を止めることができなかった。ただ、クロードの自己犠牲が悔しくて、悲しい。

不意に、クロードの困ったような声が聞こえて来た。

――レジーナ、……泣いて?

「泣いてないわよ!」

間髪入れずにそう返し、レジーナは涙を拭う。

「私は怒ってるの!あんなバカな真似、二度としないで!」

――だが、それでは、レジーナを守ることが出来ない。俺は……

「『命に代えて』なんて、絶対にしないでよ!そんなの、絶対に許さないわ!」

クロードの思いを否定して吠えるレジーナに、クロードが「それでも」と考えているのが伝わって来る。

「私を『守りたい』のなら、先に自分の身を守りきりなさい!あなたの命に代えられるなんて、絶対にごめんよ!」

レジーナの癇癪に、クロードが困惑しているのが伝わって来る。どうしたものかと戸惑う彼の思考を遮断したくても、今のレジーナにはそれさえもできない。だから、クロードに命じた。

「とにかく、もう何も考えないで!回復魔法は得意じゃないの!集中したいんだから、何も考えないで!」

――分かった

レジーナの言葉に頷いたクロードが、そこで本当に思考を止める。

「え……?」

言われて直ぐに思考をやめるだなんて、人間にできるわけがない。分かっていて、八つ当たり気味にそう口にしたレジーナは、本当に彼の「声」が聞こえなくなったことに戸惑う。

完全に沈黙してしまったクロードの姿に不気味さを感じたレジーナだが、今は優先すべきことがあると、彼の腕の治療に意識を集中した。




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