読心令嬢が地の底で吐露する真実

リコピン

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第四章

4-2 Side C

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油断していた――

クロードはロックモンキーを掃討し終え、置いて来たレジーナを振り返った。視界に、地に手をつく彼女の姿が見える。急ぎ彼女の元に向かおうとしたクロードより早く、彼女の前に立つ男がレジーナに手を差し伸べた。

レジーナは、その手を取らなかった。

一人立ち上がり、男の側を離れる。何が辛いのか、痛みに耐えるような表情のレジーナ。彼女の身を案じるべきなのだが、クロードはそれよりも、レジーナが男の手を取らなかったことに安堵していた。

「……?」

なぜ安堵したのか。その理由が分からなかったクロードが自身の胸に手を当てたところで、接近する複数の魔物の気配を感じた。瞬時に意識を切り替える。

「通路へ後退を!サンドワームだ、下から来る!」

「なっ!?」

クロードの警告に、レジーナと彼の側に居た男、それから、エリカを連れたリオネルが後退する。が、第二王子のフリッツと、魔術師の男がその場に残った。剣を構えるフリッツに再度警告する間もなく、彼の足元の土が盛り上がる。同時に、クロードの足元からも魔物が姿を現した。

(……ダンジョン枯渇の影響か)

サンドワーム。地面の底を這いずる大型の環形魔物の気配には気づいていたが、繁殖期以外には地表に姿を現さない魔物の習性を過信していた。自身を飲み込むように口を開いて現れた巨大な蚯蚓ミミズに、クロードは剣を突き立てその息の根を止める。

そのまま、もう一体、今まさにフリッツを飲み込まんとする魔物の口に飛び込んだ。幾重にも連なる円形の歯列による噛みつきを硬化スキルで無効化し、片手で無理やりに口をこじ開ける。そのまま、空いたもう片方の手に呼んだ剣を、サンドワームの上顎から脳天を目掛けて突き刺した。

「――――――――!!」

不可聴の叫びを発したワームの巨体が、地面へと崩れ落ちていく。衝撃を避け、跳んだ後方、後続の気配が無いことを確認して、クロードは剣を収めた。

(無事、だろうか?)

ワームの襲撃で地面が大きく崩れた。壁や天井の崩落は免れたが、ワームの撒き散らした土砂や岩が飛散している。

クロードは隆起した地面を越えて、レジーナの逃げた通路へと急ぎ向かった。前方に、不安げな様子で顔をのぞかせるレジーナの姿が見え、クロードは安堵した。レジーナの元に向かえば、通路から出て来た彼女がクロードへと近づいて来る。

「クロード、大丈夫だったの?魔物に飲まれかけていたけれど……」

自身の身を案じるレジーナの言葉に、クロードは頷く。「大丈夫だ」と答えようとしたところで、レジーナの背後から別の声が聞こえた。

「クロード様、動かないでください!」

「……」

クロードが視線を向ければ、目に涙を湛えたエリカがリオネルと共に立っている。

「お怪我を見せてください!先程の、魔物に噛まれた傷を!」

「……問題ない。怪我はしていない」

「そんなはずありません!」

尚も言い募ろうとするエリカを放って、クロードは気になったレジーナの右手を取った。

「クロード様!」

「おい!貴様、エリカの話を聞け!」

煩わしい音を遮断して触れたレジーナの手、ひっくり返してその掌を見れば、僅かに赤い線が滲んでいる。

「……レジーナ、怪我を……」

「怪我というほど大したものではないわ。転んで、擦りむいただけよ」

(だとしても、怪我をさせてしまった……)

大したものではないという彼女の言葉は分かる。だが、分かっていても嫌だった。彼女には怪我一つさせたくない。彼女のこの白い肌に傷一つつけることなく守りたかった。

そう思うクロードの手の内で、ギュッと握り締められたレジーナの手が引き抜かれようとする。

「レジーナ、力を入れては駄目だ。傷が開く……」

「分かったわ!分かったから、早く手を離して……っ!」

抵抗されてしまい、クロードは仕方なしにレジーナの手を離した。未練がましく彼女の手の行方を追えば、右手を隠すように左手で握ったレジーナの顔が赤く、その口元がきつく引き結ばれていることに気付く。

(怒らせてしまっただろうか……?)

レジーナはその能力ゆえに人に触れられることを嫌う。それを気にすることなくクロードは彼女に触れて来たが、相手は未婚の令嬢。無断で肌に触れた無礼に今更ながらに不安を覚えたクロードは、レジーナへ謝罪しようとしたが――

「あの、レジーナ様も怪我をされたのでしょうか?」

エリカの声にレジーナが彼女にチラリと視線を向け、赤い頬のままに「かすり傷よ」と答えた。レジーナの返答に、エリカの眉根が下がる。

「申し訳ありません。出来れば、レジーナ様の怪我も私が治して差し上げたいのですが……」

申し訳なさそうに口にしたエリカに、レジーナは「別に」と呟いた。「別に気にすることはない」、そう聞こえたレジーナの言葉に、けれど、エリカは再び「ごめんなさい」と謝罪を口にする。

その横で、リオネルが口を開いた。

「エリカが謝ることはない」

そう言ったリオネルが、するどい視線をレジーナへと向ける。

「男と女では身体の構造が異なる。性別や体型によって治癒魔法が効かないなど、よくあることだ」

リオネルの言葉には苛立ちが垣間見えた。何を怒ることがあるのか。分からぬまでも、クロードはレジーナを背後に庇った。リオネルの視線を遮るために。

クロードの行動に、一瞬、リオネルが虚を突かれたような顔をしたが、瞬時に、その瞳に怒りを漲らせる。何を言うでもなく、対峙する形になったクロードとリオネルの間に割って入ったのはフリッツの声だった。

「……おい。いい加減、移動するぞ。このままここでこうしていても埒が明かない」

不機嫌を露わにするその声に、最初に答えたのはレジーナの隣に居た男だった。

「そうだな。……皆、行こうか?」

その一言で、ノロノロとだが動き出したリオネルの姿を認めて、クロードは再び一行の先頭に立った。レジーナの隣を離れることに不安はあったが、フリッツの言う通り、このままここでこうして居る訳にはいかない。

(なるべく早く……)

次の拠点まで移動してしまいたい。そこまで行けば、魔物の襲撃を気にする必要もない。ずっと、レジーナの側に居られる。




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