読心令嬢が地の底で吐露する真実

リコピン

文字の大きさ
46 / 50
最終章

9-1 Side F

しおりを挟む
王宮の最奥、国の大事を決める権限を持つ者だけがその場にあることを許される一室で、巨大な円卓を囲む十数人の人影。

彼らに召喚されたフリッツは直立のまま、発言が許される時を待っていた。

議題に挙がっているのは、彼らが「過去」として葬り去ったはずの男と、国にとっては毒にも薬にも成らぬと判断されていた貴族の娘が国を捨てたという報告。

片や、巨大ダンジョンを長年に渡り単身で維持するという超人ぶりが明らかになり、片や、発現しないと判断された――国にとっては非常に有益なスキルを使用することが判明し、先ずは、一同がどよめいた。しかし、その好意的な驚きも、既に彼らが逃亡済み、――おそらくは、隣国への亡命を成した後だと報告された時点で、脅威に対する懸念へと変わった。

彼らを失うことは、国として大きな損失。然りとて、彼らを捕らえる手段も、連れ戻す算段も浮かばない。令嬢の家族とて、枷には成り得ないと知れたところで、漸く、その場の一人が口を開いた。この国の「智」における最高権力者が告げる。

「やはり一度は、騎士団による追跡を行うべきでしょう。何もせず、ただ手をこまねいているわけにはまいりますまい」

逃げた男に対する消極的な策は、彼の力を評価してのもの。騎士団が動いたとて、どうなるものでもないと認識した上での発言だった。誰もがそれを理解する中、ついぞ、賛同の声は上がらない。代わりに、彼らの内の一人がその矛先をフリッツへと向けた。

今回の件の報告者であるフリッツは、彼らの前で微動だにしない。本来なら、このような形でこの場に立つことなどあり得ぬ身。それが、召喚され、審問される立場にあるのは、それだけ事態が深刻であるということ。

「……フリッツ殿下。今一度確認いたしますが、何故、あなたはその場で彼らを引き留めなかったのでしょうか?」

「私に彼らを止める術はなかった」

「ですが、仮にも二人は王国民、貴族の令嬢に騎士だった男。殿下のお声かけがあれば、引き留めることは可能だったのではありませぬか?」

質問者の問いかけに、フリッツは首を横に振って答える。

「今回の転送魔法の事故直前、レジーナ・フォルストは伯爵家での蟄居が決まっていた。婚約を破棄され、聖女エリカへの傷害の罪に問われる中、彼女がこの国に留まる利点はない」

「では、かの英雄クロードだけでも……」

「あの男は、出会った時点でレジーナ・フォルストを主と定めていた。彼女から引き離すことは不可能だ」

「……」

場に、再び沈黙が訪れる。それを破ったのは、この場の――そして、この国の最高権力者である国王、フリッツの父だった。事態を解決に導く案がない今、父国王が下す決断は一つ。

「……此度の件は、かつての報告に誤りがあったことに起因する。よって、英雄クロードの亡命を報告したプライセルにその責を問うものとする」

「っ!?お待ちください、陛下!」

名指しされたプライセル家当主が、抗議の声を上げる。

「件の男に関しては、この場での一致を以てして――」

「プライセル侯、言葉を控えられよ。……陛下のご裁断ですぞ?」

「っ!」

不敬を問われ、前騎士団長である男は残りの言葉を飲み込んだ。血の気の引いた顔、目の前の机を血走った眼で睨みつける男の姿を認めた国王が、その視線をフリッツに向ける。

「……フリッツ、お前もだ。お前にも、同じく責を問う」

「はっ!」

「国にとって有益な者たちの流出、止められなかったお前の罪は重い」

自らに向けられる厳しい眼差しの中、僅かに宿るは憐憫だろうか。

「……お前の、王位継承権を剥奪する」

「御意」

父の言葉に、フリッツは頭を垂れる。既に覚悟は成っていた。粛々と受け止めたフリッツの耳に、父の小さな嘆息が聞こえる。

「……もう良い、下がれ」

「御前、失礼いたします」

顔を上げたフリッツは、踵を返して扉に向かって歩き出す。

幾対もの視線を背中で受け止めながら、開いた扉の前、最後の一礼と共に部屋を後にした。




しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」 公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。 忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。 「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」 冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。 彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。 一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。 これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』

放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」 王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。 しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!? 「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!) 怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。

【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない

春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。 願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。 そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。 ※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

【完】相手が宜しくないヤツだから、とりあえず婚約破棄したい(切実)

桜 鴬
恋愛
私は公爵家令嬢のエリザベート。弟と妹がおりますわ。嫡男の弟には隣国の姫君。妹には侯爵子息。私には皇太子様の婚約者がおります。勿論、政略結婚です。でもこればかりは仕方が有りません。貴族としての義務ですから。ですから私は私なりに、婚約者様の良い所を見つけようと努力をして参りました。尊敬し寄り添える様にと努力を重ねたのです。でも無理!ムリ!絶対に嫌!あからさまな変態加減。更には引きこもりの妹から明かされる真実?もう開いた口が塞がらない。 ヒロインに隠しキャラ?妹も私も悪役令嬢?ならそちらから婚約破棄して下さい。私だけなら国外追放喜んで!なのに何故か執着されてる。 ヒロイン!死ぬ気で攻略しろ! 勿論、やられたら倍返ししますけど。 (異世界転生者が登場しますが、主人公は異世界転生者では有りません。) 続編として【まだまだ宜しくないヤツだけど、とりあえず婚約破棄しない。】があります。

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

処理中です...