異世界から帰ってきたら、大好きだった幼馴染みのことがそんなに好きではなくなっていた

リコピン

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第七章 わすれられない

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3.

「アレ、かな?」

「…みたい」

異様な光景だった。部屋の中央、服一枚纏っていない男が立ち尽くす。微動だにしないその男の周りを、複数の男達が取り囲んでいる。囲む男達の中には見知った顔が並び、その特徴的な出で立ちから彼らが冴木家の面々だということがわかる。よく見れば、周囲の床には、倒れこむ人達の姿も。だとしたら、やはり、

「アレが、幽鬼なのか」

「人型…」

「…もしくは、また憑依されてるとか」

口にしながらも、どこか確信があった。あれは、人ではない。人の姿をした異界の化物。嫌な記憶が蘇りそうになる。大丈夫。落ち着け。姿に惑わされるな。

「明莉ちゃん!」

「…秀」

「…どうかした?何か、いつもと、」

「あー、ごめんごめん。ちょっと考え事を。もう大丈夫!それで、これは一体どういう状況なの?」

捲し立てた。今、秀に何か言われたら弱ってしまいそうだったから。秀が、一瞬だけ訝しそうな顔を見せたけれど、時間も無いのだろう、直ぐにこの場の説明を始めた。

「ここは、磨針まはり家の研究施設の一つなんだ。あの人型の幽鬼は彼らの研究対象だったらしい」

「だった?」

「どうやら、制御しきれずに暴走させてしまったみたいだね。それを自分達で何とかしようとした挙げ句、犠牲者が出てる。僕らが駆け付けた時には、この有り様だった」

「部長と冴木の人達は何をしてるの?」

幽鬼を倒す気配はなく、恐らく法力による封印か呪、幽鬼の動きを押さえつけているだけのように見える。

「…法力がほとんど効かないんだ」

「?」

「辛うじて調伏出来ているんだけど、悠司達の攻撃が通らなかった。ダメージを与えられないんだ」

改めて幽鬼を確認する。今までとは質が異なるというその幽鬼を、私なら、倒せるかもしれない。だからこそ、この場に呼ばれた。なら、することは一つ。相手の姿がどうであろうと。

「オッケー、理解しました。じゃあ、ちょっと試しに殴ってみるね」

「…気を付けて」

「了解」

言って、部長の元へと急いだ。

「部長、交代します」

「おー、頼むぞ。流石にこれ以上抑えておくのはきっちぃからな」

「じゃあ、一度あっちに飛ばすんで、その間に離れて下さいね」

宣言してから、幽鬼を殴り飛ばした。なるべく遠くへ。殴った巨体が宙を舞い、部屋の奥の壁に激突した。轟音が響く。

殴った感触は堅かった。確かに、防御力はそれなりに高そうだ。それでも、ダメージは与えられているのでそれ自体は問題ないんだけど。

―ちょっと、しんどい

やっぱり、相手が人の見た目をしているだけで、こんなにもやりにくい。直視はせずに、さっさと終わらせよう。壁際、立ち上がった幽鬼に近づき、追撃を入れる。

三度目の攻撃が入ったところで、幽鬼が咆哮をあげた。音としては、獣のようなソレ。だけど、聞こえてしまった。

―クウ、コロス、タベル

「っ!?」

上げた拳を、振り下ろせなくなった。

―シニタクナイ、コロス、シニタクナイ

ダメだ。見るな。聞くな。

幽鬼が三度吠えた―

―オレハ、シニタクナイ

目が、合った。人と変わらぬ瞳に、敵への憤怒が、死への恐怖が宿っている。

―ああ、私はまた

世界が遠ざかる。ダメだ。わかっているのに。思考が停止する。捨てきれなかった感情が、押し込めていた澱みが広がっていく。ダメだ。動けない。飲み込まれる―




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