54 / 65
第七章 わすれられない
5.
しおりを挟む
5.
あの日から一週間、以来、彼女とは会えなくなってしまった。
あの日、彼女が帰りたいと言った「うち」が、大学近くのアパートではなく、彼女の実家だとわかり、「一緒に帰る」と言うチサさんと共に送った日から、彼女は自信の部屋に籠りっきりになってしまった。部屋の外から呼びかければ、辛うじて反応は返ってくるものの、その扉が開かれることはない。
何が原因だったのか、何が彼女を追い詰めたのかもわからない自分では、彼女の力にはなれないとわかってはいても―
それでも、じっとしていることが出来ずに、日に一度は彼女の元を訪ねてしまっている。許されるなら、ずっと側に居たいのに、せめて側で彼女の気配を感じて居たいのに―
門の向こうへ送り返した幽鬼に関して持ち上がった問題が、それさえ許してくれず、幽鬼に関する報告会の準備に終われていた。
呼び出された朱桃の屋敷、報告相手の重鎮達は、皆一様に渋い顔を浮かべている。
「…それでは、件の幽鬼については完全に取り逃がした、消息も不明だということか?」
一通りの報告が終わり、口を開いた重鎮の一人の言葉に、隣に並んだ悠司が肩をすくめて答えた。
「『取り逃がした』というか、まあ、俺らじゃ倒せんので、被害を抑えるためには、あの場はああするしかなかったんですよ」
「幽界側へ逃げられたというのは間違いないのか」
「はい」
即答したが、彼らの顔に納得した様子はない。
「…しかし、俄には信じがたい。そう都合よく幽界の門が開くものなのか?」
「それについては、『非常に幸運だった』としか申し上げられません」
悠司と話し合い、チサさんが門を開いたことについては報告しないことに決めた。「門が出現したのは、あくまで偶発的なものだった」と報告には上げている。チサさん本人は「どうでもいい」と言っていたけれど、今は明莉ちゃんのことしか考えられないであろう彼女に、これ以上の負担はかけられない。
「…しかしなぁ」
「まあ、一旦その点は置いておきましょうよ。問題は、その法力の効かない幽鬼というのがまた現れる可能性があるのか、ということでしょう?」
本家筋、この報告会に置いても発言力のある重鎮の一人。その視線がこちらを向いた。
「…可能性は高いと考えています。
出現した門は即時閉じましたが、問題の幽鬼自体、一度はこちらへ顕現し、長期に渡って磨針の研究施設に居たわけですから」
「顕界との親和性が高い、ということね?」
「はい。恐らく、こちらへ戻ってくるでしょう。その際の顕現場所については予測不能です」
「はぁ、厄介ねぇ。法力が効かないなんて」
場に、暫しの沈黙が落ちた。
「…『あの女』はどうなんだ?」
「…」
「前回の戦闘で負傷して使い物にならないと聞いたが、まだ治らんのか?」
男の言葉に込み上がる不快感を抑え込んだ。
「…療養中です」
「は!所詮は、ということか。五家の血も流れておらん余所者が、調子に乗るからだ」
彼女の、あの献身への、五家の評価が『コレ』か―
「…わかりました。そこまでおっしゃるのでしたら、以降、彼女への協力要請は行いません」
「な!?それは!?」
「我々は彼女の好意に甘えすぎていました。彼女との協力関係は解消します」
無為に彼女が傷つく必要など、なかったのだ。己の判断の甘さが、彼女を追い詰めた。その上、このような中傷まで許してしまうなんて。自分が情けなくて、笑えてくる。
「ま、待て!しかし!例の幽鬼には我々の力が通じないのだろう!?あの女の力ならばなんとかなりそうだと聞いている!ならば、」
「先ほどのお言葉」
「!?」
「ご自分がおっしゃった言葉の意味を、今一度お考えください。その上でまだ彼女の好意にすがれるとお考えですか?」
「っ!」
何を驚くことがあるのか。何故、彼女がただ犠牲になることを許せると思うのか。
「…報告は以上になりますので、本日は失礼させていただきます」
「ま、待て!」
呼び止める声は複数。撤回しようとしている言葉も聞こえるが、聞き入れるつもりはない。部屋を後にすれば、悠司が後に続いた。その表情がニヤけきっている。
「優等生のお前が、じいさん達相手にあそこまで言うとはなあ」
「彼女への侮辱は許されない」
「…お前、惚れてんなぁ」
呆れたような悠司の言葉、浮かんだ姿、彼女の笑顔に無性に会いたい。
あの日から一週間、以来、彼女とは会えなくなってしまった。
あの日、彼女が帰りたいと言った「うち」が、大学近くのアパートではなく、彼女の実家だとわかり、「一緒に帰る」と言うチサさんと共に送った日から、彼女は自信の部屋に籠りっきりになってしまった。部屋の外から呼びかければ、辛うじて反応は返ってくるものの、その扉が開かれることはない。
何が原因だったのか、何が彼女を追い詰めたのかもわからない自分では、彼女の力にはなれないとわかってはいても―
それでも、じっとしていることが出来ずに、日に一度は彼女の元を訪ねてしまっている。許されるなら、ずっと側に居たいのに、せめて側で彼女の気配を感じて居たいのに―
門の向こうへ送り返した幽鬼に関して持ち上がった問題が、それさえ許してくれず、幽鬼に関する報告会の準備に終われていた。
呼び出された朱桃の屋敷、報告相手の重鎮達は、皆一様に渋い顔を浮かべている。
「…それでは、件の幽鬼については完全に取り逃がした、消息も不明だということか?」
一通りの報告が終わり、口を開いた重鎮の一人の言葉に、隣に並んだ悠司が肩をすくめて答えた。
「『取り逃がした』というか、まあ、俺らじゃ倒せんので、被害を抑えるためには、あの場はああするしかなかったんですよ」
「幽界側へ逃げられたというのは間違いないのか」
「はい」
即答したが、彼らの顔に納得した様子はない。
「…しかし、俄には信じがたい。そう都合よく幽界の門が開くものなのか?」
「それについては、『非常に幸運だった』としか申し上げられません」
悠司と話し合い、チサさんが門を開いたことについては報告しないことに決めた。「門が出現したのは、あくまで偶発的なものだった」と報告には上げている。チサさん本人は「どうでもいい」と言っていたけれど、今は明莉ちゃんのことしか考えられないであろう彼女に、これ以上の負担はかけられない。
「…しかしなぁ」
「まあ、一旦その点は置いておきましょうよ。問題は、その法力の効かない幽鬼というのがまた現れる可能性があるのか、ということでしょう?」
本家筋、この報告会に置いても発言力のある重鎮の一人。その視線がこちらを向いた。
「…可能性は高いと考えています。
出現した門は即時閉じましたが、問題の幽鬼自体、一度はこちらへ顕現し、長期に渡って磨針の研究施設に居たわけですから」
「顕界との親和性が高い、ということね?」
「はい。恐らく、こちらへ戻ってくるでしょう。その際の顕現場所については予測不能です」
「はぁ、厄介ねぇ。法力が効かないなんて」
場に、暫しの沈黙が落ちた。
「…『あの女』はどうなんだ?」
「…」
「前回の戦闘で負傷して使い物にならないと聞いたが、まだ治らんのか?」
男の言葉に込み上がる不快感を抑え込んだ。
「…療養中です」
「は!所詮は、ということか。五家の血も流れておらん余所者が、調子に乗るからだ」
彼女の、あの献身への、五家の評価が『コレ』か―
「…わかりました。そこまでおっしゃるのでしたら、以降、彼女への協力要請は行いません」
「な!?それは!?」
「我々は彼女の好意に甘えすぎていました。彼女との協力関係は解消します」
無為に彼女が傷つく必要など、なかったのだ。己の判断の甘さが、彼女を追い詰めた。その上、このような中傷まで許してしまうなんて。自分が情けなくて、笑えてくる。
「ま、待て!しかし!例の幽鬼には我々の力が通じないのだろう!?あの女の力ならばなんとかなりそうだと聞いている!ならば、」
「先ほどのお言葉」
「!?」
「ご自分がおっしゃった言葉の意味を、今一度お考えください。その上でまだ彼女の好意にすがれるとお考えですか?」
「っ!」
何を驚くことがあるのか。何故、彼女がただ犠牲になることを許せると思うのか。
「…報告は以上になりますので、本日は失礼させていただきます」
「ま、待て!」
呼び止める声は複数。撤回しようとしている言葉も聞こえるが、聞き入れるつもりはない。部屋を後にすれば、悠司が後に続いた。その表情がニヤけきっている。
「優等生のお前が、じいさん達相手にあそこまで言うとはなあ」
「彼女への侮辱は許されない」
「…お前、惚れてんなぁ」
呆れたような悠司の言葉、浮かんだ姿、彼女の笑顔に無性に会いたい。
41
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】
iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』
ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています
この物語は完結しました。
前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。
「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」
そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。
そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?
【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?
はくら(仮名)
恋愛
ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
【完結】二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました
三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。
優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。
優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。
そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。
絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。
そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる