異世界から帰ってきたら、大好きだった幼馴染みのことがそんなに好きではなくなっていた

リコピン

文字の大きさ
61 / 65
第八章(終章) それでも、私は

2.

しおりを挟む
2.

アイツが再び現れそうだという知らせが入ったのは、それから直ぐのことだった。

アイツが戻ってくるだろうということは、秀やチサから説明を受けて知っていた。幽鬼にとって、人間は補食対象。お腹を空かせた幽鬼は必ずこちらの世界に戻ってくる。自らの生を繋ぐために。

ただ、ヤツが再び現れたのは、最初に対峙した日からちょうど十日後、私が部屋を出てからまだ三日しか経っていない時で。その再出現の早さに、私がまだグジグジしていて使い物にならなかったらと思うとゾッとした。

呼ばれた場所は比較的人目につかなさそうな雑木林の中。落葉している木が多いとは言え、通常なら門を目視で見つけることは難しそうなものだけれど―

「でけぇな、おい」

「でかいっすね」

部長と並んで見上げるのは、正に、天まで届く勢いの二本の柱。闇夜に薄ぼんやりと浮かんで見えるその二本の間に渦巻く気配。柱の向こうが幽界に繋がっていることを、はっきりと感じとることができる。

門の大きさは、個体の大きさではなく、その強さに比例するらしいのだが、

「…アイツ、そんな強かったですかね?」

「微妙なとこだな。俺らじゃダメージを与えられなかったが、調伏は出来たわけだしな。そもそも、そんなに強い幽鬼を、磨針まはりがどうこう出来たとも思えねぇんだよなぁ」

「殴った感じも、歯が立たないってほどじゃ無かったんですよ。特異体質持ってるけど、レベルはそこそこ、みたいな感触でした」

それでも、秀も、チサも、あのバカでかい門の向こうには間違いなくヤツが居るという。

「…」

私が倒せなかった人型アイツが―

枯れ葉を踏みしめて近づいてくる二つの足音に振り返った。

「明莉ちゃん」

「秀、チサ、どうしたの?」

「うん、あのね、もし嫌なら言って欲しいと思って。明莉ちゃんが嫌なら、このままアイツが現れる前に、チサさんと門を閉じるよ」

秀の言葉に門をチラリと見上げる。このサイズの門を、閉じるというのか、この二人は、私のために―

「…大丈夫、やるよ」

これがいつもの門なら、ただ閉じればいい。だけど、こちらへの道を知っているアイツは何度閉じても、必ずまた門を開こうとするだろう。

今回、アイツの出現前に門を特定できたのは運が良かったくらいなのだ。被害を出さずにヤツを迎撃出来るのだから。だけど、それが次も上手くいくとは限らない。だから、今、ここで、確実にヤツを叩き潰す。それが、私にしか出来ないことなら。それで、守れるものがあるなら。

「心配だとは思うけど、秀とチサが応援してくれるから、うん、やれるよ」

「…なら、僕は信じて応援する」

「…」

無言で頷くチサも、いつも通りで。その本気の信頼があるなら、大抵のことは何だってやれる。

「よし、じゃあ、ちょっと行ってくるね!」

「っ!待って、明莉ちゃん!あれは!?」

突如、秀の顔色が変わった。視線の先は門を捉えたまま。肉眼ではまだ何も見えないから、気配で何かを感じ取ったのだろうけど。

「…明莉、アイツ、仲間を連れてる。気配が複数」

「…なるほど。やな、感じ」

それで、あのどでかい門なのか。群れることで戦力を補強したわけだ。

全く―

仲間、もしくは配下を連れてるなんて、まるでアレと同じじゃないか。あの『魔王おとこ』と―

「…来る」

「行ってくる!」

秀とチサを残して、駆け出した。部長や冴木家の人達。後は、知らない部隊の人達も。調伏で加勢してもらうつもりだったけど、敵が複数なら分散して各個撃破がいいはずだ。アイツを倒せるのは私だけだし、撃ちもらした幽鬼に逃げられても困るから。

「部長!とりあえず、私、一発叩き込みます!それで、潰せなかった分、後を頼みます!」

「わかった!任せろ!」

部長の返事を聞いて加速する。門からユラユラと出現し始めた個体がいくつか。アイツはまだ居ない。

目の前に迫った幽鬼を殴り飛ばす。勢いのまま、周囲の数体を叩き潰した。門から湧き出る幽鬼を片っ端に消していけば、後から追い付いた部長達が並んだ。

「…お前、一人でやるつもりかよ。俺ら要らないんじゃ、」

「明莉ちゃん!下がって!」

「!?」

部長のぼやきを遮る秀の声に、後ろに跳んだ。間一髪、さっきまで私の居た場所に走った殺意の線。

「…何あれ?飛び道具とか、卑怯じゃない?」

「卑怯もなんもねえだろ。おっし、俺らの出番だな。アレは任せろ。お前の相手は、アッチだろ?」

「…」

部長の指し示す先、ゆっくりと門から現れたソレと目が合った。どうやら、こちらを認識しているらしいヤツが吠えた。あの時、動けなくなってしまった叫びと同じ―

ただ一つ、救いだったのは、ヤツの姿が大きく人型から外れてしまっていること。パワーアップでもしたのかもしれないけれど、だいぶ仰々しい装甲を纏ったヤツはもはや『人』には見えない。

それでも、

―コロスコロス

聞こえてくる『声』から、ソレの『意思』が伝わってきて。

―やな、感じ

冷たい汗が滲む。それでも、拳を握る。こいつは行かせない。ここから、一歩も。

走り出す。一気に詰めた距離。最後の数メートルを跳躍する。ヤツの胴に拳を叩き込んだ。確かな手応えに、絶叫があがる。間髪入れずに二撃目も叩き込んだ。ヤツが振るう拳を避けるついでに、三撃目を蹴り込んで、地面に叩き伏せた。

―イタイ!イヤダ、ヤメロ!

三撃で沈んだ体、立ち上がろうとするソレをもう一度殴り飛ばす。

―コロス!イタイ!クルシイ!

ソレの声を聞きながら、無心で殴った。下手に高い防御力が、決定的な一撃を入れさせてくれない。それでも、終わりの見える戦い。鈍くなった幽鬼の頭部に狙いを定める―

―イヤダ…タスケテ…

―ごめん

口にする強さはないから。心の中で唱えた。

拳を、思いきり振り下ろす。

『グギャァァァアアア!!』

響く絶叫。断末魔の叫びに耳を塞ぎたくなる。両手を必死に抑えた。幽鬼がその姿を失っていく。ドロドロと溶け出す体、咆哮が音を失い、命が消えた。

「明莉!」

「明莉ちゃん!」

駆け寄ってくるチサと秀に、顔を向けて笑って見せる。

―きっついなぁ

だけど、

「大丈夫?怪我はない?」

「明莉?」

心配そうな二対の視線が私を見てくれているから。まあ、何とか、なる気がするんだ。だから、うん、

「大丈夫」




しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

【完結】二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。 優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。 優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。 そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。 絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。 そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

処理中です...