異世界から帰ってきたら、大好きだった幼馴染みのことがそんなに好きではなくなっていた

リコピン

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第八章(終章) それでも、私は

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大学から帰った後、次の日が祝日ということもあり実家に帰ることにした。家族には心配をかけたまま、ほとんどなんの説明もなく大学に戻ってしまったから、そのフォローをするつもりで。

両親とも仕事で帰りが遅いのはわかっていたけれど、何だか一人になる気にはなれず、チサを半ば強引に部屋に連れ込んだ。グダグダしている私に付き合ってくれるチサの優しさに甘えている内に、気分はかなり上向いた。

気分転換を兼ねて張り切って作った夕食は、まあ、うん、一人暮らし始めてまだ一年も経ってないし、こんなもんだと思う。文句も言わずに食べてくれるチサ。つけっぱなしのテレビ番組に突っ込みを入れながら、緩い時間が流れていく。

「チサ、お風呂入ってく?むしろ、泊まってく?」

「帰る」

然り気無いお願いは、一刀両断されてしまった。

「うー、仕方ないかー」

「…明日、また来る」

「うん、何なら朝ごはん一緒に食べよう」

「明莉が早起き出来たら」

「…ですね」

明日帰ってくるという幸助のためにも、チサとご飯を食べられるように早起きしなければと決意しながら立ち上がる。帰り支度を済ませて玄関に向かうチサに続いた。靴を履き、「それじゃ」と言うチサに「お休み」と返したところで、チサの動きが止まった。その視線が壁の一点を見つめている。見ているのは恐らく、その壁の向こう。何かの気配を探っているのだろう。

「…明莉、幽鬼の反応」

「どこ?」

尋ねながら、上着を羽織る。

「…緑地公園」

「オッケー、行こう」

かなり近い。多分、この距離なら私達が一番乗りするんじゃないだろうか。

「…門の気配が無かった。いきなり幽鬼の反応だけ」

移動しながら、明莉の説明を聞く。

「この前、取り逃がしたやつが居たのかな?強そう?」

「反応は弱い。ただ、ノイズ、ブレのようなものがあって、探りにくい。違和感がある」

『違和感』というフレーズに、思い当たるものは一つだけ。

「…それって、あれかな?憑依型?」

「明莉が以前、五家の総会で見たと言っていた?」

「そうそう」

一応、チサにも報告はしておいたものの、私自身は感じることの出来なかった憑依型に対する『違和感』。上手く説明できないままだったが、或いは―

「わからない。ただ、私は感知するのが初めて」

「了解、とりあえず行って、見てみるしかないよね」

一応の結論を出したところで話を終え、足を早めた。公園への距離が残りわずかになったところで、再びチサが口を開いた。

「…明莉、厄介な事態」

「え?やっぱり、強そうなヤツ?」

足を止めて、チサを振り返る。

「違う。ただ、襲われている人がいる」

「!場所は!?」

「…池の南側、明莉が最初に私に声をかけた場所の近く」

チサの言葉が終わる前に駆け出した。チサが幽鬼の気配を拾ってから、それなりの時間が経ってしまっている。間に合えばいいのだけれど―

「明莉」

後ろからかけられる、チサの声。

「襲われているのは、恐らく、嘉島かしま来叶らいとだと思う」

「!?」

足は止めなかったが、思わず後ろを振り向いてしまった。頷くチサに、彼女が確信しているのがわかった。

―マズイなぁ

このまま見捨てるわけにはいかないから、行くけど。顔見知りに見られてしまうのは、やはり都合が宜しくない。一応、一般人の被害者や目撃者には、後から五家による情報統制くちどめがあるらしいのだけれど、知った相手というのは非常にやりにくい。

―まあ、やるしかないんだけど

部長達を待つ間に、来叶が食べられてしまってはどうしようもない。

たどり着いた場所、休憩用のベンチがいくつか置かれた小さな広場で、目に飛び込んで来た光景に、頭を抱えたくなる。

―最悪だ

「来るな、来るな!近寄んじゃねぇ!!」

太い木の枝を振り回して、目の前の人物を牽制している来叶。

「…」

無言のまま、来叶に相対しているのは一見すると普通の少女。恐らく憑依型の幽鬼に取りつかれていると思われるのは―

「…美歌」

「明莉!?」

「…」

気づいた来叶が、視線をこちらに向けた。その隙をついて、幽鬼が来叶へと一歩近づく。

「!?来るなぁあ!」

「あーもう!」

美歌に向かって枝を大きく振り上げた来叶。このままでは、確実にどちらかが怪我をする。間の距離を、一気に跳んだ。二人の間に滑り込む。美歌の手を掴んだところで、背後からの衝撃―

「明莉っ!?」

来叶が振り下ろした枝を背中で受け止める形になった。スキルのおかげでダメージはない。

「お前!何で!?」

恐慌をきたして叫ぶ来叶は放っておいて、今は目の前の美歌の方を何とかしなければ。大丈夫、この前は上手くいった、このまま美歌から幽鬼を引き剥がす。

「…明莉、何とかなりそう?」

「大丈夫、いけるよ」

近づいてきたチサの声に答える。

「あっちでさ、居たでしょ?憑依してくる、あの何とかマリオネット。『マリオネットなのに、糸で操らんのかーい!』ってやつ」

「…ヘルマリオネット」

「そう、それ!あれを剥がすのと同じ要領でいけるんだけど、美歌に怪我させないようにするのがなかなか」

暴れる美歌を押さえつけながら、中の幽鬼の気配を確かめる。慎重に、幽鬼への干渉を行い、美歌の魂から剥がしていく。最後は、力業で剥がしきった幽鬼、その禍々しいモヤの中心へと拳を叩き込んだ。

モヤが霧散し、消えていくのを確認して、チサを振り返る。返ってきた肯首に、止めをさせたことを確信した。気を失ってしまった美歌を地面に寝かせ、ホッとしたところで、目があった。

来叶の、驚愕と、恐怖と、未知のものに対する忌避を宿した瞳と―




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