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終章
22 エンドロールのその後で1
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己にとってのナディア・シュタイラートが何だったのか、今でも上手く飲み込めない時がある。
奸臣ヨゼフ・シュタイラートの娘にして、己の婚約者だった女。美しい容姿に、凡庸な中身の─
(…いや、凡庸、とは違うな。)
王太子妃教育とは過酷を極めるもの。己も、それと同等の教育を受けてきたからこそわかる重責。それに、不平を言うでも、根をあげるでもなく、ただ、淡々と─
(そうだ、あの女には、感情、…熱のようなものが欠けていた。)
怒りも、喜びも見せずに、与えられた役目をこなす。己の婚約者という立場さえ、ただの「役」と割り切っていたように思える。
(…今にして思えば、俺に阿ろうとしたのも始めのうちのみ、だったな。)
幼き頃より父王の姿を見て育ち、己は決してシュタイラートの傀儡にはならぬと決めていた。だからこそ、「誕生の祝いの品は何が良いか」と聞かれた時にも、「魔剣を」と無理難題をふっかけたのだ。それがまさか、本当に献上されるとは、予想だにしていなかったが─
(…だが、まあ、流石にシュタイラートも無茶をしすぎたな。)
おかげで奴らの悪事の尻尾を捉え、当主の首に首輪を着けることに成功したのだから、結果は上々と言える。
(そして、今や俺は、英雄ガロードに並び立つ力を手に入れた。)
執務室の壁、そこに飾られた魔剣を眺める。ナディアの断罪において、正義の鉄槌を下した魔剣。淡く光る刀身は、己の感情と魔力に反応して、目映いばかりの光を放った。正に英雄に相応しい一振り─
(…惜しむらくは、あの女が抵抗らしい抵抗も見せなかった、ということか。)
おかげで、剣の錆びにすることも出来ず、中途半端な断罪に終わってしまった。
(もっと、見苦しくあがいて見せれば良かったものを。本当につまらない女だ…)
実際、学園でエンジェに行われていた嫌がらせの類いの全てが、ナディアの仕業というわけではなかった。ただ、己の目のあるところでだけ、計ったかのように悪事を働いていた女。こちらの気を引くための策かと思いきや、露見すればあっさりと身を引く。
媚びることも、悋気を見せることもせず─
「…ふん。」
(結局、血の通わぬ女だったというだけのこと…)
結論づけると同時に、待ち人の訪いを告げる侍従の声。顔が自然と笑う。
「通せ。」
入室を許せば、果たして、現れたのは己の新たなる婚約者。男爵令嬢という身分こそ低いものの、神聖なる光魔法の素養を持つ、美しい女─
「エンジェ。」
「ギャレン!ごめんなさい、遅くなっちゃって。」
「いや、いい。妃教育が始まったのだろう?大変なことは分かっている。」
「うん!もう、難しくて大変!全然終わらないから、抜け出して来ちゃったの。」
舌を出して笑う彼女を見て、おや?と思った。
(…何だ?何かが…)
「?ギャレン?どうかしたの?」
「あ、いや…」
見上げてくる彼女の顔を見て、気づいた。
(…肌が。)
いつも美しい陶器のようだったエンジェの肌が荒れている。
(…妃教育がそれほど負担になっているということか。これは少し、考えねばならんな。)
それ以上、エンジェの顔を見るに耐えず、その小さな身体を、腕の中に閉じ込める。と、同時にまた違和感を覚えた。
(…何だ、この、感触。これは、これでは、まるで…)
遥か昔、女の身体を知る前に、一度だけ、ナディアの身体に触れたことがあった。あの時感じた、深い落胆、それに似た─
(…まさか…)
腕の力を緩め、上から見下ろす。
(まさか、まさか、まさか…)
嫌な汗、これ以上無いほどの焦りと恐怖─
「ジェイク?」
そこに確かにある、先日までと変わらぬ大きさの膨らみ。だが知っている。忘れるはずもない、あの時の失望感。
この、感触は─
奸臣ヨゼフ・シュタイラートの娘にして、己の婚約者だった女。美しい容姿に、凡庸な中身の─
(…いや、凡庸、とは違うな。)
王太子妃教育とは過酷を極めるもの。己も、それと同等の教育を受けてきたからこそわかる重責。それに、不平を言うでも、根をあげるでもなく、ただ、淡々と─
(そうだ、あの女には、感情、…熱のようなものが欠けていた。)
怒りも、喜びも見せずに、与えられた役目をこなす。己の婚約者という立場さえ、ただの「役」と割り切っていたように思える。
(…今にして思えば、俺に阿ろうとしたのも始めのうちのみ、だったな。)
幼き頃より父王の姿を見て育ち、己は決してシュタイラートの傀儡にはならぬと決めていた。だからこそ、「誕生の祝いの品は何が良いか」と聞かれた時にも、「魔剣を」と無理難題をふっかけたのだ。それがまさか、本当に献上されるとは、予想だにしていなかったが─
(…だが、まあ、流石にシュタイラートも無茶をしすぎたな。)
おかげで奴らの悪事の尻尾を捉え、当主の首に首輪を着けることに成功したのだから、結果は上々と言える。
(そして、今や俺は、英雄ガロードに並び立つ力を手に入れた。)
執務室の壁、そこに飾られた魔剣を眺める。ナディアの断罪において、正義の鉄槌を下した魔剣。淡く光る刀身は、己の感情と魔力に反応して、目映いばかりの光を放った。正に英雄に相応しい一振り─
(…惜しむらくは、あの女が抵抗らしい抵抗も見せなかった、ということか。)
おかげで、剣の錆びにすることも出来ず、中途半端な断罪に終わってしまった。
(もっと、見苦しくあがいて見せれば良かったものを。本当につまらない女だ…)
実際、学園でエンジェに行われていた嫌がらせの類いの全てが、ナディアの仕業というわけではなかった。ただ、己の目のあるところでだけ、計ったかのように悪事を働いていた女。こちらの気を引くための策かと思いきや、露見すればあっさりと身を引く。
媚びることも、悋気を見せることもせず─
「…ふん。」
(結局、血の通わぬ女だったというだけのこと…)
結論づけると同時に、待ち人の訪いを告げる侍従の声。顔が自然と笑う。
「通せ。」
入室を許せば、果たして、現れたのは己の新たなる婚約者。男爵令嬢という身分こそ低いものの、神聖なる光魔法の素養を持つ、美しい女─
「エンジェ。」
「ギャレン!ごめんなさい、遅くなっちゃって。」
「いや、いい。妃教育が始まったのだろう?大変なことは分かっている。」
「うん!もう、難しくて大変!全然終わらないから、抜け出して来ちゃったの。」
舌を出して笑う彼女を見て、おや?と思った。
(…何だ?何かが…)
「?ギャレン?どうかしたの?」
「あ、いや…」
見上げてくる彼女の顔を見て、気づいた。
(…肌が。)
いつも美しい陶器のようだったエンジェの肌が荒れている。
(…妃教育がそれほど負担になっているということか。これは少し、考えねばならんな。)
それ以上、エンジェの顔を見るに耐えず、その小さな身体を、腕の中に閉じ込める。と、同時にまた違和感を覚えた。
(…何だ、この、感触。これは、これでは、まるで…)
遥か昔、女の身体を知る前に、一度だけ、ナディアの身体に触れたことがあった。あの時感じた、深い落胆、それに似た─
(…まさか…)
腕の力を緩め、上から見下ろす。
(まさか、まさか、まさか…)
嫌な汗、これ以上無いほどの焦りと恐怖─
「ジェイク?」
そこに確かにある、先日までと変わらぬ大きさの膨らみ。だが知っている。忘れるはずもない、あの時の失望感。
この、感触は─
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