お役御免の召喚巫女、失恋続きののち、年下旦那様と領地改革

リコピン

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第一章 召喚巫女、お役御免となる

2.元カレ

「壁を殴るだけ」という何の生産性もない夜会から一夜明け、冷静さをだいぶ取り戻した頭で考えた。

アンバーの言葉を受け入れたわけではないが─奴への煮えたぎる怒りは内包したままだ─、これ以上、下手に自分で動くのは得策ではないのだろうという結論。この世界の知識も経験も圧倒的に足りない私ではやらかしてばかり、正解がわからない。ここはもう、利用できるものは利用しよう、そうしよう、と決めてアポを取った男が、眼前で優雅に微笑んでいる。

「それで?巫女殿の急用というのは?」

「…」

豪華な家具。「ザ・お城」という内観の部屋の一室で、でっかい仕事机の向こうから声をかけてくれたのは、金髪碧眼の「ザ・王子様」。比喩でも何でもなく、このサイランド国の第一王子にして王太子、ついでに「結界の巫女召喚プロジェクト」のプロジェクトリーダーでもあらせられるフォンゼル・サイランド殿下。私の身元保証人?的な人でもあるから、今後の私の身の振り方について彼と相談したいのだけれど、まあ、その前に。

「…二人で話すことって出来ます?」

「それは無理だね。」

「…」

いくら私が王太子に砕けた態度をとることを許されていようとも、やっぱり、相手は尊き御身。ついでに私も一応未婚の女なわけで、相手が既婚の王太子殿下であらせられようと、男女二人きりにはさせられない。それが、私がこちらに喚ばれた時からの変わらないルールだったりする。

(…と言っても、こんな女の敵みたいな顔してるくせに実際は奥さんベッタベタに溺愛してるような人と、どんな間違いが起こるっていうの。)

召喚されてから一年以上経つというのに、私は王太子妃殿下に一度もお会いしたことがない。召喚当時は第一子を妊娠中、現在、既に次のお子を妊娠中の王太子妃は、大事をとって公務をお休み中。医療の発達していない世界、文字通り命がけのハードスケジュールをこなす妃殿下には頭が下がる。

(…まぁ、王太子の方は、若干、鬼畜ではなかろうかと思うけども。)

「…」

「…?どうした、巫女?そんなに話し辛い内容なのか?」

「まぁ、そうですね…」

「…なら、そうだな、この二人を下げる訳にはいかないが。」

そう言って巫女わたしつきの侍女二人には退出を命じてくれた王太子。それはまぁ、助かる。助かったけど。

(肝心な人達がなぁ…)

チラリと、王太子の左右を伺う。

殿下の左に立つのは、漆黒の髪に深い緑の瞳、広い肩幅に鍛え上げられた肉体を持つ王太子付きの近衛騎士、ガイラス・シュティルナー。

右に立つのは、プラチナブロンドに澄んだ碧の瞳、王太子補佐にして将来の宰相候補であるサキア・コーネン。こちらを見据えるモノクルの奥の瞳は鋭利な刃物のよう。

(って、怖っ!)

対照的な二人。共通するのは─タイプは異なるが─それぞれがかなりのイケメンであるということと、それからもう一つ、私の元カレであるということ。

(…わぁーお。)

この狭い空間に元カレが二人も。

彼らが王太子の側近である以上、当然と言えば当然のことだが、彼らの前で話をするのは非常に気が重い。気は重いが、こっちだってもう腹くくってんだから。

半ば、自棄になって口を開いた。

「お見合いしたいんですけど、誰か紹介してもらえます?」

「…」

「…」

結構、勇気のいる発言、だった。なのに、王太子はこちらを見つめて笑みを深めるだけ。左右の元カレ二人に至っては、表情一つ動かさない。引き止めて欲しいわけではないが、驚くかな?くらいは思ってたのに、まさかの「無」。居たたまれなくなってきたところで、王太子が漸く口を開いた。

「…巫女、君は陛下から『自由』を許されている。その自由には、もちろん、君が婚姻相手を選ぶ自由も含まれているのはわかっているな?」

「…わかってますよ。」

「巫女の役目を終えた君が、国の都合に合わせる必要はない。君には君の意思で、生涯を共に出来る相手を見つけて欲しいのだが…」

(『だが』、なに?)

こっちだってやったよ?探したよ?でも、こっちは良くても、相手から断られるんだから、どうしようもない。あなただって、それはわかっているだろうと言ってやりたい。国王の与えた私の「自由」は、だけど、それを振りかざして、他者の意思をねじ曲げることは出来ないんだから。

「…まあ、探してみましたけど、見つからなかったので。こうやって、殿下にお願いしてます。」

「…」

「私が働くことは難しそうなので、後はもう、お見合い結婚しかないかなぁーと…」

正確に言えば、私が「どうしても働きたい」と言えば、働くことは出来ると思う。ただ、守護結界で国を救った「巫女様」にさせられる仕事なんてそうそうなく、「下手に市井に下ることは出来ない」と最初に釘を刺されてしまっている。監視付き、警護付きで、「巫女様に相応しい仕事」をさせられる。そんなの今と変わらない。下手をすれば、もっと悪い状況になる可能性だってある。

(…修道院だけは、絶対に嫌だしね。)

この国の神に仕えるなんて冗談じゃない。一度も会ったことはないけれど、異世界拉致を推奨するような神様なんてろくなもんじゃないに決まってる。

だから、残された手段、この世界で生きていくために、貴族のご令嬢方の例にならって「結婚」を選択した。したわけだけど、文化やしきたりの違う世界での相手探しにも疲れてしまったから、後はもう、他力本願。丸投げするつもり。

そういう諸々の諦めを込めて王太子を見遣れば、目の前の男は困ったように笑う。

「…わかった。」

「…」

「この件に関しては、私が全て責任を持とう。必ず、巫女に相応しい候補を見つけてみせる。ただ、最終的な決定をするのは君だということは忘れないで欲しい。」

「…よろしく、お願いします。」

彼が了承してくれたことに安堵して、頭を下げた。

(…良かった。)

これ以上、ゴチャゴチャ説明するような羽目にならずに済んで。

覚悟はしてたし自棄っぱちだったけど、片や結婚済み、片や婚約者有りの元カレ達の前で、「誰か紹介して欲しい」という惨めさに、もうあんまり、耐えられそうになかったから。

もう一度─左右の元カレを視界に入れないように─深々と頭を下げて、王太子の部屋を後にした。





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