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本編
3.最悪な客 Side E
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日の差さない部屋、薄暗い地下室にあるその場所に近づいてくる足音。足音が部屋の前で止まった。
(…漸くか。)
部屋の扉が重い音を立てて開く。現れたのは、この店の店主。ここに売り払われた際に、一度だけ目にしたことのある男。鋭い眼差しが、部屋の中を一瞥した。
「…お前とお前とお前、来い。」
短い言葉で呼びつけられた三人の、最後は自分。転がっていた床から跳ね起きて、店主の前に立つ。
「俺の服と剣を返せ。」
「…なに?」
「あれは特注品なんでな。俺の動きに合わせて作った。あれが無ければ俺の力は半減する、戦力にならん。」
「…ふん、なるほどな?」
店主が、鼻先で笑う。その目がこちらの全身を値踏みしてから、
「心配はいらん。客の望みは戦闘奴隷ではない。」
「…なに?」
「お前を買うのは女の客だ。…金は持ってそうだからな、あれは、多分、王宮の文官あたりだろう。」
「女の文官?」
戦闘奴隷として買われた身、それがなぜ文官などに─?
「…客の望みは『女主人の慰みもの』だ。」
「…」
店主の言葉に、思わず舌打ちする。
(最悪だ…)
女の我儘に従うのが我慢できずに、こんなところまで逃げ出して来たというのに。
「…女主人様が、何だって俺みたいなのを?もっと、見目のいい奴なんて他にもいるだろう?」
それを言うなら、選ばれた他の二人も大概だが、荒事専門の身に見た目を求める方が間違いだ。それこそ、それ専門の奴隷でも連れて行けばいいものを。
「…お客様のご要望だ。顔は関係なく、『頑丈なの』が必要だそうだ。」
「は?」
「…あんな見た目で、なかなかいい趣味をお持ちのようだな。」
「…」
(クソッ。加虐趣味か…)
同類らしい店主の目に、愉悦が映っている。
「…せいぜい、愛想良くしろよ。」
「…」
店主に追い出されるようにして部屋を出た。
三人並んで廊下を歩かされる。三人の内一人、ならばまだ、選ばれない可能性もある。万一、選ばれてしまった場合は仕方ない。
(油断を誘って、隙をみて逃げ出すしかない、か。)
その時は、店主の言うように、精々愛想よくしてやろう。
店内への扉を店主が開く、一番最後、入った部屋を視線だけで見回す。部屋に居たのは女一人。それが、自分達を所望した「女主人」なのだろうが、
(…なんだ?)
想像と違う。
具体的にナニかを想像していた訳ではないが、店主の言葉から想像していたのとはかけ離れた雰囲気の女。拍子抜けするほどに平凡な容姿、こげ茶の髪を一つに括り、伏せられた瞳は同じくこげ茶か黒。小柄な印象はあるが、一度会っても、二度目会った時には忘れていそうなほどの凡庸さだ。
その中でただ一つ、特徴的なところと言えば、その指先。インクで汚れ、タコが出来ているのが見てとれる。なるほど、店主の言うとおり、文官あたりが妥当だろうと当たりをつけた。
(それにしても…)
先ほどから全く視線が合わない。「顔は関係ない」というなら、では、身体でも吟味されているのかとも思ったが、それにしては視線が下、こちらの膝より上に上がって来ることがない。
(…なんだ?)
何かがおかしい。そう思う思考は、店主の声によって遮られた。
(…漸くか。)
部屋の扉が重い音を立てて開く。現れたのは、この店の店主。ここに売り払われた際に、一度だけ目にしたことのある男。鋭い眼差しが、部屋の中を一瞥した。
「…お前とお前とお前、来い。」
短い言葉で呼びつけられた三人の、最後は自分。転がっていた床から跳ね起きて、店主の前に立つ。
「俺の服と剣を返せ。」
「…なに?」
「あれは特注品なんでな。俺の動きに合わせて作った。あれが無ければ俺の力は半減する、戦力にならん。」
「…ふん、なるほどな?」
店主が、鼻先で笑う。その目がこちらの全身を値踏みしてから、
「心配はいらん。客の望みは戦闘奴隷ではない。」
「…なに?」
「お前を買うのは女の客だ。…金は持ってそうだからな、あれは、多分、王宮の文官あたりだろう。」
「女の文官?」
戦闘奴隷として買われた身、それがなぜ文官などに─?
「…客の望みは『女主人の慰みもの』だ。」
「…」
店主の言葉に、思わず舌打ちする。
(最悪だ…)
女の我儘に従うのが我慢できずに、こんなところまで逃げ出して来たというのに。
「…女主人様が、何だって俺みたいなのを?もっと、見目のいい奴なんて他にもいるだろう?」
それを言うなら、選ばれた他の二人も大概だが、荒事専門の身に見た目を求める方が間違いだ。それこそ、それ専門の奴隷でも連れて行けばいいものを。
「…お客様のご要望だ。顔は関係なく、『頑丈なの』が必要だそうだ。」
「は?」
「…あんな見た目で、なかなかいい趣味をお持ちのようだな。」
「…」
(クソッ。加虐趣味か…)
同類らしい店主の目に、愉悦が映っている。
「…せいぜい、愛想良くしろよ。」
「…」
店主に追い出されるようにして部屋を出た。
三人並んで廊下を歩かされる。三人の内一人、ならばまだ、選ばれない可能性もある。万一、選ばれてしまった場合は仕方ない。
(油断を誘って、隙をみて逃げ出すしかない、か。)
その時は、店主の言うように、精々愛想よくしてやろう。
店内への扉を店主が開く、一番最後、入った部屋を視線だけで見回す。部屋に居たのは女一人。それが、自分達を所望した「女主人」なのだろうが、
(…なんだ?)
想像と違う。
具体的にナニかを想像していた訳ではないが、店主の言葉から想像していたのとはかけ離れた雰囲気の女。拍子抜けするほどに平凡な容姿、こげ茶の髪を一つに括り、伏せられた瞳は同じくこげ茶か黒。小柄な印象はあるが、一度会っても、二度目会った時には忘れていそうなほどの凡庸さだ。
その中でただ一つ、特徴的なところと言えば、その指先。インクで汚れ、タコが出来ているのが見てとれる。なるほど、店主の言うとおり、文官あたりが妥当だろうと当たりをつけた。
(それにしても…)
先ほどから全く視線が合わない。「顔は関係ない」というなら、では、身体でも吟味されているのかとも思ったが、それにしては視線が下、こちらの膝より上に上がって来ることがない。
(…なんだ?)
何かがおかしい。そう思う思考は、店主の声によって遮られた。
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