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本編
21.理不尽 Side M
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「ミリセント君っ!!」
「…はい。」
部屋に戻って来るなり大声で呼びつけて来た上司にうんざりしながら立ち上がる。ただでさえ時間が押している。今日もまた残業が確定しているという状況で、無駄に過ごす時間ほど腹立たしいものはない。胸中の怒りを押し込めて、こちらを睨む男の前へと立った。
「…進捗を報告しろ。」
「…本日作成分の五割が完了しています。残り半分、…就業時間内での作成は難しいと思いますので、三時間ほど残業する予定です。」
「…」
黙って見上げて来る男が、顎で、こちらのデスクを指す。
「持ってこい。」
「は?」
「君の作成したスクロールだ。…確認するから、持ってこい。」
「…」
(…馬鹿馬鹿しい。)
上司の不機嫌の理由は、間違いなく、ステラの失踪にある。あの女が全ての責任を放棄して逃げ出したせいで、自身は過剰な業務に追われているし、スクロール室自体もどこかギスギスしている。責任者である男が不機嫌になるのも分かるが、自分を呼びつけ、叱責したところで事態が好転するはずもないのに─
それでも、さっさと男の要件を済ませてしまわなければ、自分の作業に戻れない。腹は立つが、自身の作成したスクロールを、男のデスクの上に置いた。男は黙ったまま、デスクの上のライトにスクロールをセットして、
「…これは、どういうことかな?」
「…え?」
「灯りが全くつかない。…起動さえしない不良品のようだが、まさか、これが、君の『完成品』というわけではないだろうな?」
「っ!…失礼しました。この一本はたまたま不良品だったようで、他のものを、」
「他のものでも、起動するはずがないよ。」
「は?」
男が、ライトからスクロールを取り外して開く。
「点灯の術式が完全に間違っている、こんな単純なものも作成できないなんて、君は一体今までここで何をしてきたんだ?」
「っ!『灯り』の術式を私に教えたのはステラです!私の術式が間違っているというなら、それは、私に教えたステラの責任で、」
「責任などどうでもいいっ!!」
「っ!?」
突如、大声を張り上げた男に、思わず身がすくむ。部屋中が水を打ったような静けさ。ただ、目の前の男の荒い呼吸音だけが聞こえる。
「私は期限内にスクロールを作れと命じているだけだ!何故、そんな単純なことが出来ないっ!」
「それはステラが、」
「あんな無能な女のことなど、今はどうでもいい!私は、お前達に言っている!言い訳も泣き言も一切聞くつもりは無い!今すぐ!正確に!スクロールを作れ!サボるな!手を抜くな!さっさと作業に戻れ!!」
「っ!」
(…ムカつく!!)
自身の管理能力のなさを棚上げにして、部下に一方的な無茶を押し付けて来る。どう考えても不可能な作業を、一体、どうやって─
「グズグズするなっ!やれっ!」
「っ!」
男が手にしていたスクロールを顔めがけて投げつけてきた。痛くはない、だけど、どうしようもないほどの屈辱に、何か言い返そうと男の顔を睨んだ。
「なんだ?何か文句があるのか?己の仕事一つまともにこなせない無能が、文句だけは一人前に口にするつもりか?あ?」
「…」
結局、男のギラついた目、常軌を逸した様子に、何も言えないまま自席へと戻る。
(…最っ悪!)
煮えたぎるような怒り、目の前、男に投げつけられたのと同じ術式が書かれたスクロールが目に入る。
「っ!!」
怒りを、全てぶつけるようにして、スクロールの束をゴミ箱に叩き捨てた。
「…はい。」
部屋に戻って来るなり大声で呼びつけて来た上司にうんざりしながら立ち上がる。ただでさえ時間が押している。今日もまた残業が確定しているという状況で、無駄に過ごす時間ほど腹立たしいものはない。胸中の怒りを押し込めて、こちらを睨む男の前へと立った。
「…進捗を報告しろ。」
「…本日作成分の五割が完了しています。残り半分、…就業時間内での作成は難しいと思いますので、三時間ほど残業する予定です。」
「…」
黙って見上げて来る男が、顎で、こちらのデスクを指す。
「持ってこい。」
「は?」
「君の作成したスクロールだ。…確認するから、持ってこい。」
「…」
(…馬鹿馬鹿しい。)
上司の不機嫌の理由は、間違いなく、ステラの失踪にある。あの女が全ての責任を放棄して逃げ出したせいで、自身は過剰な業務に追われているし、スクロール室自体もどこかギスギスしている。責任者である男が不機嫌になるのも分かるが、自分を呼びつけ、叱責したところで事態が好転するはずもないのに─
それでも、さっさと男の要件を済ませてしまわなければ、自分の作業に戻れない。腹は立つが、自身の作成したスクロールを、男のデスクの上に置いた。男は黙ったまま、デスクの上のライトにスクロールをセットして、
「…これは、どういうことかな?」
「…え?」
「灯りが全くつかない。…起動さえしない不良品のようだが、まさか、これが、君の『完成品』というわけではないだろうな?」
「っ!…失礼しました。この一本はたまたま不良品だったようで、他のものを、」
「他のものでも、起動するはずがないよ。」
「は?」
男が、ライトからスクロールを取り外して開く。
「点灯の術式が完全に間違っている、こんな単純なものも作成できないなんて、君は一体今までここで何をしてきたんだ?」
「っ!『灯り』の術式を私に教えたのはステラです!私の術式が間違っているというなら、それは、私に教えたステラの責任で、」
「責任などどうでもいいっ!!」
「っ!?」
突如、大声を張り上げた男に、思わず身がすくむ。部屋中が水を打ったような静けさ。ただ、目の前の男の荒い呼吸音だけが聞こえる。
「私は期限内にスクロールを作れと命じているだけだ!何故、そんな単純なことが出来ないっ!」
「それはステラが、」
「あんな無能な女のことなど、今はどうでもいい!私は、お前達に言っている!言い訳も泣き言も一切聞くつもりは無い!今すぐ!正確に!スクロールを作れ!サボるな!手を抜くな!さっさと作業に戻れ!!」
「っ!」
(…ムカつく!!)
自身の管理能力のなさを棚上げにして、部下に一方的な無茶を押し付けて来る。どう考えても不可能な作業を、一体、どうやって─
「グズグズするなっ!やれっ!」
「っ!」
男が手にしていたスクロールを顔めがけて投げつけてきた。痛くはない、だけど、どうしようもないほどの屈辱に、何か言い返そうと男の顔を睨んだ。
「なんだ?何か文句があるのか?己の仕事一つまともにこなせない無能が、文句だけは一人前に口にするつもりか?あ?」
「…」
結局、男のギラついた目、常軌を逸した様子に、何も言えないまま自席へと戻る。
(…最っ悪!)
煮えたぎるような怒り、目の前、男に投げつけられたのと同じ術式が書かれたスクロールが目に入る。
「っ!!」
怒りを、全てぶつけるようにして、スクロールの束をゴミ箱に叩き捨てた。
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