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本編

20.瀬戸際 Side K

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呼び出された部屋、魔導省のトップに立つ男の執務机の前に立たされ、長い沈黙に耐える。資料を片手に、もう片方の手で机の上を指でコツコツと叩く己の上司は、こちらに視線を向けようともしない。入室許可の一言以外には、一切、口を開くこともなく─

「…ケートマン、きみ、今日は何故呼び出されたか、理解してる?」

「…はい。魔導スクロール室の生産実績に関する不振が原因かと、」

「分かってるんだ。分かってて、何もしなかったの?」

「っ!」

己よりも一回り年下、その才のみで魔導省のトップ、長官にまで上り詰めた男の視線に、上手い言葉が出てこない。凪いだ言葉、態度にも、何故か恐怖を感じて、嫌な汗が流れた。

「まったく…、本当、意味が分からないんだよね。一体、君のところ、何があってこんなことになってるの?」

「っ!申し訳、ありません、体調不良で勝手に休みを取った部下がおりまして、生産が間に合わず、現在、他の者達で対応しているところなのですが…」

「何人、休んでるの?」

「は?」

「生産間に合わないほど休んでるって、大概だよね。何人、欠勤が出てるの?」

「…一名、です。」

「…冗談だよね?」

「…」

冷たい瞳にヒタと見据えられて、言葉に詰まる。だが、実際、休んでいるのはステラ一人、そのことは誤魔化しようもなく、答えあぐねれば、男が深いため息をついて、

「それから、問題は生産性のことだけじゃないからね。」

「…と、おっしゃいますと?」

「なに?ひょっとして、そっちには気づいてもなかったってこと?」

「…」

言われる言葉の意味が分からず、焦燥に駆られる。

(まさか…)

露見してしまったのだろうか─

ゴード商会への横流し。正規品の生産が間に合わない状況下で行った裏取引に、まさか─

「魔導スクロールの質がかなり下がってる。」

「え…?」

「…本当に気づいてなかったみたいだね。スクロール室では、製品テストも行っていないの?」

「…」

今まではステラが担当していた製品テスト、正直、今は時間がなく、テストなど行わずに納品している。しかし、それは、製品テストで弾かれるスクロールなど殆ど存在しないため。数千本に一本あるかないかの不良品の洗い出しなど省略しても問題ないと判断したからだ。それが─

「…質が落ちている、というのは?」

「スクロールが起動しない、起動しても数分で切れる。王宮内からそういう苦情が上がってきている。王宮内だけでこれだけあるのだから、市場に出ているもの、他国への輸出分にも影響しているはずだよ。」

「…」

「今のところ、他国からに関しては何も言ってきてはいないけれど、…分かっているよね?」

「はい…」

「今後、これらの問題が是正されないようなら、うちは君を切る。」

「っ!?」

「その覚悟の上で、業務改善に当たるように。…話は以上、もう帰っていいよ。」

「…」

嫌な音を立ててなる心臓、眩暈がするような感覚に、それでも何とか頭を下げ、部屋を出た。

(…クソッ…!)

最悪だ。築き上げてきたもの、足元が揺らぐ恐怖を振り払い、スクロール室への廊下を急ぐ。原因は間違いなくあの女、だが今は、あんな女に拘っている場合ではない。今は、一刻も早く、目の前の問題を片付けてしまわねば─





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