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第一章 純真妖狐(?)といっしょ
4-3.
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4-3.
一階ロビーのオートロックではなく、いきなり部屋のチャイムが鳴ったことから予想はしていたけれど、
「こんにちはー!山藤です!お鍋返しに来ましたー!」
「あ、はい、開けます」
言って、玄関の扉を開ける前、肩に乗るシロに小声で念を押す。
「シロちゃん、上手に隠れててね?」
「はい、なの」
私の小声につられて、囁き声になったシロに笑って、扉を開けた。
「どもー!昨日はありがとう!おでん美味しかったー!ご馳走さまでした!」
「いえ、喜んで貰えたなら嬉しいです」
返された軽い鍋を受け取って、少し驚く。「二人分、気持ち多め」で差し入れたつもりの量を、昨日の今日で食べきってくれたということは、本当に「美味しい」と思って貰えたのかもしれない。思わず、顔がニヤけそうになった。
「あー、何か、甘い匂いがする。いい匂い」
「あ、蒸しパンを作ったので、」
「蒸しパン!」
「…良かったら、上がっていかれませんか?お茶でも…」
「わー!するする!ありがとう!」
おでんを喜んでくれたことに味をしめ、お茶にまで誘ってしまったが、断られなかったことにホッとする。
「大きいテーブルが無いので、こっちに座って貰っていいですか?」
「お邪魔しまーす!わぁ!美味しそう!」
「飲み物、紅茶でいいですか?緑茶が無くて。珈琲ならあるんですけど」
「紅茶でお願いします!」
この部屋に招いたことがあるのは、家族以外では瑞穂だけ。実質、二人目のお客様にかなり緊張しながら、紅茶を運ぶ。
「いっぱい作ったんだねー」
「…種類を、何種類か作ろうと思ったら、結構な量になっちゃって」
「これ、イチゴ?ピンク可愛いー!」
「あ、どうぞ。お好きなの食べて下さい」
実際、シロのリクエストに応えようとした結果、かなり大量に出来上がってしまい、二人で消費するのは大変だと思っていたところなのだ。お裾分けするにも、連日では鬱陶しがられるのでは?と躊躇してしいたところなので、彼女が誘いに応じてくれたのは本当に助かった。
「美味しいー!手作りの蒸しパンとか、かなり久しぶりに食べた気がする。昨日のおでんも本当、美味しかった」
「…ありがとうございます」
面と向かって褒められることに気恥ずかしさを感じて、立ち上がる。
「すみません、換気扇回してたんですけど匂いが籠っちゃって。ちょっと窓開けます。寒いかもしれませんけど」
「いいよいいよー。全然平気」
断りを入れてベランダに歩み寄り、窓を開けようとして何気なく見下ろした窓の外。視界に映ったのは、マンションの前の細い路地に立つ人影―
「っ!?」
あげそうになった悲鳴を寸でのところで飲み込み、急いでカーテンを閉める。
―今のあれは、あの男は
「…」
まさか、家まで知られてしまっているなんて―
「何?鈴原さん?どうかした?何かあった?」
「…いえ、あの…」
思い出してしまった、あの時の恐怖。人気の無い暗闇で対峙した男の冷たい眼差し―
だけど、それを口にするわけにはいかない。だって、アレを、あの時の出来事を何と伝えればいいのか―
「妖怪を助けた」なんて言えるわけがない。そのせいで、変な男につけ狙われているみたいだなんて、尚更。そんなことを言えば、おかしな人間だと思われてしまうのは間違いないから、
「…あの、路地から男の人がこっちを見てて…」
「男?知ってる人?」
「…その、前にもめたというか、ちょっとあった人で…」
「何?ストーカーか何かなの?」
険しい顔をした山藤さんが、カーテンの隙間から外を覗く。窓の外を見下ろした彼女の動きが一瞬、止まって―何故か―深い深いため息をついた。
「…鈴原さん、一花ちゃんって呼んでもいい?」
「あ、はい、それはもちろん」
「ありがとう。私のことは綾香って呼んで?」
「綾香、さん?」
突然の話題変更。彼女の様子、雰囲気まで急に変わったことに首を傾げる。
「ごめんね、一花ちゃん」
「えっと?何がですか?」
「うーん、取敢えず、私の心の問題というか、ちょっと、うん、言っときたかった」
「?」
首を振る彼女の言葉の真意がわからずに首を捻る。
「…外、怪しいやつはもう居なかったから、安心して?でも、また何かあったら直ぐに連絡してね?」
「あの、でも、ご迷惑じゃ」
「全然!お隣のよしみだし、あ!そうだ、連絡先!番号教えてくれる?何かあったときに直ぐに連絡出来るように、ね?」
「あ、はい」
言われるまま、スマホを取り出して連絡先を交換する。彼女の「大丈夫」の言葉を信じて再びテーブルにつけば、気を紛らわそうとしてくれているのか、次から次へと話題が振られて。明るい話題、雑談を交わすうちに、先程までの恐怖が徐々に別のものへと変わっていく―
よく考えて見れば、あの男の狙いは私ではなく、シロなのだ。あの男には恐らくシロが見えるのだろう。だからどこかで見つかって、シロの、私達の前にあの男が再び現れた。だったら、
―もっと上手く隠さなくては
シロがうっかり姿を曝してしまわないように。私が脅えていて、シロを守れるわけがない。
「…」
―守って、みせる
「…一花ちゃん?」
「…あ、いえ、なんでも…」
チラリとキッチンに視線を送れば、綾香の訪問からずっと息を潜めているシロ。蒸しパンのおかわりを必死に我慢しているらしい、その姿が可愛くて、愛しくて。だから、
―殺させたりなんかしない
シロを、あの男にも、誰にも―
一階ロビーのオートロックではなく、いきなり部屋のチャイムが鳴ったことから予想はしていたけれど、
「こんにちはー!山藤です!お鍋返しに来ましたー!」
「あ、はい、開けます」
言って、玄関の扉を開ける前、肩に乗るシロに小声で念を押す。
「シロちゃん、上手に隠れててね?」
「はい、なの」
私の小声につられて、囁き声になったシロに笑って、扉を開けた。
「どもー!昨日はありがとう!おでん美味しかったー!ご馳走さまでした!」
「いえ、喜んで貰えたなら嬉しいです」
返された軽い鍋を受け取って、少し驚く。「二人分、気持ち多め」で差し入れたつもりの量を、昨日の今日で食べきってくれたということは、本当に「美味しい」と思って貰えたのかもしれない。思わず、顔がニヤけそうになった。
「あー、何か、甘い匂いがする。いい匂い」
「あ、蒸しパンを作ったので、」
「蒸しパン!」
「…良かったら、上がっていかれませんか?お茶でも…」
「わー!するする!ありがとう!」
おでんを喜んでくれたことに味をしめ、お茶にまで誘ってしまったが、断られなかったことにホッとする。
「大きいテーブルが無いので、こっちに座って貰っていいですか?」
「お邪魔しまーす!わぁ!美味しそう!」
「飲み物、紅茶でいいですか?緑茶が無くて。珈琲ならあるんですけど」
「紅茶でお願いします!」
この部屋に招いたことがあるのは、家族以外では瑞穂だけ。実質、二人目のお客様にかなり緊張しながら、紅茶を運ぶ。
「いっぱい作ったんだねー」
「…種類を、何種類か作ろうと思ったら、結構な量になっちゃって」
「これ、イチゴ?ピンク可愛いー!」
「あ、どうぞ。お好きなの食べて下さい」
実際、シロのリクエストに応えようとした結果、かなり大量に出来上がってしまい、二人で消費するのは大変だと思っていたところなのだ。お裾分けするにも、連日では鬱陶しがられるのでは?と躊躇してしいたところなので、彼女が誘いに応じてくれたのは本当に助かった。
「美味しいー!手作りの蒸しパンとか、かなり久しぶりに食べた気がする。昨日のおでんも本当、美味しかった」
「…ありがとうございます」
面と向かって褒められることに気恥ずかしさを感じて、立ち上がる。
「すみません、換気扇回してたんですけど匂いが籠っちゃって。ちょっと窓開けます。寒いかもしれませんけど」
「いいよいいよー。全然平気」
断りを入れてベランダに歩み寄り、窓を開けようとして何気なく見下ろした窓の外。視界に映ったのは、マンションの前の細い路地に立つ人影―
「っ!?」
あげそうになった悲鳴を寸でのところで飲み込み、急いでカーテンを閉める。
―今のあれは、あの男は
「…」
まさか、家まで知られてしまっているなんて―
「何?鈴原さん?どうかした?何かあった?」
「…いえ、あの…」
思い出してしまった、あの時の恐怖。人気の無い暗闇で対峙した男の冷たい眼差し―
だけど、それを口にするわけにはいかない。だって、アレを、あの時の出来事を何と伝えればいいのか―
「妖怪を助けた」なんて言えるわけがない。そのせいで、変な男につけ狙われているみたいだなんて、尚更。そんなことを言えば、おかしな人間だと思われてしまうのは間違いないから、
「…あの、路地から男の人がこっちを見てて…」
「男?知ってる人?」
「…その、前にもめたというか、ちょっとあった人で…」
「何?ストーカーか何かなの?」
険しい顔をした山藤さんが、カーテンの隙間から外を覗く。窓の外を見下ろした彼女の動きが一瞬、止まって―何故か―深い深いため息をついた。
「…鈴原さん、一花ちゃんって呼んでもいい?」
「あ、はい、それはもちろん」
「ありがとう。私のことは綾香って呼んで?」
「綾香、さん?」
突然の話題変更。彼女の様子、雰囲気まで急に変わったことに首を傾げる。
「ごめんね、一花ちゃん」
「えっと?何がですか?」
「うーん、取敢えず、私の心の問題というか、ちょっと、うん、言っときたかった」
「?」
首を振る彼女の言葉の真意がわからずに首を捻る。
「…外、怪しいやつはもう居なかったから、安心して?でも、また何かあったら直ぐに連絡してね?」
「あの、でも、ご迷惑じゃ」
「全然!お隣のよしみだし、あ!そうだ、連絡先!番号教えてくれる?何かあったときに直ぐに連絡出来るように、ね?」
「あ、はい」
言われるまま、スマホを取り出して連絡先を交換する。彼女の「大丈夫」の言葉を信じて再びテーブルにつけば、気を紛らわそうとしてくれているのか、次から次へと話題が振られて。明るい話題、雑談を交わすうちに、先程までの恐怖が徐々に別のものへと変わっていく―
よく考えて見れば、あの男の狙いは私ではなく、シロなのだ。あの男には恐らくシロが見えるのだろう。だからどこかで見つかって、シロの、私達の前にあの男が再び現れた。だったら、
―もっと上手く隠さなくては
シロがうっかり姿を曝してしまわないように。私が脅えていて、シロを守れるわけがない。
「…」
―守って、みせる
「…一花ちゃん?」
「…あ、いえ、なんでも…」
チラリとキッチンに視線を送れば、綾香の訪問からずっと息を潜めているシロ。蒸しパンのおかわりを必死に我慢しているらしい、その姿が可愛くて、愛しくて。だから、
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