【更新停止中】おキツネさまのしっぽ【冬再開予定】

リコピン

文字の大きさ
18 / 40
第一章 純真妖狐(?)といっしょ

5-2.

しおりを挟む
5-2.

心配する瑞穂に何度も「大丈夫だ」と繰り返し、駅で別れを告げた。男が追ってきた様子は無いけれど、あの男には家を知られてしまっている。万が一にも瑞穂を巻き込みたくなくて、「家まで送る」という彼女の言葉は固辞した。また明日、ちゃんと話をすることを約束して―

「イチカ、イチカ、悲しいなの?こわいなの?」

「…シロちゃん、大丈夫だよ」

こちらの異様な雰囲気を察したのか、瑞穂と別れた後、鞄の中から飛び出してきたシロが心配げにこちらの顔を覗きこむ。それに、何とか笑って答えれば、肩に座ったシロが首筋に頬を擦り寄せた。

「…慰めてくれてるの?」

「シロは、イチカの笑った顔が好きなのよ」

「…うん、ありがとう」

頭を撫でれば、くすぐったそうに笑うシロの声。その姿を眺めながら、もう一度、気を引き締める。

駅から家までの道のり。シロと出会ったあの日から、日のある内はともかく、暗くなってからは絶対に通らないようにしている公園のある通り。今はまだ明るい夕暮れの道を歩けば、近づいてきた公園。その入口に立つ長身の影は、半ば覚悟していた姿で、

「…」

右手に握った防犯ブザーを確かめる。

「…騒ぐな、忠告しに来ただけだ」

「…」

ユラリと揺れた影。近づいてくる男の言葉を完全に信じたわけではない。それでも、防犯ブザーは鳴らさないまま、男から一歩、距離をとった。

「…やっぱり、あんたが匿ってたんだな」

「っ!」

近づいてわかった男の不自然な手の位置。開かれたままのロングコートの下、握られた抜き身の刃物の鈍い光が垣間見えた。

刃物を手にした男の視線が、自分の肩、そこに座っているシロへと向けられる。シロにもそれがわかったのだろう。ビクリと体を震わせたシロが首筋へと身を寄せた。その小さな体を手で覆って隠す。

「…そいつは、あんたが思ってるような生き物じゃない。匿えば、あんたの身が危険にさらされる。そいつをこちらに渡せ」

「…いや」

また一歩、男から距離をとる。

「こちらに渡せば悪いようにはしない。身の安全は保証する」

「…」

そう言う男の表情の無い顔からは、男が何を考えているのかはわからない。だけど、男の手には、鋭い刃物が握られたまま。

―こんな男に、シロは絶対に渡せない

刃物から目を逸らせずに、また一歩、距離をとった。

「…そいつは無防備に深入りしていい相手じゃない」

言いながら、男がジリッと一歩を詰めて来る。いつ斬りつけられてもおかしくない恐怖に足が震えるけれど―

「何も知らない人間が関わるな」

「っ!」

男の言葉に、まずいとわかっていても、頭に血が上った。自分がでしゃばりなことは言われなくてもわかっている。「何も知らない」のだって、男の言う通り、否定なんて出来ない。だけど、それでも、何日もシロと過ごしてわかったことだってある―

「そいつの外見に騙されて余計な世話をやけば、」

「うるさい!」

「…」

刃物を持った相手に、馬鹿なことをしていると、頭の片隅ではわかっていて、でも、口から飛び出す言葉を止められない―

「でしゃばりなのは自覚してるよ!だけど、こんな小さい子を!私を気遣ってくれる優しい子を!放っておけないんだから!仕方ないじゃない!」

言いながら、込み上げてきた熱いものを必死に飲み込む。溢れそうな涙を男には見せたくなくて、男に背を向けて走り出す。

「っ!待て!」

男の呼び止める声が聞こえたけれど、追ってくる気配は感じられない。そのまま、もと来た道を駅へ―人の居る場所―へと走り続けた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...