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第二章 ツンデレ天邪鬼といっしょ
2-2.
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2-2.
瑞穂からの追及をかわしながら向かった駅前のファッションビル。ビル全体がバレンタインラッピングに包まれて、雑貨屋もお菓子ショップもチョコレートの甘い匂いに満たされている。
こちらをからかっていた瑞穂も、その雰囲気にようやくチョコレート選びに本腰を入れ始めた、と思った矢先に―
「げっ」
「?瑞穂?」
あからさまに不快な表情を浮かべて固まった瑞穂。その視界の先を追って、自分の顔にも同じ表情が浮かぶのを自覚した。
「あれー?先輩じゃん」
「うっわ、マジだ!」
「…」
逃げられるほどの距離もなく、あっさりとこちらを見つけて歩み寄ってくる、男子高校生の集団。その中心に居る男が浮かべた嘲笑も、あの時と同じ。
違うのは―
「え?誰?煌世の知り合い?」
「先輩って?うちの?」
彼らの他に、見知らぬ女の子達も混じっていること。
「こないだ話したっしょ?」
「煌世狙いの、年上アピールがマジうざい三年」
「あー!」
「うっそ!マジ!?この人なの?ってか、この人レベルで!?」
「…」
何で、こんなことを言われなくてはいけないのか―
相手を平気で傷つけようとする彼らの言葉に、完全に無傷ではいられない。だけど、絶対にこちらの痛みなんて見せたくなくて―
あの時、何も言わずに立ち去るべきだったんだろうか?そうすれば、せっかく元気になった瑞穂にまで、今、こんな嫌な思いをさせずに済んだ―?
落ちていく気持ちが溢れそうになる中、響いた呼び出し音に―相手を確認する間もなく―咄嗟に電話に出てしまった。
「…大丈夫か?」
「え?」
「今あんたに絡んでる、そいつら」
「!」
予想もしなかった相手。別れを告げて帰ったはずの彼の声に、思わず周囲を見回してしまう。けれどやはり、彼の姿を見つけることは出来なくて、
それでも―
「…ありがとうございます」
心配してくれる人が居る、彼の気遣い、優しさのおかげで、顔を上げられる。
「高校の、後輩なので…。大丈夫です…」
「…わかった」
その一言で切れてしまった通話。だけど、今も近くに居るはずの存在に後押しされて、強がりでも、乗りきれると思った―
「先輩、なに?今度はチョコでアピールなわけ?それって、マジうざい」
「逆に、先輩レベルで煌世狙おうとか、リスペクトかも?」
「…あなた達には関係ない。行こう、瑞穂」
「…うん」
彼らの横をすり抜けようとして、進路を塞がれる。ニヤニヤ笑いの幼稚な行動を非難しようと口を開いたところで、
「一花」
「っ!?」
背後、頭上から聞こえた声に飛び上がりそうになる。勢いで振り向けば、思い描いた通り、無表情な男が無造作に立っていて、
「桐生さん、あの、帰ったんじゃ…」
「…」
目が合って、黙って見下ろされて、何も言ってはくれないけれど、それだけで、張っていた気持ちが一気に弛んだ。
―ああ、だけど、もう
虚勢も、強がりも、張れそうにない。彼のせいで―
彼の視線が揺れる。そのまま、私の頭上を飛び越えて彼らに向けられた視線。振り向けば、動揺した彼らの様子が見てとれた。
「うそ…」
「…マジ、ありえないんだけど」
突然の桐生の登場に呆気にとられた女の子達の視線が、彼に釘付けになっている。
「!」
と、その内の一人の頭上に現れた小さな姿、悪戯な笑みをこちらに向けた女の子が、その尻尾の先を持ち上げて、突き刺した―
「べ、べつに、あなたレベルの男なんていくらでもいるし」
途端、顔を赤くしながらも饒舌になった女の子の片方が、チラリチラリと桐生に視線を向ける。
その様子はどう見ても―
「顔だけなら煌世や翔の方がレベル高いし!」
「はぁっ!?お前、何言ってんだよ!?」
「スタイルや外見なら圧勝してるんだから!」
「やめろよ!」
「…」
人の、見た目をどうこう言うこと自体がどうかとは思うけれど―
桐生と彼らを比較した上で、「天邪鬼」に思ってもいないことを言わされてしまっているのだろう。口にした本人も、だんだん顔が青ざめてきている。
いつの間にか周囲に出来ていた人垣からもクスクス笑いが聞こえ始めたところで、とうとう仲間内でもめだした彼ら。声の大きさから、騒ぎになってしまいそうだと不安になったところで、肩に手を置かれた。
「一花、警備を呼ばれるとまずい…」
「あ、はい!」
チラリと、彼が肩に担いでいるケースを確認した。中身は恐らく、私の「相談」を受けて持ってきてくれたモノだろうから、確かに、見咎められると面倒なことになりそう。
急いで彼らから離れ―自分達のことで精一杯の彼らには気付かれずに―その場を後にする。
桐生に再びお礼を言って、まだ買い物があるからと別れたところで、それまで黙っていた瑞穂が口を開いた。
「…で?誰?」
「…」
去っていく桐生の背中を見送った瑞穂の第一声、それに何と返せばいいのか―
「…『一花』って呼んでた」
「!あれは!」
突然の桐生の言動には私だって驚いたのだ。結局、何も言わずに去っていった彼が、私の名前を態々呼んだのは、多分、
「助けてくれただけ、だよ。私達が絡まれてると思って」
「うん、まあ、確かに助かったよね。で?どこで知り合ったの?」
「お隣に越してきた人の、従弟なんだって。それで、顔見知りって言うか…」
「電話番号教えてるのに、ただの『顔見知り』?」
追求の手を休めるつもりのない瑞穂の勢いに圧される。
「電話番号は、何て言うか、トラブルとかあったら、連絡してって言われて、ご近所の誼というか…」
「ふーん?」
「…」
「…まぁ、いいや。一花が話してもいいかなーってなるまで、待ってるよ」
ある程度納得した様子の瑞穂だったけれど、今後、話すような何かが展開するとも考えられなくて、曖昧な返事を返す。
「…一花も、チョコレートあげたら?」
「え?」
突然変わった話の流れ、瑞穂の提案に動揺する。
「あげようよ!高校最後の思い出にさ!」
「…思い出って。あげる相手も居ないのに」
「さっきの『桐生さん』にあげたら?」
「っ!本当に!そういうのじゃないから!」
「いいじゃんいいじゃん。義理チョコでも何でも!たった今、お世話にもなったんだからさ?」
言うだけ言って、自分のチョコレート探しに没頭し出した瑞穂の横で、シックなラッピングのチョコレートを手に取ってみる。
確かに、「天邪鬼」のことも含め、今回、桐生にはだいぶ迷惑をかけてしまっている。だから、
「…」
このくらいなら、受け取ってもらえるだろうか―
「それにするの?」
「…義理チョコだよ」
「へー、それはまたずいぶん気合い入った義理チョコだね?」
「もう!」
からかう瑞穂の顔に、既に一欠片の陰りもない。その代わりのように、私の頭を悩ませ始めたチョコレートを手に、店のレジへと向かった。
瑞穂からの追及をかわしながら向かった駅前のファッションビル。ビル全体がバレンタインラッピングに包まれて、雑貨屋もお菓子ショップもチョコレートの甘い匂いに満たされている。
こちらをからかっていた瑞穂も、その雰囲気にようやくチョコレート選びに本腰を入れ始めた、と思った矢先に―
「げっ」
「?瑞穂?」
あからさまに不快な表情を浮かべて固まった瑞穂。その視界の先を追って、自分の顔にも同じ表情が浮かぶのを自覚した。
「あれー?先輩じゃん」
「うっわ、マジだ!」
「…」
逃げられるほどの距離もなく、あっさりとこちらを見つけて歩み寄ってくる、男子高校生の集団。その中心に居る男が浮かべた嘲笑も、あの時と同じ。
違うのは―
「え?誰?煌世の知り合い?」
「先輩って?うちの?」
彼らの他に、見知らぬ女の子達も混じっていること。
「こないだ話したっしょ?」
「煌世狙いの、年上アピールがマジうざい三年」
「あー!」
「うっそ!マジ!?この人なの?ってか、この人レベルで!?」
「…」
何で、こんなことを言われなくてはいけないのか―
相手を平気で傷つけようとする彼らの言葉に、完全に無傷ではいられない。だけど、絶対にこちらの痛みなんて見せたくなくて―
あの時、何も言わずに立ち去るべきだったんだろうか?そうすれば、せっかく元気になった瑞穂にまで、今、こんな嫌な思いをさせずに済んだ―?
落ちていく気持ちが溢れそうになる中、響いた呼び出し音に―相手を確認する間もなく―咄嗟に電話に出てしまった。
「…大丈夫か?」
「え?」
「今あんたに絡んでる、そいつら」
「!」
予想もしなかった相手。別れを告げて帰ったはずの彼の声に、思わず周囲を見回してしまう。けれどやはり、彼の姿を見つけることは出来なくて、
それでも―
「…ありがとうございます」
心配してくれる人が居る、彼の気遣い、優しさのおかげで、顔を上げられる。
「高校の、後輩なので…。大丈夫です…」
「…わかった」
その一言で切れてしまった通話。だけど、今も近くに居るはずの存在に後押しされて、強がりでも、乗りきれると思った―
「先輩、なに?今度はチョコでアピールなわけ?それって、マジうざい」
「逆に、先輩レベルで煌世狙おうとか、リスペクトかも?」
「…あなた達には関係ない。行こう、瑞穂」
「…うん」
彼らの横をすり抜けようとして、進路を塞がれる。ニヤニヤ笑いの幼稚な行動を非難しようと口を開いたところで、
「一花」
「っ!?」
背後、頭上から聞こえた声に飛び上がりそうになる。勢いで振り向けば、思い描いた通り、無表情な男が無造作に立っていて、
「桐生さん、あの、帰ったんじゃ…」
「…」
目が合って、黙って見下ろされて、何も言ってはくれないけれど、それだけで、張っていた気持ちが一気に弛んだ。
―ああ、だけど、もう
虚勢も、強がりも、張れそうにない。彼のせいで―
彼の視線が揺れる。そのまま、私の頭上を飛び越えて彼らに向けられた視線。振り向けば、動揺した彼らの様子が見てとれた。
「うそ…」
「…マジ、ありえないんだけど」
突然の桐生の登場に呆気にとられた女の子達の視線が、彼に釘付けになっている。
「!」
と、その内の一人の頭上に現れた小さな姿、悪戯な笑みをこちらに向けた女の子が、その尻尾の先を持ち上げて、突き刺した―
「べ、べつに、あなたレベルの男なんていくらでもいるし」
途端、顔を赤くしながらも饒舌になった女の子の片方が、チラリチラリと桐生に視線を向ける。
その様子はどう見ても―
「顔だけなら煌世や翔の方がレベル高いし!」
「はぁっ!?お前、何言ってんだよ!?」
「スタイルや外見なら圧勝してるんだから!」
「やめろよ!」
「…」
人の、見た目をどうこう言うこと自体がどうかとは思うけれど―
桐生と彼らを比較した上で、「天邪鬼」に思ってもいないことを言わされてしまっているのだろう。口にした本人も、だんだん顔が青ざめてきている。
いつの間にか周囲に出来ていた人垣からもクスクス笑いが聞こえ始めたところで、とうとう仲間内でもめだした彼ら。声の大きさから、騒ぎになってしまいそうだと不安になったところで、肩に手を置かれた。
「一花、警備を呼ばれるとまずい…」
「あ、はい!」
チラリと、彼が肩に担いでいるケースを確認した。中身は恐らく、私の「相談」を受けて持ってきてくれたモノだろうから、確かに、見咎められると面倒なことになりそう。
急いで彼らから離れ―自分達のことで精一杯の彼らには気付かれずに―その場を後にする。
桐生に再びお礼を言って、まだ買い物があるからと別れたところで、それまで黙っていた瑞穂が口を開いた。
「…で?誰?」
「…」
去っていく桐生の背中を見送った瑞穂の第一声、それに何と返せばいいのか―
「…『一花』って呼んでた」
「!あれは!」
突然の桐生の言動には私だって驚いたのだ。結局、何も言わずに去っていった彼が、私の名前を態々呼んだのは、多分、
「助けてくれただけ、だよ。私達が絡まれてると思って」
「うん、まあ、確かに助かったよね。で?どこで知り合ったの?」
「お隣に越してきた人の、従弟なんだって。それで、顔見知りって言うか…」
「電話番号教えてるのに、ただの『顔見知り』?」
追求の手を休めるつもりのない瑞穂の勢いに圧される。
「電話番号は、何て言うか、トラブルとかあったら、連絡してって言われて、ご近所の誼というか…」
「ふーん?」
「…」
「…まぁ、いいや。一花が話してもいいかなーってなるまで、待ってるよ」
ある程度納得した様子の瑞穂だったけれど、今後、話すような何かが展開するとも考えられなくて、曖昧な返事を返す。
「…一花も、チョコレートあげたら?」
「え?」
突然変わった話の流れ、瑞穂の提案に動揺する。
「あげようよ!高校最後の思い出にさ!」
「…思い出って。あげる相手も居ないのに」
「さっきの『桐生さん』にあげたら?」
「っ!本当に!そういうのじゃないから!」
「いいじゃんいいじゃん。義理チョコでも何でも!たった今、お世話にもなったんだからさ?」
言うだけ言って、自分のチョコレート探しに没頭し出した瑞穂の横で、シックなラッピングのチョコレートを手に取ってみる。
確かに、「天邪鬼」のことも含め、今回、桐生にはだいぶ迷惑をかけてしまっている。だから、
「…」
このくらいなら、受け取ってもらえるだろうか―
「それにするの?」
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