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第二章 ツンデレ天邪鬼といっしょ
4-3.
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4-3.
「…桐生、さん…?」
「?」
普段と変わらない様子の桐生。どこにも異常は見当たらない。彼が携帯を手にしていないことも明らかで、
じゃあ、この通話の先、私が話していた相手は、一体、誰―?
「鈴原、どうした?何があった?」
「…桐生さん、熱は…」
「熱?三日前には下がってる」
「電話…」
「電話がどうした?」
何と説明したらいいのかわからずに、黙って自身のスマホを差し出した。怪訝な顔で受け取った桐生が、表示された通話相手の名に更に眉をひそめる。端末を耳元に当てた彼の表情が不快に歪んで、
「…携帯は、部屋に置きっぱなしにしてる」
「じゃあ…」
「…中、入って」
促されるままに、桐生の後を追って家の中へと足を踏み入れた。
「ちょっと待ってて」
靴を脱いだところで制止され、桐生がリビングへと消えていくのを見守った。戻ってきた彼の手には、だいぶ見慣れてしまった「刀」が握られていて、
「…まぁ、何となく予測はついてる。ただ、何でこんなことになったのかまではわからない…」
言いながら、階段を上がり始めた桐生。彼に従ってたどり着いた二階の部屋。桐生が、予備動作無しに一気にドアを押し開けた。
「!?」
「…やっぱり、コイツか」
部屋の奥、置かれたベッドの上に無造作に置かれた端末。その前に、チョコンと座っている女の子。振り向いたその子には、いやと言うほど見覚えがあって―
「テンちゃん!」
シロが大喜びで飛んでいった先で、天邪鬼が笑う。その口が開いて、
「『会いたい。すぐに来て』」
「っ!」
「…」
横に立つ、彼そっくりの声。それが小さな女の子の口から聞こえるという奇妙さに、ゾクリとした。
「…天邪鬼が『声真似』をするらしいとは聞いたことがあったが…」
言いながら、桐生がベッドに置かれていたスマホを拾い上げる。
「…自分の真似をされるってのは、気分がいいもんじゃないな」
「…声真似…」
桐生の不快を気にした様子もなく、携帯を取り上げられた天邪鬼は、いつかのようにクスクス笑って宙を舞う。
「…メール、くれてたのか」
「!」
スマホを確かめていた桐生の言葉。忘れていた、そもそもの発端になった謝罪のメール。それを今、目の前で読まれてしまっている。端末を操作する桐生の視線が画面を追って、
「…体調は、まぁ、もう問題ない」
「…」
「…悪かったな。態々、様子見に来てくれて」
「…」
桐生の謝罪の言葉、気遣いに、沸き上がってくる思い。どんどん居たたまれなくなってしまう。
だって、
嬉しかったのだ―
少なからず、彼に頼られたと思って。体調不良で呼ばれるくらいには信頼されていると。
それが勝手な思い込みで、天邪鬼の悪戯に踊らされてノコノコと家まで押し掛けてしまったという事実。込み上げるどうしようもない思いに、顔に熱が集まっていくのがわかる。
「…鈴原?」
―恥ずかしい
桐生にも、私のこの思い上がりがバレているのではないかと思うと、もう駄目だった―
「帰ります」
「あ、おい。ちょっと待て」
彼の顔をまともに見ることも出来ずに部屋から飛び出したところで、腕を掴まれた。
「急にどうした?」
「…」
答えることも、顔を上げることも出来ずにいれば、
「…鈴原、顔が赤い」
「!?」
「あんた、熱が、」
「違います!」
覗き込もうとする桐生の視線から逃れるように身をよじった。
「熱とかじゃないです!大丈夫なので帰ります!手を…」
離して欲しくて引き抜こうとするが、がっちりと掴まれた腕が離されることはない。無言の攻防のあと、先に口を開いたのは桐生で、
「家まで送る」
「大丈夫です。自分で帰ります」
「いいから、来い」
半ば強引に腕を引かれて、うつむき気味に彼の隣に従った。
「…桐生、さん…?」
「?」
普段と変わらない様子の桐生。どこにも異常は見当たらない。彼が携帯を手にしていないことも明らかで、
じゃあ、この通話の先、私が話していた相手は、一体、誰―?
「鈴原、どうした?何があった?」
「…桐生さん、熱は…」
「熱?三日前には下がってる」
「電話…」
「電話がどうした?」
何と説明したらいいのかわからずに、黙って自身のスマホを差し出した。怪訝な顔で受け取った桐生が、表示された通話相手の名に更に眉をひそめる。端末を耳元に当てた彼の表情が不快に歪んで、
「…携帯は、部屋に置きっぱなしにしてる」
「じゃあ…」
「…中、入って」
促されるままに、桐生の後を追って家の中へと足を踏み入れた。
「ちょっと待ってて」
靴を脱いだところで制止され、桐生がリビングへと消えていくのを見守った。戻ってきた彼の手には、だいぶ見慣れてしまった「刀」が握られていて、
「…まぁ、何となく予測はついてる。ただ、何でこんなことになったのかまではわからない…」
言いながら、階段を上がり始めた桐生。彼に従ってたどり着いた二階の部屋。桐生が、予備動作無しに一気にドアを押し開けた。
「!?」
「…やっぱり、コイツか」
部屋の奥、置かれたベッドの上に無造作に置かれた端末。その前に、チョコンと座っている女の子。振り向いたその子には、いやと言うほど見覚えがあって―
「テンちゃん!」
シロが大喜びで飛んでいった先で、天邪鬼が笑う。その口が開いて、
「『会いたい。すぐに来て』」
「っ!」
「…」
横に立つ、彼そっくりの声。それが小さな女の子の口から聞こえるという奇妙さに、ゾクリとした。
「…天邪鬼が『声真似』をするらしいとは聞いたことがあったが…」
言いながら、桐生がベッドに置かれていたスマホを拾い上げる。
「…自分の真似をされるってのは、気分がいいもんじゃないな」
「…声真似…」
桐生の不快を気にした様子もなく、携帯を取り上げられた天邪鬼は、いつかのようにクスクス笑って宙を舞う。
「…メール、くれてたのか」
「!」
スマホを確かめていた桐生の言葉。忘れていた、そもそもの発端になった謝罪のメール。それを今、目の前で読まれてしまっている。端末を操作する桐生の視線が画面を追って、
「…体調は、まぁ、もう問題ない」
「…」
「…悪かったな。態々、様子見に来てくれて」
「…」
桐生の謝罪の言葉、気遣いに、沸き上がってくる思い。どんどん居たたまれなくなってしまう。
だって、
嬉しかったのだ―
少なからず、彼に頼られたと思って。体調不良で呼ばれるくらいには信頼されていると。
それが勝手な思い込みで、天邪鬼の悪戯に踊らされてノコノコと家まで押し掛けてしまったという事実。込み上げるどうしようもない思いに、顔に熱が集まっていくのがわかる。
「…鈴原?」
―恥ずかしい
桐生にも、私のこの思い上がりがバレているのではないかと思うと、もう駄目だった―
「帰ります」
「あ、おい。ちょっと待て」
彼の顔をまともに見ることも出来ずに部屋から飛び出したところで、腕を掴まれた。
「急にどうした?」
「…」
答えることも、顔を上げることも出来ずにいれば、
「…鈴原、顔が赤い」
「!?」
「あんた、熱が、」
「違います!」
覗き込もうとする桐生の視線から逃れるように身をよじった。
「熱とかじゃないです!大丈夫なので帰ります!手を…」
離して欲しくて引き抜こうとするが、がっちりと掴まれた腕が離されることはない。無言の攻防のあと、先に口を開いたのは桐生で、
「家まで送る」
「大丈夫です。自分で帰ります」
「いいから、来い」
半ば強引に腕を引かれて、うつむき気味に彼の隣に従った。
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