【完結】いつだって二人きりがよかった

ひなごとり

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大学生の二人

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「ん……?」
 身体がどことなく重たい。
(あれ……、俺いつの間に寝てたんだろ)
 確か昨日は柊明の家で映画鑑賞をしていて、ヴァンパイアと元人間のお話で……種族間の違いに苦悩していて……それからどんな展開になったんだっけ。
 どことなく気怠い全身を奮い立たせるようにまずは目を開けることに尽力する。重い身体に重い瞼、まだ微睡みの中を漂っていたいと思いながら、未雲はゆっくりと目を開けた。
 まず目に映ったのは真っ白な毛色だった。それから、綺麗な寝顔が。
「……っ!」
 声にならない声を出す。未雲は柊明のベッドで一緒に寝ていた。そしてよくよく見れば、柊明に抱き締められて密着した状態で横になっていた。
 ……そうだ、思い出した。二人で同じベッドに寝ているのも、身体がやけに怠いのも、映画鑑賞の途中であんなことをしたからで。
 どうしてそんな流れになったのか、未雲はいまいち覚えていない。しかし、あの柊明の表情、言葉、動作、それぞれが過去の後悔を滲ませて未雲を襲ってきた。
 拒絶なんてできるわけがなかった。もう柊明を手放したくなかった。彼が真に自分を好いていなくても、ただの遊びだとしても、こうやっている間は柊明は一緒にいてくれる。それで十分だった。
 一気に昨日のことを思い出して、未雲はまた泣きそうになるのを耐えながら目の前のあどけない寝顔を眺める。
 そういえば、こうして柊明の寝顔を見るのはかなり久し振りな気がする。高校の頃一緒に行ったプラネタリウムの時が一回で、今まで何回も寝泊まりをしたというのに自分はいつもいつの間にか寝ていて、柊明に起こされていた。長い睫毛、瞼に隠された瞳、少しだけ空いた口。全てが愛おしくてたまらなくて、自分はこんなにも柊明が好きだったのかと今になって気付く。
 もう柊明は自分の恋人ではないのに。恋人だった時に気付いていれば何か変わっていたのだろうか。
 無性に柊明の頬を撫でたくなったが、抱き締められているせいで腕が動かない。結局柊明が起きるまで、未雲はまた深い眠りについた。



 それからの二人はまるで何も変化していないように見えた。
 いつも通り大学に行き、いつも通り連絡を取り、一緒に映画を観たり本屋へ行ったりと遊びに出かける。未雲の大荷物はいつの間にか解消されていて、橘はどことなく安心しているようだった。
 未雲も柊明のことは口に出さなくなったので、橘は二人が自然と会わなくなったのだと思ったのだろう。
 泊まるための荷物を大学まで持っていく必要がなくなったのは、柊明の家に未雲の私物が増えたからだった。何日か連続で寝泊まりをした日、未雲が帰り支度をしている後ろで柊明が「ここに置いてきなよ」と半ば強制的に着替えを一緒の洗濯機に突っ込んだ。それなら、と未雲は素直に着替えやら大学の教材やらを置いていき、そのうち二人は半分同棲のような形になっていった。
 今日もみっちり入った講義を全て受け終わると、橘との会話もそこそこに未雲は帰路へと着く。柊明に連絡を入れるとすぐに既読は付いて、夕ご飯の支度をしている旨の返信が返ってきた。
 家に着くと帰りを待っていた柊明が「おかえり」と出迎えてくれる。そうして二人でご飯を食べ、風呂に入って、ベッドに入るまで本を読んだり映画を観たりする。
 一見すると半同棲のようになる前と大して変わっていないように見えるかもしれない。しかし、他の人には決して分からない、二人の間で明確に変化した部分が確かにあった。
「未雲、そろそろベッド行こうか」
「あ……うん、もうそんな時間?」
「明日も授業あるから、ちょっと早めにしたほうがいいと思って」
 そう言うと柊明は未雲の手を取り、自身のベッドへと腰掛けると隣へ座るよう促す。未雲は未だに慣れない雰囲気に緊張しながら、遠慮がちに隣に腰掛けて柊明の方へと視線を向けた。
 交わる視線に、喉が鳴る。柊明はそっと笑うとそのまま顔を近付けて優しく唇が触れ合った。順応するように未雲は角度を変え、何度もキスを繰り返す。柊明が口を開けたら今度は舌を出して深く口付け、拙い舌遣いながらも懸命に続けていた。
「……はっ、ぁ……」
 疲れて思わず口を離すと、肩を掴まれそのままベッドへと身体が沈み込む。いつの間にか柊明に押し倒されてしまった。
 見下ろす彼の瞳はいつだって綺麗だった。これから行われることへのほんの少しの恐怖は、見つめられればいつの間にか溶けて消え、柊明のことしか考えられなくなる。上を脱がされながら、未雲は身体の緊張をほぐすように深く息を吸ってゆっくりと体を脱力させていった。
 あれ以来、二人はベッドで一緒に寝るようになっていた。そして、どちらが言うでもなく自然と夜寝る前にキスをし、未雲は後ろを弄られている。
 最初はなぜこんなことをするのか分からなかったが、スマホでこっそりと男同士のやり方を調べて愕然とした。まさか自分が受け入れる側なのか、と未雲は思ったが、自分が柊明に挿れるところを全く想像できなかった――というより柊明のしたいようにさせてやりたかった――ので、甘んじて受け入れている。
(なんか、セフレ、ってやつみたいだな)
 まだやることはやっていないが、今の状況を見た人なら誰もがそう思うことだろう。夜の時間以外他は全く変わっていないから余計にそう感じる。
 望んでこうなったはずなのに。今も柊明は近くにいて、独り占めもしているはずなのに。
 ――これ以上を望んでいる自分がいることが、未雲は信じられなかった。


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