27 / 33
大学生の二人
26
しおりを挟む「ん……?」
身体がどことなく重たい。
(あれ……、俺いつの間に寝てたんだろ)
確か昨日は柊明の家で映画鑑賞をしていて、ヴァンパイアと元人間のお話で……種族間の違いに苦悩していて……それからどんな展開になったんだっけ。
どことなく気怠い全身を奮い立たせるようにまずは目を開けることに尽力する。重い身体に重い瞼、まだ微睡みの中を漂っていたいと思いながら、未雲はゆっくりと目を開けた。
まず目に映ったのは真っ白な毛色だった。それから、綺麗な寝顔が。
「……っ!」
声にならない声を出す。未雲は柊明のベッドで一緒に寝ていた。そしてよくよく見れば、柊明に抱き締められて密着した状態で横になっていた。
……そうだ、思い出した。二人で同じベッドに寝ているのも、身体がやけに怠いのも、映画鑑賞の途中であんなことをしたからで。
どうしてそんな流れになったのか、未雲はいまいち覚えていない。しかし、あの柊明の表情、言葉、動作、それぞれが過去の後悔を滲ませて未雲を襲ってきた。
拒絶なんてできるわけがなかった。もう柊明を手放したくなかった。彼が真に自分を好いていなくても、ただの遊びだとしても、こうやっている間は柊明は一緒にいてくれる。それで十分だった。
一気に昨日のことを思い出して、未雲はまた泣きそうになるのを耐えながら目の前のあどけない寝顔を眺める。
そういえば、こうして柊明の寝顔を見るのはかなり久し振りな気がする。高校の頃一緒に行ったプラネタリウムの時が一回で、今まで何回も寝泊まりをしたというのに自分はいつもいつの間にか寝ていて、柊明に起こされていた。長い睫毛、瞼に隠された瞳、少しだけ空いた口。全てが愛おしくてたまらなくて、自分はこんなにも柊明が好きだったのかと今になって気付く。
もう柊明は自分の恋人ではないのに。恋人だった時に気付いていれば何か変わっていたのだろうか。
無性に柊明の頬を撫でたくなったが、抱き締められているせいで腕が動かない。結局柊明が起きるまで、未雲はまた深い眠りについた。
それからの二人はまるで何も変化していないように見えた。
いつも通り大学に行き、いつも通り連絡を取り、一緒に映画を観たり本屋へ行ったりと遊びに出かける。未雲の大荷物はいつの間にか解消されていて、橘はどことなく安心しているようだった。
未雲も柊明のことは口に出さなくなったので、橘は二人が自然と会わなくなったのだと思ったのだろう。
泊まるための荷物を大学まで持っていく必要がなくなったのは、柊明の家に未雲の私物が増えたからだった。何日か連続で寝泊まりをした日、未雲が帰り支度をしている後ろで柊明が「ここに置いてきなよ」と半ば強制的に着替えを一緒の洗濯機に突っ込んだ。それなら、と未雲は素直に着替えやら大学の教材やらを置いていき、そのうち二人は半分同棲のような形になっていった。
今日もみっちり入った講義を全て受け終わると、橘との会話もそこそこに未雲は帰路へと着く。柊明に連絡を入れるとすぐに既読は付いて、夕ご飯の支度をしている旨の返信が返ってきた。
家に着くと帰りを待っていた柊明が「おかえり」と出迎えてくれる。そうして二人でご飯を食べ、風呂に入って、ベッドに入るまで本を読んだり映画を観たりする。
一見すると半同棲のようになる前と大して変わっていないように見えるかもしれない。しかし、他の人には決して分からない、二人の間で明確に変化した部分が確かにあった。
「未雲、そろそろベッド行こうか」
「あ……うん、もうそんな時間?」
「明日も授業あるから、ちょっと早めにしたほうがいいと思って」
そう言うと柊明は未雲の手を取り、自身のベッドへと腰掛けると隣へ座るよう促す。未雲は未だに慣れない雰囲気に緊張しながら、遠慮がちに隣に腰掛けて柊明の方へと視線を向けた。
交わる視線に、喉が鳴る。柊明はそっと笑うとそのまま顔を近付けて優しく唇が触れ合った。順応するように未雲は角度を変え、何度もキスを繰り返す。柊明が口を開けたら今度は舌を出して深く口付け、拙い舌遣いながらも懸命に続けていた。
「……はっ、ぁ……」
疲れて思わず口を離すと、肩を掴まれそのままベッドへと身体が沈み込む。いつの間にか柊明に押し倒されてしまった。
見下ろす彼の瞳はいつだって綺麗だった。これから行われることへのほんの少しの恐怖は、見つめられればいつの間にか溶けて消え、柊明のことしか考えられなくなる。上を脱がされながら、未雲は身体の緊張をほぐすように深く息を吸ってゆっくりと体を脱力させていった。
あれ以来、二人はベッドで一緒に寝るようになっていた。そして、どちらが言うでもなく自然と夜寝る前にキスをし、未雲は後ろを弄られている。
最初はなぜこんなことをするのか分からなかったが、スマホでこっそりと男同士のやり方を調べて愕然とした。まさか自分が受け入れる側なのか、と未雲は思ったが、自分が柊明に挿れるところを全く想像できなかった――というより柊明のしたいようにさせてやりたかった――ので、甘んじて受け入れている。
(なんか、セフレ、ってやつみたいだな)
まだやることはやっていないが、今の状況を見た人なら誰もがそう思うことだろう。夜の時間以外他は全く変わっていないから余計にそう感じる。
望んでこうなったはずなのに。今も柊明は近くにいて、独り占めもしているはずなのに。
――これ以上を望んでいる自分がいることが、未雲は信じられなかった。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』
バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。 そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。 最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる