【完結】いつだって二人きりがよかった

ひなごとり

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大学生の二人

31 ※R-18

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 柊明は未雲を家から出そうとしなかった。
 情事が終わってなんとか重い腰を庇いながらシャワーを浴び、今度こそ私物をバッグに詰めていると、後ろで見ていた柊明がおもむろにこちらへ近付いてバッグを取り上げた。
「未雲は家から出ないで」
「はあ……?」
「ここにいて困ることなんて何も無いじゃん。なんでそんなに帰ろうとするの」
「いや……だって、」
「腰、痛いんでしょ。だったらまだここにいて」
 言葉を続ける前にぴしゃりと遮られる。そうしたのは柊明自身だというのに、まるでお前のせいだと言うような物言いが気になった。
 まあ動くことがつらいのは本当だったので、本人が良いというならと未雲はまたもや柊明の家で寝泊まりするようになった。そしてとっくのとうに痛みが引いた今でも、未雲は何故か自宅へ帰れずにいる。柊明がまるで監視しているように日中はずっと家にいるし、買い物も全て通販で済ましているらしかった。
 だというのに、家にいるからといって互いに会話をすることも殆どなく、柊明はやけによそよそしい。さらにはどういう風の吹き回しか、あのセックスを最後に二人は以降全く身体を繋げていなかった。そんな雰囲気になることもなければ、柊明から身体を触れてくることもない。ただ、夜は相変わらず同じベッドで、未雲は柊明に抱き締められながら眠っている。
(柊明がどうしたいのか、全く分からない)
 セックスもしない自分なんて、柊明にとってどんな価値があるのか考えても考えても思い付かなかった。
 もしかしてこのまま関係が解消されて、自分たちの間ではまた何もなかったことになってしまうのだろうか。高校の時の過ちに気付いていたはずなのに、また欲をかいて柊明を求めてしまった自分が憎い。
 男同士の準備が面倒くさくなったか。汚い声で幻滅でもしたか。だからもう自分を抱いてくれないのか。
 未雲は一度ネガティブな方へ思考が行くと、何もかもをとことん悪い方向で考えてしまっていた。そして自分なりに勝手に分析して、相手のことなんか考えずに暴走する。今の不安定な状況も相まって、その癖はさらに悪化していた。


 風呂から上がり、リビングへ戻ると柊明はソファに座って本を見ていた。視線は本へと向いているが、目は全く活字を追っている気配がない。
「柊明……」
「……なに、どうしたの?」
 久し振りに聞いた声は随分優しいように思えた。なのに未雲の身体は緊張で汗が噴き出し、手は震えて、心臓は今にも口から飛び出てきそうだった。
「――もう、準備してあるから……したい、です」
 相手を誘う方法なんて知らない。何度も性行為をしたことはあるはずなのに、思えば自分はいつも受け身だった。結局必要最低限の台詞で、未雲は柊明を誘う。俯いてただただ反応を待つ時間が恐ろしかった。
「そんなに、セックスがしたいの?」
「っ、……」
 長い沈黙のあと、柊明はそう言った。途端今の状況が恥ずかしくなって顔が熱くなる。柊明はいつの間にかソファから降りて、未雲の近くまで来ていた。
「あんなに毎日してたもんね。もう我慢出来なくなった? ……きっと誰にでもこんな風にするんだろうね」
「なんで、そんな」
「おれだってこんなに言うつもりなかったよ。でも」
 柊明は追い詰めるように一歩、また一歩と距離を詰めてくる。じりじりと後ろへ下がっていけば、背中のすぐ後ろに壁の感触がした。それでも柊明は歩を緩めることなく近付いて、そのまま腕を掴まれる。
 今までもこうして腕を絡め取られることはあったが、こんなに痛くは決してなかった。すぐにでも折れてしまいそうで、顔を歪めても柊明は力を緩めようとしない。
「……未雲は、セックスさえ出来ればいいんでしょ」
 あ、と思った時には乱暴に顔をもう片方の手に掴まれて、拒絶すら出来ずに口を合わせていた。呆然としている間に舌が中に入ってそれを絡め取られる。流されてはいけない、と舌を慌てて引っ込めるが口の中で逃げることは無理に等しい。それはすぐに捕まった。ぐちゅぐちゅと舌を絡ませる音が響いて頭がクラクラする。身体は柊明の手によってとっくのとうに塗り替えられていて、キスひとつだけで興奮するようになっていた。
 期待で震える身体を叱責して耐えようとするも、いたずらに耳を触られたり胸を撫でられたりすれば努力も虚しくどんどん身体は従順に力を抜いていく。
「……ふ、もう勃ってるね」
「ぁ、柊明がそうしたんじゃん……」
「はは、……そうだよ、おれのせいだ。ここだって……散々弄ってやったんだ」
 ギュッ、と徐に胸の突起を抓られる。キスだけで布越しからでも分かるほど起ちあがった乳首は柊明の指先が通る度に引っかかり、少しの刺激だけで腰が浮いてしまう。刺激から逃れようと身体が勝手に動くが、それすらも摩擦となって力が抜けていく。追い討ちのように爪で弾かれれば、口から情けない声が飛び出た。
 無言のまま、柊明が乳首を弄っていた方の手を下肢へ動かす。カチャカチャと聞こえる金属音は、ベルトを外していることをまざまざと感じさせた。音を聞いただけだというのに、未雲の身体は途端に奥が疼く。このあと何が起きるか、身体はよく覚えていた。情事の記憶が頭を巡り回ってどうしようもなく興奮し、思わず喉が鳴ってしまうのを柊明は揶揄するように手のひらを下腹部に押し付ける。その奥にある性感帯を刺激するように、ぐっ、ぐっと強弱をつけながら。
「あ、おなか、押すな……っ!」
「興奮しすぎ」
「や、んぁ……! ひっ、」
 押す動作の合間合間にカサついた手が腹の上をゆっくりと往復する。くすぐったさと気持ち良さが同時に襲ってくるのに耐えかねて身体を捻るが、柊明の手がそれを許さず、さらに快感を増長させるような手の動きをする。たまらず鼻から抜けたような声を出すと、目の前の綺麗な顔が歪んだのが見えた。
 絶対に流されてはだめだ、という気持ちとは裏腹に、脳味噌は足りない、足りないんだと空腹を知らせる。快楽に弱い身体はもっと甘くて、どうしようもないくらい気持ちの良いものを知っているから。
 獣に成り下がるのを耐えていると、下腹部にあった手が服の中へスルスルと入り、胸を直に触られながら下の方にも伸ばされていくとそのままパンツをいとも簡単に脱がされる。
 上を向く陰茎には手を出さず、柊明の手は後ろへ回る。すでにヒクついているそこは指を入れられただけで飲み込むように蠢いた。
「ぐっ……ぅう、ふっ……」
「わ、ほんとに準備してある。待ち遠しかったんだ?」
 耳に息を吹きかけられながら指がさらに奥へ奥へと侵入してくる。悔しいことに未雲の身体はとっくのとうに作り替えられていて、自分の指より断然柊明にされている今の方が気持ち良かった。
 もうこのまま繋げたいと本能が訴えるが、まだ僅かに残っている理性が警鐘を鳴らす。
「もぅ、やだ、っ……! 俺が悪かった、! ごめん、ごめんってば! 、ぁ、……あっ?」
 殆ど力の入らない腕を振って抗い、なんとか柊明の腕から逃げ出そうと目の前の身体を押す。自分でやったくせにそのせいで支えるものがなくなり、力の入らなくなっていた未雲の身体はずるる、と背中から壁を滑って固い床に座り込んだ。
 それでもと上半身だけの力で這いつくばって逃亡を試みる――柊明のすぐ真下という絶望的な状況で、下半身は何も身に纏わず濡れている状態で。
 腕を前に出してほふく前進の体勢になった途端、ほとんど動くことも出来ないまま腰を後ろから掴まれる。いつの間にか柊明はすぐ後ろにいて、腰は掴んだままこれ以上逃げられないように覆い被さってきた。
「自分からしたくせに、逃げちゃだめでしょ」
 重たい熱が鼓膜を刺激すると同時に、ぐり、と蕾に硬いものが押し付けられる。それが何かなんて言われなくても分かる。
「――あ、ああぁッ!」
 まさに獣のような咆哮が口から飛び出した。一瞬、何が起きたのか分からなかった。
 一気に押し込んできたそれは、濡れそぼった後孔の奥まで入ってきてすぐに抜き差しが行われる。ずろろ、とグロテスクなまでの音とバチンッと乾いた音が交互に響く度に電流が全身を駆け巡って、耳を塞ぎたくなるような嬌声が絶えず喉からせり上がってくる。
 痛いのに、身体は確実に快楽を拾って興奮していた。痛みと強すぎる快楽のせいで意識を簡単に飛ばすことも出来ず、今誰に犯されているのか、嫌でも自覚させられた。
「ひっ、! ぁ、あぁ……ッ、ぅあ、」
 柊明は腰を打ち付けることを止めなかった。後ろで湿った笑い声が聞こえて、その不規則な振動も一緒に伝わる。未雲は生理的な涙が零れた。
 ずっと耳元で囁かれていた声が次第に荒い息だけになり、腰の動きが早急になる。自分の欲だけを考えているようなその動きに、胸あたりが痛くて痛くてたまらなかった。
「ふっ、ぁ……っ!」
「ひ、ひっ、ぁあ、!!ぅあ、あ……」
 どろりと中に液体が注ぎ込まれていくのを感じた。柊明がイッたと気付くと同時に、未雲も一緒に白濁を飛ばしていた。もう触らなくても後ろだけで感じる身体に思わず自嘲してまた涙が頬を伝っていく。
「もう、しない……やめて……」
「――うるさい、黙って」
「え、? ……あっ!?」
 およそ人間の身体で響いてはいけない音が中を抉った。一度出して落ち着いたはずの柊明の陰茎はまた硬くなっていた。
 今度こそ未雲の意思を完全に無視したその動きは前立腺を抉り、結腸の入口をこじ開けようと腰骨が肌に密着する。柊明の手が尻の割れ目を広げ、腰の律動がさらに大きくなる。
「――……あ、」
 そこからはもう何が何だか分からなかった。嬌声とすら呼べない叫び声、全身にじわりと広がる快楽と鈍痛、止まらなくなった涙や涎といった液体。いつの間にか何も出せなくなった未雲の陰茎は赤く腫れてたまに潮を吹き出す。床に擦れて真っ赤になった乳首は引っ張られても何も感じないほど感覚が鈍くなっていた。
 どこもかしこも痛かった。しかし、一番痛くて怖かったのは柊明が何も言わずにただただ自分を犯していることだった。最初はあった耳元で囁く行為もやめ、身体に自身を教え込むように律動を繰り返している。
 もう何度目か分からない中出しをされて、やっと満足したのかずるりと濃くて欲に塗れた水音をさせながら後ろから性器を抜かれていく。ぽっかりと空いた孔は失った体積を探すように口を開けていて、白濁を零した。
(やっと、終わった)
 自然と瞼が重くなっていく。覆い被さっていた体重が消え、離れていく熱に思わず「柊明、」と縋るように名前を呼ぶが、疲れ果てた身体と脳みそはそのまま深い眠りへと落ちていった。


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