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4.先輩がよくわかりません
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「待って、爽太くん!」
あたしが階段の途中から声をかけると、靴をはき替え中の爽太くんが顔をあげた。
急いで階段をおりると、爽太くんの前に立つ。
「えーっと……あの……あ、さっきの逢坂先輩、なんか様子がおかしくなかった?」
さすがに「どうして機嫌悪いの?」なんてストレートには聞けない。
「あー、あれね。べつに遥香ちゃんが気にすることないよ」
そっけなく言いつつ、あたしの瞳をじっと見つめてくる。
心の中までのぞかれているみたいで、なんだか落ち着かない。
「ねえ、遥香ちゃんってさ、ひょっとして兄ちゃんのこと――」
「ちちちちがうよ!? 全然、好きとかそんなんじゃないからね!?」
慌てて否定するあたしを見て、爽太くんがふっと小さく笑う。
「僕、まだなんにも言ってないんだけど?」
「え……あ、そっか。そう、だよね」
うぅっ……気まずい……。
「やっぱ兄ちゃんかあ。だよなー。なんとなくそんな気はしてた」
「本当にちがうんだってば。そんなんじゃないの」
だって、あたしが好きなのは先輩の声だけで、恋愛的な意味なんか全然ないんだから。
「じゃあさ。この前の返事、聞かせてくれる?」
爽太くんに真正面からじっと見つめられ、思わず目を泳がせる。
この前の返事って……お付き合いの返事ってことだよね?
ずっと考えないようにしてた。
そんなわけない、あれはあたしの妄想だったんだって。
でもそれって、爽太くんに対してすごく失礼なことをしていたのかもしれない。
ちゃんと気持ちを伝えてくれた爽太くんには、あたしもちゃんと返さなくちゃ、だよね。
「実はあたし、まだ誰かを好きになるっていう気持ちがよくわからなくて。だからね……ごめんなさい。爽太くんとはお付き合いできない」
「そっか……」
爽太くんが、目を伏せてぽそっと言った。
「……この前さ、兄ちゃんに聞かれたんだ。どうやったら他人とうまく付き合えるようになるのかって。今まで、そんなこと一度も気にした様子なんかなかったのに、急にどうしたんだろうね」
そう言いながら、爽太くんがあたしの方をちらっと見た。
「さ、さあ? 弟の爽太くんにわからないのに、あたしにわかるわけないよ」
あたしがそう言うと、「そっか」と爽太くんが小さくつぶやいた。
「そのときにね、『とりあえず、その眉間にシワ寄せるのはやめた方がいいよ。怒ってないのに、怒って見えるから』って言ったんだ。さっきのあれは、多分そのせい」
「えっ、あれ、怒ってないの?」
「うん。困ってるときやテレてるときに、表情に出さないようにしようとして思わずやっちゃうんだよ。家族は知ってるからいいけど、やっぱ怒ってるように見えちゃうよね」
「うんっ」
コクコクと何度も首をたてに振る。
そっか。あれは怒ってたわけじゃなかったんだ。
じゃあ、さっきのは……ひょっとしてテレてただけってこと?
なあんだ、そうだったんだ。
ホッとしてゆるんだ口元を、爽太くんに気づかれないように左手でそっと隠した。
「つまり、なにが言いたいかっていうと、兄ちゃんもがんばってんだから、僕ももっとがんばんなきゃってこと」
爽太くんが、あたしに向かってニッと笑った。
爽太くんは、そのままでもステキな人だと思うよ?
もちろん恋愛的な意味じゃないけど。
歳の近い兄弟って、ライバルみたいな感覚なのかなぁ?
あたしには歳の離れた弟妹しかいないから、なんだかちょっとうらやましい。
そんなことを考えていたら、「うーん、これじゃダメか……」と爽太くんがつぶやいた。
「うん、わかった。遥香ちゃんが好きって気持ちがわからないなら、僕がわからせてみせる。覚悟しといてよ」
明るくそう言い残すと、爽太くんはさっさと昇降口を出ていってしまった。
……なんか今、さらっとすごいことを言われたような気がするんですけど……?
「えぇっ!? ちょっと待っ……」
だいぶ遅れて、あたしの脳みそが爽太くんに言われたことを理解する。
だけど、あたしの声が爽太くんに届くことはなく、誰もいない昇降口の中にむなしく響いて消えた。
なんで??
どうして爽太くんがそこまで言ってくれるのか、全然わからないんですけど!?
あたしが階段の途中から声をかけると、靴をはき替え中の爽太くんが顔をあげた。
急いで階段をおりると、爽太くんの前に立つ。
「えーっと……あの……あ、さっきの逢坂先輩、なんか様子がおかしくなかった?」
さすがに「どうして機嫌悪いの?」なんてストレートには聞けない。
「あー、あれね。べつに遥香ちゃんが気にすることないよ」
そっけなく言いつつ、あたしの瞳をじっと見つめてくる。
心の中までのぞかれているみたいで、なんだか落ち着かない。
「ねえ、遥香ちゃんってさ、ひょっとして兄ちゃんのこと――」
「ちちちちがうよ!? 全然、好きとかそんなんじゃないからね!?」
慌てて否定するあたしを見て、爽太くんがふっと小さく笑う。
「僕、まだなんにも言ってないんだけど?」
「え……あ、そっか。そう、だよね」
うぅっ……気まずい……。
「やっぱ兄ちゃんかあ。だよなー。なんとなくそんな気はしてた」
「本当にちがうんだってば。そんなんじゃないの」
だって、あたしが好きなのは先輩の声だけで、恋愛的な意味なんか全然ないんだから。
「じゃあさ。この前の返事、聞かせてくれる?」
爽太くんに真正面からじっと見つめられ、思わず目を泳がせる。
この前の返事って……お付き合いの返事ってことだよね?
ずっと考えないようにしてた。
そんなわけない、あれはあたしの妄想だったんだって。
でもそれって、爽太くんに対してすごく失礼なことをしていたのかもしれない。
ちゃんと気持ちを伝えてくれた爽太くんには、あたしもちゃんと返さなくちゃ、だよね。
「実はあたし、まだ誰かを好きになるっていう気持ちがよくわからなくて。だからね……ごめんなさい。爽太くんとはお付き合いできない」
「そっか……」
爽太くんが、目を伏せてぽそっと言った。
「……この前さ、兄ちゃんに聞かれたんだ。どうやったら他人とうまく付き合えるようになるのかって。今まで、そんなこと一度も気にした様子なんかなかったのに、急にどうしたんだろうね」
そう言いながら、爽太くんがあたしの方をちらっと見た。
「さ、さあ? 弟の爽太くんにわからないのに、あたしにわかるわけないよ」
あたしがそう言うと、「そっか」と爽太くんが小さくつぶやいた。
「そのときにね、『とりあえず、その眉間にシワ寄せるのはやめた方がいいよ。怒ってないのに、怒って見えるから』って言ったんだ。さっきのあれは、多分そのせい」
「えっ、あれ、怒ってないの?」
「うん。困ってるときやテレてるときに、表情に出さないようにしようとして思わずやっちゃうんだよ。家族は知ってるからいいけど、やっぱ怒ってるように見えちゃうよね」
「うんっ」
コクコクと何度も首をたてに振る。
そっか。あれは怒ってたわけじゃなかったんだ。
じゃあ、さっきのは……ひょっとしてテレてただけってこと?
なあんだ、そうだったんだ。
ホッとしてゆるんだ口元を、爽太くんに気づかれないように左手でそっと隠した。
「つまり、なにが言いたいかっていうと、兄ちゃんもがんばってんだから、僕ももっとがんばんなきゃってこと」
爽太くんが、あたしに向かってニッと笑った。
爽太くんは、そのままでもステキな人だと思うよ?
もちろん恋愛的な意味じゃないけど。
歳の近い兄弟って、ライバルみたいな感覚なのかなぁ?
あたしには歳の離れた弟妹しかいないから、なんだかちょっとうらやましい。
そんなことを考えていたら、「うーん、これじゃダメか……」と爽太くんがつぶやいた。
「うん、わかった。遥香ちゃんが好きって気持ちがわからないなら、僕がわからせてみせる。覚悟しといてよ」
明るくそう言い残すと、爽太くんはさっさと昇降口を出ていってしまった。
……なんか今、さらっとすごいことを言われたような気がするんですけど……?
「えぇっ!? ちょっと待っ……」
だいぶ遅れて、あたしの脳みそが爽太くんに言われたことを理解する。
だけど、あたしの声が爽太くんに届くことはなく、誰もいない昇降口の中にむなしく響いて消えた。
なんで??
どうして爽太くんがそこまで言ってくれるのか、全然わからないんですけど!?
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