ヒーラーガール!

西出あや

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1.危機一髪

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 う~ん、いいお天気!
 五月の大型連休明けの、最初の登校日。
 学校前の大通りで、信号待ちしながらふと見あげると、雲ひとつない快晴の空が広がっていた。
 なんだか今日は暑くなりそう。やっぱり、夏服にして正解だったみたい。
 白い半そでポロシャツの胸元には、わたし、篠崎しのざき若葉わかばの通うしらさぎ中学の校章の刺しゅうが入っていて、ライトグリーンのタータンチェックのスカートは、涼しげでわたしのお気に入り。
 ちなみに刺しゅうの色は学年色で、わたしたち一年生は緑色の刺しゅうが入ってるの。
 冬服から夏服に替わっただけだけど、なんだかちょっとだけドキドキしちゃう。
 でも、今日のわたしのドキドキは、実はそれだけじゃないんだ。
 今日から、お父さんたちが依頼した『あの人』がいるらしいんだけど……。
 ひょっとして、犬の散歩をしているあのおじさん?
 それとも、信号の向こう側でスマホをいじっているおばさんだったりして。
「なにもなければ直接顔を合わせることもないはずだから、若葉はいつも通り学校生活を送れば大丈夫よ」
 って、お母さんは言っていたけど……そんなこと言われたって、やっぱり気になるものは気になるよ。
 そんなことを考えながら、小さくため息をついた瞬間――。

 ドンッ!

 え……?
 うしろから誰かにおもいっきり突き飛ばされ、わたしが道路に飛び出したのに気づいた乗用車が、急ブレーキをかけるのと同時に、ハンドルを大きく右に切る。
 キュルキュルキュルキュル!
「若葉⁉ イヤーーーーッ‼」
 タイヤのこすれる甲高い音と、友だちのヒヨちゃんの悲鳴を聞きながら、わたしは意外と冷静に覚悟した。
 ――ああ、これで楽になれる。
 だけど次の瞬間、ぐいっと誰かに抱きかかえられるような感触。
 そしてそのまま、ドンッ! とふっ飛ばされた。
「うっ……」
 耳のすぐ横で低いうめき声がして、力強く抱きかかえられていた腕から力が抜けていく。
 ウソ……ダメ……待って……!
 あっちこっち痛いのを我慢して起きあがると、命の恩人の姿を確認する。
 わたしと同じ、しらさぎ中の制服を着た男の子だ。
 そして、視線をその男の子の頭の方へと向けた瞬間、ひゅっと息を呑む。
 大変……今すぐなんとかしなくっちゃ。
 震える両手に喝を入れ、頭の一番傷の深そうなあたりにかざす。
 おねがい……わたしなんかのために死なないで。
 おねがい……生きて……おねがい……!
「早く救急車を呼んでください!」
 その声にハッとして顔をあげると、隣のクラスの如月きさらぎしょうくんが、事故現場を偶然目撃して、ぼう然と突っ立っていたおばさんに指示を出していた。
「そ、そうね」
 手に持っていたスマホで、おばさんが電話をかけはじめる。
「若葉ちゃんも、じっとしていないと」
「ダメ。わたしがなんとかしないと、この人、死んじゃう……!」
 首を横に振りながらも、手は頭にかざしたまま。
「なんとかって……」
「なんとかできるから、なんとかするの。おねがいだから、邪魔しないで!」
 自分でもなにを言ってるのか、だんだんわからなくなってきちゃった。
 この能力のことは、誰にも知られちゃいけないのに。
 でも、そんなことを気にしている余裕なんか全然ない。
 わたしは、ただひたすらに彼の回復だけを祈り続けた。
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