ヒーラーガール!

西出あや

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2.聞いてない!

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 うぅっ、まただ。
 どこにいても、なんだか佐治くんの視線を感じる気がするんだよね……。
 やっぱり、あのときの女子がわたしだって気づいてる?
 どうしよう……絶対におかしいって思っているにちがいないよ。
 不安すぎて、もうじっとしていられない。
 音楽の授業の用意をまとめて胸に抱きかかえると、ヒヨちゃん――古賀こが日和ひよりちゃんの席へと足早に向かう。
 ヒヨちゃんは、背が高くてショートカットの元気な女の子。小学校のときから一番仲のいいお友だちなんだ。
 小五のときにこの街に引っ越してきて、不安でいっぱいだった転校初日に、「困ったことがあったら、なんでも聞いてね」って笑顔で言ってくれたのが、ヒヨちゃんだったの。
 これまでも何度か転校したことがあったんだけど、全然クラスになじめなくて、ずっとぼっちですごしていたこともあった。
 だからね、そうやって声をかけてくれて、あのときは本当にうれしかったんだ。
 ヒヨちゃんは、まだ自分の席で音楽の教科書やリコーダーの準備中。
「ひ、ヒヨちゃん」
 ヒヨちゃんのポロシャツの袖を遠慮がちにきゅっとつかむと、ヒヨちゃんは手を止めてわたしの顔を見あげた。
「若葉。どうしたの?」
 わたしの様子がおかしいのに気づいたのか、心配そうな瞳を向けてくる。
「あ、ご、ごめんね。えっと……一緒に音楽室、行こ」
「うん。今用意してるから、ちょっと待ってて」
 そうしている間も、ずっと佐治くんの強い視線を感じる。
 いつ声をかけてくるかと思うと、なんだか落ち着かない。
 もし、みんなの前で昨日のことを聞かれたりしたら……。
「やっぱりわたし、急用を思い出したから、先に行くね。ごめんね、ヒヨちゃん!」
「え、急用ってなに? あたしも一緒に行こっか?」
「ううん、大丈夫!」
 佐治くんが来る前に、早く行っちゃおう。
 急いで教室を出ると、小走りで廊下を進み、渡り廊下を通って特別教室のある南校舎へ。
 そして階段を駆けあがり、一直線で三階にある音楽室を目指す。
「ひゃっ!」
 廊下を走って、あと少しで校舎の突き当りにある音楽室……というところで、誰かに手首をがしっとつかまれ、思わず小さく悲鳴をあげる。
 振り返らなくても、誰だかわかる。
 知らんぷりして手を振りほどこうとしたんだけど……え、ちょっと待って。ビクともしないんだけど⁉
「な、なに、佐治くん?」
 諦めておそるおそるうしろを振り向くと、案の定、無表情の佐治くんが立っていた。
「あっちで少し話がしたいんだけど」
 佐治くんが、さっき駆けあがってきたのとは別の階段の上の方を指さす。
 他の人に聞かれちゃマズい話……ってことだよね。
「わかった」
 わたしが小さくうなずくと、佐治くんはわたしから手を離し、階段をのぼりはじめた。
 そのうしろを、黙ってついてのぼっていく。
 生徒数が減って、今はほとんど使われることのない第二音楽室と第二美術室しかない四階は、人の気配がまったくなく、ナイショ話にはピッタリの場所だ。
 わたしにとっては、逃げ場がない、とも言えるけど。
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