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5.応援団
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「ムリです」
その日の学活の時間。佐治くんの断固とした拒絶の声が、教室内に響く。
「いや、『ムリです』じゃなくてさ。普通、推薦されたらやらなきゃいけないんだって」
「そういうものなのか?」
佐治くんが、隣の席の須田くんの方を向いたまま、しばらくの間考え込む。
「……でも、すみません。忙しくて、放課後の練習には出られないと思うので。誰か他の人にしてもらえませんか?」
「えーっ、佐治くんの応援団姿見たかったのにぃ」
「絶対カッコいいのにねー」
佐治くんを推した女子の不満げな声が聞こえてくる。
ところで、今なにをしているのかというと、六月のはじめに行われる体育祭の、応援団の団員決めをしているところなの。
立候補者がいなくて、今、佐治くんが推薦されたんだ。
本当は、わたしもちょっと見てみたいなって思ってたんだよね、佐治くんの応援団姿。
この前、先生が昨年のビデオを見せてくれたんだけど、みんなで黒い法被を着て、ロックソーランを踊るの。めちゃくちゃカッコいいんだから!
「それじゃあ、もう一日待ってみるか。もし迷ってるヤツがいれば、決心固めて来い。明日、もう一度みんなに聞くからなー」
そうして団員が決まらないまま、今日の学活の時間は終了した。
「ねえ、佐治くん!」
自宅マンションのエントランスを入ろうとして、ぴたりと足を止めると、少し離れたところにいる佐治くんに向かって大きな声で呼びかけた。
「どうした?」
「あのさっ。もしわたしが応援団の練習の間、図書室で待ってるって言ったら……応援団、やれるんじゃない?」
「そこまでして、やる理由がない。それに本番当日は、怪しまれることなく、学校外の人間の出入りが可能になる。そんな危険な状況で、できるだけ篠崎を一人にしたくない」
「だったらわたし、本番は一人にならないように気をつけるから。ほら、木を隠すなら森の中っていうじゃない? だから、うまくみんなの中に隠れとくからさ。そしたら佐治くん、応援団できるんじゃない?」
「だから、どうしてそこまでして俺がやらなくちゃいけないんだ?」
そんなふうに言われると、すっごく困るんだけど……。
「応援団の演舞ってね、みんなの息がピッタリ合ってて、すっごくカッコいいの! だから、どうしてもやりたくないってわけじゃなかったら、佐治くんがやってるとこを、見てみたいなーって……じゃなくて、みんながね⁉ 佐治くんがやってるとこを見たいって思ってるんじゃないかなーって思って」
うわわっ、思わず本音が出ちゃったよ。
慌てて取り消しながら、ちらっと佐治くんの方を盗み見る。
「篠崎も、俺の演舞を見たいと思ってるのか?」
「いや、だから、わたしじゃなくて、みんなが……。ごめんね。もう忘れてくれていいから。こんなこと言われたって、迷惑だよね」
そうだよ。わたしのワガママで、佐治くんを振り回すわけにはいかないもんね。
それに、佐治くんはボディガードの仕事をきっちりやってくれようとしているんだから、これ以上ありがたい話はない。
「そうだな。やはりやる理由がどこにも見当たらない。明日もう一度きちんと断ることにするよ」
そう言い残して歩きだそうとする佐治くんに、思わずたたっと駆け寄ると、佐治くんのカバンの紐をぎゅっと握りしめた。
「どうした?」
佐治くんが、立ち止まって、わたしの方を振り返る。
「いや、えっと、その…………ううん。本当は、見たいって思ってる……わたしもっ」
心臓がバクバクする。
こんなワガママ言っちゃダメだってわかってるのに、どうしても止められなかった。
だって、佐治くんがみんなとおそろいの法被を着て踊ってるところなんて、絶対カッコいいにちがいないもん。
それに、ボディガードなんて危険な仕事をしてはいるけど、佐治くんだって本物の中学生なんだから、みんなと同じように、楽しい思い出を作ってほしいなって思う。
「そうか。わかった。考えておく。……わかったから、早く家に入れ」
「あ、そ、そうだよね。じゃなきゃ佐治くん、帰れないんだもんね。ごめんね!」
わたしが慌ててマンションのエントランスまで戻ったのを確認すると、佐治くんは振り返ることなく、帰っていった。
「ムリです」
その日の学活の時間。佐治くんの断固とした拒絶の声が、教室内に響く。
「いや、『ムリです』じゃなくてさ。普通、推薦されたらやらなきゃいけないんだって」
「そういうものなのか?」
佐治くんが、隣の席の須田くんの方を向いたまま、しばらくの間考え込む。
「……でも、すみません。忙しくて、放課後の練習には出られないと思うので。誰か他の人にしてもらえませんか?」
「えーっ、佐治くんの応援団姿見たかったのにぃ」
「絶対カッコいいのにねー」
佐治くんを推した女子の不満げな声が聞こえてくる。
ところで、今なにをしているのかというと、六月のはじめに行われる体育祭の、応援団の団員決めをしているところなの。
立候補者がいなくて、今、佐治くんが推薦されたんだ。
本当は、わたしもちょっと見てみたいなって思ってたんだよね、佐治くんの応援団姿。
この前、先生が昨年のビデオを見せてくれたんだけど、みんなで黒い法被を着て、ロックソーランを踊るの。めちゃくちゃカッコいいんだから!
「それじゃあ、もう一日待ってみるか。もし迷ってるヤツがいれば、決心固めて来い。明日、もう一度みんなに聞くからなー」
そうして団員が決まらないまま、今日の学活の時間は終了した。
「ねえ、佐治くん!」
自宅マンションのエントランスを入ろうとして、ぴたりと足を止めると、少し離れたところにいる佐治くんに向かって大きな声で呼びかけた。
「どうした?」
「あのさっ。もしわたしが応援団の練習の間、図書室で待ってるって言ったら……応援団、やれるんじゃない?」
「そこまでして、やる理由がない。それに本番当日は、怪しまれることなく、学校外の人間の出入りが可能になる。そんな危険な状況で、できるだけ篠崎を一人にしたくない」
「だったらわたし、本番は一人にならないように気をつけるから。ほら、木を隠すなら森の中っていうじゃない? だから、うまくみんなの中に隠れとくからさ。そしたら佐治くん、応援団できるんじゃない?」
「だから、どうしてそこまでして俺がやらなくちゃいけないんだ?」
そんなふうに言われると、すっごく困るんだけど……。
「応援団の演舞ってね、みんなの息がピッタリ合ってて、すっごくカッコいいの! だから、どうしてもやりたくないってわけじゃなかったら、佐治くんがやってるとこを、見てみたいなーって……じゃなくて、みんながね⁉ 佐治くんがやってるとこを見たいって思ってるんじゃないかなーって思って」
うわわっ、思わず本音が出ちゃったよ。
慌てて取り消しながら、ちらっと佐治くんの方を盗み見る。
「篠崎も、俺の演舞を見たいと思ってるのか?」
「いや、だから、わたしじゃなくて、みんなが……。ごめんね。もう忘れてくれていいから。こんなこと言われたって、迷惑だよね」
そうだよ。わたしのワガママで、佐治くんを振り回すわけにはいかないもんね。
それに、佐治くんはボディガードの仕事をきっちりやってくれようとしているんだから、これ以上ありがたい話はない。
「そうだな。やはりやる理由がどこにも見当たらない。明日もう一度きちんと断ることにするよ」
そう言い残して歩きだそうとする佐治くんに、思わずたたっと駆け寄ると、佐治くんのカバンの紐をぎゅっと握りしめた。
「どうした?」
佐治くんが、立ち止まって、わたしの方を振り返る。
「いや、えっと、その…………ううん。本当は、見たいって思ってる……わたしもっ」
心臓がバクバクする。
こんなワガママ言っちゃダメだってわかってるのに、どうしても止められなかった。
だって、佐治くんがみんなとおそろいの法被を着て踊ってるところなんて、絶対カッコいいにちがいないもん。
それに、ボディガードなんて危険な仕事をしてはいるけど、佐治くんだって本物の中学生なんだから、みんなと同じように、楽しい思い出を作ってほしいなって思う。
「そうか。わかった。考えておく。……わかったから、早く家に入れ」
「あ、そ、そうだよね。じゃなきゃ佐治くん、帰れないんだもんね。ごめんね!」
わたしが慌ててマンションのエントランスまで戻ったのを確認すると、佐治くんは振り返ることなく、帰っていった。
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