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「おはよう、若葉ちゃん」
翌朝、マンションの前で待っていたのは、笑顔の翔くんだった。
なんで? 佐治くんは?
佐治くん、昨日は『途中で投げ出したりしない』って、言ってたよね?
「おはよう、翔くん。あの……佐治くん、ひょっとして今日はお休み? 風邪でもひいちゃったのかなぁ?」
動揺を必死に隠して翔くんに笑顔でたずねると、翔くんが首をかしげる。
「さあ? どうしたんだろうね? 『これは、俺の仕事だ』なんて言っておきながらすっぽかすなんて、最低だね」
そんなはずない。佐治くんが、なんの理由もなくそんなことをするはずがないよ。
まさか佐治くん、なんらかの事件か事故に巻き込まれたわけじゃないよね?
胸の中に、不安がむくむくと膨らんでくる。
「ということで、今日から若葉ちゃんの送迎は、僕が責任を持ってやらせてもらうから。よろしくね」
「え、でも佐治くんが……」
と、そのとき。遠くの方からたったったったっと全力で駆ける足音が近づいてきているのに気がついた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……よくもやってくれたな、おまえ」
マンションの前にたどり着いた佐治くんが、膝に手を当てて呼吸を整えると、キッと翔くんをにらみあげる。
「え? なんのこと?」
「どう考えたって、アレはおまえの仕業だろ」
あくまでも笑顔を崩さない翔くんに、佐治くんが地を這うような低い声で言う。
ごごごごごっと佐治くんの背後で怒りの炎が燃えあがるのが見えそうだよ。
理由はわからないけど、なんだかめちゃくちゃ怒ってるみたい。
「なあんだ、バレちゃった? それにしても、意外と早かったね。これは訓練だよ。もし本当にそういうことが起こったら、どう対処するかのね」
「玄関ドアのカギの内部をねじ曲げるなんて、どう考えたっておまえ以外にできるヤツいねえだろ!」
珍しく声を荒らげながら、佐治くんが翔くんの胸倉をつかむ。
「俺の方でも、如月のことは調べさせてもらった。こいつの言うことは簡単に信用するな、篠崎」
「へえ、君に僕たちのことを悪く言う権利ある? 人の記憶をいじるよりは、マシだと思うけど?」
佐治くんがハッとした顔をしたあと、苦々しげにゆがめ、ぱっと手を離す。
記憶? どういうことだろう?
ひょっとして、みんながあの事故のことを覚えてないのって、佐治くんのせいってこと?
でも佐治くんの能力は……。
「悪いけど、全部思い出したから。まあ、若葉ちゃんを守るためにやったことなんだろうから、許してあげるけどね」
襟元を正しながら翔くんが言う。
「若葉ちゃんのことは、今まで僕が密かに守ってきたんだよ。あとから来たクセに、ちょっとでしゃばりすぎじゃない?」
「ちょっと待って。ひょっとして翔くん、わたしの能力のこと、前から知ってたの?」
「ごめんね、黙ってて。実は、前に若葉ちゃんがハトのケガを治してあげているところを見ちゃったんだ」
「あ、あのとき⁉ わたしが引っ越してきて、すぐの頃のことだよね? 見られてたなんて、全然気づかなかったよ」
「みんなに優しいところが君の一番のいいところだけど、もうちょっと周囲には警戒した方がいいと思うよ」
翔くんが、苦笑いする。
「本当だね。ごめんなさい」
翌朝、マンションの前で待っていたのは、笑顔の翔くんだった。
なんで? 佐治くんは?
佐治くん、昨日は『途中で投げ出したりしない』って、言ってたよね?
「おはよう、翔くん。あの……佐治くん、ひょっとして今日はお休み? 風邪でもひいちゃったのかなぁ?」
動揺を必死に隠して翔くんに笑顔でたずねると、翔くんが首をかしげる。
「さあ? どうしたんだろうね? 『これは、俺の仕事だ』なんて言っておきながらすっぽかすなんて、最低だね」
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「え、でも佐治くんが……」
と、そのとき。遠くの方からたったったったっと全力で駆ける足音が近づいてきているのに気がついた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……よくもやってくれたな、おまえ」
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「え? なんのこと?」
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あくまでも笑顔を崩さない翔くんに、佐治くんが地を這うような低い声で言う。
ごごごごごっと佐治くんの背後で怒りの炎が燃えあがるのが見えそうだよ。
理由はわからないけど、なんだかめちゃくちゃ怒ってるみたい。
「なあんだ、バレちゃった? それにしても、意外と早かったね。これは訓練だよ。もし本当にそういうことが起こったら、どう対処するかのね」
「玄関ドアのカギの内部をねじ曲げるなんて、どう考えたっておまえ以外にできるヤツいねえだろ!」
珍しく声を荒らげながら、佐治くんが翔くんの胸倉をつかむ。
「俺の方でも、如月のことは調べさせてもらった。こいつの言うことは簡単に信用するな、篠崎」
「へえ、君に僕たちのことを悪く言う権利ある? 人の記憶をいじるよりは、マシだと思うけど?」
佐治くんがハッとした顔をしたあと、苦々しげにゆがめ、ぱっと手を離す。
記憶? どういうことだろう?
ひょっとして、みんながあの事故のことを覚えてないのって、佐治くんのせいってこと?
でも佐治くんの能力は……。
「悪いけど、全部思い出したから。まあ、若葉ちゃんを守るためにやったことなんだろうから、許してあげるけどね」
襟元を正しながら翔くんが言う。
「若葉ちゃんのことは、今まで僕が密かに守ってきたんだよ。あとから来たクセに、ちょっとでしゃばりすぎじゃない?」
「ちょっと待って。ひょっとして翔くん、わたしの能力のこと、前から知ってたの?」
「ごめんね、黙ってて。実は、前に若葉ちゃんがハトのケガを治してあげているところを見ちゃったんだ」
「あ、あのとき⁉ わたしが引っ越してきて、すぐの頃のことだよね? 見られてたなんて、全然気づかなかったよ」
「みんなに優しいところが君の一番のいいところだけど、もうちょっと周囲には警戒した方がいいと思うよ」
翔くんが、苦笑いする。
「本当だね。ごめんなさい」
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