異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ

文字の大きさ
41 / 182

第41話 当然の報い。ざまあみろ、だ

しおりを挟む
「そろそろ出てきてもいい頃だけど……」

 あれから数時間ほど。

 おれたちはまず、美幸たちを自宅へ送り届けて休んでもらった。

 役所でもらってきた離婚届には、必要事項を記入済みだ。あとは相手のサインと印鑑があれば提出できる。

 やつが出てくるのを待つ間、おれとフィリアは迷宮ダンジョン前に置いた長机に着いて、アイテムや情報を求める人たちの相手をしていた。

「一条くん」

 やがて暗くなって客足も途絶えた頃、美幸が戻ってきた。

「美幸さん……。あとはおれたちに任せて、休んでていいのに」

「うぅん、あの人がどうなるのか、ちゃんと自分の目で見ないと安心できないから。また心配かけちゃうけど、いさせて欲しいの」

「美里ちゃんは平気なんですか?」

「うん、紗夜ちゃんが見ててくれてるわ。相談したら、元気よく『行ってきてください』って」

「それなら……そうですね。美幸さんには見届ける権利があります」

「ありがとう。でも一条くん、あの人は結局どうなるの? 渡した魔物モンスター除けになにか入れてたけど、それと関係あるの?」

「ええ、あのとき入れたのは、とある魔物モンスターを引き寄せる、いわゆる誘引剤なんですよ」

「とある魔物モンスター? それって――」

 そのとき迷宮ダンジョンから人影が現れる。あの男だ。

 その姿を見て、美幸は身を縮こませる。

 だがその男は、美幸と目が合ったのに興味を示さない。まるで別人のように落ち着いた様子で歩いてくる。

「あぁ、美幸、こんなとこにいたのか……」

 おれは立ち上がり、男と向かい合う。

「騙して悪かったな。美幸さんには隠れてもらっていた」

「いや、そんなこといい。それよりお前、いいやつだったんだなぁ!」

 男は満面に笑みでおれの肩を叩く。

 その表情があまりに不気味だったのだろう。フィリアも美幸もぶるりと体を震わせた。

「ありがとよ! あんな絶世の美女を紹介してくれて!」

「礼はいいよ。相手が勝手にあんたに惚れただけさ」

「そうか? はははっ、人生わかんねえもんだな……こんなとこで、こんな最高の出会いがあるなんてよぉ!」

「それより、その人と付き合うなら美幸さんとは別れておいたほうがいいんじゃないか?」

「それもそうだ! このままじゃ結婚できねえ!」

 男は左薬指の指輪をあっさり外して、長机の上に置いた。

「美幸、悪いな。別れてくれ」

 キョトンとする美幸の横から、おれは離婚届を差し出した。

「そう来ると思って用意しておいた。あんたはサインしてハンコを押すだけでいい」

「おお、助かるぜ。今はハンコがねえからよ、明日にでも書いて持ってくるぜ。ちょっと待っててくれよな」

 離婚届を受け取ると、男は上機嫌に去っていった。金網を乗り越え、有刺鉄線に傷つけられても笑っている。本当に幸せそうだ。

 その背中を、フィリアも美幸も呆然と見送った。

「一条様、これはやはり……」

「そうだよ、あれがドリームアイに取り憑かれた人間の姿だ」

「それってあの、前に一条くんが言ってた、理想の相手との幸せな夢を見せるっていう魔物モンスター?」

「そう、ドリームアイが死なない限り、あいつは現実に戻ってこない。永遠に」


   ◇


 翌朝、待っていると男は嬉々としてやってきた。

 サインと押印のなされた離婚届を美幸に手渡し、迷宮ダンジョンへ入ろうとする。

 そこに立ち塞がる者がいた。スーツをスマートに着こなす政府のエージェント、津田丈二だ。おれが連絡して来てもらった。

「おい、なんだよ! なんで邪魔すんだよ!」

「あなたがライセンスをお持ちでないからですよ。迷宮ダンジョンは危険です。命を落とします」

「いやオレは魔物モンスター除けがあるから平気なんだよ! それによぉ、恋人を待たせてんだ、一秒も遅刻できねえ!」

「従わないなら、あなたを逮捕させます。恋人を、長い時間待たせることになりますよ?」

「そ、それは勘弁してくれ! 頼む――いや、お願いします! 行かせてください、お願いします!」

 男は地面に這いつくばって地面に額をこすりつけた。

 他の冒険者たちが奇異の目を向ける。あの凶暴だった男が、なんとも惨めな姿だ。

 丈二はちらりとおれに瞳を向ける。小さく笑んで頷きを返す。

「そこまで言うなら今日だけは見逃しましょう。いいですか、今日だけですよ」

「ありがてえ! けどよ、今日だけなんて困る! なんとかしてくれよぉ!」

「その恋人を連れ出してくればいいではないですか」

 言われて初めて気づいたのか、男はハッと顔を上げる。

「そうする! 連れてくる!」

「しかし、あなたは無職でしょう? 養っていくアテはありますか?」

「それは……いや、愛がありゃなんとかなるだろ!?」

「よろしい、その言葉をお聞きしたかった。私のほうであなたの仕事と住む場所を用意いたしましょう」

「いいのか!?」

「ええ、あなたは特別なのです。我々は、あなたたちに興味があるのです」

「ありがとう、ありがとう!」

 丈二が道を開けると、男は何度も礼を言いながら迷宮ダンジョンへ駆けていった。

 それから丈二は、おれのほうにやってきた。

「貴重な研究サンプルの提供、ありがとうございます」

「こちらこそ、ご協力ありがとう」

 おれは丈二に、生きたドリームアイと、それに取り憑かれた者を提供すると約束したのだ。見返りは、やつが二度と美幸の視界に入らないようにすること。

 これからあの男は、連れ帰ったドリームアイと共に、死がふたりを分かつまで、島内の研究施設に監禁されることだろう。

 ドリームアイとの性の営みも含め、あらゆる生活を監視されるだろう。ドリームアイからも干渉され、搾取され続けるだろう。本人も知らぬ間に、自由も尊厳も失っていくのだ。

 そこに一切の暴力はないが、ある意味、暴力より遥かに残酷な仕打ちかもしれない。

 だが、やつが美幸にしていたことを思えば、当然の報い。ざまあみろ、だ。

「ありがとう、一条くん。フィリアちゃんも……」

「はい。これで末柄様は安泰です」

「でも私たちのために、大金まで使わせちゃってごめんなさい……」

「え……末柄様、なぜそのことを?」

 おれたちはその件を美幸に話していない。きっと気に病むと思ったから。

「あれ? ふたりこそ、まだ知らない? 一条くんがみんなの前で演説してたの、動画で見たんだけど?」

 美幸はスマホを操作して、その動画を見せてくれる。

 それは以前のグリフィン退治の動画と同じく、ライブ配信されていた動画のアーカイブだった。タイトルは『結成!? 冒険者ギルド』とある。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

スキル『レベル1固定』は最強チートだけど、俺はステータスウィンドウで無双する

うーぱー
ファンタジー
アーサーはハズレスキル『レベル1固定』を授かったため、家を追放されてしまう。 そして、ショック死してしまう。 その体に転成した主人公は、とりあえず、目の前にいた弟を腹パンざまぁ。 屋敷を逃げ出すのであった――。 ハズレスキル扱いされるが『レベル1固定』は他人のレベルを1に落とせるから、ツヨツヨだった。 スキルを活かしてアーサーは大活躍する……はず。

処理中です...