異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ

文字の大きさ
80 / 182

第80話 それで満足かって聞いてんだよ!

しおりを挟む
 総勢8名ほどの半下級吸血鬼は、こちらを取り囲むように広がっていく。

 対し、吾郎は背負ってきていたショットガンを構えた。手近な半下級吸血鬼に躊躇いなくズドン! と発砲。

 その半下級吸血鬼は、容易く吹っ飛んだ。苦悶の表情を浮かべつつ上半身を起こすが、吾郎は容赦なく第2射を顔面に発射した。

 今度こそ倒れて動かなくなる。

「へっ、思った通りだぜ。まだ変わってる途中ならよ、魔素マナの保護も半端なはずだ。普通の武器でも効くぜ」

「吾郎さん、今のはゴム弾か?」

「ああ、殺す気はねえからな。けどよ、これでわかったろう? 銃が効くなら、こっちが有利だ。気にせず先に行け!」

「わかった、任せる!」

 おれはその場を強行突破しようと走り出す。

「先生、逃げないでください! あたしにやられてください!」

 素早い動きで紗夜が立ち塞がる。レベル2の動きじゃない。吸血鬼ヴァンパイア化の進行が、能力が向上させているのだ。

 再び魔法攻撃。火球が勢いよく飛んでくる。ダメージ覚悟で、両腕を防御に回して突進する。

 が、火球はおれには当たらなかった。駆けてきた結衣が、盾で防いでくれたのだ。

「紗夜ちゃんは、ユイが抑えます!」

「頼む!」

「邪魔しないでよ、結衣ちゃん!」

「ユイがわかるの? だったら話を聞いて!」

 そんな会話を背に、おれは加速して、その場を駆け抜けていく。

 走りながらトランシーバーで丈二に連絡。

「丈二さん、待ち伏せだ。結衣ちゃんと吾郎さんが引き受けてくれてるから、そこは避けて進んでくれ。おれも先行する」

『了解しました。待ち伏せは、やはり吸血鬼ヴァンパイアですか?』

「ああ、さらわれたみんなだ。他は下級だけど、紗夜ちゃんだけは上級吸血鬼になりかけてる。フィリアさんはいなかった」

『フィリアさんも心配ですが……今井さんと武田さんで、上級を含む多数を抑えられるのですか』

「信じるしかない。おれたちが急げば、ふたりの助けにもなる」

『わかりました。目の前のことに集中します』

 ダスティンの屋敷は、もう目の前だった。


   ◇


「かかってきやがれ半端もんども! てめえらの相手はオレひとりで充分だ!」

 吾郎は多数の半下級吸血鬼を相手に、大声で煽りながら奮戦していた。

 紗夜の相手をする結衣の背中を守る意図もある。

 一応、超音波発生器も使っているが、半下級吸血鬼はまだ視力が退化しておらず、その認識を阻害するには至らないらしい。

 それはそれで仕方ない。銃で効くだけでも充分だ。

 最初のひとりこそショットガン2発だったが、急所に直撃させれば1発で倒せる。とはいえ、相手は吸血鬼化で強化された連中だ。身体能力に勝る相手に同時に攻められては、命中させることさえ一苦労だ。

 それでも、敢えて接近戦を挑むことで無理矢理命中率を上げる。

 その甲斐あって、さらに3人の半下級吸血鬼を無力化した。

 ショットガンは弾切れ。すぐリロードを始めるが、その途中で急接近した半下級吸血鬼にショットガンを弾き飛ばされてしまう。

 鋭く伸びた爪を振り上げる半下級吸血鬼だが、吾郎はそれより早く左拳をそいつの顔面に叩き込んだ。怯んだ隙に、右手で拳銃を抜く。こちらにもゴム弾を装填済み。頭部へ乱射して、気絶まで追い込む。

 あと3人。

 今度は背後から襲われた。羽交い締めにされ、身動きできない。生ぬるい呼気が首筋に近づく。吸血されそうだ。そうはさせぬと、吾郎は魔力を集中させた両手を背後へ回す。

 基礎中の基礎。着火魔法だ。

 ライターより少し強い程度の火だが、それでも火傷するし、着ている服は炎上する。

 奇声を上げて離れる半下級吸血鬼に対し、すぐ振り返って前蹴り。仰向けに倒れた半下級吸血鬼は地面を転がって消火する。そこに拳銃の残弾すべてをぶち込み、無力化した。

 残ったふたりは、吾郎のパーティメンバーだ。

 積極的に攻めてこないのは、彼らが吾郎に苦手意識を持っているからかもしれない。

 敵意を見せ、牙を剥いて「かぁああ!」と威嚇の声を上げる。

「なにが『かー』だ。クソが……」

 でも逃げられるよりはマシか……とも思う。

「おいチャラ男に無気力……いや、沢渡に城島。お前ら、それでいいのかよ?」

 弾の切れた拳銃を捨てる。残る武器は剣のみ。それは抜かない。殺す気はない。

 拳を握りしめて、ふたりに近づいていく。

「しゃぁああ――ッ!」

「『しゃー』じゃねえ! それで満足かって聞いてんだよ!」

 牙を剥いて向かってきた沢渡に、カウンターで顔面に拳を叩き込む。

「なあ沢渡、ビッグになるんじゃなかったのか? どうなんだ!?」

 怯んだ沢渡の顔面を何度も殴りつける。

 倒れはせず、押し返してくる。

 渾身の一撃を繰り出そうと拳を大きく振り上げるが、その腕はもうひとり――城島に掴まれた。強力な腕力で引かれたかと思うと、鋭い痛みが走る。

 噛みつかれ、血を吸われている。

 吾郎は即座に頭突きをぶちかました。

 城島の牙が腕から外れる。吾郎はすぐバックステップで距離を取った。

 傷の具合を確かめる。深手ではないが、確か下級吸血鬼には毒があったはず。丈二からは、製造に間に合った唯一の解毒剤を預かっているが、今は使っている場合じゃない。

「お前もだ、城島。上級吸血鬼ってやつの手下になって、それで満足なのかよ! ふたりとも、どうなんだよ!?」

 虚ろだった目に、わずかな光が灯る。

 沢渡の口が、ゆっくりと動き出す。

「……き、吸血鬼って……すげぇじゃねえっすか。誰より特別で、みんな支配できて……すげえビッグじゃねえっすか……」

「かもな……。そうなりてえってのは、否定しねえよ」

「じゃあ、なんで邪魔すんすか……。何者にもなれないおっさんが、嫉妬してんすか」

「お前が騙されてなきゃ、何も言わねえよ」

「は……?」

「ビッグになりてえなら、少しは自分を客観的に見やがれ! 雑魚魔物モンスターにされてんのもわかんねえのか!?」

「雑魚……?」

 沢渡はあちこちで倒れている半下級吸血鬼たちを見渡した。表情に混乱が滲んでいく。

「城島も! 上下関係が嫌だって言ってたくせに、命令を効くだけのパシリでいいのかよ!?」

 城島もまた戸惑い、自分の姿を確認して困惑を強めていく。

「でも……あの人が言うから……あの人が正しいから――ァアア!」

 城島が苦しみの叫びを上げると、呼応するように沢渡も叫んだ。

「そうだ、正しいんだ。俺はビッグに――ガァア!」

 ふたりの意識は再び支配される。

 吾郎にはそれが、現実逃避のようにしか見えなかった。

 かつて自分がしていたように。

「バカヤロウどもが……ッ!」
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。

あけちともあき
ファンタジー
「宮廷道化師オーギュスト、お前はクビだ」  長い間、マールイ王国に仕え、平和を維持するために尽力してきた道化師オーギュスト。  だが、彼はその活躍を妬んだ大臣ガルフスの陰謀によって職を解かれ、追放されてしまう。  困ったオーギュストは、手っ取り早く金を手に入れて生活を安定させるべく、冒険者になろうとする。  長い道化師生活で身につけた、数々の技術系スキル、知識系スキル、そしてコネクション。  それはどんな難関も突破し、どんな謎も明らかにする。  その活躍は、まさに万能!  死神と呼ばれた凄腕の女戦士を相棒に、オーギュストはあっという間に、冒険者たちの中から頭角を現し、成り上がっていく。  一方、国の要であったオーギュストを失ったマールイ王国。  大臣一派は次々と問題を起こし、あるいは起こる事態に対応ができない。  その方法も、人脈も、全てオーギュストが担当していたのだ。  かくしてマールイ王国は傾き、転げ落ちていく。 目次 連載中 全21話 2021年2月17日 23:39 更新

(更新終了) 採集家少女は採集家の地位を向上させたい ~公開予定のない無双動画でバズりましたが、好都合なのでこのまま配信を続けます~

にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
突然世界中にダンジョンが現れた。 人々はその存在に恐怖を覚えながらも、その未知なる存在に夢を馳せた。 それからおよそ20年。 ダンジョンという存在は完全にとは言わないものの、早い速度で世界に馴染んでいった。 ダンジョンに関する法律が生まれ、企業が生まれ、ダンジョンを探索することを生業にする者も多く生まれた。 そんな中、ダンジョンの中で獲れる素材を集めることを生業として生活する少女の存在があった。 ダンジョンにかかわる職業の中で花形なのは探求者(シーカー)。ダンジョンの最奥を目指し、日々ダンジョンに住まうモンスターと戦いを繰り広げている存在だ。 次点は、技術者(メイカー)。ダンジョンから持ち出された素材を使い、新たな道具や生活に使える便利なものを作り出す存在。 そして一番目立たない存在である、採集者(コレクター)。 ダンジョンに存在する素材を拾い集め、時にはモンスターから採取する存在。正直、見た目が地味で功績としても目立たない存在のため、あまり日の目を見ない。しかし、ダンジョン探索には欠かせない縁の下の力持ち的存在。 採集者はなくてはならない存在ではある。しかし、探求者のように表立てって輝かしい功績が生まれるのは珍しく、技術者のように人々に影響のある仕事でもない。そんな採集者はあまりいいイメージを持たれることはなかった。 しかし、少女はそんな状況を不満に思いつつも、己の気の赴くままにダンジョンの素材を集め続ける。 そんな感じで活動していた少女だったが、ギルドからの依頼で不穏な動きをしている探求者とダンジョンに潜ることに。 そして何かあったときに証拠になるように事前に非公開設定でこっそりと動画を撮り始めて。 しかし、その配信をする際に設定を失敗していて、通常公開になっていた。 そんなこともつゆ知らず、悪質探求者たちにモンスターを擦り付けられてしまう。 本来であれば絶望的な状況なのだが、少女は動揺することもあせるようなこともなく迫りくるモンスターと対峙した。 そうして始まった少女による蹂躙劇。 明らかに見た目の年齢に見合わない解体技術に阿鼻叫喚のコメントと、ただの作り物だと断定しアンチ化したコメント、純粋に好意的なコメントであふれかえる配信画面。 こうして少女によって、世間の採取家の認識が塗り替えられていく、ような、ないような…… ※カクヨムにて先行公開しています。

ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ

高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。 タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。 ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。 本編完結済み。 外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...