異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ

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第102話 インターネットください!

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「くっくっくっ、さあさ奥へ来ようねぇ~」

「やっ、引きずらないでくださいぃっ」

 ミリアムによって、フィリアが武器屋の奥へと引きずり込まれていく。

「ま、まてー。おれのフィリアさんをどうするつもりだー」

 おれも、なんとなくついていく。

 敬介は苦笑しつつ店番を続けるのみだった。

「ていやーっ」

 店の奥にある生活スペース――六畳間にフィリアは放り出される。うつ伏せになったところを、すかさずミリアムが乗っかった。

「なにをなさるのですなにをなさるのですっ!」

 じたばたと逃れようとするフィリアの背中に、ミリアムが親指を押し付ける。

「いっ、あ! やんっ、痛いっ、痛いですミリアム様ぁ!」

「ふふふ、フィリア。ずいぶん凝ってるじゃ~ん? これはやり甲斐がありそう。いい声で鳴いてよねぇ~!」

「はっ、やぁん! いたっ、あっ、あぅぅん……っ」

「どうだぁ~? ここかぁ~、ここがええんか~っ?」

「は、はい……あっ、痛い……けど、気持ちいい、ですぅ……」

 なんだろう。特にいやらしくもない、健全な指圧風景のはずなのに妙にドキドキする。痛みと快感にとろけたフィリアの顔が、やけに煽情的だ。

「じゃあ次は足ツボだぁ! 覚悟ぉ!」

「はうんっ!? 痛いです痛いです痛いです!」

「あっはっはっ、悶えるがいい~!」

「あぁあ~っ!」

 ミリアムの蛮行は、数十分にも渡っておこなわれた。

「……はー……ふぅー……」

 ひとしきりいじくり回されたフィリアは、服や髪を乱したまま畳に突っ伏していた。顔は真っ赤で、目尻には涙。目をつむったまま艶っぽい息遣い。

「ふー、満足満足っ」

 一方のミリアムはしっかり発散できたらしく、にこやかだった。

「相手に怪我をさせずに悶えさせ、でも結局体には良いから文句は言われにくい……。ゆえに、もうセクハラなんて言われない! これがミリアム式指圧術!」

 輝かしいドヤ顔である。

 おれはミリアムに握手を求めた。

「ミリアムさん、いいものを見せてもらったよ。ありがとう」

 ガシッとミリアムは応えてくれる。

「でしょ~」

「うぅう……なにがいいものですか……。助けてくださいませんでしたしっ、タクト様もわたくしと同じ痛みを味わってくださいっ!」

「へっ」

 フィリアに恨めしそうに見上げられた。それに気を取られた瞬間、ミリアムに足を払われる。畳に尻もちをついたおれの足に、フィリアが這い寄ってくる。

 ワキワキと指を怪しく動かしながら、フィリアが迫る。

「さあツボを押しますよ~、痛いですよ~」

 足ツボを指圧されるのはちょっと怖いが、フィリアが触れてくれるという期待もある。胸が高鳴ってくる。

 どうしよう。嬉しいような、恥ずかしいような、でもやっぱり怖いような……。

「さあ、もう触れちゃいますよぉ~。触って……さわ……」

 触れそうなところで、ぴたりと指が止まってしまう。見れば、フィリアはさっきとは違った意味で顔を赤くしていた。

「……触れても、いいですか、タクト様……?」

「うん……いいよ」

「いやいやいや! なに人のうちでいい雰囲気になっちゃってんの。やめてよー」

 ミリアムに声を上げられて、おれとフィリアは反射的に離れた。

「あっ、はい。こ、こんな形で、触れ合うのは、よ、良くないですねっ。はしたなかったです。ま、またの機会にいたしましょう」

「そうだね、うん、そうだ!」

 ふたり揃って立ち上がる。フィリアは乱れた髪や着衣を整えていく。

「君ら付き合ってるのに、まだ初心うぶな感じなんだねー」

「ま、まあ、あんまり慌てても良くないし」

「そうですそうです。わたくしたちには、わたくしたちのペースがあるのです」

「あっそー」

 ミリアムは興味なさげに吐き捨てると、お店のほうへ歩いていく。

「それより今日のご注文はなぁに? 武器、買いに来たんでしょ?」

 おれとフィリアは、ミリアムの後についていく。表の店のほうに出る。

「ああ、おれたち揃って剣を失くしちゃってね。せっかくの鞭も……。代わりになる物を探しに来たんだ」

「それなら前のと同じ剣があるから、それを2本用意するね。でも鞭はもうないんだよねぇ。全然需要ないし、素材も不足してるし」

「そっかー……。じゃあ、なにかいい打撃武器はないかな? 殺傷力低めの」

「あの盾じゃダメ? ほら、アタシがあげた、グリフィンのくちばしで作った盾」

「あれは今回使いたくないんだ」

 グリフィンを捕まえに行くのに、ひと目でグリフィン素材だと分かる武具を持っていったら不必要に警戒させてしまうかもしれない。

「ふぅん。なら無難にロッドかなぁ」

 ミリアムが持ってきてくれたのは、木製の長い棒だった。両端に、金属でできた輪が3本ずつはまっている。

「木は地上の素材だけど、金属部分は迷宮ダンジョン素材だよ。ずいぶん前に試作したやつを最近改造してみたんだけど、こんなのでいい?」

「どれどれ? おぉ、いい感じにしなるね。重量も軽くてバランスもいい。うん、使いやすそうだ。これ、買うよ」

「いいの? 長くて邪魔だよ。鞭みたいに束ねておけないし」

「いいよ。今回は探索がメインじゃないし」

「オッケーイ。他にはなんかある?」

 フィリアが小さく手を上げた。

「あっ、わたくし、ぜひお願いしたいものがあります。ミリアム様だけでなく、早見様にも一緒になって作っていただきたく思います」

「はい? 僕ですか?」

 店番していた敬介は目を丸くする。ミリアムも首を傾げる。

「ケースケは、まだ見習いだけど」

「ですが、大きな可能性を秘めていらっしゃいます」

「それには同感。面白そうなんだよね、ケースケの発想って。魔素マナで色々やろうとしててさ」

「はい。なのでぜひともお願いしたいのです」

 フィリアはすぅ、と息を吸って、期待を込めた声で注文した。

「インターネットください!」
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