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第105話 かわいく見えてくるね
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おれたちは、グリフィンの群れに食事を供することにした。
グリフィンの好物は馬肉なのだが、第2階層にはそれに類する魔物はいない。そこでおれは、手頃で肉質も良いフレイムチキンを狩ってきた。さらに果物も少々。
グリフィンたちは、おれたちがフレイムチキンを捌いている間、そわそわと様子を窺っていた。こちらのほうが強いと知っているので、獲物を奪おうとはしてこない。
やがておれは、フレイムチキンに塩と胡椒を塗り込んで、丸ごとローストする。
いい匂いが漂ってくると、グリフィンたちはそばまで寄ってきて、ジッと肉を見つめるまでになる。
我慢しているような姿に、ちょっと愛嬌が感じられる。
じっくりと時間をかけて焼き上げたあとは、果物をすりおろしたソースを和える。舌を火傷しないよう充分に冷ましてから、ローストチキンをグリフィンたちの側に置いた。おれたちは離れる。
グリフィンたちはこちらを気にしつつも、肉に顔を近づけていく。そのうち、メスの一方がついばんだ。オスがこちらを見る。おれたちが動かないのを確認すると、そのオスも肉をついばむ。それに促されるように、最後のメスも肉をつつき始めた。
すると、グリフィンたちは感情的に頭を動かしたり、羽や尻尾をばたつかせる。よほど味が気に入ったのかもしれない。
「……言われた通り美味しく料理してみたけど、普通に生肉でも良かったんじゃないの?」
「それでも良いのですが、人間の友達がいるとご馳走にありつけることもある、と教えてあげたかったのです」
「なるほど、料理は人間にしかできないもんね」
グリフィンたちはローストチキンをあっという間に食べ尽くすと、満足そうに「ピィー」と鳴いた。威嚇のときとは違い、可愛げのある声だった。
そしてオスがこちらに近づいてくる。「ピィ、ピィ」と鳴きながら、おれの胸元に頭を擦り寄せてくる。
「フィリアさん、これって……」
「友好を示す仕草かと」
「上手くいったってこと?」
「はい。わたくしの知るやり方で合っているか不安でしたが、タクト様のおかげですね」
おれはグリフィンの頭を抱えるように撫でてやる。羽毛が温かくて心地いい。グリフィンもまた鳴き声を弾ませる。なぜだか、喜んで笑っているように思える。
「こうしてると、かわいく見えてくるね」
他の2匹もやがて近づいてくる。それぞれフィリアとロザリンデが相手をする。頭を撫でてやったり、羽毛にうずまってみたり。
「ええ、つぶらな瞳がキュートです」
「あったかいわ……眠ってしまいそう」
「フィリアさん、これでおしまいでいいの?」
「いえ、ここからしばし一緒に過ごして一体感を高めると、より良いと聞いています」
「じゃあ、今日はここで休もうか」
おれたちは、その場で野営準備を始める。
ロザリンデはお気に入りの箱型ベッドを置いてきてしまっていたのだが、今日は問題ないらしい。横たわったグリフィンのメスの羽毛に包まれて、あっという間に寝入ってしまっている。
そしてそのグリフィンも、まるで我が子を抱いているかのように穏やかだった。
フィリアも寝袋で横になると、もう一匹のメスがそれに寄り添う。
おれは念のため、木に寄りかかって休む。オスのグリフィンがすぐそばにやってきて、休み始める。
まるでおれたちを守ってくれているかのようだ。
不思議な安心感に包まれて、おれはいつの間にか深い眠りに落ちていた。
翌日、目が覚めておれは焦った。
「しまった……。熟睡しちゃった……っ」
本当なら魔物の襲撃に備え、パーティメンバーと交代で番をして、順番に眠るようにする。そのときも、有事に備えてすぐ動けるようにしておくのが普通だ。
なのに、こんなにもしっかり眠ってしまった。フィリアやロザリンデが番をしてくれていた形跡もない。
懐いてくれたとはいえ、グリフィンを信用しすぎている。
……とは思うが、逆に言えば、このグリフィンの縄張りにいれば迷宮内でも安心して熟睡できるということだ。
多くの冒険者にとって、非常に価値あることだ。
ちなみにフィリアもロザリンデもまだ眠っている。しかしフィリアのそばにいたメスのグリフィンの姿が見えない。
どうしたのだろう?
周囲を窺っていると、やがて飛んで帰ってきた。どさりっ、と重い物が落とされる。
「わっ、なに?」
ロザリンデがびっくりして飛び起きる。一方、フィリアは特に反応もなく、すやすやと眠り続けている。
落とされた物を確認すると、フレイムチキンの死骸だった。どうやら狩りをしてきたらしい。
遅れてメスのグリフィンが着地する。そして獲物を、自分の頭でこちらのほうへ押してくる。
「えっと、くれる……ってことかな?」
それとも単に、また料理してくれとせがんでいるだけだろうか?
どちらにせよ、獲物を共有してくれるということは、群れの仲間として認識してくれていると考えていいはずだ。
「ありがとね」
グリフィンの頭を撫でてやる。
獲物は料理してやってもいいが、それが魔物を従える方法として正しいのか、確認はしておきたい。
「さてと。フィリアさん、そろそろ起きて。手伝って」
「すぴー……」
「フィリアさーん?」
全然起きない。地上でいつも見る、ねぼすけフィリアさんだ。
「ダメね。起きないわ。タクト、お目覚めのキスでもしてあげたら?」
「いやいや、しないし、しても起きないよきっと」
「いいえ、起きるわ。わたしがジョージにしてあげようとしたら、する前に飛び起きたのよ? 目覚めの効果は抜群のはずだわ」
地上で一緒に過ごしたのは数日間のはずだが、丈二も苦労したんだろうなぁ……。
「いいから、キスしなさい。それで早く起こすの」
そのとき、ぴくっ、とフィリアの耳が動いた気がした。寝息が一旦止まったかと思うと――。
「ぐ、ぐー……ぐー……」
わざとらしい寝息(?)が聞こえてくる。
「はい、起きてるねフィリアさん。早く起きて、手伝ってよ」
フィリアはむくりと起き上がり、唇を尖らせる。
「もう……乗ってくださってもいいでしょうに……」
「ふたりきりのときにね。それより――」
おれはフィリアに、グリフィンが獲物をとってきてくれたことを話した。
「やはりお友達と認識してくださっているようです。ですが料理は……そうですね、昨日のようなご馳走でないなら良いかと」
「同じじゃダメなの?」
「はい。あまり舌を肥えさせてしまいますと、普段の食料調達に苦労することになります。ご馳走は特別なときのみに食べさせてあげましょう」
グリフィンの好物は馬肉なのだが、第2階層にはそれに類する魔物はいない。そこでおれは、手頃で肉質も良いフレイムチキンを狩ってきた。さらに果物も少々。
グリフィンたちは、おれたちがフレイムチキンを捌いている間、そわそわと様子を窺っていた。こちらのほうが強いと知っているので、獲物を奪おうとはしてこない。
やがておれは、フレイムチキンに塩と胡椒を塗り込んで、丸ごとローストする。
いい匂いが漂ってくると、グリフィンたちはそばまで寄ってきて、ジッと肉を見つめるまでになる。
我慢しているような姿に、ちょっと愛嬌が感じられる。
じっくりと時間をかけて焼き上げたあとは、果物をすりおろしたソースを和える。舌を火傷しないよう充分に冷ましてから、ローストチキンをグリフィンたちの側に置いた。おれたちは離れる。
グリフィンたちはこちらを気にしつつも、肉に顔を近づけていく。そのうち、メスの一方がついばんだ。オスがこちらを見る。おれたちが動かないのを確認すると、そのオスも肉をついばむ。それに促されるように、最後のメスも肉をつつき始めた。
すると、グリフィンたちは感情的に頭を動かしたり、羽や尻尾をばたつかせる。よほど味が気に入ったのかもしれない。
「……言われた通り美味しく料理してみたけど、普通に生肉でも良かったんじゃないの?」
「それでも良いのですが、人間の友達がいるとご馳走にありつけることもある、と教えてあげたかったのです」
「なるほど、料理は人間にしかできないもんね」
グリフィンたちはローストチキンをあっという間に食べ尽くすと、満足そうに「ピィー」と鳴いた。威嚇のときとは違い、可愛げのある声だった。
そしてオスがこちらに近づいてくる。「ピィ、ピィ」と鳴きながら、おれの胸元に頭を擦り寄せてくる。
「フィリアさん、これって……」
「友好を示す仕草かと」
「上手くいったってこと?」
「はい。わたくしの知るやり方で合っているか不安でしたが、タクト様のおかげですね」
おれはグリフィンの頭を抱えるように撫でてやる。羽毛が温かくて心地いい。グリフィンもまた鳴き声を弾ませる。なぜだか、喜んで笑っているように思える。
「こうしてると、かわいく見えてくるね」
他の2匹もやがて近づいてくる。それぞれフィリアとロザリンデが相手をする。頭を撫でてやったり、羽毛にうずまってみたり。
「ええ、つぶらな瞳がキュートです」
「あったかいわ……眠ってしまいそう」
「フィリアさん、これでおしまいでいいの?」
「いえ、ここからしばし一緒に過ごして一体感を高めると、より良いと聞いています」
「じゃあ、今日はここで休もうか」
おれたちは、その場で野営準備を始める。
ロザリンデはお気に入りの箱型ベッドを置いてきてしまっていたのだが、今日は問題ないらしい。横たわったグリフィンのメスの羽毛に包まれて、あっという間に寝入ってしまっている。
そしてそのグリフィンも、まるで我が子を抱いているかのように穏やかだった。
フィリアも寝袋で横になると、もう一匹のメスがそれに寄り添う。
おれは念のため、木に寄りかかって休む。オスのグリフィンがすぐそばにやってきて、休み始める。
まるでおれたちを守ってくれているかのようだ。
不思議な安心感に包まれて、おれはいつの間にか深い眠りに落ちていた。
翌日、目が覚めておれは焦った。
「しまった……。熟睡しちゃった……っ」
本当なら魔物の襲撃に備え、パーティメンバーと交代で番をして、順番に眠るようにする。そのときも、有事に備えてすぐ動けるようにしておくのが普通だ。
なのに、こんなにもしっかり眠ってしまった。フィリアやロザリンデが番をしてくれていた形跡もない。
懐いてくれたとはいえ、グリフィンを信用しすぎている。
……とは思うが、逆に言えば、このグリフィンの縄張りにいれば迷宮内でも安心して熟睡できるということだ。
多くの冒険者にとって、非常に価値あることだ。
ちなみにフィリアもロザリンデもまだ眠っている。しかしフィリアのそばにいたメスのグリフィンの姿が見えない。
どうしたのだろう?
周囲を窺っていると、やがて飛んで帰ってきた。どさりっ、と重い物が落とされる。
「わっ、なに?」
ロザリンデがびっくりして飛び起きる。一方、フィリアは特に反応もなく、すやすやと眠り続けている。
落とされた物を確認すると、フレイムチキンの死骸だった。どうやら狩りをしてきたらしい。
遅れてメスのグリフィンが着地する。そして獲物を、自分の頭でこちらのほうへ押してくる。
「えっと、くれる……ってことかな?」
それとも単に、また料理してくれとせがんでいるだけだろうか?
どちらにせよ、獲物を共有してくれるということは、群れの仲間として認識してくれていると考えていいはずだ。
「ありがとね」
グリフィンの頭を撫でてやる。
獲物は料理してやってもいいが、それが魔物を従える方法として正しいのか、確認はしておきたい。
「さてと。フィリアさん、そろそろ起きて。手伝って」
「すぴー……」
「フィリアさーん?」
全然起きない。地上でいつも見る、ねぼすけフィリアさんだ。
「ダメね。起きないわ。タクト、お目覚めのキスでもしてあげたら?」
「いやいや、しないし、しても起きないよきっと」
「いいえ、起きるわ。わたしがジョージにしてあげようとしたら、する前に飛び起きたのよ? 目覚めの効果は抜群のはずだわ」
地上で一緒に過ごしたのは数日間のはずだが、丈二も苦労したんだろうなぁ……。
「いいから、キスしなさい。それで早く起こすの」
そのとき、ぴくっ、とフィリアの耳が動いた気がした。寝息が一旦止まったかと思うと――。
「ぐ、ぐー……ぐー……」
わざとらしい寝息(?)が聞こえてくる。
「はい、起きてるねフィリアさん。早く起きて、手伝ってよ」
フィリアはむくりと起き上がり、唇を尖らせる。
「もう……乗ってくださってもいいでしょうに……」
「ふたりきりのときにね。それより――」
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