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第1部 第3章 心優しき魔法使い -海水淡水化装置-
第18話 ちゃんと完成できたら、みんな喜ぶじゃん?
「ごちそうさま! 助かったわ、もう何日もその辺の草しか食べてなかったから」
ダークエルフは四、五人前の食事を軽く平らげてから頭を下げた。
おれとソフィアも一緒に食事していたが、その勢いに圧倒されていた。
レストランの他の客も、その大食いっぷりに唖然としている。
「アタシ、ノエル。見ての通り、魔法使いをやってるわ。ちょっと事情があって無一文だから、ここの食事代はしばらく貸しておいて欲しいのだけど……」
「ああ、いいよ。おれはショウ。こっちは――」
「ソフィアと言います。無一文の魔法使いさんが、どうして職人を求めていたのか、とても気になっています。是非とも事情を聞かせてください」
いつものように真面目で落ち着いた様子だが、おれにはわかる。
ソフィアは今、非常にわくわくしている。
腕を振るう先がなくてうずうずしていたところに、職人を求める訳アリの魔法使いが現れたのだ。期待に目を輝かせている。
「ええ、もちろん。アタシね、この町で仕事を受けたのよ。発明家と職人が組んで、面白い装置を作るっていう仕事。海運会社とも契約済みで、報酬も前払い済みだったそうよ。アタシの分の報酬も半分は前金でもらえたし、やりがいもあったから頑張ったのよ」
聞きながらおれとソフィアは軽く目を合わせる。
装置の製造で、魔法使いが手伝うところなんて魔力回路しかない。
となると、このノエルという魔法使いはA級以上の実力者ということになる。
「ところがね、上手くいかなかったのよ……。アタシ、自分の仕事は完璧にこなしたはずなのに装置は壊れちゃって、よくわかんないうちにアタシのせいみたくなってて……。気づいたら発明家も職人も逃げ出してて! 海運会社からは違約金請求されて! もらってた前金全部渡して、もう少し待ってってお願いしてきたのが四日前のことなの」
「それは……ひどいな」
素直にそう思う。
おそらく、その発明家と職人とやらは詐欺師だ。
魅力的な提案で契約に持ち込み、適当なところで第三者に押し付けて、前払いの契約金を持ち逃げする。珍しくない手だ。
A級以上の魔法使いが、それに引っかかるというのは珍しいが。
「このままじゃアタシ、売られちゃうよぉ! 奴隷にされて、強制労働に強制奉仕させられちゃうのよぉ! 一生慰み者なんていやぁあ!」
「なるほど。ノエルさんはそれで、装置を完成させるために職人を探していたのですね」
「そうなのよ! お願い、力を貸して!」
おれは軽く挙手する。
「その前に、聞いてもいいかな?」
「うん? なあに?」
「君はなんで逃げなかったんだ? 逃げた連中は十中八九、詐欺師だ。そんなやつらが残した仕事に責任を感じることはない。一旦逃げて、然るべき場所に訴えれば、なんとかなったんじゃないかな」
するとノエルは、あからさまに目を泳がせた。
「あー、それは、その……アタシも、然るべき場所に顔を出したらまずい立場っていうか……」
「ふーん……」
おれの視線が冷たくなるのを察してか、ノエルは慌てて手をバタバタさせる。
「違うの! 悪いことはしてないの! ちょっと事情があるだけ! あと、あとさ……始めは嘘だったとしても……ちゃんと完成できたら、みんな喜ぶじゃん? そういうの、憧れるっていうか……」
最後のほうは、恥ずかしがって声が小さくなってしまった。俯いてしまう。
「その装置は、どのようなものなのですか?」
ソフィアがもっともな質問をする。
「海水から飲み水を作る装置よ」
「つまり蒸留装置かい?」
「うぅん、それじゃ面白くも珍しくもないでしょ。蒸留はさせないわ」
「蒸留は、させない!? そんなことが可能なのか?」
おれは思わず乗り出してしまう。
海水を蒸留させずに、どうやって水と塩分を分離させるのか? 是非とも知りたい!
と、思ってから頭を冷やして姿勢を正す。
いけない、いけない。
詐欺師なら、前払い契約させるために、それくらい物珍しい提案はする。
実現性なんて考えられているわけがない。期待してはいけないのだ。
でも待てよ?
ノエルはさっき、自分の仕事は完璧にこなしたと言っていた。それはつまり……。
「ちょっと待ってくれ!?」
今度は席を立ってしまう。
「わあ、今度はなに!?」
「ノエル、君はその装置の魔力回路を、完璧に作ったってことかい?」
「ええ、そのつもりよ。イメージはしっかりできてたし、あとは本体のほうがちゃんとしてれば上手くいったと思うんだけど……」
つまり、詐欺師には無理でも、ノエルになら実現できる構想だったということだ。
自然と口元がほころんでしまう。わくわくしてくる。
「ショウさん、ノエルさんは、作ったらみんなが喜ぶ物を、頑張って完成させようとしています。無下にはできません」
そう言うソフィアの目には、情熱が宿っている。
おれも同じだ。
見たことも聞いたこともない発想で、なにかが作られようとしている。心が燃えてくる。
そしてなにより……。
「物を作ることは幸せを作ることだもんな。もちろん、やろう。ノエル、話は決まりだ。君の仕事は、おれたちが手伝う」
ダークエルフは四、五人前の食事を軽く平らげてから頭を下げた。
おれとソフィアも一緒に食事していたが、その勢いに圧倒されていた。
レストランの他の客も、その大食いっぷりに唖然としている。
「アタシ、ノエル。見ての通り、魔法使いをやってるわ。ちょっと事情があって無一文だから、ここの食事代はしばらく貸しておいて欲しいのだけど……」
「ああ、いいよ。おれはショウ。こっちは――」
「ソフィアと言います。無一文の魔法使いさんが、どうして職人を求めていたのか、とても気になっています。是非とも事情を聞かせてください」
いつものように真面目で落ち着いた様子だが、おれにはわかる。
ソフィアは今、非常にわくわくしている。
腕を振るう先がなくてうずうずしていたところに、職人を求める訳アリの魔法使いが現れたのだ。期待に目を輝かせている。
「ええ、もちろん。アタシね、この町で仕事を受けたのよ。発明家と職人が組んで、面白い装置を作るっていう仕事。海運会社とも契約済みで、報酬も前払い済みだったそうよ。アタシの分の報酬も半分は前金でもらえたし、やりがいもあったから頑張ったのよ」
聞きながらおれとソフィアは軽く目を合わせる。
装置の製造で、魔法使いが手伝うところなんて魔力回路しかない。
となると、このノエルという魔法使いはA級以上の実力者ということになる。
「ところがね、上手くいかなかったのよ……。アタシ、自分の仕事は完璧にこなしたはずなのに装置は壊れちゃって、よくわかんないうちにアタシのせいみたくなってて……。気づいたら発明家も職人も逃げ出してて! 海運会社からは違約金請求されて! もらってた前金全部渡して、もう少し待ってってお願いしてきたのが四日前のことなの」
「それは……ひどいな」
素直にそう思う。
おそらく、その発明家と職人とやらは詐欺師だ。
魅力的な提案で契約に持ち込み、適当なところで第三者に押し付けて、前払いの契約金を持ち逃げする。珍しくない手だ。
A級以上の魔法使いが、それに引っかかるというのは珍しいが。
「このままじゃアタシ、売られちゃうよぉ! 奴隷にされて、強制労働に強制奉仕させられちゃうのよぉ! 一生慰み者なんていやぁあ!」
「なるほど。ノエルさんはそれで、装置を完成させるために職人を探していたのですね」
「そうなのよ! お願い、力を貸して!」
おれは軽く挙手する。
「その前に、聞いてもいいかな?」
「うん? なあに?」
「君はなんで逃げなかったんだ? 逃げた連中は十中八九、詐欺師だ。そんなやつらが残した仕事に責任を感じることはない。一旦逃げて、然るべき場所に訴えれば、なんとかなったんじゃないかな」
するとノエルは、あからさまに目を泳がせた。
「あー、それは、その……アタシも、然るべき場所に顔を出したらまずい立場っていうか……」
「ふーん……」
おれの視線が冷たくなるのを察してか、ノエルは慌てて手をバタバタさせる。
「違うの! 悪いことはしてないの! ちょっと事情があるだけ! あと、あとさ……始めは嘘だったとしても……ちゃんと完成できたら、みんな喜ぶじゃん? そういうの、憧れるっていうか……」
最後のほうは、恥ずかしがって声が小さくなってしまった。俯いてしまう。
「その装置は、どのようなものなのですか?」
ソフィアがもっともな質問をする。
「海水から飲み水を作る装置よ」
「つまり蒸留装置かい?」
「うぅん、それじゃ面白くも珍しくもないでしょ。蒸留はさせないわ」
「蒸留は、させない!? そんなことが可能なのか?」
おれは思わず乗り出してしまう。
海水を蒸留させずに、どうやって水と塩分を分離させるのか? 是非とも知りたい!
と、思ってから頭を冷やして姿勢を正す。
いけない、いけない。
詐欺師なら、前払い契約させるために、それくらい物珍しい提案はする。
実現性なんて考えられているわけがない。期待してはいけないのだ。
でも待てよ?
ノエルはさっき、自分の仕事は完璧にこなしたと言っていた。それはつまり……。
「ちょっと待ってくれ!?」
今度は席を立ってしまう。
「わあ、今度はなに!?」
「ノエル、君はその装置の魔力回路を、完璧に作ったってことかい?」
「ええ、そのつもりよ。イメージはしっかりできてたし、あとは本体のほうがちゃんとしてれば上手くいったと思うんだけど……」
つまり、詐欺師には無理でも、ノエルになら実現できる構想だったということだ。
自然と口元がほころんでしまう。わくわくしてくる。
「ショウさん、ノエルさんは、作ったらみんなが喜ぶ物を、頑張って完成させようとしています。無下にはできません」
そう言うソフィアの目には、情熱が宿っている。
おれも同じだ。
見たことも聞いたこともない発想で、なにかが作られようとしている。心が燃えてくる。
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