S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ

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第1部 第4章 憂国の没落騎士 -工房始動-

第39話 魔物を拾ってくるとは何事ですか

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「魔物の飼育と言ったのか?」

「うん、そう言った。まだ先の話になるけど、いずれ大量に新素材を確保しなくちゃいけなくなる。いちいち洞窟に潜って、目的の魔物を探して採取してくるのは効率が悪すぎる」

「それならば、いっそ魔物を飼育してしまえばいい、と?」

「そういうこと。必要な新素材を絞って、それを生み出す魔物を飼育するのがいい」

「畜産のようなものか」

「けど、ただの畜産なら、貴族のご令嬢に頼んだりはしない。魔物を従わせるには、相当な腕っぷしが必要だ。任せられるのは君しかいないと思ってる」

 アリシアは苦笑を浮かべる。

「なんでも言ってくれとは言ったが、これは予想外だ」

「君の強さもそうだけど、懐の深さも、この仕事には向いていると思うんだ。おれたちよそ者をすぐ受け入れてくれたのと同じように、魔物たちも受け入れてくれると信じてる」

 アリシアはウルフベアに視線を落とす。つぶらな瞳を向け、「くぅ~ん」と鳴き声を返してくる。

「それに……知らない仕事でも一から覚えると言ってくれたとき、おれは感動したんだ。おれなんか、技能スキルを奪われたときは、もうなにもする気になれなかった。でも君は、騎士として未練や後悔もあるだろうに、それをおれたちには一切見せずに、新しい道を進もうとしてる。どんなことをしてでも国を守るんだっていう強い意志を感じたよ。その美しい姿勢こそ、おれは真の騎士だと尊敬――」

「や、やめろっ。わかったから、もうやめろぉ!」

 なぜかアリシアは顔を真っ赤にして大声を上げた。

 ウルフベアがびっくりして体を起こした。「喧嘩? ご主人たち喧嘩なの?」と困ったようにおれたちを見上げる。

「ソ、ソフィアというものがありながら、なんなのだ、貴方は!」

「なんでここでソフィアが出てくるんだ?」

「貴方の想い人だろう! なのに、どうして私なんかをこんなに褒める!?」

「好きな人がいたら、他の誰かを褒めちゃいけないのか?」

「ダメに決まってる! 特に相手が女性の場合は! 勘違いさせてしまうだろう!」

「勘違い? おれは、アリシアになにか勘違いさせるようなことを言ってしまったのか?」

「いや……わ、私は、平気だ。勘違いなどしない。しないが……情緒が不安定になって、その……困る!」

 確かに、アリシアがこれほど落ち着きをなくしているのは一大事だ。

「とにかく、私のことを無闇に褒めるなっ」

 どうも釈然としないが、おれはひとまず従っておく。

「わかった。無闇には褒めない」

「よ、よし、それでいい」

 アリシアは「ふーっ」と長く息を吐き出してから、改めてウルフベアを見下ろす。

「魔物の飼育の件だが……。少々面食らってしまったが、私としては、もともとなんでもするつもりだったのだ。引き受けよう。しかし……」

 アリシアは困った顔で天井を仰いだ。

「なにか問題が?」

「ああ……。ばあやにどう説明したものか。説得には骨が折れるぞ」

 おれたちはウルフベアを引き連れて、アリシアの屋敷に戻ることになる。

 とりあえずウルフベアは、首輪をつけて、屋敷の庭先で鎖に繋いでおく。

 それから玄関に入ると、アリシアのばあやに迎えられた。

「アリシア様、お国のために働くことは良いことです。そのために仲間を集められたのも良いでしょう。殿方とふたりで出かけるのも大いに結構。そろそろ後継ぎをお作りになるべきお年ですからね」

「ばあや、違う。ショウと私はそういう関係では――」

 ばあやの、レンズにヒビの入った眼鏡がギラリと光る。

「ですが! 行った先が魔物の巣で、挙げ句に魔物を拾ってくるとは何事ですか! 子犬や子猫を拾ってくるのとは違うのですよ! そもそも貴方は貴族なのですよ。なぜ、そのような農民の真似事をしなければならないのです!?」

「それは、私にしか出来ないことだから……」

「ほう、どうしてそう思うのです? この私めにもわかるように、きちんとご説明いただきましょうか」

「は、はい……。うぅ、ショウ……」

 すっかり萎縮してしまったアリシアが、助けを求めてこちらを見る。涙目だった。

 ばあやの説得には三時間近くかかった。
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