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第1部 第6章 事業推進! -レンズ量産-

第57話 勘違いするなよ、お前のためじゃないぞ

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 本格的にレンズ製造に取り掛かって、およそ三週間。

 忙しかったのは言うまでもない。

 アリシアと共にフレイムチキンを捕獲しに行き、農家の方々の手伝いを得て飼育小屋を作り、それが済んだら自分が担当の望遠鏡レンズの型の製作に入った。

 それらの合間を縫って、フレイムチキンの卵から抽出した新素材を、実際に使えるか試すべく、試作用のコップを作ったりしていた。

「ねえ、ショウ。大丈夫? 目の下、クマできてるわよ?」

「ふふふっ、絶好調だよ。ついにあの新素材を使いこなす方法がわかったからね」

 おれとノエルは工房から屋敷への道を歩いていた。おれたちに来客だとかで、呼び出されたのだ。

「いやいや、ふらふらじゃない。少しは休んでよね?」

「あっはっは、休んでるよー。大丈夫だよー」

「ダメだこりゃ」

 フレイムチキン素材は、ウルフベア素材と違って、なかなか問題だらけだった。

 例のコップの金型で試していたのだが、そもそも素材がちゃんと融けてくれなかったり、なぜか製品に縞模様ができてしまったりと、頭を悩ませる事態が頻出したのだ。

 しかしそれももはや過去。今朝おれはついに、それらをすべて解決したのである!

 新素材にはそれぞれ融点や、融けたときの流れやすさ、粘度など、様々な違いがあり、それらに合わせて条件を調節しないと上手くいかないことが、身に沁みてわかった。

「ノエルだって忙しいだろう? あの水でレンズを作る魔法、消耗が激しいみたいじゃないか。ばあやさんに試してもらうのも一苦労だろう? おまけに、例の金型を冷やす装置の魔力回路の構築もやってくれてる」

「う~ん、まあね~。魔力回路はともかく、魔力の消費はね~……。お腹が空いてしょうがないのよぅ~。せめてもうひとり魔法使いがいたら……って、これ弱音だ。忘れて忘れて」

 そんなこんなで屋敷に到着し、応接間に入ってみると……。

「ノエル~! 会いたかったよぉ! 愛する君のため、この僕がやってきたよ!」

「な、な、なっ! なんであなたがここにぃ!?」

 そこには、細身で眼鏡をかけた青年――ボロミアがいた。ロハンドール帝国魔法学院から、はるばるやってきたらしい。

「なんでここに来てるのかって? それはノエル、君のためさ!」

 満面の笑みで宣言されるが、ノエルは素っ気なく「あっそ」と流す。

「えーと、ボロミアくんはおれが出した手紙を読んで来てくれたのかな?」

「その通り。ショウ、お前は僕のライバルだが、ノエルのためになるなら話はべつだ。一時休戦といこうじゃないか!」

「ああ……うん」

 もともと争う気はないのだけれど。

 ノエルがおれの肩をぺしぺし叩く。

「ちょっと、なんでボロミアに手紙出しちゃうのよ~」

「おれ、アラン宛に出したはずなんだけど」

「アランは忙しかったからね。この僕が代わりに来たのさ」

「そもそも実際に来る必要あった? 手紙と製品のやり取りでも充分だったでしょ」

「いや充分じゃないよ、ノエル。ここから僕らの魔法学院はかなり遠いだろう。手紙でのやり取りじゃ、どんなに良い品物を受け取ったとしても、その評価を期限までに伝えることは難しい」

「う、それは確かに」

「そこで少しは権限を持ってる僕がここに出向いて、品物を見定め、直接持って帰る。それから評価を伝えれば、まあ、期限にはぎりぎり間に合うだろう」

 真っ当な意見だ。非常にありがたい申し出でもある。

「ボロミアくんはしばらくこっちに滞在するつもりなんだね?」

「そのつもりさ。なんなら仕事を手伝ってもいい」

「それは本当に助かるよ。ね、ノエル」

「まあ、うん……。この際、背に腹は代えられないかぁ~」

 ちょうど、もうひとり魔法使いが欲しいと話していたところだ。

 あと、老眼鏡のテストをしてくれているばあやのように、近眼用眼鏡のテストをしてくれる人も探しているところだった。

「よろしく頼むよ。ボロミアくん」

 おれは手を差し出して握手を求める。ボロミアは応じて、強めに握り返してきた。

「ショウ、勘違いするなよ、お前のためじゃないぞ。ノエルのためだからな」

「わかってるわかってる。って君、握力凄いな。いや痛い、痛いって。離してっ、離せって! いたたた!」
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