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第2部 第4章 再会と再開

第114話 おかえり

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 おれたちは頃合いを見て、その場から撤収した。

「こっちだ!」

 大神殿の外で、すぐ呼びかけてくる声があった。そちらへ駆けると、声の主がおれたちへ手を掲げた。

 おれたちを含めた周囲のあらゆる影が肥大化し、おれたちを闇の中へさらってしまう。

 先天的超常技能プリビアス・スキルの【シャドウ】だ。

「そのまままっすぐ走れ!」

 声を頼りに長い闇を走り抜ければ、やがて大神殿からかなり離れた街道に出てくる。

 そこには勇者の紋章を持つ男と、先に撤退したノエルやアリシアがいた。その背後には聖女セシリーとサフラン王女。そして……。

「ソフィア!」

 おれは立ち止まらず、そのままソフィアに抱きついた。

「ショウさん……!」

 ソフィアはおれの胸に顔をうずめ、背中に回した腕でぎゅっと締め付けてくる。

 そのぬくもり。その柔らかさ。あるべき場所に戻ってきたような安心感がある。

「遅くなってごめん。本当はすぐ助けに来たかったけど……」

「わかっています。全部、わかっているんです。お忍びで物作りしに来ていたのでしょう? なにか手立てを見つけて、ここまで来てくれたのでしょう? 思っていたより、ずっと早かったです」

 思わず笑みが漏れる。

「おれのことは全部お見通しなんだね。さすがソフィアだよ」

「それはそうです。だって……わたしのショウさんですもん」

「そうだね、おれは君がいないとダメだったよ。物作りは上手くいったし、感謝もされたけど……どうしても他人事みたいな気がしちゃっててさ……。君が隣にいないんじゃ物足りなかった……」

「わたしだって、あなたがいないとダメダメでした。スートリア教の内部で物作りの素晴らしさをアピールするつもりでしたが、大した成果は上げられませんでした……」

 おれたちは互いに少し離れて、見つめ合う。黄色い綺麗な瞳がおれを見つめてくれる様子が、たまらなく懐かしく、震えるほど嬉しい。

「おれたち、離れ離れになっちゃダメなんだね」

「はい。次はショウさんも一緒にさらわれてください」

「次、あるかな?」

「なんちゃって」

 にこりと微笑むソフィアに、おれの胸は張り裂けそうなくらいにときめく。

「おかえり、ソフィア。愛してるよ」

「ただいまです、ショウさん。わたしも、愛しています」

 口づけを交わす。柔らかくあたたかい繋がりに、涙が溢れてくる。

 唇を離して、また笑い合う。幸福感で満たされる。

「んっ、んんっ!」

 そこでノエルの咳払い。

 おれたちはハッと、他のみんなもいることを思い出す。

 急に恥ずかしくなって顔が熱くなる。ソフィアも顔を真っ赤にして、両手で顔を隠してしまう。

【シャドウ】の勇者が、一歩、こちらへ寄ってきた。

「夫婦の再会をお邪魔してしまって申し訳ない」

「リック隊長さん……」

「知り合い?」

 呟くソフィアに、おれは尋ねた。

「はい。わたしたちをここまで連れてきてくれた方々の隊長さんです」

「つまり、さらった張本人?」

「その節は、大変失礼いたしました。メルサイン大神殿警備隊長のリックと申します。ひとつだけ、訂正させていただきたい。ソフィア様のおこないは、決して少なくない影響を我々に与えておりますよ」

 ソフィアは小首を傾げる。

「そうでしょうか?」

「あなたに装備を整備していただいた隊員たちは、みんなあなたに心酔しておりました。大神殿の製造現場の者たちもそうです。一度浸透した考えは、そうでなかった者たちにも伝わり、大きな波になることでしょう」

 リックは、ジェイクを見遣る。

「私もその影響を受け、そして、このバーンという友に出会えました。神の導きを信じ、聖女様をお救いする勇気を分けてもらいました。その結果が、今なのです」

 リックはいかにも誇らしげに、ジェイクに視線を向けている。

 しかしジェイクは神妙な表情でうつむいてしまっている。

「俺があそこにいたのは聖女様の導きなだけで、そんな大層なことしちゃいねえよ……」

 ジェイクの言葉に聖女セシリーは首を横に振る。

「そんなことありませんよ。あなたはここまで来てくれました。それになにより、あなたによって救われている人は大勢いるのです。私も、友人として誇らしいです」

 セシリーはジェイクに微笑みかける。それからおれたちへ視線を向ける。

「改めてご紹介いたしますね。私の大切な友人のバーンさんです。会談の際にお話しした、新しい義肢を考案中の方です」

 おれはいよいよ、ジェイクと向き合う。

「そうか。君があの義肢を……」

「すまねえシオン! 本当に、本当にすまなかった!」

 ジェイクはひざまずき、深く深くこうべを垂れた。

 エルウッドやラウラが、その行為に驚いて息を呑む。

「全部、俺の嫉妬がさせたことだった。詫びのしようもねえ! けど、けどよ、お前を殺しておいて勝手だけどよ……生きていてくれて、本当に、本当に良かった……!」

「ジェイク……」

 ジェイクは懐から短剣を取り出し、おれに差し出した。

「これは『技盗みの短剣スキルドレイン』?」

「前に身を寄せてた組織から、奪い取ったやつだ。いつか……お前から奪った【クラフト】を、相応しい誰かに渡すつもりだったんだ。お前に返せるなら、これ以上のことはない」

「……償い、かい?」

「その真似事にしかならねえのはわかってる。気がすまねえなら、そいつで刺し殺してくれたっていい!」

「そんな、いけません! レジーナさんはどうなるのです!?」

「黙っててくれ聖女様! これは俺たちの問題なんだ! 俺は、それだけのことをしちまった! 本当は、誰かを案じる資格なんかねえんだ!」

 おれは『技盗みの短剣スキルドレイン』を受け取った。

「……わかった。君の望むようにしよう」
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