一度目の人生は散々だったので、二度目の人生をやり直させて頂きます

七宮 ゆえ

文字の大きさ
15 / 42
一章

14. ローネイン公爵

しおりを挟む
「———だから、公爵様お願いします!わたしと兄さんを働かせてくれないでしょうか?」
「……どうしようかなぁ」

 教会で生活してから早二週間が経った今日。
 ミルフィとアルベルトは慰問に来たローネイン公爵に交渉をしていた。いや、ミルフィがとりいっていると言った方が正しいだろうか。
 必死に上目遣いで懇願するミルフィを見て、顎に手をやって考える振りをするローネイン公爵。
 その姿を見てミルフィはちょろいものね、と内心呆れていた。

(はぁ……。明らかに下心があるのが分かるわ。……気持ち悪い。やっぱりやめようかしら?)

 と、心の中で揺らぎかけていたが、これは取引の元で行われていることだから、と我慢することにした。

「そうだね……ミリアちゃんが私の専属になってくれるなら考えても良いけれど」

 そう言ってニヤニヤ笑う公爵に寒気を覚えた。

(やだ、どうしよう。自分の貞操の危機を感じるわ……この狸親父きもい!ありえない!ふざけんじゃないわよ!)

 おおよそ一国の王女とは思えないような言葉で内心ローネイン公爵を存分に罵る。
 それでもそれを一切表に出さずにこにことしているのは流石といえる。
 かなしきかな、それが王族というものである。

「勿論なのです!公爵様のお世話を頑張ってさせて頂きます!なので兄さん共々働かせて欲しいのです!」
「それなら契約しようか?」
「けい、やく?」

 その言葉を聞いて初めてミルフィは狼狽えてしまう。
 しかしそれを公爵は知らなくて戸惑っていると有難い方向に勘違いをして、子供に言い聞かせるように簡単な説明をした。

「契約というのはね、お互い相手にある条件を呑むことを誓うことだよ。そうすればほら、それをなかったものには出来なくなるだろう?」

 怖いものじゃないよと微笑みながらある紙を取り出した。その紙を見てミルフィは身体をふるりと小さく震わせた。

(どこが怖いものじゃない、よ!その紙は普通の契約じゃないじゃないの!魔法契約書そのものなんて、無垢な子供だと馬鹿にしてるにも程があるわ!)

 魔法契約書は契約者達を縛り付ける為のものだった。
 一般には知れ渡っていないそれは、禁忌のものとなっていて随分昔に二度と作り出されないようにされていたものだ。
 これに契約をすると、契約者はその契約を破らなくなってしまう。契約を止めようとするとすぐに死に至ってしまうのだ。

(一体どうやって創り出したの?干渉してみても本物と見て間違いなさそうだし……どうしよう、どうすれば……)

 契約者にサインしないようにするにはどうすればいいかと考えを巡らせていると、ローネイン公爵はそれじゃあ先に、とアルベルトへその紙を渡した。

「君はたしかアルだったかな?君が先にサインしたらいいよ」

 それを受け取ったアルベルトもどうしたものかと考えを巡らせることとなった。

(契約書なんて碌なものでは無いはずだ。殿下が考えていることもあってこれは本当に碌なものではないんだろうな。さて、俺はどうするべきか……)

 ちらりとミルフィを見ると、ミルフィは真剣な眼差しでアルベルトを見つめていた。
 そして微かに首を振る。

(書くな、とうことだろうな。この現状から考えて)

 それならと、真実味のありそうな言い訳を口にした。

「……あの、すみません。俺たち文字が分からなくて」

 平民ならば殆どのものがそうであろう。だからこそこの言い訳が通用するわけで。

「ふむ。……そうか、それならば仕方あるまい。」

 仕方なさそうにその紙を鞄に仕舞うのを確認してミルフィはほっと胸を撫で下ろした。

(な、なんとか書かなくてすんだわ……。わたしだけなら光の“加護”を使ってなんとかなるかもしれないけれど、それも確実ではないもの。危険な橋を渡るのはどうしようもなくなった時だけにしておきたいし)

 また調べなくてはならないことが増えたわね、と魔法契約書のことを頭の中にメモしておく。

「それじゃあ荷物をまとめておいで。二人ともローネイン邸で働かせてあげよう」
「ありがとうございます、公爵様!」

 パッと笑顔を浮かべてお礼を言うと、そのままアルベルトの手を引いて部屋を退室していった。






「寒気を感じたわ…」

 部屋に戻るとミルフィはうんざりした表情を隠すことなくぶるりと身体を震わせ、自分の体を自分で抱き竦めた。

「気持ち悪いわ、あの狸!下品な視線でジロジロ見てきて、挙句専属ですって?……これだけでもう不敬罪で即牢屋送りに出来そうね」

 げんなりしながらそう呟くミルフィを見てアルベルトは苦笑した。

「まあ、たしかに出来そうだな……。でも、ちゃんと人身売買の調査はするんだろう?」
「当たり前でじゃない」

 至極当然といった様子で頷くと、ミルフィは思い出したように付け加えた。

「あと、あの契約書についても調べないと」
「さっきのか。殿下は何か心当たりでもあったのか?俺には普通の契約書にしか見えなかったが」

 真剣な表情でミルフィは頷く。

「あれは魔法契約書よ。あなたなら知っているでしょう?」

 その言葉にアルベルトは驚いた。

「あ、ああ。特別部隊の者なら知っているな、禁忌の契約書として。……でもそれはもう今の世の中に無いはずだ。禁止されてからもう二度と作らないようにその情報は上層部によって秘匿されていたはず」
「だからこそ調べなくてはならないの。どこからその情報が漏れたのか。それは一部の王族と特別部隊のみ知っている情報だもの。作り方だってもうどこにも載っていないはずなのに」
(なんでこんなにややこしい事態になるのかしら?厄介なものね、絶対公爵の後ろにだれかいる……いえ、待って。そうよ、わたしは既に知っているじゃない。魔法契約書を作り出せる人物を)

 彼ならきっと創り出せてしまう。
 の記憶を探り起こしてミルフィはとある人物を思い出した。
 みるみるうちに険しくなっていくその表情に、アルベルトはどうしたのかと声をかける。
 ミルフィは微かに震える声で呟いた。

「……わたし、一人だけ心当たりがあることを思い出したの……」
「心当たりが?それって一体……」

 しかしミルフィはそれ以上答えようとはせず、首を振るばかりだった。アルベルトは「そうか」と言ってそれ以上訊こうとはしなかった。

(どうしよう。もし本当に彼ならわたしはどうすれば……?と違ってわたしにも力はあるけれど、それでどうにかなるような相手なの?)

 ミルフィのどこが思い詰めたような表情にアルベルトは眉を顰めた。

「……殿下」

 躊躇いがちにミルフィを呼ぶと、パッと顔を上げてアルベルトを見る。

「大丈夫だ」

 自分でも何が大丈夫なのかよく分からないが、なんとなく今言わなくてはいけないような気がして、アルベルトは無意識にその言葉を発していた。
 それを聞いてミルフィは、やがて意味を呑み込むと微かに微笑んで頷いた。

「そうね、……きっと、大丈夫よね」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

慈愛と復讐の間

レクフル
ファンタジー
 とある国に二人の赤子が生まれた。  一人は慈愛の女神の生まれ変わりとされ、一人は復讐の女神の生まれ変わりとされた。  慈愛の女神の生まれ変わりがこの世に生を得た時、必ず復讐の女神の生まれ変わりは生を得る。この二人は対となっているが、決して相容れるものではない。  これは古より語り継がれている伝承であり、慈愛の女神の加護を得た者は絶大なる力を手にするのだと言う。  だが慈愛の女神の生まれ変わりとして生を亨けた娘が、別の赤子と取り換えられてしまった。 大切に育てられる筈の慈愛の女神の生まれ変わりの娘は、母親から虐げられながらも懸命に生きようとしていた。  そんな中、森で出会った迷い人の王子と娘は、互いにそれと知らずに想い合い、数奇な運命を歩んで行くこととなる。  そして、変わりに育てられた赤子は大切に育てられていたが、その暴虐ぶりは日をまして酷くなっていく。  慈愛に満ちた娘と復讐に駆られた娘に翻弄されながら、王子はあの日出会った想い人を探し続ける。  想い合う二人の運命は絡み合うことができるのか。その存在に気づくことができるのか……

孤児院の愛娘に会いに来る国王陛下

akechi
ファンタジー
ルル8歳 赤子の時にはもう孤児院にいた。 孤児院の院長はじめ皆がいい人ばかりなので寂しくなかった。それにいつも孤児院にやってくる男性がいる。何故か私を溺愛していて少々うざい。 それに貴方…国王陛下ですよね? *コメディ寄りです。 不定期更新です!

やさしい魔法と君のための物語。

雨色銀水
ファンタジー
これは森の魔法使いと子供の出会いから始まる、出会いと別れと再会の長い物語――。 ※第一部「君と過ごしたなもなき季節に」編あらすじ※ かつて罪を犯し、森に幽閉されていた魔法使いはある日、ひとりの子供を拾う。 ぼろぼろで小さな子供は、名前さえも持たず、ずっと長い間孤独に生きてきた。 孤独な魔法使いと幼い子供。二人は不器用ながらも少しずつ心の距離を縮めながら、絆を深めていく。 失ったものを埋めあうように、二人はいつしか家族のようなものになっていき――。 「ただ、抱きしめる。それだけのことができなかったんだ」 雪が溶けて、春が来たら。 また、出会えると信じている。 ※第二部「あなたに贈るシフソフィラ」編あらすじ※ 王国に仕える『魔法使い』は、ある日、宰相から一つの依頼を受ける。 魔法石の盗難事件――その事件の解決に向け、調査を始める魔法使いと騎士と弟子たち。 調査を続けていた魔法使いは、一つの結末にたどり着くのだが――。 「あなたが大好きですよ、誰よりもね」 結末の先に訪れる破滅と失われた絆。魔法使いはすべてを失い、物語はゼロに戻る。 ※第三部「魔法使いの掟とソフィラの願い」編あらすじ※ 魔法使いであった少年は罪を犯し、大切な人たちから離れて一つの村へとたどり着いていた。 そこで根を下ろし、時を過ごした少年は青年となり、ひとりの子供と出会う。 獣の耳としっぽを持つ、人ならざる姿の少女――幼い彼女を救うため、青年はかつての師と罪に向き合い、立ち向かっていく。 青年は自分の罪を乗り越え、先の未来をつかみ取れるのか――? 「生きる限り、忘れることなんかできない」 最後に訪れた再会は、奇跡のように涙を降らせる。 第四部「さよならを告げる風の彼方に」編 ヴィルヘルムと魔法使い、そしてかつての英雄『ギルベルト』に捧ぐ物語。 ※他サイトにも同時投稿しています。

その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。 貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。 元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。 これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。 ※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑) ※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。 ※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。

私たちの離婚幸福論

桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

【完結】大変申し訳ありませんが、うちのお嬢様に貴方は不釣り合いのようです。

リラ
恋愛
 婚約破棄から始まる、有能執事の溺愛…いや、過保護?  お嬢様を絶対守るマンが本気を出したらすごいんです。  ミリアス帝国首都の一等地に屋敷を構える資産家のコルチエット伯爵家で執事として勤めているロバートは、あらゆる事を完璧にこなす有能な執事だ。  そんな彼が生涯を捧げてでも大切に守ろうと誓った伯爵家のご令嬢エミリー・コルチエットがある日、婚約者に一方的に婚約破棄を告げられる事件が起こる。  その事実を知ったロバートは……この執事を怒らせたら怖いぞ!  後に後悔しエミリーとの復縁を望む元婚約者や、彼女に恋心を抱く男達を前に、お嬢様の婿に相応しいか見極めるロバートだったが…?  果たして、ロバートに認められるようなエミリーお嬢様のお婿候補は現れるのだろうか!? 【物語補足情報】 世界観:貴族社会はあるものの、財を成した平民が貴族位を買い新興貴族(ブルジョア)として活躍している時代。 由緒正しい貴族の力は弱まりつつあり、借金を抱える高位貴族も増えていった。 コルチエット家:帝国一の大商会を持つ一族。元々平民だが、エミリーの祖父の代に伯爵位を買い貴族となった資産家。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

処理中です...