短編SS集〜1日1SSを目指して〜

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瞳孔 蛍光灯 通話

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時刻は夜中の2時。ようやっと帰路につく。人も動物も草木も眠っている、この時間、唯一、点々と等間隔に並べられた蛍光灯と、そこに群がる哀れな虫だけが目を覚ましている時間。電車はもちろん終電も終わり、タクシーだって走ってない、道路を走るのは、長距離トラックの運転手か、脳みそがぐつぐつに沸騰して溶けた若者という名の化け物だけだ。
最近は働き方改革とかいうもののおかげで、この時間になるとコンビニも閉まっている。まぁある程度田舎であるってこともあるんだろうが。
そんなまだ明るい大通りから道をそれ、住宅街に入る。この住宅街の奥が、もはや寝るだけの場所となっている自宅アパートが鎮座している。家賃は2万。馬鹿みたいに安いが、それなりに古いし、なんなら昔ここで神隠しだか、火事騒ぎだかがあったらしい。まぁ寝れればなんでも良かった。
それこそ、上京してすぐはセキュリティもしっかりし、綺麗で、ダイニングキッチンもあってと、新社会人にしてはかなり良いマンションに住んでいたのだ。しかし、会社がブラックだと感じた時には、もうこのアパートに住んでいた。もういつ引っ越したのかすら記憶にない。選択理由は、家賃の安さと会社から徒歩10分というところだ。ギリギリまで寝てられる。
フラフラと、酔っぱらいの千鳥足より酷い足取りで寝床へと1歩1歩道を進む。過剰なエナジードリンクのおかげでギンギンに開いた瞳孔と、その足取り、誰かに見られれば、不審者として捕まるかもしれない。むしろ、捕まった方が色々良いのではとまで思っている。それでも何とか寝床の前にたどり着く。
しかし、寝床へとはたどり着けなかった。雑草が生い茂った無料の駐車場の手前に、沢山の人が集まっている。その奥、自身の寝床からは、変な熱気が漂って来ているのが分かる。
死んだ脳みそが1度だけ蘇生し、疲れが物理的な重さにでもなったかのように項垂れる頭を上げると、そこには、美しく天に向かって手を伸ばすかのように燃えるアパートがあった。
生き返った脳みそが再度召され、視線はその燃え盛るアパートにのみに注がれる。
「あぁ、ついに寝床まで会社になるのか」
それだけは考えていたと思う。社畜根性というのは死んだ脳みそを社畜的思考のみ動かすことができるとは恐れ多い。
この先の、無限仕事編に思いを馳せていると、ポケットに入れた、会社と両親の電話番号しか入っていない携帯が鳴る。
「なんだ仕事か?」
そう思い、画面を見るが、非通知。
特に何も考えることはなく、電話に出る。
「はい、なんでしょうか」
「どう?サプライズは!」
「は?」
「え?」
「「.........」」
こいつは何を言っているのだ。これが新手のイジメか?大人になって初めてイジメにあうのか?でも、声の主を俺は知らない。
「はぁ......。もう、仕方ないなぁ。ま?そこまでだとはリサーチしなかった私が悪いよね。うん。」
「え、えっとぉ...?」
「あぁ、ごめんごめんこっちの話。まぁ、悪いようにはしないから、今から言う話を承諾してくれればそれで良いよ。」
「は、はぁ?」
「私のお嫁さんになってね。」
「は、はぃ.........?」
「よし、契約成立っ!じゃあこっちに呼ぶねー。私のお嫁さん♪」
「お、およ、お嫁さん?............お嫁さッ......」
そう言い終わらないうちに、真下の地面にトプンッと飲み込まれる。いきなりの暗闇に目を瞑る。

「おーい、お嫁さん、目開けて~」
そう声をかけられ、目を開ける。
「............ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!」
そこにあったのは、見たことも無いほど大きい神社のような建物と、明らかに年下の巫女っぽい女の子の姿だった。ギンギンに開いていたはずの瞳孔が、張り裂けるほど広がり、腹の底からの驚きが声となって響き渡る。思考とものを超越したかのようなその風景は、私の意識すらも殺すほどには衝撃的だった。

「ふふ...。ゆっくりおやすみ。私だけの、お嫁さん。」

そう、言われた気がした。
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