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第1章 働かなくてもいい世界 〜 it's a small fairy world 〜
師弟対決2
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私が産まれたのは人気のない山奥の洞窟だった。名前はパイル。覚えているのはそれだけ。なぜ名前だけ覚えていたのかは分からない。遠い昔のことだし、理由を忘れてしまっただけかもしれない。あるいは、傍らに置いてあった音の出る機械(後にそれが端末と呼ばれていることを知る)で名前を知ったのかもしれない。もうその辺りの記憶はあやふやだ。
私は端末で遊びつつ、この世界のことについて知る。服のこと、大陸のこと、アーカイブのこと、他人のこと、取寄せのこと。端末を通して世界を知ったが、この世界は何て暗く、何て狭く、そしてなぜ端末は存在しない他人のことを私に伝えたのだろうと思った。私の住む洞窟に出口はなく、住んでいるのも私だけ。その洞窟内が世界であり、大陸であると、産まれたばかりの私は勘違いしていた。
その勘違いを糺してくれたのが、師匠であるバイダルであった。修行中だったのか、戦闘中であったのかは分からない。ある日、突然、私の世界の壁は崩壊し、目が痛くなるほどの明るい光が飛び込んできた。
飛び込んできたのは光だけではない。満身創痍の大男もそこには居た。彼は私に気づくと、身を屈み、目線を揃えて声をかけてくれた。何と言ったのかは覚えていない。みるみるうちに修復していく彼の身体に、私の興味を奪われていた。
産まれて初めて他人にかけられた言葉を私は覚えていない。むしろ覚えているヒトのほうが少ないだろう。だからそれは大した問題ではない。私も大して気にしてはいない。ただ、その後に彼が言ったことは覚えている。洞窟の中をかるく見回した後、彼は大きな手の平を私に差し出して「一緒に来るか」と尋ねた。
もう数百年も昔のことだ。どう答えたのかも覚えていない。けれど、私はそれから彼に世界の常識と戦い方を教わった。だから、なんて答えたのかはなんとなく分かる。私は、彼と一緒に時を過ごすことを選択したのだ。
「ぐ……、がっ……」
気を失っていたのは一瞬か、数瞬か。
とても、懐かしい過去の景色を見た気がする。
「あまり早く、爆ぜてくれるなよ? それでは楽しくないからな」
逆さに映る、パンツ一張羅に身を包んだ師匠の姿。張り裂ける筋肉に鎧服は剥がされ、立ち上る熱気に視界が歪む。チリチリと皮膚が熱さを感じ、いつもの柔和な表情からは想像も付かない、歯を見せ凶悪に笑うその姿を、懐かしい気持ちで私は眺めていた。
ときどき、師匠は私を置いてどこかへと出かけた。その間、私は師匠の知人の家に預けられる。いつもは大人しく彼が迎えに来るのを待っていたが、あるとき師匠が何をしているのか気になって仕方がなくなり、師匠の知人に頼み込んでこっそりと彼が何をしているの見に行った。
そこで、彼はいつもと違う表情で笑っていた。黄金に光るパンツに身を包み、異形な筋肉で誰かと死闘を演じる師匠は、初めて会ったときの彼と同じように傷ついていた。
柔和な笑顔のいつもの師匠。
凶悪な笑顔の戦闘時に現れる彼。
そのとき私が思ったことは、彼を倒せる強さが欲しいということ。
そして、彼を倒した後、彼に言ってやりたいことがあるということ。
私は彼の強さを超えなくてはならない。
私は彼に思いを伝えなくてはならない。
「そうか。それが私の願う、彼との関係か……」
目覚めた私の目に、迫りくる彼が映る。凶悪な顔、光る股間、熱気に歪む筋肉。
「む……!?」
彼の一撃を止めたのは、私の持つ大剣『撃剣』。あまりの衝撃に支える脚が折れそうになるが、吹っ飛ばされることだけは避けられた。
「……舐められたものだな。そのようなクズ鉄で私の拳が防げるとでも?」
目にも留まらぬ連撃を私は撃剣で受ける。びきり、と手元から嫌な音がした。
「それ罅が入った。もう保たんぞ?」
彼の言葉通り、亀裂の入った撃剣は端から削られていき、最後には回し蹴りでほぼすべての刀身が砕け散った。
「ふん。己が身を鍛えず、武器にばかり頼るからこうなるのだ」
私は柄と芯だけが残った撃剣を見る。もはや身の丈を超えるようなリーチは失われ、刀身部分は無残な姿だ。
「折れた武器に気を遣っている場合か? 己の未熟さを嘆くがいい」
盾を失った私に彼は迫る。
脚を踏み出し、腰を捻り、私の頭を弾け飛ばす勢いで、彼の拳が私の頭を貫通するーーその前に。
私の武器は彼の脚を切り落としていた。
「な、に……?」
バランスを崩す彼に私はお礼を言う。
「ありがとう。槍の鞘を取る手間が省けたよ」
---------------------
クリスタをふっ飛ばしたバイダルさんは、パイルさんに不意打ちで襲いかかっていた。
(マダム! クリスタは大丈夫か?)
「大事無いさね。すぐに目覚めるよ」
「それは良かった。それにしても、バイダルさんは一体どうしちゃったんだろう。クリスタにビンタされたとはいえ、その程度で怒ってそのままパイルを襲うなんて、バイダルさんらしくないよ」
うーんとセミルは唸る。
確かに。いくら気持ち悪い変態のビンタを受けたとしても、バイダルさんにダメージなんてないようなもんだ。いつもはっはっはと笑う紳士な彼らしくない。あ、精神的ダメージが入ったのかな。それで パンツ一張羅になったと。それならまあ、納得できる。
「かっかっか。それは違うぞ、セミルちゃん。こっちがむしろ本当の奴だ」
懐かしい笑い声か聞こえる。そちらを見ると、グランさん、グレンさん、シズさんのモズ贄三人衆と、背の高い大男が居た。大男には見覚えがある。確かヒメちゃんの闘技場初の対戦相手で、名前は……。
「リューエン!」
「おお、ヒメ。元気だったか?」
そうだ。リューエンだ。すっかり忘れていた。
「なんだいあんたら。また、邪魔しに来たってのかい?」
マダムがグランに威嚇する。
「いや、そんなことはせんよ。流石にもう懲りたわ。あんたと闘うのはあと500年は先になりそうじゃな」
「なら何しに?」
「見学じゃな。さっき弟子であるリューエンに助けてもらったんじゃが、バイダルの本気の気配を感じての。慌ててここまで来たんじゃ」
慌ててここまでって、まだバイダルさんとパイルさん、戦い始めて間もないんですが。
「そうかい。他の奴らもかい?」
マダムの言葉に頷く三人。「なら大人しく見てな」と言ってマダムの追求は終わった。
「本当の奴ってどういうことですか? グランさん」
気になっていた疑問をセミルが尋ねる。
「もともと、奴は本気で闘うときはあんな感じじゃ。最近は丸くなってたがの、若い頃に儂とドンパチするときはいつもあんな感じじゃったぞい。だからむしろ、あれは奴の本当の姿なんじゃ」
「へー、そうなんですね。知らなかったです」
そうなんだ。知らなかった。
「で、本気の奴と戦っているのは……、パイルか。これではすぐに決着がつくな」
「そうとは限りませんよ、師匠。パイルは強い。そう簡単には負けない」
グレンさんが自信をもって断言する。
「グレン。お主が長年勝てなかった相手でもあるし、惚れ込んだ相手じゃ。応援したくなる気持ちは分かるが、まだ本気のバイダルには勝てんよ。いくら奴の弟子とはいえな」
「でも、師匠。パイルの隠し持っている武器のことは知らないでしょ?」
「っは。隠し武器なんぞ奴に通用するか。奴の皮膚は大地そのものじゃ。固く靭やかな皮膚と筋肉を傷つけるのは儂でさえ至難。勁で内部にダメージを与えて、ようやく勝ったんじゃからな。下手な武器なんぞ、奴に破壊されてしまいじゃ」
眼下の大穴で起こる、師弟の激突。バイダルさんの一撃を大剣『絶剣』でガードしたものの、その刀身が次々に削られていく。
「ほらの」
「でも。師匠。その武器、マダムでも壊せなかったんですよ。それでも、バイダルさんには壊せないんですか?」
「だからなグレン。何度も言って……は? グレン。今何て言った?」
グレンさんがそう言った直後、大穴の中でバイダルさんの片脚が切断された。
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その勘違いを糺してくれたのが、師匠であるバイダルであった。修行中だったのか、戦闘中であったのかは分からない。ある日、突然、私の世界の壁は崩壊し、目が痛くなるほどの明るい光が飛び込んできた。
飛び込んできたのは光だけではない。満身創痍の大男もそこには居た。彼は私に気づくと、身を屈み、目線を揃えて声をかけてくれた。何と言ったのかは覚えていない。みるみるうちに修復していく彼の身体に、私の興味を奪われていた。
産まれて初めて他人にかけられた言葉を私は覚えていない。むしろ覚えているヒトのほうが少ないだろう。だからそれは大した問題ではない。私も大して気にしてはいない。ただ、その後に彼が言ったことは覚えている。洞窟の中をかるく見回した後、彼は大きな手の平を私に差し出して「一緒に来るか」と尋ねた。
もう数百年も昔のことだ。どう答えたのかも覚えていない。けれど、私はそれから彼に世界の常識と戦い方を教わった。だから、なんて答えたのかはなんとなく分かる。私は、彼と一緒に時を過ごすことを選択したのだ。
「ぐ……、がっ……」
気を失っていたのは一瞬か、数瞬か。
とても、懐かしい過去の景色を見た気がする。
「あまり早く、爆ぜてくれるなよ? それでは楽しくないからな」
逆さに映る、パンツ一張羅に身を包んだ師匠の姿。張り裂ける筋肉に鎧服は剥がされ、立ち上る熱気に視界が歪む。チリチリと皮膚が熱さを感じ、いつもの柔和な表情からは想像も付かない、歯を見せ凶悪に笑うその姿を、懐かしい気持ちで私は眺めていた。
ときどき、師匠は私を置いてどこかへと出かけた。その間、私は師匠の知人の家に預けられる。いつもは大人しく彼が迎えに来るのを待っていたが、あるとき師匠が何をしているのか気になって仕方がなくなり、師匠の知人に頼み込んでこっそりと彼が何をしているの見に行った。
そこで、彼はいつもと違う表情で笑っていた。黄金に光るパンツに身を包み、異形な筋肉で誰かと死闘を演じる師匠は、初めて会ったときの彼と同じように傷ついていた。
柔和な笑顔のいつもの師匠。
凶悪な笑顔の戦闘時に現れる彼。
そのとき私が思ったことは、彼を倒せる強さが欲しいということ。
そして、彼を倒した後、彼に言ってやりたいことがあるということ。
私は彼の強さを超えなくてはならない。
私は彼に思いを伝えなくてはならない。
「そうか。それが私の願う、彼との関係か……」
目覚めた私の目に、迫りくる彼が映る。凶悪な顔、光る股間、熱気に歪む筋肉。
「む……!?」
彼の一撃を止めたのは、私の持つ大剣『撃剣』。あまりの衝撃に支える脚が折れそうになるが、吹っ飛ばされることだけは避けられた。
「……舐められたものだな。そのようなクズ鉄で私の拳が防げるとでも?」
目にも留まらぬ連撃を私は撃剣で受ける。びきり、と手元から嫌な音がした。
「それ罅が入った。もう保たんぞ?」
彼の言葉通り、亀裂の入った撃剣は端から削られていき、最後には回し蹴りでほぼすべての刀身が砕け散った。
「ふん。己が身を鍛えず、武器にばかり頼るからこうなるのだ」
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盾を失った私に彼は迫る。
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私の武器は彼の脚を切り落としていた。
「な、に……?」
バランスを崩す彼に私はお礼を言う。
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