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第1章 働かなくてもいい世界 〜 it's a small fairy world 〜
恋の行方
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数多の刀剣が突き立つ大穴の底。復活したパイルは傍に座っていたグレンに話しかけた。
「……私は、負けたのか」
「そうみたいだね」
「……慰めてはくれないのか?」
「ん? んー。パイルちゃんが慰めて欲しいのならそうするけど、そんなことはないでしょ」
「……そうだな。もし慰めて来たら、そんなことも分からない貴様に愛想を尽かすところだった」
「え、マジで?」
「冗談だ」
パイルは微笑み、グレンは何とも言えない顔をした後、彼も釣られて吹き出した。
「やはり、師匠は強い」
「うん」
「最初は通じた撃槍も、すぐに対応された」
「うん」
「すべての重りを取り払った後の最高速度にも、知っていたかのように対応された。おそらく、読まれていたんだろうな。投擲は囮。身軽になった後の最高速度はこの程度。そして、後がない私が狙う箇所。経験値の差という奴かな? いや、あそこまで追い込まれていた時点ですでに駄目か。経験値うんぬん以前に、選択肢がなくなるほど、私と彼に自力の差があったということか。はは、やはり彼は強い」
「……」
「だが、確実に差は縮まっている」
パイルは上半身を起こす。
「師匠は言っていた。『私にグランさん並の速度はない。シズさん並の耐久力はない』と。だが、裏を返せばそれらを身につければ脅威になるということ。追いつけないと思っていた、彼の背中が見えた気がする。届かないと思っていた、彼の実力に触れた気がする。なあ、グレン。私は今、嬉しいんだ。こうしてはいられないぞ。あと数年で、私は師匠を越えてみせる」
パイルは嬉しそうにグレンに話しかける。
しかし、グレンにとっては胸中穏やかではない。彼には確かめたいことがある。
「パイル。前から思ってたんだが……、お前はその……本気で、バイダルさんのことが……」
「ん? 好きか嫌いかの話か?」
「ああ」
「そうだな。好きだぞ」
「……そうか」
「ああ、勘違いするな。別に恋をしているというわけではない。むしろ、原点に立ち返ったのだ。初心に戻ったと言うべきか。まあ、どちらにせよ、久しぶりに師匠の本気の闘いを見て思い出したのだ。ふふ、クリスタには感謝だな」
「? どういうことだ?」
「私が産まれた洞窟のことを覚えているか? 撃槍が近くにあった場所だ。産まれて初めて会ったヒトが師匠でな。あろうことか師匠はそのとき、体中傷だらけだったんだ。で、幼かった私は彼が敵に襲われてると思ってな。彼のことを守ってあげなきゃと、そう思ったんだ」
-----------------------------------
「……何を嬉しそうにしとるんじゃ? バイダル」
戻ってきたバイダルさんにグランは話しかける。彼の言う通り、確かにバイダルさんの顔はにやけていた。
「おっと、表情に出ていましたかな。失礼。いや、なに、昔のことをちょっと思い出したんですよ」
(昔のこと?)
「はい。パイルと初めて会ったときのことを。
パイルは昔、誰もいない、出口のない洞窟で産まれましてな。産まれて数年はひとりでその洞窟で過ごしていたんです。それで、彼女は自分以外のニンゲンはすべて居なくなってしまったと思ってましてな。だから、私が修行中にその洞窟に突っ込んでしまったとき、傷だらけである私を見た彼女は、外に連れ出そうとした私の手を払い除けて、こう言いましてな。
『外? 行かないわよ。そんなことより、あなた、大丈夫? 傷だらけよ? 安心して、この中なら安全だわ。外にはあなたをそんな風にした敵がいるのね。大丈夫。あなたのことは、私が守ってあげる!』
と。そんなことがあったせいか、本当の世界のことを知った後でも、『強くなって、あなたのことを守ってあげる』と小さかったころはよく言ってましてな。まあ、時が経つにつれ、段々と言わなくなっていったんですが、さっき久しぶりに聞くことができましてな。懐かしくてつい」
はっはっはと笑うバイダルさん。頬を弄ってにやけた顔を元に戻そうとしている。
なるほど。嬉しかったのはそういうことか。愛弟子からそんなことを言われたら師匠冥利に尽きるだろうな。
「とは言え、本気のお主はまだパイルには厳しかったようじゃの」
「なあに、これでようやく踏ん切りがついたでしょう。ここまで形振り構わないパイルは初めて見ました。今までは私のスタイルを踏襲するばかりでしたからな。これから試行錯誤して、より強くなるでしょう。これでようやく本当の意味で巣立ってくれそうです」
「そうか。それはなによりじゃな」
「ええ」
バイダルさんを労うグラン。お互い弟子を持つ身であるがゆえに、通じるところもあるのだろう。
「クリスタ殿」
服を着直したバイダルさんが、クリスタに話しかける。
「さっきはすみませんでした。ああしたほうが、パイルが怒って本気を出しやすくなると思いましてな。痛くはないように致しましたが、大丈夫だったでしょうか?」
「あ、えと、はい。大丈夫です。こちらこそ、急にビンタしてしまってすみません」
「いえいえ。それは、パイルのためだと分かっておりますよ。むしろ、よく私にビンタができましたね。<十闘士>と知ってなおそんなことができるなんて、凄い勇気です。感服いたします」
「え、あの、その、ありがとうございます。嬉しいです」
クリスタを褒めちぎるバイダルさん。クリスタは顔を真赤にして照れている。
「あら? 私よくビンタされるのだけど」
(それはシズさんがビンタされて悦ぶ変態だからです。普通の<十闘士>相手だったら恐ろしくてそんなことできません)
「なるほど」
分かってなかったのか。というか、よくビンタされるのか。そのヒトたち、よくシズさんにビンタしようと思ったな。ああ、闘技場のキクカさんは別。あのとき、シズさん実況サボって眠ろうとしてたし。
「それで、クリスタ殿。私はそんな、貴方のことが好きになってしまいました。私と一緒に暮らしませんか?」
「はい。 喜んで!」
(ん?)
「え?」
「あら?」
疑問符を残して固まる俺たち。
このヒトら、今、何て言った?
「……驚きました。本当によろしいので? いきなり提案しておいて何ですが、まだ会って1時間も経ってないですよ。断られると思ってました」
「あなたの裸体と筋肉と、弟子を想う優しさに惚れました。こちらこそ、そう言おうと思っていたところです」
「それは嬉しいです。承諾いただきありがとうございます」
放心する俺たちをよそに盛り上がる二人。
「戻ったよ、みんな。パイルが修行に専念したいということで、告白の返事は保留になったけど、二人で一緒に修行することになったよ!」
「師匠、本気で戦っていただき、ありがとうございます。そういうことです。次は負けません……よ?」
嬉しそうなグレンと、復活したパイルさんが大穴の底から戻って来た。彼らが目撃したのは、さっきまで戦っていたバイダルさんと、さっき会ったばかりのクリスタが親しげにイチャつくその姿。
「これが恋なの……?」
「だから相談なんてできないんじゃ……」
ヒメちゃんとマダムがぼそりと呟いた。
「……私は、負けたのか」
「そうみたいだね」
「……慰めてはくれないのか?」
「ん? んー。パイルちゃんが慰めて欲しいのならそうするけど、そんなことはないでしょ」
「……そうだな。もし慰めて来たら、そんなことも分からない貴様に愛想を尽かすところだった」
「え、マジで?」
「冗談だ」
パイルは微笑み、グレンは何とも言えない顔をした後、彼も釣られて吹き出した。
「やはり、師匠は強い」
「うん」
「最初は通じた撃槍も、すぐに対応された」
「うん」
「すべての重りを取り払った後の最高速度にも、知っていたかのように対応された。おそらく、読まれていたんだろうな。投擲は囮。身軽になった後の最高速度はこの程度。そして、後がない私が狙う箇所。経験値の差という奴かな? いや、あそこまで追い込まれていた時点ですでに駄目か。経験値うんぬん以前に、選択肢がなくなるほど、私と彼に自力の差があったということか。はは、やはり彼は強い」
「……」
「だが、確実に差は縮まっている」
パイルは上半身を起こす。
「師匠は言っていた。『私にグランさん並の速度はない。シズさん並の耐久力はない』と。だが、裏を返せばそれらを身につければ脅威になるということ。追いつけないと思っていた、彼の背中が見えた気がする。届かないと思っていた、彼の実力に触れた気がする。なあ、グレン。私は今、嬉しいんだ。こうしてはいられないぞ。あと数年で、私は師匠を越えてみせる」
パイルは嬉しそうにグレンに話しかける。
しかし、グレンにとっては胸中穏やかではない。彼には確かめたいことがある。
「パイル。前から思ってたんだが……、お前はその……本気で、バイダルさんのことが……」
「ん? 好きか嫌いかの話か?」
「ああ」
「そうだな。好きだぞ」
「……そうか」
「ああ、勘違いするな。別に恋をしているというわけではない。むしろ、原点に立ち返ったのだ。初心に戻ったと言うべきか。まあ、どちらにせよ、久しぶりに師匠の本気の闘いを見て思い出したのだ。ふふ、クリスタには感謝だな」
「? どういうことだ?」
「私が産まれた洞窟のことを覚えているか? 撃槍が近くにあった場所だ。産まれて初めて会ったヒトが師匠でな。あろうことか師匠はそのとき、体中傷だらけだったんだ。で、幼かった私は彼が敵に襲われてると思ってな。彼のことを守ってあげなきゃと、そう思ったんだ」
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「……何を嬉しそうにしとるんじゃ? バイダル」
戻ってきたバイダルさんにグランは話しかける。彼の言う通り、確かにバイダルさんの顔はにやけていた。
「おっと、表情に出ていましたかな。失礼。いや、なに、昔のことをちょっと思い出したんですよ」
(昔のこと?)
「はい。パイルと初めて会ったときのことを。
パイルは昔、誰もいない、出口のない洞窟で産まれましてな。産まれて数年はひとりでその洞窟で過ごしていたんです。それで、彼女は自分以外のニンゲンはすべて居なくなってしまったと思ってましてな。だから、私が修行中にその洞窟に突っ込んでしまったとき、傷だらけである私を見た彼女は、外に連れ出そうとした私の手を払い除けて、こう言いましてな。
『外? 行かないわよ。そんなことより、あなた、大丈夫? 傷だらけよ? 安心して、この中なら安全だわ。外にはあなたをそんな風にした敵がいるのね。大丈夫。あなたのことは、私が守ってあげる!』
と。そんなことがあったせいか、本当の世界のことを知った後でも、『強くなって、あなたのことを守ってあげる』と小さかったころはよく言ってましてな。まあ、時が経つにつれ、段々と言わなくなっていったんですが、さっき久しぶりに聞くことができましてな。懐かしくてつい」
はっはっはと笑うバイダルさん。頬を弄ってにやけた顔を元に戻そうとしている。
なるほど。嬉しかったのはそういうことか。愛弟子からそんなことを言われたら師匠冥利に尽きるだろうな。
「とは言え、本気のお主はまだパイルには厳しかったようじゃの」
「なあに、これでようやく踏ん切りがついたでしょう。ここまで形振り構わないパイルは初めて見ました。今までは私のスタイルを踏襲するばかりでしたからな。これから試行錯誤して、より強くなるでしょう。これでようやく本当の意味で巣立ってくれそうです」
「そうか。それはなによりじゃな」
「ええ」
バイダルさんを労うグラン。お互い弟子を持つ身であるがゆえに、通じるところもあるのだろう。
「クリスタ殿」
服を着直したバイダルさんが、クリスタに話しかける。
「さっきはすみませんでした。ああしたほうが、パイルが怒って本気を出しやすくなると思いましてな。痛くはないように致しましたが、大丈夫だったでしょうか?」
「あ、えと、はい。大丈夫です。こちらこそ、急にビンタしてしまってすみません」
「いえいえ。それは、パイルのためだと分かっておりますよ。むしろ、よく私にビンタができましたね。<十闘士>と知ってなおそんなことができるなんて、凄い勇気です。感服いたします」
「え、あの、その、ありがとうございます。嬉しいです」
クリスタを褒めちぎるバイダルさん。クリスタは顔を真赤にして照れている。
「あら? 私よくビンタされるのだけど」
(それはシズさんがビンタされて悦ぶ変態だからです。普通の<十闘士>相手だったら恐ろしくてそんなことできません)
「なるほど」
分かってなかったのか。というか、よくビンタされるのか。そのヒトたち、よくシズさんにビンタしようと思ったな。ああ、闘技場のキクカさんは別。あのとき、シズさん実況サボって眠ろうとしてたし。
「それで、クリスタ殿。私はそんな、貴方のことが好きになってしまいました。私と一緒に暮らしませんか?」
「はい。 喜んで!」
(ん?)
「え?」
「あら?」
疑問符を残して固まる俺たち。
このヒトら、今、何て言った?
「……驚きました。本当によろしいので? いきなり提案しておいて何ですが、まだ会って1時間も経ってないですよ。断られると思ってました」
「あなたの裸体と筋肉と、弟子を想う優しさに惚れました。こちらこそ、そう言おうと思っていたところです」
「それは嬉しいです。承諾いただきありがとうございます」
放心する俺たちをよそに盛り上がる二人。
「戻ったよ、みんな。パイルが修行に専念したいということで、告白の返事は保留になったけど、二人で一緒に修行することになったよ!」
「師匠、本気で戦っていただき、ありがとうございます。そういうことです。次は負けません……よ?」
嬉しそうなグレンと、復活したパイルさんが大穴の底から戻って来た。彼らが目撃したのは、さっきまで戦っていたバイダルさんと、さっき会ったばかりのクリスタが親しげにイチャつくその姿。
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「だから相談なんてできないんじゃ……」
ヒメちゃんとマダムがぼそりと呟いた。
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