異世界で悪霊となった俺、チート能力欲しさに神様のミッションを開始する

眠眠

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第2章 恋のキューピッド大作戦 〜 Shape of Our Heart 〜

諸月の時期 後日談2

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「結婚って何?」

 レイジーちゃんは無邪気に尋ねる。

「レイジー、ほら口元」
「ありがとベティ」

 ベティさんはナプキンで彼女の口元を拭ってやる。この二人はレイジーの外出が決まった折に一度会っている。今日で会うのは二度目なのだが、すっかり仲良くなっていた。レイジーちゃんの明るく無邪気な性格ゆえか、ベティさんの面倒見の良い性格ゆえか分からないが、年の離れた姉妹に見えなくもない。

「結婚っていうのは、愛する二人が家族になることね」

 汚れたナプキンを折りつつ、彼女は言う。

「愛する二人が、家族になる……?」
「そう。愛する人とは片時も離れたくないでしょ? だから、一緒に住むために家族になるの。それが結婚」
「ふーん」

 レイジーちゃんは気の抜けた返事をする。彼女にはまだ早かったかな。見た目は十代後半だし恋愛話に興味を示しそうだが、精神年齢はまだ幼いようだ。彼女はまだ色気より食い気のようで、ケーキにフォークを刺して口へと運ぶ。

「もぐもぐ……ゴクン。あ、じゃあクリス。私と結婚しようよ」
「「ぶっほ」」

 レイジーちゃんの発言にクリスくんとベティさんが揃ってコーヒーを吹き出した。

「……レイジー、どうしたの急に」
「ごほっ、ごほっ」

 クリスくんはレイジーちゃんに意図を尋ね、ベティさんは気管にコーヒーが入ったのか咽ている。
 
「えー、だって、結婚したら一緒に住めるんでしょ? あの部屋は嫌だし、クリスと一緒に住みたいなーって。あーん」

 そう言ってレイジーちゃんはケーキを口に運ぶ。特に恥ずがしがる様子もない。どうやら結婚の意味が良く分かってないようだ。

「ごほっ、ごほっ。その前に確認したいんだけど、レイジーちゃんはクリスのこと、……ラヴなの?」
「何ですかラヴって」
「だって、『愛してる』って言うの恥ずかしいじゃない。察しなさいよっ」
 
 クリスくんの突っ込みに慌てたように答えるベティさん。

「もぐもぐ……。『愛してる』ってなーに?」

 あっけらかんと答えるレイジーちゃん。やっぱり意味がよく分かって無かったか。しかし、せっかくの機会だから俺も後押しするとしよう。

(レイジーちゃん。『愛してる』っていうのは『好き』ってことだ。レイジーちゃんはクリスくんのこと好きだよね)
「うん。好きだよー」
(だったらそれは愛してるってことだ。後はクリスくんがレイジーちゃんのことを好きなら結婚できる!)
「本当!?」
「いや、本当じゃないですよ。何言ってるんですか、悪霊さん」

 うん? 何かおかしいこと言ったかな?

「好きと愛とは別物ですし、そもそもレイジーが結婚できるのかも分かりませんし、譬え結婚できたとしても彼女は今の部屋から出られるとは限りませんよ」
「……そうなの?」

 悲しそうにレイジーちゃんは言う。

「こら、クリス。レイジーをいじめちゃ駄目。レイジーは結婚できるかもしれないし、今の部屋から出られるようになるかもしれない、でしょ。つまり、まだ分からないわ。最初から諦めてちゃ駄目」
「それは、……そうですけど」
「重要なのはレイジーのクリスへの思いが、恋心か否かってことだけど……」

 ベティさんはチラとレイジーちゃんを見る。彼女は結局結婚できるか否か分からなくなってしまったので、きょとんとしていた。

「これはまだ分かって無さそうね……」

 ふう、と彼女はため息をつく。

「レイジーにはまだ結婚は早いかな」
「そうなの?」
「レイジーは今何歳?」
「えっと……?」
「3歳ですね」

 首を傾げるレイジーちゃんの代わりにクリスくんが答える。

「だったらあと12年待とうね。15歳になったら結婚できるから」
「それより早くは駄目なの?」
「そうね、法律で決まっているから」
「そっかー」

 レイジーちゃんは残念そうにそう呟く。しかし、ケーキを3口も食べると彼女の機嫌は再び良くなった。まあ、精神年齢三歳児ならこんなもんか。

「ああ、それと結婚すると赤ちゃんができるわね」
「赤ちゃん……?」
「ほら、あそこ。小さい子供がいるでしょ?」
 
 ベティさんはレイジーちゃんの背後のテーブルを指差す。そこにはカップルが座っていた。女性は赤ちゃんを抱きしめている。まだ、生後数ヶ月のようだ。

「愛する二人が結婚するとね、赤ちゃんができるの。新しい家族が産まれるの。二人が一緒に暮らすのはその準備みたいなものかしらね」
「赤ちゃん……」

 レイジーちゃんはしばらく母親に抱かれる小さな存在を見つめていた。


 カフェを出た俺達はクリスくんの家へと向かう。約束していた家の掃除と食事会をするためだ。途中で料理の材料を買い、クリスくんの家へと到着する。

「それじゃ、始めようか」
「そうですね」
「私も手伝う!」

 レイジーちゃんは元気よく手を挙げる。三人は掃除の分担を決め始めた。

(俺も何か手伝えればいいんだけどなー)
「無理しなくていいよ。悪霊さん物に触れないんでしょ」

 笑いながらベティさんが言う。そうなんだよなー。前の世界でもみんなが掃除しているとき、俺は辺りを探索してただけだったし。

(あ、でも最近ちょっとだけ風起こせるようになったよ。だから手伝えることがあるんじゃないかな)
「え、風を起こせる?」
(そうそう。ちょっと手のヒラ出してみて)
「こう?」

 首を傾げつつベティさんは手のヒラをこちに向ける。俺はラブハリケーンでそよ風を放つ。

「うわ、なんか風を感じる。これ、悪霊さんの仕業?」
(そうだよ)
「……口から出してないよね? だとすると気持ち悪いんだけど」
(出してないよ! 口ないし! イメージ的には手を仰いでる感じ)
「ならいいんだけど……」

 ベティさんは微妙な表情をしていた。

「悪霊さん、こっちにも」
「私も」

 興味を持ったのか、クリスくんとレイジーちゃんのリクエストが来る。ご期待に添えてやると二人共ちょっと喜んでいた。

「これが限界? 風を操作してホコリを一箇所に集めるとかできない?」
(やってみるか)

 ベティさんのご期待通りに風を操ってみる。一度に起こせるのは大した風じゃないので、何回かラブハリケーンを繰り返してホコリを一箇所に集めてみた。

「お、いいね」
(割といけた。けどひっついてる汚れとか細か過ぎて飛ばないホコリは無理そうだな)
「それは後から水拭きするからいいよ。悪霊さんは棚のホコリを床に落とすのと、床のホコリをまとめるまでをお願い。私達は窓拭きからやろうかな」
(了解だ)

 こうして俺はラブハリケーンの新たな使い途を知った。エアダスター悪霊の誕生である。俺たちは手分けして家の掃除を進めていった。

 
「あ、そういえばクリスは黒虎に襲われてた子供のこと覚えてる?」

 掃除が一段落し、居間で休憩していたベティさんがクリスくんに尋ねる。ちなみに、レイジーちゃんは午前中のショッピングに疲れたのかソファで居眠りしていた。
  
「子供……? 黒虎に咥えられていたあの子供のことですか?」
「そう。軍病院で一命をとりとめたらしいんだけど、まだ意識が回復してなくてね。クリスはあの子の身元に心当たりない?」
「ない、というか、顔を見てないので分かりません。身元引受人とか現れなかったんですか?」
「それが、現れなかったのよ。あの騒動で子供を見失ったという報告も聞いてないし、孤児の可能性が高そうなのよ。服もボロボロだったしね」

 はあ、と彼女はため息をつく。

「それでも、命があっただけでも良かったじゃないですか。よく黒虎に噛みつかれて生きてましたね」
「それがね。その子供、衰弱はしていたけど身体に傷はほとんど無かったらしいのよね」
「え、噛みつかれて無かったんですか? 単に咥えられていただけ?」
「そう。そうとしか思えないの」
(ふーん。それは変な話だな)

 まるで、黒虎とその子供は仲が良いみたいじゃないか。

「そうなのよ。今回の諸月は変な話ばっかりなの。特に八日目は。攻め寄せる群れの量も桁外れに多かったし、黒鼠はおろか大型獣にも侵入されるし」
「そういえば、どうやって大型獣は侵入したんですか? 放送では黒鼠だけだったのに。……まさか、パニックにならないよう黒鼠と嘘の放送をしたんですか?」
「いや、そんなことしないわよ。単に気づかなかっただけ。それがね、連中穴を掘って帝都内部に侵入してたの。それも中央に近い位置まで」

 え、穴を掘ってって。帝都外部から中央までかなり距離があるけど……。

「そう。そんな長いトンネルがいつの間にか掘られてたの。大型獣がギリギリ通れるくらいの太さだけど、それでもかなりの労力が必要よ。それをモンスターがやってのけるなんてね……」

 彼女は盛大にためいきをつく。

「あと最後。最後のあれもやぱかったわね」
「最後? 最後に何かあったんですか?」
「うん。すごかったよ。大量のモンスターたちが、共食い・・・を始めたの」

 彼女曰く、今まで一斉に帝都に向かっていたモンスターたちの動きが突然止まったという。そして、何を思ったのか互いに互いを襲い始めたらしい。

「まあ、あんな狭いところに草食獣と肉食獣がいっしょくたになってたら争わないほうが変だけどさ。でもだったら何で今まで一緒に居たんだって話だよね」

 おかげで討伐も楽ちんだったけどさ、と彼女は続ける。

「……共食いを始めたのって、いつ頃ですか?」
「えーと、深夜前くらいかな」
「……黒虎が討伐されたのも、確かそのくらいの時間ですね」

 そう言ってクリスくんは考え込む。えっと? つまりどういうこと?

「つまり、ボスが死んだから群れが瓦解した、ということです」
「あ、クリスもそう思う?」
「もってことは、ベティさんもそう思ってるんですか?」
「うん。その話は軍でも話題になってさ。状況的にはそうとしか思えないんだけど、じゃあどうやって黒虎が群れを統率してたって話になるよね。それに外の群れが帝都内部のボスの死をどうやって知ったのかも。その疑問に誰も答えられなくてさ。とりあえず偶然ってことになってる」
「……まあ、しょうがないですね。理屈がつけられないんじゃただの妄想ですから」
「そうなんだけど、全然すっきりしなくてさー……。いつもはこの時期が終わったら飲んで食べて騒ぐんだけど、こうも変なことばかりだと不安しかないんだよね……」

 彼女は再び盛大なためいきをつく。無理もない。今まで能無しに責めてくるだけのモンスターが頭を使い始めたのだ。この先、このような事態が続くとなれば人類存亡の危機に関わってくる。

 と、そこで玄関のチャイムなった。クリスくんが応対のために外に出る。

「お邪魔しまーす」
「おー、良い家だねー」
「久しぶりに来たけど、変わってないな」

 聞き覚えのある声がする。部屋の扉が開くと、アンナ、ケイト、アルの三人が入ってきた。アルの無職を慰める会が黒虎騒ぎで中途半端になってしまったので、今日ここでやり直すことになっていたのだ。

「おー、君たちがクリスの友達? いつもありがとねー」

 ちょっと元気が無さそうにベティさんが言う。

「あ、お邪魔します」
「あれ……。どこかで見覚えが……?」
「もしかして、第七分隊のエリザベス隊長!?」

 三人は驚いて目を見張る。

「そうだけど……。クリス、私のこと伝えて無かったの?」
「父さんの知人と一緒に飲むと伝えてありますよ。あとレイジーのことも伝えましたが」
「それが軍の隊長とは思わなかった」
「そうだよクリスー。言葉足らずだよー。 すいません、お酒こんなのしか無いんですけど、お口に合いますかね……」

 ケイトが取り出したのは一本のワインボトルだった。

「ああ、お気遣いなく……。あら、レイダースのワインじゃない。飲んでいいの?」
「勿論です」
「やったー! クリス、グラス取って! 試飲試飲! あと、コルク抜きどこ?」

 ベティさんはワイン片手にキッチンへと消えていった。さっきまでの鬱屈した様子はワイン一本で吹き飛ばされてしまったようだ。
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