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第2章 恋のキューピッド大作戦 〜 Shape of Our Heart 〜
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城壁の近くで俺たちはリーシャと別れることになった。
「偽歌姫さん達とちゃんと合流できるの?」
「大丈夫。じきに迎えがーーほら、来たわ」
リーシャの示した方向から奇妙な一団が走って来た。先頭を走るのはーー何と表現したらいいのだろう。化粧をした大柄な男(?)だ。
「リーシャちゃん、こんなところに! もう、探したのよ! 勝手に離れちゃダメでしょ!!」
大柄な男(?)は女言葉でそう叫ぶと、リーシャの両肩をガッチリと掴む。絶対に離さないという強い意思が伝わってきた。
「いやー、ごめんね、マネージャー。どうしても観光したくってさ」
「もう、それならそう言ってくれればいいのに。忙しいとはいえ時間だって空けられないこともなかったのに。それに、帝都のことなら私けっこう詳しいのよ。リーシャちゃんの好きなところ、どこにでも案内してあげられるんだから、ね♡」
マネージャーと呼ばれた大男(?)の強烈なウィンクが飛んでくる。リーシャは視線を背けると「だから黙ってたのに……」と吐き捨てるように呟いた。
なるほど。このマネージャーがついてくるのは確かに嫌だな。だからリーシャは身代わりを立ててでも、ひとりで観光したかったのか。
「うー、リーシャ。やっぱり僕には無理ですよー」
「あ、セイ。身代わりありがとね、助かったわ」
オカマネージャーに続いて小走りにやってきたのはリーシャと同じ年頃の少年だ。顔にはナチュラルメイクが施してあり、服装は偽歌姫と同じものだ。先程見たときより髪の毛がかなり短くなっている。おそらく、歌姫のフリをしていたときはウィッグかカツラでもつけていたのだろう。
少年に続いてSPの男性が二人やって来る。広場にはSPはもっと居た気がするが、走って来たのは彼ら二人だけだ。残りはまだリーシャを探して帝都を走り回っているのかもしれない。
「あれ、この人は……」
「ああ。帝都の案内をしてくれたクリスよ。彼が居てくれたから道に迷うことも無かったし、楽しい帝都観光ができたわ」
セイと呼ばれた少年の疑問にリーシャが答える。
「リーシャは偽名じゃ無かったの?」
「本名よ。リーアが芸名なの」
「そうなんだ」
随分と似た芸名である。本名をもじっただけなのかもしれない。
「あら、リーシャの相手をしてくれてありがとうね、君。そうだ、何かお礼をしないとーー」
「あ、それならもう十分頂いたんで、結構です」
「でもーー」
「これ以上はさすがに受け取れません」
クリスくんはマネージャーの申し出を断り続ける。マネージャーはクリスくんとリーシャの顔を何度か見て、本当に不要であることを察すると、「分かったわ」とニッコリ笑った。見るもの全てが恐怖を抱くような、そんな笑顔だった。
「ーーあの」
セイくんがおずおずとクリスくんに近づいてくる。
「あなたは、パートナー、なんですか?」
彼は、やけにはっきりとした口調でそう尋ねた。
「え? パートナー? 何の?」
「……あ、いえ、すみません。何でもないです」
キョトンとするクリスの様子を見て、セイくんは焦ったように両手をぶんぶん振ると、リーシャの後ろに隠れてしまった。
「ごめんね、セイが訳のわからないこと言って」
「まあ、気にしてはいないけど……」
セイくんはリーシャの後ろからじっとクリスくんを見ている。まだ何か言いたげの様子だ。
「それじゃあね、クリス、悪霊さん。楽しかったわ。ライブ見に来てね!」
「うん」
(楽しみにしてるよ)
「あら、来てくれるの? それは嬉しいわね。待ってるわよー。……クリス・アクリョウっていうの、変わった名前ね」
俺の声はマネージャーには聞こえなかったようで、リーシャは吹き出し、クリスくんは曖昧な笑みを浮かべていた。
リーシャとマネージャーは俺たちに手を振る。セイくんとSPさんはペコリと頭を下げると、奇妙な一団は去っていった。最後にオカマネージャーのウィンクが飛んできたが、俺とクリスくんは辛うじて回避に成功した。
「なんというか、すごい人でしたね」
(俺、あんな化物初めて見た)
「僕もですよ。さて、買い物して帰りますか」
俺たちは商店街に向かって出発する。茜色の空は徐々に紫色を帯び始めていた。
「え!? 歌姫リーアのチケットを入手したんですの!?」
喫茶店で素っ頓狂な声を上げるのは、一国の姫であるソフィ嬢だ。
「うん。ほらね」
クリスくんはリーシャから手渡されたチケットの束を見せる。「ちょっと貸して」とソフィはチケットをふんだくった。
「ひーふーみーよー、四枚もあるわね。しかも、VIP席じゃないの!」
「そうなんですか?」
「そうなんですのよ! なんでクリスが知らないんですの?」
「だって、貰い物だし」
「もらい、もの……?」
ソフィが目を瞠る。
「こんな高価な……いや、関係者じゃないと入手不可能なチケットを、貰った? いったい誰に?」
「リーア本人から」
「リーア本人!?」
ソフィは再び大声を上げ、更には驚きのあまり立ち上がった。「ソフィ様」と、傍らで警護するミヤナギさんが嗜める。ソフィは赤面した後、咳払いをして席に戻った。
「どうしたの、ソフィ?」
「何でもないです……」
ソフィの隣に座るレイジーちゃんも、滅多にない彼女の奇行を疑問に思わずにはいられなかったようだ。
ここは帝都の喫茶店の一角。平日にも関わらずソフィはレイジーちゃんを外へと連れ出していた。公務が終わって暇になったらしい。そんな理由で姫様が会いに来るほどレイジーちゃんと仲が良かったのか。ちょっと仲が良すぎる気もするな。
クリスくんが一緒にいるのは、姫様がレイジーを誘ったとき、たまたまクリスくんがレイジーの部屋に居たからだ。クリスくんはソフィの誘いを丁寧に断ろうとしたが、姫様の「ダメ」の一言で付き添いを余儀なくされた。
彼らは特にどこに行くでもなく帝都をブラブラし、たまたま目についた喫茶店に入ったのであった。
「……そんなに驚くことでもないでしょ。ソフィならVIPチケットだって容易く入手できるし、頼めばリーア本人にだって会えるんじゃないの?」
姫様なんだし、とクリスくんは続ける。
「それはできますけど、何というかそれはルール違反な気がしません? ファンたるもの、そういうものはきちんとルールを守って入手しなくては」
彼女は懐から封筒を取り出す。中身はリーシャのライブチケットであった。
「ファンだったの?」
「ええ。彼女の、歌姫リーアの力強い生き様に惚れまして」
自身を落ち着かせるように、彼女は紅茶を口に含む。
「リーア……?」
「そうよ。レイジー。聞いたこと無いかしら。いま、この喫茶店でも流れているのが、彼女の曲よ」
「そうなの?」
レイジーちゃんは耳を済ます。ソフィの言う通り、確かに喫茶店のBGMで流れる歌声はリーシャのものだ。
「……うん。いい曲だね。なんか、懐かしい感じ」
「うんうん。やはりレイジーには分かりますか。彼女の曲の素晴らしさが」
「それじゃあ僕には分からないみたいじゃないか」
「あれ? 音楽には興味ないんじゃありませんでしたの? 私、覚えてますわよ。あなたが音楽の授業をさぼってこっそり図書室に籠もってたこと」
「それ、初等部のころの話だよね。よく覚えてるね」
「忘れたことなどありませんわ」
ふん、と彼女は鼻を鳴らす。
二人は同じ学校に通っていたらしい。それでもあまり仲が良くないのか。
「それで、誰と行くつもりですの」
「そうだね。とりあえず、ベティ姉さんとアンナを誘ってみようかな。アルとケイトは今帝都に居ないし……」
クリスくんはちらとレイジーちゃんを見る。
「レイジーも行く?」
「どこに?」
「ライブっていう、みんなで音楽を聞くところ。歌うのはリーアね」
「きっと楽しいですわよ」
ソフィが笑顔で言う。クリスくんには決して向けない素敵な笑顔だ。彼女はレイジーちゃんとクリスくんに対する態度を見事に使い分けている。
「そっか。なら、行こうかな」
レイジーちゃんは笑顔で言う。リーアの歌が気に入ったみたいで、ふんふんと鼻歌を口ずさんでいる。
「クリス。あなたのチケット一枚と、私のチケット、交換しない? 皇城の秘蔵図書室に入れる権限を上げるから。一般人閲覧不可の本が沢山あるわよ?」
「お断りします。目録を見たことありますが、僕の守備範囲外の本ばかりでしたので」
ソフィとクリスくんは交渉を始めた。どうやらソフィはなんとしてもVIPチケットを手に入れたいらしい。レイジーちゃんそっちのけで、しばらくその交渉は続いていた。
結局、交渉は破断となった。ソフィは沈痛な面持ちで喫茶店を出た。下を向く彼女は「これはもう、私の持つ全てのコネを使うしか……。いや、でもそれはファンとしては禁じ手……」と不穏当なことを呟いていたが、聞かなかったことにした。
レイジーちゃんを実験塔の彼女の部屋まで送り届けると、クリスくんはソフィと別れた。「それじゃあ」「ええ」という簡素な挨拶であった。レイジーちゃんと挨拶したときは、彼女はレイジーちゃんの頭まで撫でていたのに、随分と扱いに差があるな。
(どうしてソフィと仲が悪いんだ?)
「あ、悪霊さんですか。別に悪いわけじゃないですよ。良くないだけです。気になりますか?」
(少しね)
「まあ、大した理由ではないんですが……。悪霊さん、ソフィの年齢って知ってます?」
年齢? 確か17歳って聞いた気が……。
「そうです。彼女、僕の二つ上の年代なんですよ。で、レイジーの相手したり、進んで怪我人の手当をするほど面倒見のいい性格をしていまして。そんな彼女が、自分の二つ歳下の幼馴染が自分と同じ初等部に入学したら、どうすると思います?」
(え? 面倒見がいいんだろ。だったら、その子の面倒を見るよな)
「そうですね。でも、その面倒を見ていた子が飛び級を繰り返して、いつの間にか自分と同じ学年となり、更には先に卒業までされてしまったら、彼女は立つ瀬がないんじゃないですかね」
あー、なるほど。クリスくんの言わんとしていることが分かったわ。
(それで、仲が良くない、ね)
「そういうことです」
誰も居ない廊下にクリスくんの独り言が響いていた。特に悲しがる様子もなく、彼はいつも通りマイペースに廊下を歩いていた。
【おまけ】
姫様の一般チケット入手方法
姫(……く、公務が終わらない。このままだと、リーアのチケットが売り切れてしまう……)
姫「仕方ありません。レイカ、大変申し訳無いのだけれど、買ってきてもらえるかしら」
レ「承知しました(ハルっちに頼もう)」
レ「ーーあ、ハルっち? 買ってきて」
ハ「え、俺非番……」
レ「買えなかったら腹パンするから」
ハ(何たる理不尽……! これが体育会系か……!)
レ「姫様が」
ハ「……分かりました、買ってきます」
正直、ラインハルトは買わないでおこうかちょっと悩んだ。
「偽歌姫さん達とちゃんと合流できるの?」
「大丈夫。じきに迎えがーーほら、来たわ」
リーシャの示した方向から奇妙な一団が走って来た。先頭を走るのはーー何と表現したらいいのだろう。化粧をした大柄な男(?)だ。
「リーシャちゃん、こんなところに! もう、探したのよ! 勝手に離れちゃダメでしょ!!」
大柄な男(?)は女言葉でそう叫ぶと、リーシャの両肩をガッチリと掴む。絶対に離さないという強い意思が伝わってきた。
「いやー、ごめんね、マネージャー。どうしても観光したくってさ」
「もう、それならそう言ってくれればいいのに。忙しいとはいえ時間だって空けられないこともなかったのに。それに、帝都のことなら私けっこう詳しいのよ。リーシャちゃんの好きなところ、どこにでも案内してあげられるんだから、ね♡」
マネージャーと呼ばれた大男(?)の強烈なウィンクが飛んでくる。リーシャは視線を背けると「だから黙ってたのに……」と吐き捨てるように呟いた。
なるほど。このマネージャーがついてくるのは確かに嫌だな。だからリーシャは身代わりを立ててでも、ひとりで観光したかったのか。
「うー、リーシャ。やっぱり僕には無理ですよー」
「あ、セイ。身代わりありがとね、助かったわ」
オカマネージャーに続いて小走りにやってきたのはリーシャと同じ年頃の少年だ。顔にはナチュラルメイクが施してあり、服装は偽歌姫と同じものだ。先程見たときより髪の毛がかなり短くなっている。おそらく、歌姫のフリをしていたときはウィッグかカツラでもつけていたのだろう。
少年に続いてSPの男性が二人やって来る。広場にはSPはもっと居た気がするが、走って来たのは彼ら二人だけだ。残りはまだリーシャを探して帝都を走り回っているのかもしれない。
「あれ、この人は……」
「ああ。帝都の案内をしてくれたクリスよ。彼が居てくれたから道に迷うことも無かったし、楽しい帝都観光ができたわ」
セイと呼ばれた少年の疑問にリーシャが答える。
「リーシャは偽名じゃ無かったの?」
「本名よ。リーアが芸名なの」
「そうなんだ」
随分と似た芸名である。本名をもじっただけなのかもしれない。
「あら、リーシャの相手をしてくれてありがとうね、君。そうだ、何かお礼をしないとーー」
「あ、それならもう十分頂いたんで、結構です」
「でもーー」
「これ以上はさすがに受け取れません」
クリスくんはマネージャーの申し出を断り続ける。マネージャーはクリスくんとリーシャの顔を何度か見て、本当に不要であることを察すると、「分かったわ」とニッコリ笑った。見るもの全てが恐怖を抱くような、そんな笑顔だった。
「ーーあの」
セイくんがおずおずとクリスくんに近づいてくる。
「あなたは、パートナー、なんですか?」
彼は、やけにはっきりとした口調でそう尋ねた。
「え? パートナー? 何の?」
「……あ、いえ、すみません。何でもないです」
キョトンとするクリスの様子を見て、セイくんは焦ったように両手をぶんぶん振ると、リーシャの後ろに隠れてしまった。
「ごめんね、セイが訳のわからないこと言って」
「まあ、気にしてはいないけど……」
セイくんはリーシャの後ろからじっとクリスくんを見ている。まだ何か言いたげの様子だ。
「それじゃあね、クリス、悪霊さん。楽しかったわ。ライブ見に来てね!」
「うん」
(楽しみにしてるよ)
「あら、来てくれるの? それは嬉しいわね。待ってるわよー。……クリス・アクリョウっていうの、変わった名前ね」
俺の声はマネージャーには聞こえなかったようで、リーシャは吹き出し、クリスくんは曖昧な笑みを浮かべていた。
リーシャとマネージャーは俺たちに手を振る。セイくんとSPさんはペコリと頭を下げると、奇妙な一団は去っていった。最後にオカマネージャーのウィンクが飛んできたが、俺とクリスくんは辛うじて回避に成功した。
「なんというか、すごい人でしたね」
(俺、あんな化物初めて見た)
「僕もですよ。さて、買い物して帰りますか」
俺たちは商店街に向かって出発する。茜色の空は徐々に紫色を帯び始めていた。
「え!? 歌姫リーアのチケットを入手したんですの!?」
喫茶店で素っ頓狂な声を上げるのは、一国の姫であるソフィ嬢だ。
「うん。ほらね」
クリスくんはリーシャから手渡されたチケットの束を見せる。「ちょっと貸して」とソフィはチケットをふんだくった。
「ひーふーみーよー、四枚もあるわね。しかも、VIP席じゃないの!」
「そうなんですか?」
「そうなんですのよ! なんでクリスが知らないんですの?」
「だって、貰い物だし」
「もらい、もの……?」
ソフィが目を瞠る。
「こんな高価な……いや、関係者じゃないと入手不可能なチケットを、貰った? いったい誰に?」
「リーア本人から」
「リーア本人!?」
ソフィは再び大声を上げ、更には驚きのあまり立ち上がった。「ソフィ様」と、傍らで警護するミヤナギさんが嗜める。ソフィは赤面した後、咳払いをして席に戻った。
「どうしたの、ソフィ?」
「何でもないです……」
ソフィの隣に座るレイジーちゃんも、滅多にない彼女の奇行を疑問に思わずにはいられなかったようだ。
ここは帝都の喫茶店の一角。平日にも関わらずソフィはレイジーちゃんを外へと連れ出していた。公務が終わって暇になったらしい。そんな理由で姫様が会いに来るほどレイジーちゃんと仲が良かったのか。ちょっと仲が良すぎる気もするな。
クリスくんが一緒にいるのは、姫様がレイジーを誘ったとき、たまたまクリスくんがレイジーの部屋に居たからだ。クリスくんはソフィの誘いを丁寧に断ろうとしたが、姫様の「ダメ」の一言で付き添いを余儀なくされた。
彼らは特にどこに行くでもなく帝都をブラブラし、たまたま目についた喫茶店に入ったのであった。
「……そんなに驚くことでもないでしょ。ソフィならVIPチケットだって容易く入手できるし、頼めばリーア本人にだって会えるんじゃないの?」
姫様なんだし、とクリスくんは続ける。
「それはできますけど、何というかそれはルール違反な気がしません? ファンたるもの、そういうものはきちんとルールを守って入手しなくては」
彼女は懐から封筒を取り出す。中身はリーシャのライブチケットであった。
「ファンだったの?」
「ええ。彼女の、歌姫リーアの力強い生き様に惚れまして」
自身を落ち着かせるように、彼女は紅茶を口に含む。
「リーア……?」
「そうよ。レイジー。聞いたこと無いかしら。いま、この喫茶店でも流れているのが、彼女の曲よ」
「そうなの?」
レイジーちゃんは耳を済ます。ソフィの言う通り、確かに喫茶店のBGMで流れる歌声はリーシャのものだ。
「……うん。いい曲だね。なんか、懐かしい感じ」
「うんうん。やはりレイジーには分かりますか。彼女の曲の素晴らしさが」
「それじゃあ僕には分からないみたいじゃないか」
「あれ? 音楽には興味ないんじゃありませんでしたの? 私、覚えてますわよ。あなたが音楽の授業をさぼってこっそり図書室に籠もってたこと」
「それ、初等部のころの話だよね。よく覚えてるね」
「忘れたことなどありませんわ」
ふん、と彼女は鼻を鳴らす。
二人は同じ学校に通っていたらしい。それでもあまり仲が良くないのか。
「それで、誰と行くつもりですの」
「そうだね。とりあえず、ベティ姉さんとアンナを誘ってみようかな。アルとケイトは今帝都に居ないし……」
クリスくんはちらとレイジーちゃんを見る。
「レイジーも行く?」
「どこに?」
「ライブっていう、みんなで音楽を聞くところ。歌うのはリーアね」
「きっと楽しいですわよ」
ソフィが笑顔で言う。クリスくんには決して向けない素敵な笑顔だ。彼女はレイジーちゃんとクリスくんに対する態度を見事に使い分けている。
「そっか。なら、行こうかな」
レイジーちゃんは笑顔で言う。リーアの歌が気に入ったみたいで、ふんふんと鼻歌を口ずさんでいる。
「クリス。あなたのチケット一枚と、私のチケット、交換しない? 皇城の秘蔵図書室に入れる権限を上げるから。一般人閲覧不可の本が沢山あるわよ?」
「お断りします。目録を見たことありますが、僕の守備範囲外の本ばかりでしたので」
ソフィとクリスくんは交渉を始めた。どうやらソフィはなんとしてもVIPチケットを手に入れたいらしい。レイジーちゃんそっちのけで、しばらくその交渉は続いていた。
結局、交渉は破断となった。ソフィは沈痛な面持ちで喫茶店を出た。下を向く彼女は「これはもう、私の持つ全てのコネを使うしか……。いや、でもそれはファンとしては禁じ手……」と不穏当なことを呟いていたが、聞かなかったことにした。
レイジーちゃんを実験塔の彼女の部屋まで送り届けると、クリスくんはソフィと別れた。「それじゃあ」「ええ」という簡素な挨拶であった。レイジーちゃんと挨拶したときは、彼女はレイジーちゃんの頭まで撫でていたのに、随分と扱いに差があるな。
(どうしてソフィと仲が悪いんだ?)
「あ、悪霊さんですか。別に悪いわけじゃないですよ。良くないだけです。気になりますか?」
(少しね)
「まあ、大した理由ではないんですが……。悪霊さん、ソフィの年齢って知ってます?」
年齢? 確か17歳って聞いた気が……。
「そうです。彼女、僕の二つ上の年代なんですよ。で、レイジーの相手したり、進んで怪我人の手当をするほど面倒見のいい性格をしていまして。そんな彼女が、自分の二つ歳下の幼馴染が自分と同じ初等部に入学したら、どうすると思います?」
(え? 面倒見がいいんだろ。だったら、その子の面倒を見るよな)
「そうですね。でも、その面倒を見ていた子が飛び級を繰り返して、いつの間にか自分と同じ学年となり、更には先に卒業までされてしまったら、彼女は立つ瀬がないんじゃないですかね」
あー、なるほど。クリスくんの言わんとしていることが分かったわ。
(それで、仲が良くない、ね)
「そういうことです」
誰も居ない廊下にクリスくんの独り言が響いていた。特に悲しがる様子もなく、彼はいつも通りマイペースに廊下を歩いていた。
【おまけ】
姫様の一般チケット入手方法
姫(……く、公務が終わらない。このままだと、リーアのチケットが売り切れてしまう……)
姫「仕方ありません。レイカ、大変申し訳無いのだけれど、買ってきてもらえるかしら」
レ「承知しました(ハルっちに頼もう)」
レ「ーーあ、ハルっち? 買ってきて」
ハ「え、俺非番……」
レ「買えなかったら腹パンするから」
ハ(何たる理不尽……! これが体育会系か……!)
レ「姫様が」
ハ「……分かりました、買ってきます」
正直、ラインハルトは買わないでおこうかちょっと悩んだ。
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