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第2章 恋のキューピッド大作戦 〜 Shape of Our Heart 〜
上司降臨
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結局、スパッツの所有権は俺にあるということで決着がついた。
(至極、当然の結果である)
死神さんは俺にスパッツを献上し、コンちゃんは俺の中にねじ込まれたスパッツを拾っただけなのだから。落とし物を拾ったら自分のものになるわけではないのだ。そんなことをしたら盗人だぞとコンちゃんに主張したら、ぐぬぬと歯噛みしながらも彼女は諦めた。
しかし、未だコンちゃんはスパッツを履いたままである。なぜならば、身体のない俺はこのスパッツを使用することができないからだ。触れもしないのではどうしようもない。というわけで、スパッツの所有権は俺にあるのだが、実物はコンちゃんに貸すという形になっている。
決して、悲しそうにしょんぼりとするコンちゃんを忍びなく思ってのことじゃないからな。勘違いするんじゃないぞ。ただ、そう提案したときのコンちゃんがとっても可愛かったので俺は何も後悔していない。むしろ、良いものを見せてもらった気がする。
「なんか、管理の面倒くさい会社の備品みたいですね……」
と、死神さんが社会人みたいなことを呟いていた。
(そういえば、死神さんはどうしてここに?)
別に、スパッツを取り戻しに来たわけじゃないんでしょ?
死神さんとコンちゃんが自己紹介を終えた後で来訪の目的を尋ねると、彼女は何かを思い出したかのようにポンと手を打つ。
「あ、そうでした! スパッツに気を取られてすっかり忘れていました! 悪霊さんの周りで何か不審な出来事があったと連絡があったので、食べ歩きを切り上げ……ゴホンゴホン。もとい、調査を切り上げてダッシュで来たんですよ! 悪霊さん、一体何があったんですか?」
何やら不真面目な発言が会った気がするが聞かなかったことにしよう。それにしても、はて、不審な出来事?
(何かあったかな、コンちゃん)
「いやー、特に変なことは無かったと思うがの」
「え? 本当ですか? あれー、おかしいなー」
うーん、と首を傾げる死神さん。そこで、彼女ははっと気づいたようにコンちゃんを見る。
「認識阻害は……うぇ、発動してる。ど、ど、ど、どうしてあなた、私と会話できるんですか!?」
「悪霊よ。この死神とやらはポンコツではないのか?」
(大丈夫。これがデフォルトだから)
さっきお互いに挨拶もしてたじゃないか。どうして死神さんはそのときに気づかなかったんだろう。
「あ、悪霊さん。彼女は何者なんですか!?」
(ですから、コンちゃんです)
「名前を聞いたんじゃありませんよ!」
うん、そうだと思った。でも、正直俺もコンちゃんのことはよく知らない。コンちゃんは死神さんのこと知らないと言っていたし、この様子だと死神さんもコンちゃんのことを知っているわけではなさそうだ。
「ふっふっふ。お主、今儂に何者と問うたか?」
「え、ええ。問いましたが……」
「良かろう、普段であれば一々つまらぬ問に答えることは無いのだが、供物の礼じゃ答えてやろう!」
コンちゃんは無い胸を張り、ビシィとポーズを決める。
(狐っ娘でしょ?)
「たわけ! 違うわ! この耳と尻尾は世を忍ぶ仮の姿……。我の本当の姿、それは神なり! さあ、怖れ慄け下々の民よ!」
わーはっは! と大口を開けて笑うコンちゃん。
うん? 神様? この前と言っていることが違うぞ。みたいなもんはどうした。みたいなもんは。というか、死神さん相手に神とか名乗っていいのかな。不敬罪で強制転生の刑とかにならないのだろうか。
そんなことを思いながら死神さんに視線を向けると、
「は、ははーーー!!」
と、彼女は勢いよくひれ伏していた。
沈黙三秒。
彼女は綺麗な土下座の形を崩さない。俺はスススとコンちゃんの耳元に忍び寄る。
(コンちゃん、コンちゃん。どうしたの、なんかキャラが違うけど。あと神様みたいなもんはどうした。みたいなもんは)
「おう、主か。いや、儂の家に忍び込む盗人をちょっとからかってやろうかと思っての。でも、まさか本当にひれ伏すとは思って無かった。ちょっと儂も困惑してる」
ひそひそと内緒話をしてみると、コンちゃんも戸惑っているご様子。なら余計なことしなきゃいいのに。仕方ないなぁ、もう。
(え、ええーと、死神さん? えっと、さっきのはコンちゃんの冗談みたいですけど……)
「……ハッ。しまった! つい勢いに呑まれてひれ伏してしまった!」
そんなことを言いながら慌てて起き上がる死神さん。心なしか服に土汚れが付いている気がする。物体透過できるのに、何をやってるんだろうこの神様。
「……よく分かりませんが、とりあえず、あなたが報告にあった不審な出来事で間違いないようですね。悪霊さんの心を読むに、どうやら私のことも知っていると……。っは、悪霊さん。まさか、私のこと喋っていませんよね。そんなことをしたら強制輪廻転生って忠告しましたよね!?」
(いや、俺は喋ってないぞ)
単に心を読まれただけだ。
「やっぱりあなたが情報源じゃないですか!!」
(喋ってないもん! セーフ、セーフ!)
「似たようなもんですぅ。このことは上司に報告させてもらいます!」
イータさんに続き、死神さん、お前もか!
(いやいや、ちょっと待ってくださいよ。俺は喋らないように懸命に努力したんですよ? でも、心読まれる相手だったらそんなの無理でしょう! というか、読心ができるのは死神さん関係者じゃないんですか? 俺だってコンちゃんのことはよく知らないんですよ。管轄違いです! 死神さんがなんとかしてください。ノーカンですよ、ノーカン!)
「え、ええっと、あれ? ちょっと待ってください。そもそも、悪霊さんの心を読んだ? そんなことができる存在が、私達の関係者以外に居るはずが……」
じっと死神さんはコンちゃんを見る。彼女は俺たちの諍いを退屈そうに眺めていた。欠伸をひとつかまして彼女は問う。
「痴話喧嘩は済んだか?」
「私と悪霊さんはそんな仲じゃありません!」
おぅ。死神さんは当然の反応をしたまでなのだが、そんなふうにノータイムで否定されると男心にちょっとショック。
(というか死神さん。読心できるんですから俺に訊かないでコンちゃんの心に聞いてくださいよ)
そうすれば一発で分かるじゃないですか。
「……できないんですよ」
(……え?)
冷や汗を流しつつ死神さんは言う。
「だから、コンちゃん、と言いましたか? 残念ながら、彼女の心は読めません!」
「ホッホッホ。もちろん、儂からもお主の心は分からぬがの。まったく、ややこしい干渉場を作りおってからに」
コンちゃんは目を細めて笑う。むう、なんだか俺だけ置いてけぼりな気がする。この場で俺の心だけがだだ漏れなわけだし。まったく、プライベートが皆無だな。並列思考で本音を隠すか。
「……神と自称したり、悪霊さんの心を読んだり、あなた、一体何者なんですか……?」
「さあて、何者かの。お主らが土足で入り込んでいる家の家主とでも言えば分かるかの……」
「私達が、土足で……?」
訝しがる様子の死神さんを見て、コンちゃんはため息をつく。
「なんじゃ、分からぬか。……まあ良いわ。別にお主らを糾弾するために、わざわざ悪霊を通ってこちらに出向いたわけじゃないからのう」
「……何を言っているか分かりませんが。このことは上司に報告させて頂きます」
そんなことを呟いた死神さんの姿が消え行き、さらには地面に沈み始める。
「ホッホ。逃さぬわ」
コンちゃんは不敵に笑うと、足の裏で地面を軽く叩く。
「キャッ!」
地面をすり抜けしようとしていた死神さんは悲鳴をあげて地面から弾かれた。ダメージは無いようだが、彼女が驚愕していることは読心のできない俺にも分かった。
「お主にはちょっとやってもらいたいことがあるからの。まあ、悪いようにはせぬ。儂の話を聞いてーー」
「それは私が聞きましょうか」
突然、空を割るような声が上空から響く。視線を上げると、陽光に紛れて誰かが空を降りてくるのが分かった。降下する人影の背中には翼が生えている。一瞬クリスくんかと思ったが、一翼のみであり、声も彼とは違いすぎる。もう少し大人の男性的な声だ。
声の主は羽ばたいていない。にも関わらず、重力を無視してゆっくりと降りてくる。やがて、逆光で見えなかった顔が見えてきた。やや中性的な、おそらくはイケメンに部類する容貌をしている。長身で長髪、ともすると女性に見紛いそうな容姿であった。
「■■■■さん!」
死神さんが聞き取れない言葉を発する。音のイントネーションから察するに、もしや、死神さんの上司さんか。
「そうですよ、悪霊さん。いつも死神■■■■■がお世話になっております」
柔和な笑みを浮かべる上司さん。怒鳴るわけでもなく、ただ普通に発しているだけなのに声がどこまでも通った。
……それにしても、死神さんの上司さんともなれば当たり前に読心されるんだな。もうちょっと並列思考頑張ろう。
そんなことを考えていると、しんと周りから風の音が消える。川の水音、草原のざわめき、街の生活音。それらすべての音が消え、あたかも空気の切り取られたような死の世界が空間を覆い尽くす。無いはずの耳が痛くなった気がした。
「ああ、すいませんね。ちょっと時間停止をさせていただきましたよ。私が降臨して、余計な被害が出るのも嫌ですし」
俺達のすぐ頭上まで降りてきた上司さんは、ちょっと困ったような笑みを浮かべ、当然のように時間停止したと宣言する。俺が動いていられるのは死神さんの関係者だからだろう。でも、そうではないコンちゃんはーー。
「ふん。変なところに気を配る奴じゃの。壊しても、また元に戻せば良いではないか」
「それはそれで変なところに影響が出そうでしてね……」
コンちゃんは普通に上司さんと会話していた。時間停止の影響は無いのだろうか。
「無いでしょうね。死神。この方は『理の外』の存在だよ。私達と同じようにね。ああ、私が出向いたから報告は不要だよ」
上司さんは優しく笑い、死神さんに声をかける。
ぐぅ。悔しいけど、この上司さんかなりのイケメンだわ。まあ、神様だし俺とは比較対象にすらならないだろうけどさ。
「それと、前も言いましたが私のことは■■■■ではなく、『課長』と呼ぶように。分かりましたか?」
「は、はい。すみません、課長」
しゅんとなって謝る死神さん。
そっか、この人(?)課長なんだ。神の世界の課長さんはすごいなと思った。
(至極、当然の結果である)
死神さんは俺にスパッツを献上し、コンちゃんは俺の中にねじ込まれたスパッツを拾っただけなのだから。落とし物を拾ったら自分のものになるわけではないのだ。そんなことをしたら盗人だぞとコンちゃんに主張したら、ぐぬぬと歯噛みしながらも彼女は諦めた。
しかし、未だコンちゃんはスパッツを履いたままである。なぜならば、身体のない俺はこのスパッツを使用することができないからだ。触れもしないのではどうしようもない。というわけで、スパッツの所有権は俺にあるのだが、実物はコンちゃんに貸すという形になっている。
決して、悲しそうにしょんぼりとするコンちゃんを忍びなく思ってのことじゃないからな。勘違いするんじゃないぞ。ただ、そう提案したときのコンちゃんがとっても可愛かったので俺は何も後悔していない。むしろ、良いものを見せてもらった気がする。
「なんか、管理の面倒くさい会社の備品みたいですね……」
と、死神さんが社会人みたいなことを呟いていた。
(そういえば、死神さんはどうしてここに?)
別に、スパッツを取り戻しに来たわけじゃないんでしょ?
死神さんとコンちゃんが自己紹介を終えた後で来訪の目的を尋ねると、彼女は何かを思い出したかのようにポンと手を打つ。
「あ、そうでした! スパッツに気を取られてすっかり忘れていました! 悪霊さんの周りで何か不審な出来事があったと連絡があったので、食べ歩きを切り上げ……ゴホンゴホン。もとい、調査を切り上げてダッシュで来たんですよ! 悪霊さん、一体何があったんですか?」
何やら不真面目な発言が会った気がするが聞かなかったことにしよう。それにしても、はて、不審な出来事?
(何かあったかな、コンちゃん)
「いやー、特に変なことは無かったと思うがの」
「え? 本当ですか? あれー、おかしいなー」
うーん、と首を傾げる死神さん。そこで、彼女ははっと気づいたようにコンちゃんを見る。
「認識阻害は……うぇ、発動してる。ど、ど、ど、どうしてあなた、私と会話できるんですか!?」
「悪霊よ。この死神とやらはポンコツではないのか?」
(大丈夫。これがデフォルトだから)
さっきお互いに挨拶もしてたじゃないか。どうして死神さんはそのときに気づかなかったんだろう。
「あ、悪霊さん。彼女は何者なんですか!?」
(ですから、コンちゃんです)
「名前を聞いたんじゃありませんよ!」
うん、そうだと思った。でも、正直俺もコンちゃんのことはよく知らない。コンちゃんは死神さんのこと知らないと言っていたし、この様子だと死神さんもコンちゃんのことを知っているわけではなさそうだ。
「ふっふっふ。お主、今儂に何者と問うたか?」
「え、ええ。問いましたが……」
「良かろう、普段であれば一々つまらぬ問に答えることは無いのだが、供物の礼じゃ答えてやろう!」
コンちゃんは無い胸を張り、ビシィとポーズを決める。
(狐っ娘でしょ?)
「たわけ! 違うわ! この耳と尻尾は世を忍ぶ仮の姿……。我の本当の姿、それは神なり! さあ、怖れ慄け下々の民よ!」
わーはっは! と大口を開けて笑うコンちゃん。
うん? 神様? この前と言っていることが違うぞ。みたいなもんはどうした。みたいなもんは。というか、死神さん相手に神とか名乗っていいのかな。不敬罪で強制転生の刑とかにならないのだろうか。
そんなことを思いながら死神さんに視線を向けると、
「は、ははーーー!!」
と、彼女は勢いよくひれ伏していた。
沈黙三秒。
彼女は綺麗な土下座の形を崩さない。俺はスススとコンちゃんの耳元に忍び寄る。
(コンちゃん、コンちゃん。どうしたの、なんかキャラが違うけど。あと神様みたいなもんはどうした。みたいなもんは)
「おう、主か。いや、儂の家に忍び込む盗人をちょっとからかってやろうかと思っての。でも、まさか本当にひれ伏すとは思って無かった。ちょっと儂も困惑してる」
ひそひそと内緒話をしてみると、コンちゃんも戸惑っているご様子。なら余計なことしなきゃいいのに。仕方ないなぁ、もう。
(え、ええーと、死神さん? えっと、さっきのはコンちゃんの冗談みたいですけど……)
「……ハッ。しまった! つい勢いに呑まれてひれ伏してしまった!」
そんなことを言いながら慌てて起き上がる死神さん。心なしか服に土汚れが付いている気がする。物体透過できるのに、何をやってるんだろうこの神様。
「……よく分かりませんが、とりあえず、あなたが報告にあった不審な出来事で間違いないようですね。悪霊さんの心を読むに、どうやら私のことも知っていると……。っは、悪霊さん。まさか、私のこと喋っていませんよね。そんなことをしたら強制輪廻転生って忠告しましたよね!?」
(いや、俺は喋ってないぞ)
単に心を読まれただけだ。
「やっぱりあなたが情報源じゃないですか!!」
(喋ってないもん! セーフ、セーフ!)
「似たようなもんですぅ。このことは上司に報告させてもらいます!」
イータさんに続き、死神さん、お前もか!
(いやいや、ちょっと待ってくださいよ。俺は喋らないように懸命に努力したんですよ? でも、心読まれる相手だったらそんなの無理でしょう! というか、読心ができるのは死神さん関係者じゃないんですか? 俺だってコンちゃんのことはよく知らないんですよ。管轄違いです! 死神さんがなんとかしてください。ノーカンですよ、ノーカン!)
「え、ええっと、あれ? ちょっと待ってください。そもそも、悪霊さんの心を読んだ? そんなことができる存在が、私達の関係者以外に居るはずが……」
じっと死神さんはコンちゃんを見る。彼女は俺たちの諍いを退屈そうに眺めていた。欠伸をひとつかまして彼女は問う。
「痴話喧嘩は済んだか?」
「私と悪霊さんはそんな仲じゃありません!」
おぅ。死神さんは当然の反応をしたまでなのだが、そんなふうにノータイムで否定されると男心にちょっとショック。
(というか死神さん。読心できるんですから俺に訊かないでコンちゃんの心に聞いてくださいよ)
そうすれば一発で分かるじゃないですか。
「……できないんですよ」
(……え?)
冷や汗を流しつつ死神さんは言う。
「だから、コンちゃん、と言いましたか? 残念ながら、彼女の心は読めません!」
「ホッホッホ。もちろん、儂からもお主の心は分からぬがの。まったく、ややこしい干渉場を作りおってからに」
コンちゃんは目を細めて笑う。むう、なんだか俺だけ置いてけぼりな気がする。この場で俺の心だけがだだ漏れなわけだし。まったく、プライベートが皆無だな。並列思考で本音を隠すか。
「……神と自称したり、悪霊さんの心を読んだり、あなた、一体何者なんですか……?」
「さあて、何者かの。お主らが土足で入り込んでいる家の家主とでも言えば分かるかの……」
「私達が、土足で……?」
訝しがる様子の死神さんを見て、コンちゃんはため息をつく。
「なんじゃ、分からぬか。……まあ良いわ。別にお主らを糾弾するために、わざわざ悪霊を通ってこちらに出向いたわけじゃないからのう」
「……何を言っているか分かりませんが。このことは上司に報告させて頂きます」
そんなことを呟いた死神さんの姿が消え行き、さらには地面に沈み始める。
「ホッホ。逃さぬわ」
コンちゃんは不敵に笑うと、足の裏で地面を軽く叩く。
「キャッ!」
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「お主にはちょっとやってもらいたいことがあるからの。まあ、悪いようにはせぬ。儂の話を聞いてーー」
「それは私が聞きましょうか」
突然、空を割るような声が上空から響く。視線を上げると、陽光に紛れて誰かが空を降りてくるのが分かった。降下する人影の背中には翼が生えている。一瞬クリスくんかと思ったが、一翼のみであり、声も彼とは違いすぎる。もう少し大人の男性的な声だ。
声の主は羽ばたいていない。にも関わらず、重力を無視してゆっくりと降りてくる。やがて、逆光で見えなかった顔が見えてきた。やや中性的な、おそらくはイケメンに部類する容貌をしている。長身で長髪、ともすると女性に見紛いそうな容姿であった。
「■■■■さん!」
死神さんが聞き取れない言葉を発する。音のイントネーションから察するに、もしや、死神さんの上司さんか。
「そうですよ、悪霊さん。いつも死神■■■■■がお世話になっております」
柔和な笑みを浮かべる上司さん。怒鳴るわけでもなく、ただ普通に発しているだけなのに声がどこまでも通った。
……それにしても、死神さんの上司さんともなれば当たり前に読心されるんだな。もうちょっと並列思考頑張ろう。
そんなことを考えていると、しんと周りから風の音が消える。川の水音、草原のざわめき、街の生活音。それらすべての音が消え、あたかも空気の切り取られたような死の世界が空間を覆い尽くす。無いはずの耳が痛くなった気がした。
「ああ、すいませんね。ちょっと時間停止をさせていただきましたよ。私が降臨して、余計な被害が出るのも嫌ですし」
俺達のすぐ頭上まで降りてきた上司さんは、ちょっと困ったような笑みを浮かべ、当然のように時間停止したと宣言する。俺が動いていられるのは死神さんの関係者だからだろう。でも、そうではないコンちゃんはーー。
「ふん。変なところに気を配る奴じゃの。壊しても、また元に戻せば良いではないか」
「それはそれで変なところに影響が出そうでしてね……」
コンちゃんは普通に上司さんと会話していた。時間停止の影響は無いのだろうか。
「無いでしょうね。死神。この方は『理の外』の存在だよ。私達と同じようにね。ああ、私が出向いたから報告は不要だよ」
上司さんは優しく笑い、死神さんに声をかける。
ぐぅ。悔しいけど、この上司さんかなりのイケメンだわ。まあ、神様だし俺とは比較対象にすらならないだろうけどさ。
「それと、前も言いましたが私のことは■■■■ではなく、『課長』と呼ぶように。分かりましたか?」
「は、はい。すみません、課長」
しゅんとなって謝る死神さん。
そっか、この人(?)課長なんだ。神の世界の課長さんはすごいなと思った。
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