異世界で悪霊となった俺、チート能力欲しさに神様のミッションを開始する

眠眠

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第2章 恋のキューピッド大作戦 〜 Shape of Our Heart 〜

ソフィの極秘調査4

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 心配そうな表情のシダレに、彼女はより詳細に先程の出来事を説明する。

「あらら、私が居ない間にそんなことがあったんですか。……まぁ、とりあえずソフィ様が無事なようで何よりです。擦り傷ひとつでも、レイカ姉から何を言われるか……」

 シダレはホッとしたように胸を撫で下ろす。

「それにしても第零軍団のターニャ大尉とは、いったい……? 第一、軍にそんな部隊あったかしらね。零からではなく一からだったと思っていたのだろうけど……」
「へ? ソフィ様、『第零軍団』知らないんですか?」

 シダレはベンチに座ると、驚いたようにソフィアを見た。その、さも知ってて当然というシダレの態度に、ソフィアは改めて自分の記憶を思い返す。

「そういえば、第零軍団という言葉には聞き覚えが……。でも、軍とは関係なかったような? それに、さっきまでそこで遊んでいた子供も、あの女性を知っていたわね。もしかして、かなり有名なの?」
「有名といえば有名ですが……。その様子ですと、本当に知らないようですね。『第零軍団』は小説ですよ。フィクションです」
「え? 小説なの? ……でも、さっきターニャ大尉って人が――」
「ターニャ大尉は『第零軍団』の登場人物です。ソフィ様の話を聞く限り、その大尉さんはおそらくコスプレイヤーですね。ターニャ大尉になりきっていたんでしょう。カメラマンも居たんですよね」
「ええ、まあ……」

 ソフィアは先程の太った男性を思い出す。確かにプロが使うような大仰のカメラを構えてはいたが、公務でよく見るカメラマンとは何かが根本的に違っていた。

「警官に追われていたのは、おそらく無許可で撮影をしていたからでしょう。近くに軍病院もあることですし、警備が他所より少し厳重になってたんだと思います。気になる点といえば、ターニャ大尉のコスプレイヤーさんが姫様に声をかけたということですが――」

 シダレが「心当たりはありませんか?」と言いたげな表情でソフィアを見る。

「心当たりは――ないわね。知り合いにあんな人が居ましたら印象に残りますもの」
「まあ、普段からあんな格好をしている人は、流石にいないと思いますけど。……というか、ソフィ様、今、簡単にとはいえ変装中ですよね。それを見破って声をかけるということは、かなり親しい人なんじゃ?」
「私もそう思って素性を聞こうとしたのだけれど、ちょっと機会を逃してしまいましたわ。……うーん、本当にわからないわね。友人かとも思ったのだけれど、だとしたらいくらなんでも気づきますし……。おそらく、私を誰かと見間違えたんでしょう」
「そうですか……」

 シダレはまだ首を傾げて悩んでいたが、考えが煮詰まったのか「きっと、そうですね」と呟いて、持っていたコーヒーを啜った。アチッと彼女は舌を見せると、息を吹きかけてコーヒーを冷まそうとする。

 ソフィアは受信機を取り出して教授に動きがないことを確認すると、受け取ったコーヒーを少しだけ飲む。口の中にほのかに苦い味わいが広がり始めた。
 木漏れ日は暖かく、そよ風が髪を撫でる。先程の騒ぎのせいで、広場には今二人しか居ない。

「……休憩しましょうか」

 と、ソフィアは力が抜けたように呟いた。


 午後になっても教授は建物から外に出てこず、やがて日が落ち定時を回った。定常業務を終えた人たちが、三々五々に帰っていく。教授は定時後しばらくしてから帰宅するのが常であり、今日も例外に漏れず人が程よく居なくなった時間帯に彼はひょっこりと建物の外へと顔を出した。彼はそのまま真っすぐ軍病院の地下駐車場に進むと、自動車に乗り込み、自宅へと走らせる。日が落ちて間もない薄暗い道路を、自動車のヘッドライトが切り裂いていく。

 その自動車をこっそりと追従する、一台の小さな自動車があった。車内には二人の女性が乗っている。帝国の姫であるソフィアと、その侍女のシダレである。

「うーん、結局、今日も収穫は無さそうですね……」

 ハンドルを捌く侍女のシダレはため息まじりにそう言うと、目を細めて前を走る自動車を見る。

「えっと、この後の教授は……帰宅するだけですか。家の中に入り込むわけにもいかないし、本当にそうなりそうね……」

 ソフィアはこれまでの調査結果の資料を見てそう言うと、やや気落ちしたように肩を落とす。
 教授はその生真面目な性格ゆえか、ほぼ毎日同じ行動をしていた。出勤して軍病院に籠もり、退社して家で休む。平日はこの繰り返しで、休日は買い物や家族サービス以外はほとんど家から出ようとしない。外から彼の行動を見張るだけでは、これ以上の情報は得られないだろう。もう少し、踏み込んで調査する必要がある。
 そう思ったソフィアは、運転するシダレを横目に訪ねた。

「ねえ、シダレ。発信機を教授に仕掛けたように、盗聴器を仕掛けることは可能かしら?」
「盗聴器……ですか? 可能ですけど、発信機より大きいので教授に見つかってしまうかもしれませんよ? 私達が動いていることを気取られるのはまずいのでは?」
「そうね。けれど、このままでも事態は変わらないわ。見つからなければそれで良し。見つかったら見つかったで、相手の出方を伺いましょう。盗聴器だけでは『誰か』が動いていることは分かっても、『誰が』動いていることは分からないはず」
「どちらに転んでもってことですね。……あー、なるほど。もし教授が『向こう側』だとすると、まだ見つかっていないクリストファーさんのことを気にしているはず。盗聴器を『向こう側』に発見されたとしても、疑われるのはクリストファーさんの可能性が高い。そうなれば、『向こう側』の連中に彼がまだ帝都にいるかもと思わせることもできて、彼の逃亡のアシストにもなりますね。まさに一石二鳥、あわよくば三鳥のアイディア! さすがですね、姫様!」
「ありがとう、シダレ。……あー、実を言うと、『反応があればいいかな』くらいで、クリスのアシストとかはこれっぽっちも考えていませんでしたわ」
「へ? え、ええー! 何もそこでぶっちゃけなくとも! せっかく久しぶりに姫様を尊敬できると思ったのに……」
「減給するわよ」
「もちろん、姫様のことは常日頃から尊敬しております!……って、あれ?」

 シダレはそう言って首を傾げると、ハンドル回して進行方向を変える。冗談を言い合う空気ではなくなったことを悟ったソフィアは、資料から目を離して前方を走る自動車を見た。

「どうかしたの、シダレ?」
「教授が変なんですよ。帰宅のルートから外れていまして。……買い物ですかね」
「この道の先には何が?」
「商店街では無さそうですね。これは……皇城のほうに向かってます」
「皇城に?」
「……とりあえず、後をつけて。バレないようにね」
「もちろんです」

 確かにシダレの言う通り、教授は皇城を目指している。少しばかりの不安を抱きつつ、ソフィアはシダレにそう指示を出した。

 
 教授の自動車は皇城の裏手からひとつ道を挟んだ路地に停車した。怪しまれるのを避けるため、シダレはスピードを緩めずにその自動車の横を通り過ぎる。道を曲がり、完全に教授の視界から外れたところで車を停めると、二人は教授の元へと急いだ。

「あの場所が見えるのは……。姫様、私の体にしっかりしがみついていて下さいね」
「え、シダレ? きゃっ!」

 シダレはソフィアの体を抱きかかえると、塀や窓を伝い、通りの建物の壁をほぼ足だけで駆け上がった。建物の屋上に到達したシダレはそっとソフィアを抱え下ろす。

「びっくりした……。シダレ、あなたすごいわね。レイカみたい」
「いえいえ、レイカ姉ほどでは。それより教授はまだ居ますかね」
「うーん……。ここからじゃ暗くてよくわからないわね」
「じゃあこれ使って下さい。ナイトスコープです」

 シダレは胸元からスコープを取り出すと、ソフィアに渡してきた。

「……本当に準備がいいのね」
「忍びの7つ道具なので。ひとつしかないのですが、私は夜目が効きますので。……まだ車内に居るみたいですね」

 ソフィアがスコープを覗き込むと、確かにまだ教授は車の中に居た。
 どうしたのだろう、何か用があってここに来たのではないのだろうか。ソフィアがそう思っていると、何者かが教授の車に近寄って来るのが見えた。帽子を目深に被った何者かは、教授の車の窓を叩くと、封筒のようなものを受け取って、すぐにこの場を去っていった。

「うーん、帽子で顔がよくわかりませんね……。それにあの封筒は一体……。追いますか、姫様?」
「嘘……どうして?」
「姫様?」

 ソフィアは封筒を受け取った人物に見覚えがあった。いや、見覚えどころではない。ソフィアは一時期、彼とほぼ毎日のように会い、医療の手ほどきを受けていたのだ。それ故に、帽子で顔が隠されていても、わずかに見えた口元と、彼の歩く仕草だけでソフィアには彼が誰だが分かっていた。

「どうして、ジィが教授と会っているんですの……?」







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【おまけ】

姫「シダレ、すぐに後を追いましょう!」
枝垂「……すみません姫様。それはできません」
姫「そんな、どうして!?」
枝垂「さっき壁登りしたせいで、脚を攣ったようです」
姫「……」

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ジィ初登場回 → 諸月の時期10
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