12 / 29
続 第2試合
しおりを挟む
──
今考えると彼女のアレは魔法だったのだろう。
双子の姉はもとより運動神経抜群ではあったが、その一言で済ませるには度が過ぎている部分があった。
もしかしたらわたしが知らない所で大人に習ったのかもしれない。
それとも孤児院の年長組が持っていた中学の教科書を盗み読んで独学で覚えたのか。
どちらにせよズルをしていた姉と喧嘩したときにも、こんな風に背中を強く打ち付けたモノだった。
──
ただでさえ魔法力を必要とする身体強化魔法を使用して、なおかつ後述詠唱を2回。
ギアゲルの持続時間を使い切った瑠都は肩で息をしながらゆっくりと魔法力を練っていた。
残りの体力とそこから導き出される最大魔法力量を計算すると、もう1セット、ギアゲル状態で戦える訳だが出来れば静子にはこのまま眠っていて貰いたい。
瑠都がそう思うのもさもありなん。
いくらガード越しの一撃とは言え最大火力の必殺パンチに相手の自爆を上乗せした一撃を受けても立ち上がってきたら相手のタフネスが末恐ろしいからだ。
「こっそり魔法を使っていたんだっら、そりゃあ凄いって思うよね」
そんな瑠都の思いも虚しく立ち上がる静子はまだ戦えると言いたげな表情。
柴沼も昨日の逆転劇もあってかハナから立つものと思って瑠都に軍配をあげようとしなかったほど。
むしろ1回ガツンと強いダメージを受けたあとのほうが静子は冴えていた。
温まることでカクテル・グラスの中で酒の香りが開くかのように、ダメージという強い刺激でセンスが磨かれたのだろうか。
これまで攻防一体の必勝戦術として使っていたアプヴェーア・エガシの使用をここで静子は取りやめる。
「ギアゲル!」
瑠都からすれば立ったのならば再び攻めるしかないというもの。
魔法力のチャージ量を考えれば初回の6割程だが、フィジカルでゴリ押しするぶんには充分な出力で瑠都は殴りかかる。
魔法力不足で後述詠唱に頼れないからこその堅実なワンツー。
身体強化したうえでの基本に忠実なボクシングはそれ故に難敵である。
迎え撃つ静子も両腕を盾に見立ててガードするこちらもさながらボクシング。
腕を魔法力で包み込む防御魔法「テッコ」で固めているがいつまで保つか。
(あのときもこんな感じにお姉ちゃんの攻撃を防いだんだっけなあ)
(エガシじゃないから高威力な魔法でのカウンターはないんだろうけれど、ガードを崩す好きがなさすぎてエガシよりやりにくい。右も左も通らなくて焦れる)
攻めている側の瑠都が焦る一方で攻められている静子は冷静である。
ジンジンと打ち付けた背中に走る痛みのビートが彼女の感覚を研ぎ澄まし、頑強なテッコが強化された瑠都の拳を弾き返す。
(そこ!)
そしてついに静子は隙を感じ取った。
コンビネーションで左から続けて右を打とうとしたタイミングで懐に飛び込んだ静子は体躯の小ささを生かしたショートレンジの右フックで瑠都の顎を捉えた。
このとき彼女が思い返していたのはある日の姉妹喧嘩。
双子の姉である龍子の顔面にカウンターを綺麗に決めて、見たことのない大涙で泣かせてしまったときと同じ感触が右手に残った。
いくら喧嘩の弾みとは言えやりすぎたので心が痛かったが、それを加味しても快感が勝る、柔らかい何かを粉微塵に吹き飛ばしたかのような心地よさ。
あの日を境に自分に蓋をしていた黒い快感が呼び起こされた理由は結果を見れば明らかだった。
「そこまでだ!」
防御の魔法であるテッコに包まれた腕は魔法力を多く含む。
それをカウンターパンチに乗せて顎から注ぎ込まれた瑠都が脳震盪を起こすのも無理もない。
的確に急所を貫かれたことが理由による失神。
ボクシングの試合でも確実にタオルが投げられる状況は静子の勝利を如実に表していた。
「おめでとう」
試合後、背中の痛みが強くなったのかゆっくりと歩く静子のもとに寄ってきたメイの顔はにやけ顔。
友人の勝利が喜ばしいのもあるが理由はそれだけではない。
「そういうメイも勝てたから明日の延長線次第で勝ち残れるんでしょ? しかも植田くんには昨日勝っているんだし、やったじゃない」
「えへへ。まあ油断は禁物なんだけれどね」
メイの割り振られたブロックの勝敗は彼女を含めた2勝1敗と1勝2敗が二人ずつの一人勝ちが居ない状態。
日程としては水曜日までの3日間で一人勝ちが決まらない場合は木金の2日間で延長戦で勝ち残りの選手を決めることになっていた。
彼女も授業の成績としては静子ほどではなかったと言うだけで戦技の評価は高くない。
だが彼女なりの戦いの妙もあり実践形式に近い戦技大会においてはハマれば強い選手だった。
スタンスは違うが静子がさきほど倒した瑠都に近い。
「先に待っててよ。あたしが静子の快進撃を止めちゃうからさ」
「お手柔らかにね」
「だーめ」
そして翌日、メイは再び植田に勝利をして2回戦に駒を進めた。
これで戦後における落ちこぼれが集まると言われていた櫛灘寮の生徒から2回戦への進出が二人。
例年にない出来事に少女二人への注目が強くなった状態で週末を迎えていた。
今考えると彼女のアレは魔法だったのだろう。
双子の姉はもとより運動神経抜群ではあったが、その一言で済ませるには度が過ぎている部分があった。
もしかしたらわたしが知らない所で大人に習ったのかもしれない。
それとも孤児院の年長組が持っていた中学の教科書を盗み読んで独学で覚えたのか。
どちらにせよズルをしていた姉と喧嘩したときにも、こんな風に背中を強く打ち付けたモノだった。
──
ただでさえ魔法力を必要とする身体強化魔法を使用して、なおかつ後述詠唱を2回。
ギアゲルの持続時間を使い切った瑠都は肩で息をしながらゆっくりと魔法力を練っていた。
残りの体力とそこから導き出される最大魔法力量を計算すると、もう1セット、ギアゲル状態で戦える訳だが出来れば静子にはこのまま眠っていて貰いたい。
瑠都がそう思うのもさもありなん。
いくらガード越しの一撃とは言え最大火力の必殺パンチに相手の自爆を上乗せした一撃を受けても立ち上がってきたら相手のタフネスが末恐ろしいからだ。
「こっそり魔法を使っていたんだっら、そりゃあ凄いって思うよね」
そんな瑠都の思いも虚しく立ち上がる静子はまだ戦えると言いたげな表情。
柴沼も昨日の逆転劇もあってかハナから立つものと思って瑠都に軍配をあげようとしなかったほど。
むしろ1回ガツンと強いダメージを受けたあとのほうが静子は冴えていた。
温まることでカクテル・グラスの中で酒の香りが開くかのように、ダメージという強い刺激でセンスが磨かれたのだろうか。
これまで攻防一体の必勝戦術として使っていたアプヴェーア・エガシの使用をここで静子は取りやめる。
「ギアゲル!」
瑠都からすれば立ったのならば再び攻めるしかないというもの。
魔法力のチャージ量を考えれば初回の6割程だが、フィジカルでゴリ押しするぶんには充分な出力で瑠都は殴りかかる。
魔法力不足で後述詠唱に頼れないからこその堅実なワンツー。
身体強化したうえでの基本に忠実なボクシングはそれ故に難敵である。
迎え撃つ静子も両腕を盾に見立ててガードするこちらもさながらボクシング。
腕を魔法力で包み込む防御魔法「テッコ」で固めているがいつまで保つか。
(あのときもこんな感じにお姉ちゃんの攻撃を防いだんだっけなあ)
(エガシじゃないから高威力な魔法でのカウンターはないんだろうけれど、ガードを崩す好きがなさすぎてエガシよりやりにくい。右も左も通らなくて焦れる)
攻めている側の瑠都が焦る一方で攻められている静子は冷静である。
ジンジンと打ち付けた背中に走る痛みのビートが彼女の感覚を研ぎ澄まし、頑強なテッコが強化された瑠都の拳を弾き返す。
(そこ!)
そしてついに静子は隙を感じ取った。
コンビネーションで左から続けて右を打とうとしたタイミングで懐に飛び込んだ静子は体躯の小ささを生かしたショートレンジの右フックで瑠都の顎を捉えた。
このとき彼女が思い返していたのはある日の姉妹喧嘩。
双子の姉である龍子の顔面にカウンターを綺麗に決めて、見たことのない大涙で泣かせてしまったときと同じ感触が右手に残った。
いくら喧嘩の弾みとは言えやりすぎたので心が痛かったが、それを加味しても快感が勝る、柔らかい何かを粉微塵に吹き飛ばしたかのような心地よさ。
あの日を境に自分に蓋をしていた黒い快感が呼び起こされた理由は結果を見れば明らかだった。
「そこまでだ!」
防御の魔法であるテッコに包まれた腕は魔法力を多く含む。
それをカウンターパンチに乗せて顎から注ぎ込まれた瑠都が脳震盪を起こすのも無理もない。
的確に急所を貫かれたことが理由による失神。
ボクシングの試合でも確実にタオルが投げられる状況は静子の勝利を如実に表していた。
「おめでとう」
試合後、背中の痛みが強くなったのかゆっくりと歩く静子のもとに寄ってきたメイの顔はにやけ顔。
友人の勝利が喜ばしいのもあるが理由はそれだけではない。
「そういうメイも勝てたから明日の延長線次第で勝ち残れるんでしょ? しかも植田くんには昨日勝っているんだし、やったじゃない」
「えへへ。まあ油断は禁物なんだけれどね」
メイの割り振られたブロックの勝敗は彼女を含めた2勝1敗と1勝2敗が二人ずつの一人勝ちが居ない状態。
日程としては水曜日までの3日間で一人勝ちが決まらない場合は木金の2日間で延長戦で勝ち残りの選手を決めることになっていた。
彼女も授業の成績としては静子ほどではなかったと言うだけで戦技の評価は高くない。
だが彼女なりの戦いの妙もあり実践形式に近い戦技大会においてはハマれば強い選手だった。
スタンスは違うが静子がさきほど倒した瑠都に近い。
「先に待っててよ。あたしが静子の快進撃を止めちゃうからさ」
「お手柔らかにね」
「だーめ」
そして翌日、メイは再び植田に勝利をして2回戦に駒を進めた。
これで戦後における落ちこぼれが集まると言われていた櫛灘寮の生徒から2回戦への進出が二人。
例年にない出来事に少女二人への注目が強くなった状態で週末を迎えていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!
オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ラン(♂)の父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリー(♀)だった。
ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。
学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。
当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。
同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。
ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。
そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。
まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。
その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。
こうしてジュリーとの同居が決まった。
しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は騒然となった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる