しゃあ!器用貧乏だけど禁断の二段打ちで生き残る

どるき

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続 第2試合

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──
 今考えると彼女のアレは魔法だったのだろう。
 双子の姉はもとより運動神経抜群ではあったが、その一言で済ませるには度が過ぎている部分があった。
 もしかしたらわたしが知らない所で大人に習ったのかもしれない。
 それとも孤児院の年長組が持っていた中学の教科書を盗み読んで独学で覚えたのか。
 どちらにせよズルをしていた姉と喧嘩したときにも、こんな風に背中を強く打ち付けたモノだった。
──
 ただでさえ魔法力を必要とする身体強化魔法を使用して、なおかつ後述詠唱を2回。
 ギアゲルの持続時間を使い切った瑠都は肩で息をしながらゆっくりと魔法力を練っていた。
 残りの体力とそこから導き出される最大魔法力量を計算すると、もう1セット、ギアゲル状態で戦える訳だが出来れば静子にはこのまま眠っていて貰いたい。
 瑠都がそう思うのもさもありなん。
 いくらガード越しの一撃とは言え最大火力の必殺パンチに相手の自爆を上乗せした一撃を受けても立ち上がってきたら相手のタフネスが末恐ろしいからだ。

「こっそり魔法を使っていたんだっら、そりゃあ凄いって思うよね」

 そんな瑠都の思いも虚しく立ち上がる静子はまだ戦えると言いたげな表情。
 柴沼も昨日の逆転劇もあってかハナから立つものと思って瑠都に軍配をあげようとしなかったほど。
 むしろ1回ガツンと強いダメージを受けたあとのほうが静子は冴えていた。
 温まることでカクテル・グラスの中で酒の香りが開くかのように、ダメージという強い刺激でセンスが磨かれたのだろうか。
 これまで攻防一体の必勝戦術として使っていたアプヴェーア・エガシの使用をここで静子は取りやめる。

「ギアゲル!」

 瑠都からすれば立ったのならば再び攻めるしかないというもの。
 魔法力のチャージ量を考えれば初回の6割程だが、フィジカルでゴリ押しするぶんには充分な出力で瑠都は殴りかかる。
 魔法力不足で後述詠唱に頼れないからこその堅実なワンツー。
 身体強化したうえでの基本に忠実なボクシングはそれ故に難敵である。
 迎え撃つ静子も両腕を盾に見立ててガードするこちらもさながらボクシング。
 腕を魔法力で包み込む防御魔法「テッコ」で固めているがいつまで保つか。

(あのときもこんな感じにお姉ちゃんの攻撃を防いだんだっけなあ)
(エガシじゃないから高威力な魔法でのカウンターはないんだろうけれど、ガードを崩す好きがなさすぎてエガシよりやりにくい。右も左も通らなくて焦れる)

 攻めている側の瑠都が焦る一方で攻められている静子は冷静である。
 ジンジンと打ち付けた背中に走る痛みのビートが彼女の感覚を研ぎ澄まし、頑強なテッコが強化された瑠都の拳を弾き返す。

(そこ!)

 そしてついに静子は隙を感じ取った。
 コンビネーションで左から続けて右を打とうとしたタイミングで懐に飛び込んだ静子は体躯の小ささを生かしたショートレンジの右フックで瑠都の顎を捉えた。
 このとき彼女が思い返していたのはある日の姉妹喧嘩。
 双子の姉である龍子の顔面にカウンターを綺麗に決めて、見たことのない大涙で泣かせてしまったときと同じ感触が右手に残った。
 いくら喧嘩の弾みとは言えやりすぎたので心が痛かったが、それを加味しても快感が勝る、柔らかい何かを粉微塵に吹き飛ばしたかのような心地よさ。
 あの日を境に自分に蓋をしていた黒い快感が呼び起こされた理由は結果を見れば明らかだった。

「そこまでだ!」

 防御の魔法であるテッコに包まれた腕は魔法力を多く含む。
 それをカウンターパンチに乗せて顎から注ぎ込まれた瑠都が脳震盪を起こすのも無理もない。
 的確に急所を貫かれたことが理由による失神。
 ボクシングの試合でも確実にタオルが投げられる状況は静子の勝利を如実に表していた。

「おめでとう」

 試合後、背中の痛みが強くなったのかゆっくりと歩く静子のもとに寄ってきたメイの顔はにやけ顔。
 友人の勝利が喜ばしいのもあるが理由はそれだけではない。

「そういうメイも勝てたから明日の延長線次第で勝ち残れるんでしょ? しかも植田くんには昨日勝っているんだし、やったじゃない」
「えへへ。まあ油断は禁物なんだけれどね」

 メイの割り振られたブロックの勝敗は彼女を含めた2勝1敗と1勝2敗が二人ずつの一人勝ちが居ない状態。
 日程としては水曜日までの3日間で一人勝ちが決まらない場合は木金の2日間で延長戦で勝ち残りの選手を決めることになっていた。
 彼女も授業の成績としては静子ほどではなかったと言うだけで戦技の評価は高くない。
 だが彼女なりの戦いの妙もあり実践形式に近い戦技大会においてはハマれば強い選手だった。
 スタンスは違うが静子がさきほど倒した瑠都に近い。

「先に待っててよ。あたしが静子の快進撃を止めちゃうからさ」
「お手柔らかにね」
「だーめ」

 そして翌日、メイは再び植田に勝利をして2回戦に駒を進めた。
 これで戦後における落ちこぼれが集まると言われていた櫛灘寮の生徒から2回戦への進出が二人。
 例年にない出来事に少女二人への注目が強くなった状態で週末を迎えていた。
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