しゃあ!器用貧乏だけど禁断の二段打ちで生き残る

どるき

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 寝不足気味だが腕の痛みで早く起きた静子は起きがけに痛み止めの薬を飲む。
 右手は動かそうにも腫れ上がって上手く握る事が出来ない。
 半端に触れば痛みが全身を駆け巡り、ペンも握れないので午前中の一般授業にすら影響があるほどだ。
 幸いタブレットに左手でのタッチ操作をして難を逃れたが効率はガタ落ちしており、あとでもう一回復習しなければと静子は感じていた。

「このあとだね」

 午前の授業が終わり、午後からは予選2回戦の最終試合。
 これから対峙するライバルではありつつも静子とメイが同じ場で昼食を共にする様子に周囲は「勝敗が決しているが故の余裕」なのだろうと思っていた。
 実際には共通の友人として瑠音が間を取り持っただけで、昨夜の口論と罰ゲームの話を意識して顔を合わせにくいと、静子がメイを避けている状態。
 これには勝手にギクシャクしていた静子以上に「いつもなら彼氏といちゃついているのに」と思いながらもメイには渡りに船だった。

「うん。でも……その……本当にやるの?」
「勝てるつもりでいるくせに遠慮をするのは矛盾だよ。どっちが勝つにしても恨みっこなしだって。いや……瑠音にはあたしが勝つほうが好都合か」
「お気になさらず。再試合になってもわたくしが勝つとは限りませんし」
「ちょ、ちょっと!」
「「ん?」」

 主に罰ゲームの件で勝手に距離を取っていたこともあり、本当にやるのかと切り出す静子。
 だけどメイは静子がそこまで罰ゲームの件を重く受け取っているとは思っていないので試合そのものを言っていると早とちりをするのはさもありなん。
 それはこの場を開いた瑠音も同じである。
 だが急に声を荒げる静子の態度に二人は小首を傾げるのみ。
 何が「ちょっと」なのかと彼女に視線を集めた。

「試合のとこじゃないよ。罰ゲームのほう」
「あぁ~」
「大会の結果については昨夜はメイちゃんがいうように舞い上がっていた。それはゴメン。だけど負けたら罰ゲームって……いった何をするつもりなの」
(え⁉ 宮本さんってそっちのケがあるの?)

 変に意識しているからか、何をするのかと問いかける静子の頬は赤らんでいる。
 なまじ彼氏がいてアレやコレやと関係が進んでいるからこそ、静子の態度に瑠音は百合の花を邪推してしまう。
 お上品に振る舞って親にさえも秘密にしているが、このお嬢様は結構なスケベである。

「なんだソッチのことか。今朝から変だったから、変なことを考えておかしくなっちゃったのかと」
「だって勝ったら一日自由にするって言ったのはメイちゃんのほうじゃない。何をされるかと思ったら意識しちゃうって」
「そんなにイジられるのが嫌なら自分が勝てばいいだけだって。勉強は得意なのに静子はバカだなあ」
「そ、そういわれても。絶対に勝てるだなんて思い上がってないし」
(これって……宮本さんは意識しているのに伊佐さんは鈍感ですわね。ああもう。焦れったいですわ)

 罰ゲームの話を半端に脇で聞いていた瑠音からすると、そっち系の会話にしか思えないこの状況。
 焦らすのならばさっさと素直になれと、もどかしく感じる瑠音の心は昨日の敗北よりも彼女の心をざわつかせてしまう。

「「──」」
「いい加減にしなさい!」
「「⁉」」

 つい興奮して急に声を上げる瑠音に驚いた二人は、キョトンとした顔で彼女を見る。
 痴話喧嘩を見せられた気分である瑠音からすれば、まさしく「いい加減にしろ」なのだが、当人たちは痴話喧嘩のつもりもないので困惑するのもさもありなんか。

「気にしすぎですわよ宮本さん。そんなに伊佐さんから好き放題にされたいのならば棄権なさればいいでしょうに」
「なんで⁉」
「皆まで言うのは失礼になりますから、わたくしは失礼させて頂きますわ。だけれど……ウジウジ引っ込み思案でいるくらないならば、試合前に全部スッキリさせてしまいなさいな。上手くいったらお祝いは差し上げますわよ」

 そのまま立ち去ってしまった瑠音に対して、二人は概ね「急に何を言いだして、なにの話をしたのだろうか?」と思う。
 二人の口論を「同性愛の痴情のもつれ」と解釈したのは瑠音の思い違い以外には言い表せないズレたお節介ではあるが、受け取る方も追いつかずにズレていれば的確なアドバイスになる。

「瑠音は何を言っているんだろう? まあ、あのお嬢様はたまにこういう事があるけれど」
「そうだね」
「でも勝手にウジウジするなってのは、あたしも同意見だよ。軽い遊びの罰ゲームを変に重く捉えられると、こっちとしても負けたら何をされるか怖くなるって」
「うん。そうだね」

 吹っ切れた静子はようやく真っ直ぐにメイを見られた。

「罰ゲームのことは一旦脇にどけておこう。試合はどっちが勝っても恨みっこなしね」
「望むところだよ」

 ペットボトルに入ったジュースを重ね合わせた乾杯のサイン。
 変なことをされても受け入れようと静子は開き直るわけだが、やはり少しは意識してしまうのは年頃である。
 ほどなく昼休みが終わり、午後の授業は予選2回戦の最終日。
 同点による再試合にならなければ各クラスの代表が確定する、緊張の時間が迫ってきていた。
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