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序章
ボールメイカの戦い
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商業立国ボールメイカ。
周辺の各王国が出資した商業都市に端を発するこの少国家は様々な商業組合が集まって形成されている。
そのため特定の王を持たないこの国では選挙でもって国王に相当する大統領を選んでいた。
当代大統領のロナルドが任期満了ということで近々開かれる次期大統領選の裏で暗躍する怪しい影。
その噂を聞きつけたこの三人は遠方ストーンヒル王国から駆けつけていた。
彼らの目的はメダル職人組合の組合長、ミサエ・ノヴァラを護衛すること。
そして彼女を狙う暗殺者を撃退しその背後にいる存在を掴むことにあった。
「ミサエおばさんはやらせねえよ」
それから状況が動いたのは三日後。
ミサエの選挙演説を直前に控えたタイミングでの会場にある女子トイレでそれは起きた。
三人の中で唯一の男性ということでリーダー風に振る舞うガクリンはミサエの甥。
トイレの前で待っていたところ、大きな物音を聞いた彼は驚いてトイレに飛び込んだわけだ。
だが実際のところミサエは無事で傷一つない。
ではトイレで何が起きたのであろうか。
答えはトイレの外。
トイレに押し込んだガクリンが見たのは外に向かって壁が撃ち抜かれたトイレの惨状と、彼の仲間に挟み撃ちにされている男の姿。
理由もなく女子トイレに男がいるということは──
「ローブを纏ったくらいでバレないと思っているなんて間が抜けた暗殺者だ。仲間の居場所を吐けば命だけは助けてあげるぞ」
「あっ! ガクリン様!」
挟み撃ちにしている二人のうちガクリンに背中を見せているヒメノは暗殺者に仲間の居場所を教えるように凄むのだが、反対側にいるアズミはガクリンを呼ぶ。
アズミが見たもう一つの影こそ暗殺者の仲間の一人。
こちらは正真正銘の女性でローブで、どうやら女装をしたのだがヒメノに見破られた彼の方は囮だったようだ。
アズミの声に反応を示したガクリンも伏兵に気がついて腰に指した木刀を引き抜く。
そして咄嗟に放つ剣技はストーンヒル王国伝来の技の一つ。
刀身に乗せた精気を飛ばして相手を気絶させる秘剣「虚仮落とし」の一刀がミサエを襲うナイフが届く前に女暗殺者を気絶させた。
「寝ていやがれ!」
「か、カエレン!」
「ナイスだ二人とも。それにしてもさきほどまで気配がなかったということは、あの女が風の痣持ちのようだね。キミらの依頼人がケチったのか、それとも四聖痣がこの仕事を甘く見て人員を割かなかったのか。風が顔を見せたのならば、仲間は他にはいないってことで良さそうだ」
「ま、まった! まだ俺とカエレン以外にも仲間が──」
風の痣持ちとはこの暗殺者たちの中では極力表に出ない連絡役を担った存在のこと。
それが奇襲を行う時点で他の方法ではミサエ暗殺を達成するのが困難という判断であり、つまりは他に彼らの仲間がボールメイカには居ないことを指す。
彼らの戦力を看破したヒメノは使い慣れた鉈に似せて作ったトップヘヴィな木刀を引き抜くと、剣に精気を込めて先端を彼に向けた。
このときヒメノの右腕にある痣は熱を帯びる。
暗殺者が持つ痣も精気を増幅して特別な術を使用可能にするものなのだがヒメノの腕にあるそれは格が違う。
何故ならそれは世界を構成する五大元素を意味する五つしか存在しないオリジナル。
その中でも最も上位とされる空のサンスティグマなのだから。
「嘘が下手だな」
「ん! その腕の痣はミュージンの遺産か。つまりアンタは例の娘……こんなところで会えようとはな!」
「だったらボクをどうするつもりなのさ」
「もちろんそのサンスティグマは俺が頂くぜ。ソイツさえあれば俺も幹部の仲間入りよ」
「さっきまで命乞いをしていた口でよく言いますね」
「そういうアンタこそ火組のエースと呼ばれた俺のことをナメ──」
「ごちゃごちゃ煩い!」
ヒメノと暗殺者の差は歴然。
エースを名乗る彼は左腕にある火の痣に力を込めて精気を操り、炎を発生させようとしたようだ。
だが既に木刀を含めた全身に精気を漲らせたヒメノはタメの長い彼の準備などお構いなしに接近すると、またたく間に喉、両肩、両腰、両膝、そして鳩尾を木刀で切り刻む。
ヒメノが振るう精気を纏う斬撃は「楓」といい、加減をしていなければ木刀であっても真剣同様に相手を一太刀で切り刻むシロモノ。
結果、全身の筋がズタズタになった彼は必殺技を披露する間もなく身動きを封じられてしまった。
そのまま伊達にされて痣の力も封じられたこの二人は選挙が終わるまで牢屋に拘束されて、選挙後はヒメノらの付き添いでストーンヒルに移送された。
だが彼らはヒメノが軽口で煽った通り下っ端も下っ端の末端構成員。
ヒメノたちが求めている情報など持っておらず、生け捕りにしたのは骨折り損という結果となった。
このようにヒメノたちは彼ら精気を操る特別な痣を身に刻んだ暗殺者集団を標的として、彼らの撃退と情報集めを行っている。
その中核にいるのは暗殺者たちと同じくサンスティグマという痣を持つ少女ヒメノ。
ヒメノと奴らの戦いは彼女がサンスティグマを父から受け継ぐところから始まるのだが、その発端はヒメノが物心つくよりも古く、さらに昔の出来事だった。
周辺の各王国が出資した商業都市に端を発するこの少国家は様々な商業組合が集まって形成されている。
そのため特定の王を持たないこの国では選挙でもって国王に相当する大統領を選んでいた。
当代大統領のロナルドが任期満了ということで近々開かれる次期大統領選の裏で暗躍する怪しい影。
その噂を聞きつけたこの三人は遠方ストーンヒル王国から駆けつけていた。
彼らの目的はメダル職人組合の組合長、ミサエ・ノヴァラを護衛すること。
そして彼女を狙う暗殺者を撃退しその背後にいる存在を掴むことにあった。
「ミサエおばさんはやらせねえよ」
それから状況が動いたのは三日後。
ミサエの選挙演説を直前に控えたタイミングでの会場にある女子トイレでそれは起きた。
三人の中で唯一の男性ということでリーダー風に振る舞うガクリンはミサエの甥。
トイレの前で待っていたところ、大きな物音を聞いた彼は驚いてトイレに飛び込んだわけだ。
だが実際のところミサエは無事で傷一つない。
ではトイレで何が起きたのであろうか。
答えはトイレの外。
トイレに押し込んだガクリンが見たのは外に向かって壁が撃ち抜かれたトイレの惨状と、彼の仲間に挟み撃ちにされている男の姿。
理由もなく女子トイレに男がいるということは──
「ローブを纏ったくらいでバレないと思っているなんて間が抜けた暗殺者だ。仲間の居場所を吐けば命だけは助けてあげるぞ」
「あっ! ガクリン様!」
挟み撃ちにしている二人のうちガクリンに背中を見せているヒメノは暗殺者に仲間の居場所を教えるように凄むのだが、反対側にいるアズミはガクリンを呼ぶ。
アズミが見たもう一つの影こそ暗殺者の仲間の一人。
こちらは正真正銘の女性でローブで、どうやら女装をしたのだがヒメノに見破られた彼の方は囮だったようだ。
アズミの声に反応を示したガクリンも伏兵に気がついて腰に指した木刀を引き抜く。
そして咄嗟に放つ剣技はストーンヒル王国伝来の技の一つ。
刀身に乗せた精気を飛ばして相手を気絶させる秘剣「虚仮落とし」の一刀がミサエを襲うナイフが届く前に女暗殺者を気絶させた。
「寝ていやがれ!」
「か、カエレン!」
「ナイスだ二人とも。それにしてもさきほどまで気配がなかったということは、あの女が風の痣持ちのようだね。キミらの依頼人がケチったのか、それとも四聖痣がこの仕事を甘く見て人員を割かなかったのか。風が顔を見せたのならば、仲間は他にはいないってことで良さそうだ」
「ま、まった! まだ俺とカエレン以外にも仲間が──」
風の痣持ちとはこの暗殺者たちの中では極力表に出ない連絡役を担った存在のこと。
それが奇襲を行う時点で他の方法ではミサエ暗殺を達成するのが困難という判断であり、つまりは他に彼らの仲間がボールメイカには居ないことを指す。
彼らの戦力を看破したヒメノは使い慣れた鉈に似せて作ったトップヘヴィな木刀を引き抜くと、剣に精気を込めて先端を彼に向けた。
このときヒメノの右腕にある痣は熱を帯びる。
暗殺者が持つ痣も精気を増幅して特別な術を使用可能にするものなのだがヒメノの腕にあるそれは格が違う。
何故ならそれは世界を構成する五大元素を意味する五つしか存在しないオリジナル。
その中でも最も上位とされる空のサンスティグマなのだから。
「嘘が下手だな」
「ん! その腕の痣はミュージンの遺産か。つまりアンタは例の娘……こんなところで会えようとはな!」
「だったらボクをどうするつもりなのさ」
「もちろんそのサンスティグマは俺が頂くぜ。ソイツさえあれば俺も幹部の仲間入りよ」
「さっきまで命乞いをしていた口でよく言いますね」
「そういうアンタこそ火組のエースと呼ばれた俺のことをナメ──」
「ごちゃごちゃ煩い!」
ヒメノと暗殺者の差は歴然。
エースを名乗る彼は左腕にある火の痣に力を込めて精気を操り、炎を発生させようとしたようだ。
だが既に木刀を含めた全身に精気を漲らせたヒメノはタメの長い彼の準備などお構いなしに接近すると、またたく間に喉、両肩、両腰、両膝、そして鳩尾を木刀で切り刻む。
ヒメノが振るう精気を纏う斬撃は「楓」といい、加減をしていなければ木刀であっても真剣同様に相手を一太刀で切り刻むシロモノ。
結果、全身の筋がズタズタになった彼は必殺技を披露する間もなく身動きを封じられてしまった。
そのまま伊達にされて痣の力も封じられたこの二人は選挙が終わるまで牢屋に拘束されて、選挙後はヒメノらの付き添いでストーンヒルに移送された。
だが彼らはヒメノが軽口で煽った通り下っ端も下っ端の末端構成員。
ヒメノたちが求めている情報など持っておらず、生け捕りにしたのは骨折り損という結果となった。
このようにヒメノたちは彼ら精気を操る特別な痣を身に刻んだ暗殺者集団を標的として、彼らの撃退と情報集めを行っている。
その中核にいるのは暗殺者たちと同じくサンスティグマという痣を持つ少女ヒメノ。
ヒメノと奴らの戦いは彼女がサンスティグマを父から受け継ぐところから始まるのだが、その発端はヒメノが物心つくよりも古く、さらに昔の出来事だった。
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