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空の姫と水の姫
オイスタ観光
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キキミミ・タ・テイルでの一夜を開けたヒメノは朝風呂で身を清めてチェックアウト。
その際に宿屋のサービスとしてもらったクーポンを手に持ったヒメノは、出発前に軽くオイスタ観光をして見ることにした。
キジノハも屋台街で何か食べさせてもらえると聞いて納得しヒメノのことをエスコートし、途中、武器屋で弓に使う矢や小道具を買い揃えつつ観光をしたヒメノは最後の〆として昼時の屋台街にやってきた。
串焼きや焼きまんじゅう、ソバなどの小盛り料理が立ち並び、複数の店で買い寄ったものを組み合わせて自分だけのメニューを作れるようだ。
キジノハに席取りをさせたヒメノは自分と彼のための料理を見繕って席に戻ると、隣に見知らぬ女性が座っていた。
長い髪と胸元が強調された衣服、それに手荷物に混ざる白鞘の刀が目を引く大人の女性である。
野外席を好きに利用していいスタイルなので他人が空いている隣に来るのは変ではないのでとりあえず挨拶をするのが礼儀か。
そう考えたヒメノは軽く頭を下げる。
「こんにちは。犬連れですが大丈夫ですか?」
「ええ。気にしませんよ。それよりもお行儀のいい立派な犬を連れているね。さぞしつけの行き届いた猟犬のようで」
「行儀の良さはボクにはもったいないくらいで──」
ヒメノはキジノハを褒める女性に社交辞令を返そうとしたわけだが、ここでハッと言葉の違和感に気がつく。
どうしてキジノハを猟犬だと思ったのであろうと。
確かに頭がいいキジノハは猟犬もこなせるであろうが、犬種としてはありふれたものでしかない。
ヒメノは浮かんだ疑問を不注意に口に出していた。
「だけどお姉さんはどうしてこの子を猟犬だと?」
「昨夜遊んだ腕に入墨を掘った男が言っていたんだよ。猟師をやっている16歳の田舎娘を探しているってね。お嬢ちゃんがその田舎娘なんだろう?」
「ど、どこでそんな話を」
「その驚き様だと思うところがあるんだね」
「むしろボクのほうが彼らに恨みがあって追いかけている立場ですよ。でも向こうがボクを狙う理由もわかります。あなたはその入墨の男がどこに行ったのか知っているんですよね? 教えて下さい」
「気になる? だったらしばらくお姉さんに付き合ってもらえないかな。わたしもパチゴーに行くところだから同行させてよ」
「!!!」
ヒメノは父の仇の情報に目を奪われて、女性の言葉の節々に隠れている「彼女はヒメノの素性を調べた上で接触してきた」という事実に気づかないでいた。
キジノハは賢いとはいえ、巧妙に覆い隠した彼女の本質を見破れないでいる。
ヒメノも同じ目的地に向かう途中に情報を教えてもらえると、迂闊にも彼女を信用してしまっていた。
「じゃあヒメノちゃんたちが食べ終わるまでわたしはここで待たせてもらうよ。わたしはさっき食べたし」
「お待たせして申し訳ない。でもどうしてボクの名前を知っているんですか?」
「ゴメンね。それも昨日の男に聞いたんだ。ちなみにわたしはミオっていうんだ。ヨロシクね」
「よろしくおねがいします」
一方的に名前を知っているミオのことも仇の仲間に聞いたと言われてヒメノは信用してしまっていた。
眼の前にいるミオがその仇たちをおさめる四聖痣の一人とも知らずに握手を交わすヒメノの脇腹が不意にチリリと熱を持つ。
それが何か。
この段階ではヒメノを言いくるめる魂胆で接触したミオもまだ知らなかった。
一方、二人の接触を遠巻きに見ていたアルスはミオの行動を怪しむ。
挟み撃ちにする予定なのに、逃げ道を塞ぐ役割のミオがヒメノと行動をともにする理由がないと。
確かに無関係の一般人を装ってターゲットに同行すれば確実に逃さないが、何か企みがあるのではないかという考えが頭をよぎる。
実際ミオには彼女なりの魂胆があり、この日が初対面だったゲイルは「シロガネ様の考えた作戦」だと言い含められている。
カシューはミオの行動を見ても「ヒメノを騙し討ちする気だとはえげつない」とおののくだけで、アルスのように怪しいとは思わない。
カシューが短絡的なだけとはいえアルスも彼なりに今回の作戦でヒメノのサンスティグマを手に入れたい理由があったので深読みに囚われていた。
(もしかしてあの子を味方に引き入れるつもりなのか?)
サンスティグマーダーの元々の目的はヒメノが受け継いだ五つ目のサンスティグマを回収することだが考えてみれば殺して奪い取る必要はない。
ヒメノにその気があれば彼女を幹部として招き入れても構わないハズだ。
そうなった場合、ヒメノをスカウトしたミオは当然ながら四聖痣の中でも一歩先に出た存在になり暗殺組織そのものを牛耳ることになる。
そうなればカグラやアポトーが暗殺組織を割る争いを起こすのは目に見えており、アルスとしてはそれは避けたかった。
(それじゃダメだミオ。サンスティグマは俺が引き継ぐ。そしてその力で組織内のバランスを取ってお前のことは俺が──)
アルスは心の中で一人誓いを立てる。
ヒメノのサンスティグマは自分が奪うと。
それは簡単に言えばサンスティグマの力を彼が手に入れたいからだが、その理由は彼の心の内側に隠している彼女への思いに起因していた。
アルスの心の内など知らぬミオは挟み撃ち作戦がしやすい道を選んでヒメノを案内する。
彼女が選んだ王都へ向かうルートは険しくて通る人が少ないのだが、田舎娘のヒメノはそんなことなど知らず、ミオが誘うままに進んでいた。
その際に宿屋のサービスとしてもらったクーポンを手に持ったヒメノは、出発前に軽くオイスタ観光をして見ることにした。
キジノハも屋台街で何か食べさせてもらえると聞いて納得しヒメノのことをエスコートし、途中、武器屋で弓に使う矢や小道具を買い揃えつつ観光をしたヒメノは最後の〆として昼時の屋台街にやってきた。
串焼きや焼きまんじゅう、ソバなどの小盛り料理が立ち並び、複数の店で買い寄ったものを組み合わせて自分だけのメニューを作れるようだ。
キジノハに席取りをさせたヒメノは自分と彼のための料理を見繕って席に戻ると、隣に見知らぬ女性が座っていた。
長い髪と胸元が強調された衣服、それに手荷物に混ざる白鞘の刀が目を引く大人の女性である。
野外席を好きに利用していいスタイルなので他人が空いている隣に来るのは変ではないのでとりあえず挨拶をするのが礼儀か。
そう考えたヒメノは軽く頭を下げる。
「こんにちは。犬連れですが大丈夫ですか?」
「ええ。気にしませんよ。それよりもお行儀のいい立派な犬を連れているね。さぞしつけの行き届いた猟犬のようで」
「行儀の良さはボクにはもったいないくらいで──」
ヒメノはキジノハを褒める女性に社交辞令を返そうとしたわけだが、ここでハッと言葉の違和感に気がつく。
どうしてキジノハを猟犬だと思ったのであろうと。
確かに頭がいいキジノハは猟犬もこなせるであろうが、犬種としてはありふれたものでしかない。
ヒメノは浮かんだ疑問を不注意に口に出していた。
「だけどお姉さんはどうしてこの子を猟犬だと?」
「昨夜遊んだ腕に入墨を掘った男が言っていたんだよ。猟師をやっている16歳の田舎娘を探しているってね。お嬢ちゃんがその田舎娘なんだろう?」
「ど、どこでそんな話を」
「その驚き様だと思うところがあるんだね」
「むしろボクのほうが彼らに恨みがあって追いかけている立場ですよ。でも向こうがボクを狙う理由もわかります。あなたはその入墨の男がどこに行ったのか知っているんですよね? 教えて下さい」
「気になる? だったらしばらくお姉さんに付き合ってもらえないかな。わたしもパチゴーに行くところだから同行させてよ」
「!!!」
ヒメノは父の仇の情報に目を奪われて、女性の言葉の節々に隠れている「彼女はヒメノの素性を調べた上で接触してきた」という事実に気づかないでいた。
キジノハは賢いとはいえ、巧妙に覆い隠した彼女の本質を見破れないでいる。
ヒメノも同じ目的地に向かう途中に情報を教えてもらえると、迂闊にも彼女を信用してしまっていた。
「じゃあヒメノちゃんたちが食べ終わるまでわたしはここで待たせてもらうよ。わたしはさっき食べたし」
「お待たせして申し訳ない。でもどうしてボクの名前を知っているんですか?」
「ゴメンね。それも昨日の男に聞いたんだ。ちなみにわたしはミオっていうんだ。ヨロシクね」
「よろしくおねがいします」
一方的に名前を知っているミオのことも仇の仲間に聞いたと言われてヒメノは信用してしまっていた。
眼の前にいるミオがその仇たちをおさめる四聖痣の一人とも知らずに握手を交わすヒメノの脇腹が不意にチリリと熱を持つ。
それが何か。
この段階ではヒメノを言いくるめる魂胆で接触したミオもまだ知らなかった。
一方、二人の接触を遠巻きに見ていたアルスはミオの行動を怪しむ。
挟み撃ちにする予定なのに、逃げ道を塞ぐ役割のミオがヒメノと行動をともにする理由がないと。
確かに無関係の一般人を装ってターゲットに同行すれば確実に逃さないが、何か企みがあるのではないかという考えが頭をよぎる。
実際ミオには彼女なりの魂胆があり、この日が初対面だったゲイルは「シロガネ様の考えた作戦」だと言い含められている。
カシューはミオの行動を見ても「ヒメノを騙し討ちする気だとはえげつない」とおののくだけで、アルスのように怪しいとは思わない。
カシューが短絡的なだけとはいえアルスも彼なりに今回の作戦でヒメノのサンスティグマを手に入れたい理由があったので深読みに囚われていた。
(もしかしてあの子を味方に引き入れるつもりなのか?)
サンスティグマーダーの元々の目的はヒメノが受け継いだ五つ目のサンスティグマを回収することだが考えてみれば殺して奪い取る必要はない。
ヒメノにその気があれば彼女を幹部として招き入れても構わないハズだ。
そうなった場合、ヒメノをスカウトしたミオは当然ながら四聖痣の中でも一歩先に出た存在になり暗殺組織そのものを牛耳ることになる。
そうなればカグラやアポトーが暗殺組織を割る争いを起こすのは目に見えており、アルスとしてはそれは避けたかった。
(それじゃダメだミオ。サンスティグマは俺が引き継ぐ。そしてその力で組織内のバランスを取ってお前のことは俺が──)
アルスは心の中で一人誓いを立てる。
ヒメノのサンスティグマは自分が奪うと。
それは簡単に言えばサンスティグマの力を彼が手に入れたいからだが、その理由は彼の心の内側に隠している彼女への思いに起因していた。
アルスの心の内など知らぬミオは挟み撃ち作戦がしやすい道を選んでヒメノを案内する。
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