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空の姫と水の姫
ノックアウト
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まずは一人。
初めての殺人という、人によってはトラウマになりそうな感触を得てもヒメノは止まらない。
衣服が燃やされたことで下着姿になった彼女は鉈の先端をもう一人の男──アルスに向ける。
「先に殺したのはそっちだからな。今更ボクが許すとは思うなよ」
(先? ああ、ミュージンの事か)
流石に仲間を殺された直後に言われたので一瞬アルスも困惑するが、ヒメノの視点で考えれば発端は彼女の父の死。
詫びる気はないが言い逃れない事実を噛み締めながら、アルスもヒメノを睨み返した。
「許してくれとは言わないさ。だが……それくらいの態度のほうが俺も後腐れが無くていい。殺してでも奪い取らせてもらう!」
「傲慢!」
アルスは敵対心を見せて跳ね返りな態度のヒメノを見て痣の力を振り絞った。
右腕は傷が広がらないように精気をパンパンに詰めて固定し、それ以外は風船のように膨らませつつも循環させて体の動きを補助する。
これが土の特性である増幅の真骨頂。
俊敏性こそ空の放出に劣るものの、こと身体強化においては五種類の中でも最も秀でているのがアルスが持つ土だ。
「ぬう!」
鉈で斬りかかるヒメノに対してアルスは怪我を負っている右腕をあえて盾にして受けた。
指や手首は動かせないが、そのぶん傷口を固定するほどの気はヒメノの楓でも傷を受けない。
逆に鉈の刃先を潰して鈍らせるほどである。
しかも楓を受け流しながらアルスが放つ蹴りや左の拳打はヒメノの体格では一撃で倒されるほど。
必死に避けているため勝負は決していないが、カシューが操る火は精気で熱を遮って軽減できてもシンプルな打撃だからこそ華奢なヒメノには苦手な攻撃であろう。
(右腕が痺れてきたな。流石にこのまま時間をかけていたら俺の方も持たない)
(さっき受けた火傷のせいなのか息が苦しい。手を休めたら動けなくなりそうだ)
どっしりと構えるアルスと動き回るヒメノは双方ともに疲弊していた。
アルスはこの時点で右腕を十数回は盾に使ったのだがそろそろ限界である。
ヒメノもカシューから受けたダメージに加えて、精気の放出を連発することによる体捌きが与える負荷に体が持たない。
ただでさえ精気を放出すれば大きく疲弊するのに、ヒメノはアルスに鉈を向けてから一度も休んでいないからだ。
長距離を全力で走り抜けているのに等しい疲労感がヒメノの背中にのしかかり始めていた。
気力で動くが僅かな鈍りをアルスは見逃さない。
限界に近くとも彼は好機に賭ける。
「セイッ!」
ヒメノの鉈を右手の甲で弾いた瞬間に見えたよろめきを突くアルスは、傷を負ったその手の指に渾身の気を籠めてヒメノを突く。
これまで防御にしか使用していなかった右の攻撃に虚を突かれたヒメノは「く」の字に曲がり、鉈を勢いよく手放した。
(い、意識が──)
薄れゆく意識の中、ヒメノは無謀なことをしたのかもしれないと思う。
だが後悔があるかを考える間もなく彼女の意識は混濁した。
初めての殺人という、人によってはトラウマになりそうな感触を得てもヒメノは止まらない。
衣服が燃やされたことで下着姿になった彼女は鉈の先端をもう一人の男──アルスに向ける。
「先に殺したのはそっちだからな。今更ボクが許すとは思うなよ」
(先? ああ、ミュージンの事か)
流石に仲間を殺された直後に言われたので一瞬アルスも困惑するが、ヒメノの視点で考えれば発端は彼女の父の死。
詫びる気はないが言い逃れない事実を噛み締めながら、アルスもヒメノを睨み返した。
「許してくれとは言わないさ。だが……それくらいの態度のほうが俺も後腐れが無くていい。殺してでも奪い取らせてもらう!」
「傲慢!」
アルスは敵対心を見せて跳ね返りな態度のヒメノを見て痣の力を振り絞った。
右腕は傷が広がらないように精気をパンパンに詰めて固定し、それ以外は風船のように膨らませつつも循環させて体の動きを補助する。
これが土の特性である増幅の真骨頂。
俊敏性こそ空の放出に劣るものの、こと身体強化においては五種類の中でも最も秀でているのがアルスが持つ土だ。
「ぬう!」
鉈で斬りかかるヒメノに対してアルスは怪我を負っている右腕をあえて盾にして受けた。
指や手首は動かせないが、そのぶん傷口を固定するほどの気はヒメノの楓でも傷を受けない。
逆に鉈の刃先を潰して鈍らせるほどである。
しかも楓を受け流しながらアルスが放つ蹴りや左の拳打はヒメノの体格では一撃で倒されるほど。
必死に避けているため勝負は決していないが、カシューが操る火は精気で熱を遮って軽減できてもシンプルな打撃だからこそ華奢なヒメノには苦手な攻撃であろう。
(右腕が痺れてきたな。流石にこのまま時間をかけていたら俺の方も持たない)
(さっき受けた火傷のせいなのか息が苦しい。手を休めたら動けなくなりそうだ)
どっしりと構えるアルスと動き回るヒメノは双方ともに疲弊していた。
アルスはこの時点で右腕を十数回は盾に使ったのだがそろそろ限界である。
ヒメノもカシューから受けたダメージに加えて、精気の放出を連発することによる体捌きが与える負荷に体が持たない。
ただでさえ精気を放出すれば大きく疲弊するのに、ヒメノはアルスに鉈を向けてから一度も休んでいないからだ。
長距離を全力で走り抜けているのに等しい疲労感がヒメノの背中にのしかかり始めていた。
気力で動くが僅かな鈍りをアルスは見逃さない。
限界に近くとも彼は好機に賭ける。
「セイッ!」
ヒメノの鉈を右手の甲で弾いた瞬間に見えたよろめきを突くアルスは、傷を負ったその手の指に渾身の気を籠めてヒメノを突く。
これまで防御にしか使用していなかった右の攻撃に虚を突かれたヒメノは「く」の字に曲がり、鉈を勢いよく手放した。
(い、意識が──)
薄れゆく意識の中、ヒメノは無謀なことをしたのかもしれないと思う。
だが後悔があるかを考える間もなく彼女の意識は混濁した。
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