6 / 8
深夜配信
しおりを挟む
マツリがダンジョンから帰宅した日の深夜、彼女は決まって動画を撮る。
普段は変にプライドばかりが先立ってやらない生配信。
音を奏でることよりも痴態をさらすことで客を呼び寄せる行為に身を投じるのは、酔いとストレスによるものだろう。
「はーい、フェスピアノでーす。初っ端から飲んでてゴメンねー」
ピアノに取り付けた撮影スタンドにスマホをセットし、椅子に座った状態から開始した配信は酒を片手にオープニング。
ここのところ一曲に注力した宅録よりも、ストレス発散をかねた深酒配信が増えているのは、彼女的にも悩みである。
だが若い女性がへべれけで恥をさらす姿には一定の需要があるようで、収益化ラインをなんとかクリアしているマツリにとってはある意味で稼ぎ頭のコンテンツになっていた。
「まずはアップテンポで始めるけれど、ここのところスタートはコレばかりだね。わかっているんなら少しは変えろって話だけれど」
そして挨拶のあとはチャンネルの定番曲〝夢をかなえる第一歩〟を演奏してから、コップに残った酒を飲み干すまでがオープニングである。
原曲と比べるとだいぶ駆け足な演奏だが、気持ちよくなるための演奏は、音大時代の彼女に欠けていた魅力を引き出しているのもまた事実だった。
正直、音大時代に投稿した宅録音源はそれほど再生されていない。
いや、厳密に言えば今の暮らしをするようになったことで視聴者が増えた結果、それなりに再生されているだけで、投稿初期の視聴数は散々である。
「ういー。ではここらで、コメント返信するよ。今日はまだ何も来ていないので、以前の動画からの抜粋です」
テンポを速めたので2分かからずに弾き終えると、配信で使用しているものとは別の端末から過去のコメントを確認して、返信コーナーを開始した。
普段はマツリは動画に寄せられたコメントに対してリアクションをしないのだが、生配信中に限り口頭で返事をしている。
「フェスさんはよく〝イーエフ〟の劇伴曲を演奏していますが、どうしてですか?おそらく生まれる前の作品なのに」
イーエフとはオープニングに弾いた夢をかなえる第一歩をはじめとした、マツリがよく弾いている楽曲が使われている作品のこと。
原作はいわゆる美少女ゲームというやつで、アニメ化や音声ドラマも制作された作品とはいえ、20年以上前の古い作品である。
顔を公開していないものの配信中にこぼす内容から大学を卒業して数年、20代前半の女性であることは露呈しているマツリのチャンネル視聴者としては、知らなくて当然な古い作品曲を好き好んで弾いている姿は不思議であろう。
実際、マツリが宅録で投稿している弾いてきた動画において、同世代の楽曲はほぼ弾いていない。
「これはね……言う機会がなかったのと家族のプライバシーに直結するので言ってなかったけれど、確かに不思議よね。不思議に思うくらいにうちのチャンネルを見てくれているようなのでお答えすると、もともと父親が大ファンだったわけ。ゲームやアニメのソフトだけに飽き足らず、設定資料集とかイベント販売の劇伴CDなんかも全部揃えてたくらいのガチで、その影響をアタシもガッツリ受けちゃってます。なのでイーエフ以外にもチモン先生が作曲した曲もちょくちょく弾いていますね。最近はサボりがちですが」
コメ返という公共の場では一人称を「アタシ」にして柔らかい態度で答えるマツリの告白。
突然、若い頃のオタ活を暴露された父親の心境に後日反響があるのだが、このときは深夜のゲリラ配信だったのでコメントはなし。
そのままコメント返信を挟みつつ何曲か弾いていると、あっという間に1時間が経過していた。
深夜かつダンジョン帰りに酒も入っていたのもあり、流石にマツリも疲れが出たのだろう。
次の返信コメントを探しているうちに、うとうとと舟を漕ぎ出してしまった。
寝落ちする。
早く寝ろ。
夜中に集まった好き者たちもコレには善意のコメントを返す。
だがチャットラインをマツリが確認するまでもなくドサリと寝落ちした彼女の指が奏でた不協和音を最後に、なぜか配信画面が暗転し、しばらくしてから停止した。
視聴者もこれには困惑するが、深夜配信を見ている人数が少ないこともあり情報は拡散しない。
そんな有名インフルエンサーならば怪奇現象として有名になりそうなエンディングは画面外から介入したミロクによる親切が原因だったわけだが、寝落ちしたマツリがそれに気づいたのはだいぶあとのことだった。
普段は変にプライドばかりが先立ってやらない生配信。
音を奏でることよりも痴態をさらすことで客を呼び寄せる行為に身を投じるのは、酔いとストレスによるものだろう。
「はーい、フェスピアノでーす。初っ端から飲んでてゴメンねー」
ピアノに取り付けた撮影スタンドにスマホをセットし、椅子に座った状態から開始した配信は酒を片手にオープニング。
ここのところ一曲に注力した宅録よりも、ストレス発散をかねた深酒配信が増えているのは、彼女的にも悩みである。
だが若い女性がへべれけで恥をさらす姿には一定の需要があるようで、収益化ラインをなんとかクリアしているマツリにとってはある意味で稼ぎ頭のコンテンツになっていた。
「まずはアップテンポで始めるけれど、ここのところスタートはコレばかりだね。わかっているんなら少しは変えろって話だけれど」
そして挨拶のあとはチャンネルの定番曲〝夢をかなえる第一歩〟を演奏してから、コップに残った酒を飲み干すまでがオープニングである。
原曲と比べるとだいぶ駆け足な演奏だが、気持ちよくなるための演奏は、音大時代の彼女に欠けていた魅力を引き出しているのもまた事実だった。
正直、音大時代に投稿した宅録音源はそれほど再生されていない。
いや、厳密に言えば今の暮らしをするようになったことで視聴者が増えた結果、それなりに再生されているだけで、投稿初期の視聴数は散々である。
「ういー。ではここらで、コメント返信するよ。今日はまだ何も来ていないので、以前の動画からの抜粋です」
テンポを速めたので2分かからずに弾き終えると、配信で使用しているものとは別の端末から過去のコメントを確認して、返信コーナーを開始した。
普段はマツリは動画に寄せられたコメントに対してリアクションをしないのだが、生配信中に限り口頭で返事をしている。
「フェスさんはよく〝イーエフ〟の劇伴曲を演奏していますが、どうしてですか?おそらく生まれる前の作品なのに」
イーエフとはオープニングに弾いた夢をかなえる第一歩をはじめとした、マツリがよく弾いている楽曲が使われている作品のこと。
原作はいわゆる美少女ゲームというやつで、アニメ化や音声ドラマも制作された作品とはいえ、20年以上前の古い作品である。
顔を公開していないものの配信中にこぼす内容から大学を卒業して数年、20代前半の女性であることは露呈しているマツリのチャンネル視聴者としては、知らなくて当然な古い作品曲を好き好んで弾いている姿は不思議であろう。
実際、マツリが宅録で投稿している弾いてきた動画において、同世代の楽曲はほぼ弾いていない。
「これはね……言う機会がなかったのと家族のプライバシーに直結するので言ってなかったけれど、確かに不思議よね。不思議に思うくらいにうちのチャンネルを見てくれているようなのでお答えすると、もともと父親が大ファンだったわけ。ゲームやアニメのソフトだけに飽き足らず、設定資料集とかイベント販売の劇伴CDなんかも全部揃えてたくらいのガチで、その影響をアタシもガッツリ受けちゃってます。なのでイーエフ以外にもチモン先生が作曲した曲もちょくちょく弾いていますね。最近はサボりがちですが」
コメ返という公共の場では一人称を「アタシ」にして柔らかい態度で答えるマツリの告白。
突然、若い頃のオタ活を暴露された父親の心境に後日反響があるのだが、このときは深夜のゲリラ配信だったのでコメントはなし。
そのままコメント返信を挟みつつ何曲か弾いていると、あっという間に1時間が経過していた。
深夜かつダンジョン帰りに酒も入っていたのもあり、流石にマツリも疲れが出たのだろう。
次の返信コメントを探しているうちに、うとうとと舟を漕ぎ出してしまった。
寝落ちする。
早く寝ろ。
夜中に集まった好き者たちもコレには善意のコメントを返す。
だがチャットラインをマツリが確認するまでもなくドサリと寝落ちした彼女の指が奏でた不協和音を最後に、なぜか配信画面が暗転し、しばらくしてから停止した。
視聴者もこれには困惑するが、深夜配信を見ている人数が少ないこともあり情報は拡散しない。
そんな有名インフルエンサーならば怪奇現象として有名になりそうなエンディングは画面外から介入したミロクによる親切が原因だったわけだが、寝落ちしたマツリがそれに気づいたのはだいぶあとのことだった。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる