辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐

文字の大きさ
90 / 169
第7章:未来への学びと絆

第174話「エルドラ鉱の適性試験」

しおりを挟む
王立魔道研究所の協力を得ることが決まり、エルヴィンたちはすぐに準備を整えて研究所へと向かった。学院の実験室では対応しきれなかった魔力圧の問題を解決するため、エルドラ鉱という特級の魔力導体を用いた改良型装置の開発を進めることになったのだ。

エルヴィンたちが研究所に到着すると、ヴェルトナー伯がすでに待っていた。

「お待ちしていました、エルヴィン殿。」
ヴェルトナーは落ち着いた声で迎えると、研究員たちに指示を出し、エルヴィンたちを特別研究室へと案内した。

研究室の中央には、青白い輝きを放つ鉱石のかけらが数個、魔道具のケースに収められていた。まるで淡い光を発する水晶のようなその鉱石は、通常の魔力導体とは異なる波長を放っていた。

「これがエルドラ鉱か……。」
エルヴィンは慎重にケースを開け、鉱石の表面を指でなぞる。微かに温かく、心地よい魔力の流れが指先に伝わってくる。

「エルドラ鉱は、王国でも限られた鉱山でしか採取できない特級導体だ。」
ヴェルトナーが解説を続ける。

「特に魔力の流れをスムーズにし、干渉を抑える特性を持っている。この性質を利用すれば、魔道炉の高い魔力圧にも対応できる可能性が高い。」

「なるほど……。従来の魔力導体と違って、魔力の流れを阻害する負荷が少ないから、高出力の環境でも安定した動作が期待できるわけですね。」
カトリーヌが冷静に分析しながらメモを取る。

「でも、こんな貴重な素材を使って大丈夫なのか?」
レオンが眉をひそめる。

「確かに希少な素材ではあるが、君たちの研究が王国の未来に貢献する可能性がある以上、惜しむ理由はない。」
ヴェルトナーは穏やかな笑みを浮かべると、研究員たちに向かって指示を出した。

「まずは、このエルドラ鉱を使った魔力伝導試験を行い、どの程度の適性があるかを確認しよう。」

エルヴィンたちは、持ち込んだ魔力分岐装置の一部をエルドラ鉱製の導体に交換し、試験用の魔道炉に接続する準備を進めた。

「よし、セット完了。これでエルドラ鉱の魔力伝導性を測定できるはず。」
エルヴィンは装置を慎重に設置し、スイッチを入れる。

――ゴォォォッ……!

魔道炉の内部で魔力が活性化し、エルヴィンたちの装置へと流れ込んでいく。従来の導体を使用した時とは異なり、魔力の流れが驚くほど滑らかだった。

「すごい……魔力の抵抗がほとんどない!」
リヴィアが測定器を見ながら驚いた声を上げる。

「分岐した魔力の流れも均一ですわね。まるで魔力そのものが装置と一体化したかのように……。」
カトリーヌも目を見開く。

エルヴィンは魔力伝導率の測定値を確認しながら、確信を持った。

「やっぱり、エルドラ鉱は最高の魔力導体だ……! これなら、魔道炉の過負荷にも耐えられるはず。」

試験を続けること約2時間、エルドラ鉱を用いた装置は、全く不安定な挙動を見せることなく、魔力供給を続けていた。

「これはすごいな……今までの装置とは比べ物にならねぇ!」
レオンが感嘆の声を上げる。

「エルヴィン様、これで次の耐久試験に進めますね。」
リヴィアが嬉しそうに微笑む。

「そうだね。でも、次はさらに負荷をかけて、本当に実用化できるかどうかを確かめなくちゃ。」
エルヴィンは次の試験計画を考えながら、仲間たちを見渡した。

ヴェルトナー伯も満足げに頷く。

「君たちの研究が、確実に成果を上げていることが証明されたな。次の試験では、実戦レベルの負荷をかけ、王国軍の魔道兵器にも応用できるかどうかを試してみるのがよいだろう。」

エルヴィンたちは、新たな試験に向けてさらに準備を進めることになった。

エルヴィンはヴェルトナーの言葉に、少しだけ表情を曇らせた。
魔道兵器への応用――その言葉が、彼の胸の中で重くのしかかる。

もちろん、技術の進歩が戦争を左右することは理解している。しかし、エルヴィン自身は自分の研究が戦争の道具に使われることを快く思っていなかった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流

犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。 しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。 遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。 彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。 転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。 そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。 人は、娯楽で癒されます。 動物や従魔たちには、何もありません。 私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!

異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~

黒蓬
ファンタジー
白石悠真は、ある日突然異世界へ召喚される。しかし、特別なスキルとして授かったのは「牧場経営」。戦えない彼は、与えられた土地で牧場を経営し、食料面での貢献を望まれる。ところが、彼の牧場には不思議な動物たちが次々と集まってきて――!? 異世界でのんびり牧場ライフ、始まります!

小さな貴族は色々最強!?

谷 優
ファンタジー
神様の手違いによって、別の世界の人間として生まれた清水 尊。 本来存在しない世界の異物を排除しようと見えざる者の手が働き、不運にも9歳という若さで息を引き取った。 神様はお詫びとして、記憶を持ったままの転生、そして加護を授けることを約束した。 その結果、異世界の貴族、侯爵家ウィリアム・ヴェスターとして生まれ変ることに。 転生先は優しい両親と、ちょっぴり愛の強い兄のいるとっても幸せな家庭であった。 魔法属性検査の日、ウィリアムは自分の属性に驚愕して__。 ウィリアムは、もふもふな友達と共に神様から貰った加護で皆を癒していく。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!

白夢
ファンタジー
 何もしないでいいから、世界の終わりを見届けてほしい。  そう言われて、異世界に転生することになった。  でも、どうせ転生したなら、この異世界が滅びる前に観光しよう。  どうせ滅びる世界なら、思いっきり楽しもう。  だからわたしは旅に出た。  これは一人の幼女と小さな幻獣の、  世界なんて救わないつもりの放浪記。 〜〜〜  ご訪問ありがとうございます。    可愛い女の子が頼れる相棒と美しい世界で旅をする、幸せなファンタジーを目指しました。    ファンタジー小説大賞エントリー作品です。気に入っていただけましたら、ぜひご投票をお願いします。  お気に入り、ご感想、応援などいただければ、とても喜びます。よろしくお願いします! 23/01/08 表紙画像を変更しました

転生少女と黒猫メイスのぶらり異世界旅

うみの渚
ファンタジー
ある日、目が覚めたら異世界に転生していた主人公。 裏庭で偶然出会った黒猫に魔法を教わりながら鍛錬を重ねていく。 しかし、その平穏な時間はある日を境に一変する。 これは異世界に転生した十歳の少女と黒猫メイスの冒険譚である。 よくある異世界転生ものです。 *恋愛要素はかなり薄いです。 描写は抑えていますが戦闘シーンがありますので、Rー15にしてあります。   第一章・第二章・第三章完結しました。 お気に入り登録といいねとエールありがとうございます。 執筆の励みになります。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。