辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐

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第7章:未来への学びと絆

第232話「倉庫の静けさと魔力の鼓動」

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 翌朝、まだ日が昇りきらぬうちに、エルヴィンたちはエストラーダ商会の店舗倉庫に足を運んでいた。前日に試験導入が決まった場所――日用品や保存食品、薬草類を扱う中規模の商店の裏手にある、石造りの倉庫だ。

 重厚な扉が軋む音を立てて開くと、ひんやりとした空気が彼らの頬を撫でた。

「……やっぱり、こういう場所は静かだな」

 レオンが倉庫の中を見渡しながら呟く。

「商業用の倉庫としてはかなり整備されてますわね。気温管理用の魔道具も揃っていますし、転写核の設置には理想的ですわ」

 カトリーヌが壁に備え付けられた装置を確認しながら言った。

「それに、床がしっかり魔力絶縁処理されてる……これなら魔力の漏れも心配なさそう」

 エルヴィンは満足げに頷いた。

 試験導入が決まったこの倉庫では、転写核を用いた魔力供給システムを一部導入し、主に保冷機能と照明に利用する計画だ。目的はただ一つ――魔力結晶を使わずに、安定した供給とエネルギーコストの削減を実現すること。

「リヴィア、転写核の魔道文字、あの調整でいけそう?」

 エルヴィンが振り返ると、リヴィアは設置用の木箱を開けながら頷いた。

「ええ、広場での設定を少しだけ応用してます。倉庫内の温度変化が緩やかなので、魔力量の波を最小限に抑えるよう調整しました」

「流石リヴィア様ですわ。あの魔道文字列、複雑なようでとても効率的に組まれていました」

 カトリーヌも目を細めて感心する。

「……ちょ、ちょっと褒めすぎです」

 リヴィアは頬を赤らめつつ、小さく首を横に振った。

「へぇ~。俺には魔道文字ってまるで呪文の落書きみたいに見えるけどな」

 レオンが横からひょいと覗き込み、図面を眺めながら肩をすくめる。

「それ、書いた本人の前で言うことかな……」

 エルヴィンが苦笑する。

 倉庫の奥にある保冷装置の周囲に、転写核を安定させるための設置台が用意され、魔道具の配置も順調に進んでいった。

「よし、設置完了……転写核に魔力を注入するよ」

 エルヴィンは慎重に魔力を流し込む。

 転写核の表面が青白く淡く輝きはじめ、それに呼応するように保冷装置と照明が静かに稼働を始める。以前のシステムでは、照明がやや明滅する不安定な挙動があったが、今回の点灯は実に滑らかだった。

「おおっ……すげぇ、ちゃんと動いてる!」

 レオンが目を丸くする。

「うまくいってるみたいですね。温度変化も滑らかです」

 リヴィアが魔力測定器を確認しながら頷く。

「転写核からの供給量と、魔道具の消費量が理想的なバランスですわ」

 カトリーヌもまた、魔力量の推移をチェックしながら、満足げに言った。

「うん……今のところ、完璧だ」

 エルヴィンは深呼吸し、ほっと一息つく。

 だが、これで終わりではない。これはまだ「試験導入」に過ぎない。あと数日間はこの状態で運用し、記録を取り、報告をまとめる必要がある。

「でもさ、あのグレンって人……ちょっと怖そうだったけど、なんか信用してくれてたよな」

 レオンが照明の下で道具箱を片付けながら言う。

「そうですわね。表情こそ厳しめですが、私たちの言葉をきちんと受け止めてくれましたわ」

 カトリーヌも頷く。

「エストラーダ商会は、感情よりも結果を重んじる商会ですから」

 リヴィアが静かに続ける。

「しっかり成果を見せれば、必ず応えてくれるはずです」

 その言葉に、エルヴィンは軽く拳を握る。

「だったら、やるしかないね。ここの試験を成功させて、次に繋げる……王都全体に広げるための一歩だ」

 小さな倉庫の中に灯る、淡い魔力の光――
 それは、確かな未来への希望の兆しとなっていた。
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