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1章

篠崎彩香のお礼

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次の日。

今日も微妙な元気で登校だ。

昨日はその後特に何もなかった。
俺が昼頃に登校してくると何人か訝しげな視線を向けてきたが、ボッチな俺に話しかける人はいなかった。

篠崎だが、周囲に痴漢されたとは思われたくないのだろう。
漏れ聞こえてくる声から察するに遅刻の理由を体調不良と説明したようだ。
スクールカースト上位の野郎どもが、しきりに体調は大丈夫かと声を掛けていた。

時折、篠崎がこちらを見ていたが、視線が合うと逸らされる。
何やら葛藤しているようだった。

まあ、わかるけどね。
普段見下している俺なんかに痴漢の現場を見られた上に助けられたんだから。
複雑な気持ちになるだろう。


今日もいつも通りの時間に出て、いつもと同じ車両に乗る。
そこには篠崎も痴漢の姿もなかった。

当然だ。
あんな現場に遭遇することはそう無い。
昨日がイレギュラーだっただけ。
今日からいつも通りの素敵なボッチライフだ!



だと思っていたのに。

「おはよう!村井君!」

篠崎は俺の姿を見つけると走り寄ってきた。

「駅だと村井君を見つけられるかわからないから、ここで待ってたんだ」

そういって篠崎は顔を赤らめながら、持っていた手提げ袋を俺に渡してきた。

「これ、昨日のお礼。昨日は本当にありがとう」

…有名な高級お菓子店の袋だ。

気持ちは嬉しい。
篠崎の事を挨拶を無視する性悪な奴だと思っていたので意外と律儀なんだなと感心もした。

だけど、だけどだよ?

ここで渡すの!?

ここは校門前だ。
俺達は今登校中の学生達からじろじろと見られている。
まだ登校する人は少ないものの、篠崎はとても目立つ。

そして学生の中にクラスメイトもいて、ポカンと俺達の事を見ていた。

「あ、もしかしてこのお菓子嫌いだった?」
「…いや、そんなことは無いよ。ありがとう」

篠崎は周りの視線に気付いてないのか??

受け取りを拒否するのも悪いし、ここは素直に受け取ることにする。
何よりこの場に留まりたくない。

篠崎はくすくすとおかしそうにしていた。
「ありがとうは私のセリフだよ。村井君がいなかったらどうなっていたか」

その後、教室につくまで篠崎が何か話しかけてきていたが、
何の話をしていたかあまり覚えていない。

だって視界の端にいるクラスメイトが俺の事睨んでるんだもん。

教室に入ってからも大きな紙袋は目立った。
朝の出来事はすぐに広まり、その紙袋から話が真実だと認知され、俺は珍獣のごとくの扱いを受けた。

なんで篠崎からお菓子なんてもらってんだよ?
なんて聞かれても篠崎が周囲に痴漢の件を公言していない以上、
俺が痴漢を助けたお礼だなんて言えるわけもない。

笑ってごまかすも納得してもらえるはずもなく、底辺だった俺の心証はさらに悪くなったようだ。
俺はより一層クラスでの居心地が悪くなった。

おい、篠崎。
俺お前の事助けてやったよな??
なんでこんな気分になんなきゃいけないんだよ!


ただ、彼女から貰ったお菓子はとてもおいしかった。
それに、思い返すと今日は俺の事をちゃんと村井って言っていたな。

結局、俺の中で篠崎の評価は差し引き0になるのだった。

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